第04話 日常の裏の非日常
ゴメンなさい、ものっそい遅れました;;
この間引越しが決まってその準備のため色々バタバタしておりまして、しばらく更新が遅れそうです。少なくとも11月の始めまではあまり執筆する時間が取れないかもしれないので、申し訳ありませんが次の更新は早くても2週間後になりそうです。
「…」
水曜日、午前6時55分。
道路の先に、ボォ~っと突っ立っている女子高生を発見した相良悠一は、一つため息をつくと彼女に近づいた。
「よぉ」
「あ、相良君おはよ~!」
に気づいた彼女、柚原優姫は悠一の下にトテテッと軽快なステップで近寄ってくる。
「ちゃんと約束覚えてたんだね、ちょっと意外かも」
「また失礼な事を言いおって」
「だって相良君全然真面目に見えないし」
「不真面目な奴が真面目に見えるワケ無いだろ」
「うん、だから約束も忘れちゃうかなって」
「不真面目なのと約束破るのは関係ないだろうが。大体お前は人のこと言えるのか?」
「え?」
「お前何時からここにいた?」
悠一のその問いに、優姫は露骨にギクッという顔をする。
「な、何のことかな?ははは…」
「図星か」
「しょ、証拠は!?」
「その発言そのものが証拠のような気もするんだけど…」
「そ、そんなの証拠じゃないもん!」
「いや、証拠といわれてもほとんど勘だし」
「詐欺だ~!相良君が私を騙した~!」
「そっちが勝手に色々喋ってるだけだろ」
「2時間も待たせた上ににこの仕打ちは酷くない!?」
「俺はお前が指定した時間の通りに来ただけだ、って言うかお前やっぱりそんな時間から待ってたのか…」
「トイレに行きたいのも我慢してたのに~!」
「朝家を出る前に済ませとけ!って言うか行ってこい今すぐ!そんでもってそんな事を男の前で暴露すんな!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
―――数分後。
「うぅ…『おしとやかで可憐で賢い、才色兼備な美少女優等生』なイメージが粉々にぃ…」
「誰の?」
「あたしの」
「それなら心配すんな」
「壊れてないの?」
「元々そんなイメージはない」
「そんなぁ!?」
トイレから戻ってきた優姫と悠一は通学路を並んで歩いていた。
「少しくらいあったでしょ?」
「むしろ俺の中で『美少女』の部分以外は全部逆だ」
「…じゃあどういうイメージ?」
「『無駄に明るくて面白い勉強も運動も出来なさそうな美少女なバカ』ってとこか?」
「全然逆じゃん!」
「だからそう言ってんじゃん」
「そもそも『美少女』が名詞じゃなくて『バカ』が名詞の印象ってどうなの!?」
「バカのくせにちょっと知的な突っ込みすんな」
「バカバカ言うな~!」
「ほら、とっとと行くぞバカ。遅刻する」
「だからバカじゃないって言ってるでしょ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おはよ~!」
「…」
「…あ、あの、ミズキちゃん?」
「…あたしの言いたい事分かる?」
「…えと…いつもより遅い?」
「違う!」
優姫の頓珍漢な答えに対し、瑞樹は優姫の頭に手刀喰らわせた。
「痛ぁ!な、何でぇ!?」
「何でこいつを連れてくるの!?」
「だ、だって友達だし…」
「あたしの友達じゃないでしょ!行きたいならあんたとこいつ二人だけで行け!」
「だ、ダメだよそんなの!ミズキちゃんだって友達なんだから!」
「…あぁもうダメだ、キリが無いわ…」
「おい柚原、そろそろ行かないと遅れるぞ」
少し離れたところから悠一が優姫を急かす。
「あ、うん!ほら、ミズキちゃんも早く行こ!」
「…はぁ、もう何を言っても無駄って感じね」
走って悠一の後を追う優姫に続き、瑞樹も観念して重い重い一歩を踏み出した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「去年までの復習と、皆の実力を知ると言う意味で、今から小テストをします♪」
新しいメンバーでの登校が出来た事に上機嫌だった優姫のテンションを一気に落としたのは、2限目の担当教師のこの一言だった。
もちろんクラスの何割かは口々に不満を漏らしたり頭を抱えたりしているが、優姫だけは何やら目が虚ろでボーっとしている。
「終わったらすぐに採点するから私に渡してね。それじゃあ…はい、始め」
配りながら説明を終え、開始の合図をした瞬間に生徒全員が用紙を裏返しシャーペンを動かし始める。
そして、2限目が終了し悠一の机に優姫と瑞樹が集まった。
「よ、二人ともどうだった?」
「あたし94点。優姫は…」
「…ご、52、点…」
「低っ…」
「う、うるさいうるさい!そういう相良君はどうだったのさ!?」
「ん」
悠一が優姫に突きつけたテスト用紙には、赤いペンで見事な「100」が書いてあった。
「…100…」
「うっわ最悪、こいつに負けた…」
「うはは、ざまぁみろ」
「ふん、どうせカンニングでもしたんでしょ」
「…100…」
「負け惜しみは見苦しいぞ」
「うっさい、とっとと着替えに行くわよ。次体育なんだから」
「へいへい」
「…100…」
「ほら優姫、いつまでも放心してないでとっとと行くわよ」
そんな優姫を見て、やっぱりバカだったか、と納得する悠一なのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
体育。
「今日は全員100メートル走のタイム計るぞ、生徒番号順に並べ~」
担任の指示に従い、生徒達がぞろぞろとトラック上に並ぶ。
☆天倉瑞樹、13秒42。
「おぉ、なかなかいいタイムじゃないか。陸上部来ないか?」
「ふぅ…。ど~も、考えときます」
「やるじゃねーか」
「まぁね。あんたもせいぜい頑張んなさい」
☆柚原優姫、16秒52。
「…頑張れよ」
「はぁ、はぁ…。は、はい…」
「…お前ホントに全然ダメじゃん」
「う、うるさい、なぁ…。しょうがない、じゃん、出来ないん、だから…」
★相良悠一、12秒10。
『速えええぇぇぇ!!』
「すごい!相良君すごい!」
「そうか?こんなもんだろ?」
「相良、お前陸上部に来る気はないか?」
「お断りします、めんどくさいんで。っていうか今は勧誘するより授業進めてください」
「…納得いかないわ」
「よう、せいぜい頑張ってみたぜ」
「…あんたってホンットにムカつくわ…」
そんなこんなで全員タイムを測定し終え、グラウンドを3週してその日の授業は終了した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その日の昼休み。
「相良~!」
「ん?」
声のした方を見ると、声の主は現在クラスで悠一、続いて二番目くらいに注目されている男子生徒だった。2限目のテストで92点、体育の100メートル走で13秒81を記録している。そんな彼が、物凄い爽やかな笑顔を浮かべながら悠一に歩み寄った。
「お前スゲーな、ちょっと話したいから一緒に食堂行かね?」
「ん~、そうだな…」
そう聞かれ、悠一はチラリと優姫の方を見る。
その視線に気付いた優姫は小さく笑い、手を振った。「行ってきて良いよ」と言う意味だろう。
「いいぞ、じゃあ行くか」
「おう」
二人は揃って教室を出た。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「相良君、もうクラスの人気者だね」
「…ねぇ、あいつのどこが良いわけ?」
「へ?何が?」
「悠一よ、悠一。そりゃ確かに顔もまぁまぁ良いし頭も良いし運動神経も良いわよ、ムカつくことに。でも性格最悪じゃない。何であいつに構うのよ?」
「ん~、まぁ確かに意地悪だね、相良君。でもさ、一緒にいて楽しいでしょ?それに多分相良君ホントはすごく優しいと思うよ?」
「何を根拠に?」
「や、別に根拠なんて無いんだけどさ。なんとなくかな」
「…あんたの勘はバカにできないからね。ま、それはともかく、悠一の奴大丈夫かしらね?」
「?」
「さっき悠一と一緒に出てった奴、あんまりいい噂は聞かないわよ?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「…なんで校舎裏?」
悠一は周囲を見渡し、次に自分をここまで連れてきた男子生徒の方を見た。男子生徒の顔にはさっきまでの笑顔は無く、無表情だった。
「話がしたいって言ったろ?」
「言ってたな、ついでに『食堂行かね?』とも言ってたな」
「アレは嘘だよ、嘘」
「なるほど。で、用件は?」
「俺さ、中学では勉強の成績も体育の成績もトップだったんだよ」
「ほう、優等生という奴だな。もっと成績いい奴なんていくらでも良そうなもんだが」
「まぁな、少しだけ俺よりも優秀な奴がいてな、だから全員脅してわざと成績落とさせたんだよ。おかげで中学ではモテモテでさ、結構遊んでたんだよ」
「ふむふむ、随分と悪いことしてきたんだな。じゃ、俺はこれで」
悠一はヘラヘラ笑いながら踵を返す。その肩を男子生徒が掴んだ。
「逃げんなよ、まだ話は終わってないんだからよ」
目だけで後ろを振り返ると、苛立ちと憎しみに顔を歪めた男子生徒の顔が窺えた。
「要するによ、お前にも同じ事をしろって言ってんの。簡単だろ?わざとちょっとだけ学校で手を抜けばいいだけだ。そうするだけで痛い目を見ないで済むんだからよ」
「…」
悠一は無言で視線を前に戻し、肩に置かれた手を反対側の手で払い除けて校舎へ戻ろうと足を進めた。
「…そうかよ」
背後から男子生徒の声が聞こえた。
「だったら…」
地面を蹴る音。
「ちょっと痛い目見てもらうしかねぇよな!」
後頭部に衝撃。続いて誰かが横を走り抜ける音、そして正面で立ち止まった気配。
男子生徒の拳をモロに喰らってしまった悠一の体は、衝撃を少しでも逃そうと自然と前のめりになる。
「…分かったな、もしまた俺よりいい成績取りやがったら、次はもっと痛い目見ることになるぜ?それが嫌だったら―――」
一方、男子生徒は勝利を確信して振り返り確認することもせず淡々と言葉を紡ぐ。
だが…
「っ!?」
背後から髪を引っ張られ、背中から地面に倒れこむ。肺から空気が強制的に排出される。
「カ…ハッ…!」
「ってぇな、いきなり殴りかかる奴があるかよ」
髪を引っ張った主、悠一は言葉のわりに大して痛がった様子も見せず、地面に横たわる男子生徒を見下ろしていた。
「ゲホッ、ゲホッ…!て、てめぇ…!覚悟はできてんだろ―――」
「あぁ?」
まだ反論しようとする男子生徒の態度を見て、悠一は苛立ちを含んだ目で男子生徒を睨み、腹部を踏みつけた。
「ガハッ…!!」
「こっちの台詞だ。覚悟があって俺を脅そうとしたんだろうな、あぁ?」
「グッ…、ゲホッ、ゴホッ!」
腹部を踏みつける足に徐々に力を加えながら、悠一は続ける。
「てめぇみたいなのに脅されてもな、1ミリたりとも怖かねぇんだよ。しかも脅しの内容が『私のために成績をわざと落としてくれませんか』だぁ?っざけてんじゃねぇぞ、おい」
男子生徒の目に涙が浮かぶ。腹部から足をどけた。
「二度と俺に声を掛けるな、目も合わせるな。そうすればこれ以上痛い目見ないで済むかもな」
「わ、分かったから、ゆ、許し―――ガッ!」
「声を掛けるなって言ってんだろうが」
男子生徒は丸まりながらコクコクと首を縦に振った。悠一はそれを見て大きな舌打ちをして、踵を返して校舎に引き返した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あ、相良君、お帰り!」
「ん」
教室に戻るなり、自分の机で弁当箱を広げていた優姫が声を掛けてきた。
「何だ、もう戻ってきたの?」
「悪かったな」
「どうせならこのままあたしの前から消えてしまえばよかったのに」
「そりゃ残念だったな」
いつものやり取りを交わしつつ、適当な席から椅子を引っ張ってきて座る。
「それで、何の話だったの?」
「ん?何が?」
「さっきの子。話があるっていってたじゃない」
「あぁ、俺と付き合ってくれって」
それを聞いた瞬間、優姫が口に含んでいた卵焼きを盛大に悠一の弁当に吹き出した。
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!何しやがるお前!」
「嘘っ!?嘘でしょ!?」
「んなことよりどうしてくれる!俺の弁当が台無しじゃねぇか!」
「あははは!ざまぁ無いわね!」
そんな、優姫達にとっては何の変哲も無い昼休みだった。
なかなか自分が表現したいように表現って出来ないもんですね;
校舎裏のシーンでそれを痛感しました、精進します。
それから、作者は日本の学校に一切通ったことが無いので、もしかしたらおかしな場面があるかもしれません。ご了承ください。