第01話 高校生活開始!
初めましての方は初めまして。
途中で別のタイトルでグッドエンド版を出しますが、これを読み進めてしまったらバッドエンドです。ご注意ください。
途中までは普通の物語ですので、ご安心ください。
それではどうぞ、お楽しみください♪
西暦2050年。全世界を巻き込んだ第3次世界大戦から10年後。
100年前の戦争同様に戦争に敗れた日本は、100年前と同様に元々優れていた技術をさらに向上させ、技術面では世界のトップに君臨した。
たった一時間の充電で24時間走り続けることの出来る電気自動車、日本・アメリカ間を12時間で往復できる民間ジェット機、掌に収まるほど超小型かつ超高性能なパソコン、通称「PTPSC」(Palm-Top Personal Super Computer)の開発など移動技術や通信技術はもちろん、従来の何倍も効果がある抗癌剤の開発や臓器の機械化など、医療面でも世界に多大な影響を与えた。
そして、それは軍事技術も例外ではなかった…。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そんな年の4月4日。紺色のブレザー、短めの黒いスカート、そして黒いオーバーニーソックスを身にまとった少女、というには少し成長しすぎている、しかし女性と呼ぶにはまだ若い女生徒二人が、すこし肌寒い坂道を駆け上がる。
「ミズキちゃ~ん、早く早く!ダッシュだよダッシュ!」
「そんなに急がなくても学校は逃げないわよ…」
「学校は逃げなくても時間は逃げちゃうでしょ~!あたし達の華々しい高校生活の時間がこうやってもたもたしてる内にもどんどんなくなってくんだよ!?」
少し前を行く黒いロングヘアーの女生徒の後姿を追いながら、ミズキと呼ばれた茶髪のポニーテールの女生徒は「まだ始まってすらいないのに無くなるわけないじゃない…」と心の中で呆れたツッコミを入れつつ、律儀に彼女に言葉を返す。
「別に高校生活って言っても中学と代わんないでしょ、役に立たない勉強して友達とダラダラ遊んで...」
「何を言ってるのかね、ワトソン君」
「誰がワトソンよ」
「高校と言えばモチロン…」
そう突っ込む瑞樹を無視し、ロングヘアーの女生徒、柚原優姫は振り向き、ウィンクと共に、
「恋愛でしょ♪」
さも当然のように言い放った。それを聞いた瑞樹は、「やれやれ…」と言わんばかりに肩をすくめ、一つ大きなため息をついた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うわぁ~…大きい」
校舎を見上げる優姫がポツリと誰にともなく呟いた。それを自分に対する言葉だと解釈した瑞樹は自分も校舎を見上げ、首を捻る。
「そぉ?あたしは中学とあんま変わんないように見えるけど?」
「…もう、ミズキちゃんは…」
優姫が首を左右に振る。腰まで届く黒髪がその動作に合わせて左右に揺れる。
「何よ?どう思おうがあたしの勝手でしょ?」
「それはまぁ、そうかもしれないけどさ…。もうちょっとこう、何ていうか、雰囲気とか感動みたいな物があってもいいんじゃない?」
「疑問符をつけるな、あたしは知らん」
「むぅ、何か今日ミズキちゃんが冷たい…」
「ほら、バカなことやってないでとっとと教室見に行きましょ」
若干イライラした様子で瑞樹が掲示板を指差す。学校の初日だと言うのに、その周りに人は…存在しない。
「あれ、誰もいないね…」
「そりゃぁね…」
意識したわけではないのだが、声が自然とうんざりとした感じになってしまう。その理由である優姫は全く自覚のないのかそれに気づいていないが。
現在時刻、午前5時48分。入学式開会約1時間45分前。そんな早朝に優姫と瑞樹が学校にいるのには、勿論理由がある…ようでない。
単純な話だ。朝、高校生活が楽しみで楽しみで仕方が無かった優姫がまだ大絶賛爆睡中だった瑞樹をたたき起こし、家から引っ張り出して登校してきたのである。
そんな最悪な朝を過ごした上に昨日の夜更かしのせいで寝不足気味な瑞樹が上機嫌なわけがない。彼女の中の機嫌メーターなる物は限りなくマイナスに傾いている。
(何が悲しくてこんな朝っぱらから学校来なきゃなんないのかしら…)
聞いたところで、答えが返ってくるわけはない。そんな事はわかっていたが、聞かずにはいられなかった。
「え~っと、『柚原』、『柚原』…。あ、あった!1-2だって。ミズキちゃんは?」
「ちょっと待って…。あった、『天倉瑞樹』…うげっ、1-2…」
「やたっ!同じクラス!…『うげっ』って何」
「…別に」
そうは言ったものの、瑞樹は深いため息をついた。その様子を不審げに見ていた優姫だったが、やがて「ま、いっか」と呟き再び掲示板に目をやり、他の知り合いの名前を探し始めた。瑞樹は特にやる事もないので、その様子をじっと観察している。
しばらくして名前の捜索を終了し、「ふぅ…」と一息ついて瑞樹に向き直る。
「さて、と…。これからどうする?」
「あたしに聞くな!」
瑞樹が目尻を少し濡らして怒鳴った。
現在時刻は、ちょうど午前6時過ぎ。入学式まで、あと1時間。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「校長先生いいこと言ってたね~!」
「相変わらず、あんたって変わってるわ…」
入学式を最初から最後まで、どこの学校の入学式でも名物の校長先生の催眠術さえも最後まで真面目に聞いていた優姫が興奮気味に瑞樹に話しかける。当然の如く入学式中の事は何一つ覚えていない瑞樹は、朝の分の睡眠を幾分か取り返せた事により少しは機嫌も直っていたため、優姫の言葉に苦笑して答えるほどの余裕はできていた。
二人はそのまま自分達の教室、1年2組に歩を進めた。席はとりあえず自由席だったため、優姫と瑞樹はもちろん、二人並んで座った。
ごくごく普通なホームルーム、ごくごく普通な先生、そしてごくごく普通な流れで自己紹介へ。自己紹介の内容も「名前と趣味は必須、他は好きにしろ」というまぁ普通のものだった。
滞りなく自己紹介は進み、やがて優姫に順番が回ってきた。「…よしっ」と小さく気合を入れて、優姫スクッと立ち上がる。
「皆さん初めまして、柚原優姫です。15歳で、誕生日は3月3日…だったと思います。趣味は…えと…ライトノベルとか漫画を読むこと、テレビゲーム、音楽鑑賞、それから走ること…かな?その中でも一番好きなのが音楽鑑賞です。え~っと、これから一年間、よろしくお願いします」
少しグダグダになってしまったため最後のお辞儀が少し慌しいものになってしまったが、とりあえずそれなりにスムーズにこなす事ができて安堵する優姫。その隣では、順番が回ってきた瑞樹が席を立つ。
「ど~も、天倉瑞樹です。趣味は家でゴロゴロする事です、以上」
妙に男らしい自己紹介を終えて瑞樹は席に着いた。すると案の定、優姫がツンツンッと肩をつついてきた。
(何よ?)
(ミズキちゃんダメだよあんな自己紹介じゃ!もっとちゃんとやらないと!)
まだ他の人が自己紹介をしている途中なので、声を潜めて会話をする。
(いいのよ、自己紹介なんて適当で。「シンプルイズベスト」って言うでしょ?)
(「シンプル」と「適当」は違うよ~!)
(うるさいわね~、あんたみたいに長くなってグダグダになるよりはマシよ)
(う゛…。い、痛いところを…)
(大体「誕生日は3月3日…だったと思います」って何よ?何「思います」って。忘れたの?)
(だ、だって色んな人の覚えてると自分の自然に忘れちゃうじゃない?)
(同意を求めないで、あたしはちゃんと自分の覚えてんだから)
(う~…。ミズキちゃんのイジワル)
(はいはい、どうせあたしはイジワルですよ。とりあえず今は黙ってなさい、一応授業中なんだから)
(は~い…)
渋々ながらも黙り、自己紹介に集中する優姫。その様子に満足してミズキも同じく自己紹介に注目する。すると、いつの間にかもう残った生徒は一人しかいなかった。
(ありゃりゃ、そんなに長い間話してたかな?聞いてなかった皆、ゴメンなさい…)
名も知らぬクラスメイト達に声に出さずに謝罪し、優姫は最後の一人を観察する。
その生徒は男子だった。スラリと背が高いが、細長いというイメージではない。通常(といっても何を基準にした「通常」なのかは分からないが)よりほんの少し長めの艶やかな黒髪、整った顔立ち。少し吊り気味の目、キリリとしまった口。所謂「美青年」と言われるために必要な基本要素が基本的に揃っている青年だった。
「え~…初めまして、相良悠一です。趣味は音楽を聴く事。好きな音楽は特になし、自分が好きだと思ったら好き。これから一年間よろしくお願いします」
最後に軽く会釈して、悠一は席に着く。それとほぼ同時に先生が次に進み始めたので、悠一の事をボーっと見ていた優姫は慌てて前を向いた。
(相良君、か。音楽聞くの好きって言ってたし、後でちょっと声掛けてみよっかな~…)
そんな事をぼんやりと考えていたら、いつの間にか先生が重要な事を話し始めていたので、優姫はまた慌てて頭を振り、配布されたプリントに目を落とした。
結局、次に悠一の事を思い出したのは家の玄関で靴を脱いだ時だった。
いかがでしたでしょうか?少しでもお楽しみいただけたのなら幸いです♪
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現在かなり多忙なのでおそらく週末に一話ずつ更新する形になると思いますので、よろしくお願いします。