第03話 戦争
気合入れて一週間以内更新です。この後宿題が…;;
今回長いです、6000字強です。ちょっと2話に分けようかと思ったんですが、区切る良い場所が見つからなかったのと、それだと両方短めになってしまうという理由からくっつけちゃいました。
と言うわけでどうぞです。
二人の生徒の不気味な高笑いが響いたその日の昼休みも終わり、午後の授業に入る。
二日目という事もあって、どのクラスでも授業らしい授業は行われなかった。学校終了まで残り一クラスとなった現在までにあった授業らしい授業と言えば、数学でやらされた去年の復習のプリントくらいか。
そんなユル~く過ぎる一日の最後、社会の授業。
「皆さん、『戦争』とは何だと思いますか?」
クラスに入り着席し、それを確認した教師が最初に口にした言葉がそれだった。
今まで通りダラダラしてるうちに授業が終わり開放されると思っていた生徒達は、その言葉を聞き理解するまでに少しの時間を要した。
「えっと…戦争とは国同士事故の目的を達成するために軍隊を率いて行う闘争状態、です」
ヒョロリとしていて丸眼鏡をかけた、いかにも「勉強は出来るがスポーツはまるでダメな優等生」なオーラを醸し出している生徒が、まるで辞書を丸暗記しているようにスラスラと教師の問いに答える。
「そう、その通りですね。しかしそれは世界における『戦争』の概念であって、君達の認識する『戦争』とは違うんじゃないですか?」
生徒全員が首をかしげ、頭の上に「?」を浮かべている。
「つまり、私は戦争の意味じゃなく、君達が『戦争』というものにどんな感想を抱いているかを聞いてみたいんです」
その説明を聞いて「あぁ、なるほど」という顔をしている生徒もいれば、未だに「?」を浮かべている生徒もいる。
「それではまず一つ例を。私は戦争は肯定すべきではない、積極的に回避するべき状態だと思っています。しかし、時と場合によってはやむをえない場合もあることも分かっているつもりです。だから、私は戦争を非難したりはしませんし、その時に戦ってくれた兵士の皆さんへの感謝も忘れません。もちろん戦争が起こらないのが一番良い事だとは思っていますが、どうしても避けられない場合、私は一刻も早く戦争を終わらせるために努力を惜しみません」
そこまでを真剣に話した先生は、一度「ほぅ…」と息を吐いてから、
「…というのが例えです。まぁこれは私が今まで生きてきて、戦争に対して抱いた感情ですから同意できないという方は大勢いると思いますし、それでも全然構いません。ただこんな感じに、自分の意見を皆に共有してくれればと思います。もちろん戦争が良いか悪いかを語っていただかなくても結構です、あなたが考える『戦争』を教えて欲しいだけですので」
少し微笑んで、今年59歳になろうという教師は生徒達に告げた。その説明を聞いて、今度こそ生徒全員が教師の言わんとした事を理解した。
「…皆さん理解していただけたようですね。それでは主席番号順に名前を呼びますので、意見を聞かせてください。考えがまとまらない時はパスしてもらえれば、最後に回しますので言ってください」
そう断ってから、先生は出席名簿に視線を落とし、名前を呼び始める。出席番号順、それはつまり名前順という事で、約三人には誰が最初か大方の予想は出来ていた。本人を含め。
「…天倉さん、お願いします」
「えっと、ゴメンなさい、ちょっとまだ考えがまとまってないので後に回してください」
「分かりました。じゃあその次の…」
瑞樹が教師に申し訳なさそうに告げる。天倉瑞樹、今までの出席番号1番率、約90%。
自分の苗字と隣に座る「ミズキちゃん相変わらず大変だね」などと抜かしている出席番号一番最後率約90%の友人を恨みつつ、必死に自分の考えをまとめ始める。
その間に3人ほど進み、出席番号5番の相良悠一の順番が回ってくる。
「すいません、俺もちょっと後回しでお願いします」
「えぇ、分かりました。それじゃあ天倉さんの後にお願いします」
それを聞いて、悠一は「うげっ」と顔を顰めつつ、瑞樹の席を見る。その顔を見た瑞樹は、親指を下に突き出した。隣の友人は手を顔に当てて頭を横に振り、二人の仲を悲観していた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「え~、柚原さんで最後ですね。お願いします」
「あ、はい」
とうとう名前を呼ばれ、席を少々気合を入れて優姫が立ち上がる。
「えっと、私は戦争にはどうしても賛成できません。相手が仕掛けてきた場合だって話し合う事は出来ると思いますし、こっちから仕掛けるなんて論外だと思います。だって戦争をした結果って絶対に話し合いでも決定できる事じゃないですか、それをわざわざ人の命なんていうすごく大切なものまで奪われるようなやり方でやるなんて馬鹿げてる、というのが私の考えです」
「なるほど」
今までの生徒が全員曖昧な意見しか言ってこなかったのに対し、ここまでハッキリと自分の意見を言ったのは優姫が初めてだった。その様子を見て、教師が満足そうに頷く。
「それじゃあ、残りは先ほどパスをした二人ですね。まずは天倉さん、考えはまとまりましたか?」
「はい、ご迷惑おかけしました」
「いえいえ、それではお願いします」
「私は、色々考えてみたんですが、良い悪いでは決められませんでした」
教室の後ろのほうでボソッと「まとまってねーじゃん」と言う声が聞こえてきたので、片手を後ろに回して再び親指を下に突き出す。
「そりゃ戦争のせいで死人がたくさん出たり国がメチャメチャになったりして、一見悪いようにしか見えないんですが、でも三次大戦の時の日本みたいにそこから頑張って、新しい発明をして、私達の暮らしが楽になってるじゃないですか。そう考えると戦争って本当に悪いことばっかりなのかなぁって。まぁ多分当時の人間からしたら良い事なんて何一つなかったと思うんですけど、時間差でこうして良い事が起こってるわけですから、簡単に『戦争は悪い』って言うのもなんか違う気がして…えっと…終わり、です」
「分かりました、ありがとうございました」
自分の役目を終えて、瑞樹が自分の席につく。
「さて、では最後、相良君お願いします」
「はい」
最後の一人、悠一が席を立つ。さすがに最後の一人ともなれば注目を浴びてしまい、現在クラスの9割の視線が悠一に集中している(内1割は惰眠を貪っている)。その中には当然、何となく期待のような感情を読み取れない事もないような表情の優姫と、馬鹿にする気満々の瑞樹の視線もあった。
そんな何とも居心地の悪い空間の中、悠一はゆっくりと自分の言葉を紡ぐ。
「俺の『戦争』への考えは、一言で言えば『無罪』」
教室が、静まり返った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「優姫~、早くしないと置いてくわよ~」
「ちょ、ちょっと待ってって!」
放課後。
とっとと帰りの準備を済まして教室のドアで待っている瑞樹の催促に焦りながらも、テキパキと荷物をまとめていく。そして全部まとまってから、
「相良君~」
同じく帰り支度をしている教室の一番後方にいる悠一に声をかける。
「ん?何か用か?」
「うん、一緒に帰ろ?」
「誰と誰が?」
「相良君とミズキちゃんと私が」
「…瑞樹もか?」
「そんな嫌そうな顔しないの!」
「…まぁいっか、分かった」
「やたっ!じゃ、早く来てね!」
了解、と適当に答えて支度を再開する。ふと声が聞こえてドアのほうを見ると、瑞樹が優姫の肩を鷲掴みにしてガクガクと揺らしている。時折、「何であんな奴―――!」「あたしに確認―――するな!」等の怒声が聞こえてくる。
「…無事で済むんだろうか?」と呟いてから、覚悟を決めて二人の下へ向かう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
天倉宅。
「じゃ、じゃあミズキちゃん、また明日ね~!」
「はぁ、こんな奴に家の場所を知られるなんて…。きっと明日からストーキングミッションを開始するつもりだわ…」
「俺はどこの蛇だ、って言うかそれを言うならスニーキングミッションだろ」
「誰もゲームの話しなんてしてないわよ、このゲームオタク」
「それを理解出来るお前も十分オタクなんじゃないのか?」
「あ~、はいはい!分かったからもう行こ!じゃあね、ミズキちゃん!」
「あ、おい、まだケンカ…話は終わってな―――」
「はいはい、分かったから!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ったく、瑞樹のヤロー…」
「女の子だけどね」
ブツブツ愚痴を言い続ける悠一の態度に苦笑しながら優姫が答える。
「でも嫌いにならないであげてね?ミズキちゃん相良君の事気に入ってるから」
「あの態度をどう解釈したらそう見えるのか説明を願う」
「だってミズキちゃん嫌いな子はずっとひたすら無視し続けるもん」
「…結局どっちも嫌われてるだけなんじゃ?」
「不器用なだけだよ。ホントに嫌ってるわけじゃないから安心して」
「何だかなぁ…」
「大丈夫、あたしが保障するから」
「うわぁ、頼りねぇ」
「あぁっ、酷い!それ酷いって!」
「冗談だよ、冗談。サンキュ」
「今度言ったら本気で怒るよ?」
「たいした事なさそうだけどな」
「さ・が・ら・く~ん?ケンカ売ってるのかな!?」
「いいや、からかって楽しんでるだけ」
「もうっ!」
優姫が隣を歩く悠一の腕をバシッっと叩く。「あたっ」っと全然痛そうに見えない様子で笑いながら少し逃げる悠一。
「叩く事ないだろ?」
「相良君が悪い」
「からかってるだけじゃん」
「叩かれるのが嫌ならからかわなければいいでしょ?」
「それは無理、お前の反応面白いんからやめらんない」
「じゃあ素直に叩かれる!」
優姫がもう一度手を振る。しかし今度はそれを避けた悠一が皮肉たっぷりに笑う。
「~っ!もうこの話おしまい!」
「なんだ、つまらん」
悠一が優姫の隣に戻り、今まで通りに並んで歩く。しかし会話は途切れてしまい、しばしの沈黙が訪れた。何とかその沈黙を破ろうと脳内を散策しているうちに、元々聞こうと思っていたことがあったのを思い出した。
「…そういえばさ」
「ん?」
「…『無罪』って、何?」
「無罪?何が?」
「さっきの授業の時だよ。戦争は無実だって、相良君言ったでしょ?」
「あぁ、あの話か」
そう、さっきの授業の終わり、最後の一人になった悠一の口から発せられた一言はその場にいた誰もが予想だにしていなかった回答で、誰も何の反応も示す事ができなかった。そんな状況で話し続けてもいいのかどうか悠一が迷っているうちにベルが鳴り、授業が終わってしまった。だからその場にいた誰一人として、悠一の言う「無罪」の意味を理解していないのだった。
「戦争ってさ、何の意味もなく人の命がなくなってっちゃうんだよ?それなのに相良君は誰にも罪がないって言うの?」
「そんな事言ってないだろ。実際俺は戦争始めた国が悪いと思うし」
「…ゴメン、分かるように説明してくれない?」
「そうだな…。例えばさ―――」
悠一は右手の小指と薬指をたたみ、突き出した人差し指と中指をくっつけ、親指を立たせ―――要するに手で拳銃の形を作り―――
「っ!?」
―――優姫の頭に突きつけた。
「俺がお前をこの場で殺したとする」
「な…えっ…!?」
あまりにも突然すぎる出来事に、優姫は戸惑いを隠せず言葉を発する事ができない。
もちろんそれがただの手で殺される事なんてあり得ないと分かってはいたが、それでも妙な恐怖に当てられ、頭が混乱していた。
「例えばだ、例えば。別にホントにお前の事を殺したりしないって。で、もし俺が急に鞄から獣を取り出してそんな血迷った事をしたとしたら、俺はどうなる?」
「…け、警察に捕まるとか?」
「ま、未成年だからどうなるか詳しくは分からんけど、とにかく何らかの罰があるよな。じゃあ今度は、今が戦争中で、ここが戦場で、お前が日本兵、俺が外国兵だったらどうだ?」
「ど、どうって…?」
「戦争中に戦場で兵士が相手兵士を撃ったら、そいつは罪に問われるか?」
「…ぁ!」
「問われないだろ?戦争で人を殺すなんて『当たり前』、だから罪に問われるわけがない」
戦争という状況下では、通常最も犯してはいけない罪は、至極当然の行為でしかない。
すなわち、無罪。
「…そういうこと、か」
「そういうこと。理解したか?」
「理解はしたけど…」
「したけど?」
「…納得は出来ないかな」
「…」
「いくら戦争でも、人を殺すのが『当たり前』なんて、そんなの納得できるワケ無いじゃない」
「…優しすぎるな、柚原は」
「む~、また馬鹿にしてない!?」
その言葉に少しからかいを感じたのか、優姫がさっきまでの調子で食って掛かる。
「馬鹿にはしてないけど、面白いとは思ってるかも」
「面白いって何よ~、あたしはあたしの意見を言ってるだけなのに~!」
「…相変わらず表情がコロコロ変わる奴だな。やっぱ面白いわお前」
「全然褒められてる気がしない~!」
優姫がいつもの調子に戻ったのを期に、図らずとも少し重苦しくなってしまった空気を、二人が意識して明るく振舞い、修正した。
「あ、私左だけど。相良君は?」
「俺は…左」
「そっか、じゃあもうちょっと一緒だね」
「…」
「…ちょっと、そこはもうちょっと嬉しそうにするとかさ、何かリアクションしようよ?」
「ウワー、ウレシイナー」
「全然感情がこもってな~い!」
「ソンナコトナイデスヨ?」
「…まぁいいや、どうせ―――」
からかいながら心の底から面白そうに笑う悠一と、からかわれながらもなんだかんだで楽しそうな優姫が二人揃ってY字路を左に曲がりすぐのところで立ち止まる。
「―――私の家ここだしね」
優姫が立ち止まったのは、Yの字の左の付け根辺りにある家だった。その家の表札には、確かに「柚原」と書いてあった。
「近っ!…まいっか、じゃあまた明日学校でな。そいじゃな~」
「あ、ちょっと待って!」
悠一がとっとと言ってしまおうとするのを、優姫が静止する。
「ん?」
「その、明日もさ、一緒に学校行かない?」
「…それは何か?明日も5時半に起きろと?」
「…ダ、ダメ?」
「…あまりしたくはない」
「じゃ、じゃあさ、7時!7時にあそこのY字路のところで待ち合わせしよ!?それなら良いでしょ?」
「ん、それなら問題ないぞ。明日の7時にY字路だな?」
「うん。忘れないでよ?」
「最善を尽くす。ほいじゃな」
「うん、また明日」
今度こそ先に進もうとする悠一と分かれて、家の中に入る。急いで靴を脱いで、「ただいまー!」と叫び挨拶を済ませ、ドタドタと階段を駆け上がり、自分の部屋に飛び込んで窓を開ける。
「相良く…あれ?」
悠一が帰ったはずの道には、既に人影一つ存在していなかった。怪訝に思いながらも「急いで帰った」と結論付けて窓を閉めようと首を引っ込めたその時―――
「あ…」
Y字路の向こう側に歩いていく悠一の姿が、視界の隅に飛び込んできた。
「…何で?だって、相良君もこっちだって言って…」
そこで思い出した。優姫が左といった時、悠一は「俺も」じゃなく「俺は」と言った。悠一も左なら、「は」ではなく「も」というのではないか?
「…送ってくれたのかな?」
窓を閉めつつ、その視線は悠一が消えたYの字の反対側の道路を捉えて逃がさなかった。
今回、結構ルビを使ってみたんですが、どうでしたか?
もし少し読みにくいようでしたら今後はなるべく減らすようにしようと思うので、ご意見ありましたら感想のところにお願いします。