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第三話 秋の遠足 平祐達は奈良へ 三姉妹は宝塚へ

 翌早朝、六時一〇分頃。

 目覚まし時計の音で目を覚ました平祐は、とりあえず布団の中を確かめてみた。

(よかったぁ。今日は何もいないや)

 普段と変わりない様子に、平祐はホッと一安心。

「ん?」

 次の瞬間、伸ばした右腕に妙な違和感を覚えた。

 むにゅっとしていた。突起物もあった。

「これって、ひょっとして……」

 平祐はすぐに手を離し、焦りの表情を浮かべる。

 恐る恐る、視線を横に向けた。

「うわっ!」

 咄嗟に視線を元の位置に戻す。

 由貴が上着パジャマとブラジャーを脱ぎ捨て、おっぱい丸出しで横臥姿勢になって眠っていたのだ。

「ねっ、姉ちゃん、なんて格好を……お腹冷えるぞ」

 平祐は、ずれていた羽毛布団を素早く被せてあげた。

「……んにゃっ、おはよう、平祐」

 すると、由貴は目を覚ましてしまった。寝起き、とても機嫌良さそうだった。むくりと上体を起こすと、また布団がずれて、由貴の裸の上半身が露に。

「姉ちゃん、なんで、服脱げてるんだよ?」

「平祐、何焦ってるのぉー?」

 由貴はぼけーっとした表情。まだ寝惚けているようだ。

「その……」

 平祐はさっきから視線を床に向けたままだった。

「あっ! うち、おっぱい丸出しにしてたんやね」

 由貴はついに今の状況に気付いたが、特に取り乱すことなく冷静に自分の腕を平祐から離した。布団から出て、ゆっくりと起き上がる。

「ねっ、姉ちゃん、どうしてパンツ一丁になってるんだよ?」

ちらりと見てしまった平祐、咄嗟に壁の方を向いた。

「今朝は暑かったから、無意識のうちに脱いじゃったみたい。男の子が水泳する時の格好になってたね。おかげですごく気持ちよく眠れたわ」

 由貴は照れ笑いしながら言う。

「とっ、とにかく、早く服着ろ」

 平祐は壁の方を向いたまま命令する。

「平祐ったら、そんなに慌てんでも。うちの胸なんて昔から見慣れとうやん」

 由貴はにこにこ微笑む。

 そこへ、

「おっはよう! 由貴お姉ちゃん、平祐お兄ちゃん」

「おはようございます。今朝は昨日よりは暖かいですね」

「おはよう平祐ちゃん、由貴ちゃん。よく眠れた?」

 三姉妹がこのお部屋へやって来た。

「ゆっ、由貴お姉さん! なっ、なんてはしたない格好を――」

「由貴ちゃん、平祐ちゃん、ひょっとして……しちゃったの?」

 里緒と愛紗美は目を大きく開く。頬もちょっぴり赤らんだ。

「二人でお相撲さんごっこしてたんでしょう? それとも内科検診ごっこ?」

 舞羽は興味深そうに質問する。

「いや、これは……」

 平祐はかなり焦りの表情。

「舞羽ちゃん、正解よ。うち、平祐とお相撲さんごっこしてたねん」

 由貴は冷静に説明すると、平祐の右腕をガシッと掴んだ。

「こんな風に。えいっ!」

そして担ぎ上げるようにして平祐を投げ飛ばす。

「いってぇぇぇ!」

 平祐は抵抗する間もなく畳の上にびたーんと叩き付けられた。

「由貴お姉ちゃん、力すごーい。一五センチくらい背の高い平祐お兄ちゃんがくるんって回転したぁーっ」

「美しいです!」

「見事な投げ技ね。さっきの決まり手は、一本背負いね。わたくしも中学の頃、体育の授業で習ったわ。実技テストはさっぱりだったけど」

三姉妹は納得してくれたようだ。お部屋へと戻っていく。

「姉ちゃん、いきなり何するんだよ。いたたたたぁ」

 平祐は痛そうに腰をさすりながら、ゆっくりと立ち上がった。

「平祐も相変わらず弱いわね。うちもあんなに軽々と投げれるとは思わなかったよ。それじゃ、うち、もう一眠りするから」

 由貴は散らばったブラジャーとシャツとパジャマ上下を着込むと、布団に潜り込む。

「姉ちゃん、今夜からは自分の部屋に戻ってくれよ」

 平祐は速やかに制服に着替え、一階へ。今日は父もまだ起きていないため、母と朝食を取る。

「おはよう平祐くん、私、まだ眠いよ」

 六時四〇分頃に遥子が迎えに来て、平祐は家を出発。

 今日は学校行事の一つ、全校秋の遠足の日。

一年生は、学校正門前が集合場所だ。そこから貸し切りバスを利用して奈良へ向かうことになっている。一組のクラスメート達は一号車へ。

「ハルコちゃん、バス酔いは大丈夫そう?」

「うん、たぶん。特有のにおいがあまりしないし」

 鈴恵と遥子は前の方の席に隣り合うように並んで座った。遥子が窓際だ。

「平祐殿、オレ、バス内での暇潰しにアニメ雑誌とP○Pとラノベも持って来たぜ」

「おい大智、不要物だろ。衣笠に見つかったらまた没収されるぞ。それにしても大智、一シート分でよく足りたな」

「ハハハッ、当たり前ではないかぁ。座席けっこう横幅あるし。力士でも巡業とか本場所が始まる前、新幹線で移動しとるけど一人一席分でちゃんと座れとるやろ」

「そういやそうだな」

 大智と平祐も後ろの方の席で隣り合わせだ。通路側の席で案外ゆったり座れている大智を横目に見て、平祐は思わず笑ってしまう。

「皆さん、おはようございます。全員揃ってますか?」

 集合時刻の七時一五分頃、担任の衣笠先生が乗車。クラスメート達の出欠確認をしている最中に、

「ぃよう、おまえさんら。グッドモーニンハワイユー?」

 もう一人、引率教師が乗り込んで来た。

 アロハシャツ&袴&足袋+下駄履きの格好。

言うまでもなく、蛭田先生だった。

「最悪」「なんで蛭田なんよ?」「鬱陶しい」「帰れー」

 クラスメートの女子達から口々に愚痴を言われてしまうが、

「そりゃぁ一年で物理の授業があるのはこの理系特進コースの一組だけやさかい、必然的にそうなるわけや」

 蛭田先生は爽やかな表情で堂々と言い張り、運転席真後ろ、最前列客席にどかっと腰掛ける。

 ともあれバスは、しおり記載の予定時刻通りに出発。

それからほどなく、

「このバスに乗っとる選ばれしおまえさんらにわしから特別に、お得な情報をお教えします。アインシュタイン君の特殊相対性理論によりますと、このバスに乗っとるおまえさんらやわしは、外で静止しとる人間よりも時間の流れがゆっくりやねんで。そのバスの速さは今、凡そ一五メートル毎秒やから静止しとる人間にとっての一秒が、バスの中の人間にとってはローレンツ変換によると0.999999999999979秒、短く言いますと一マイナス千兆分の二秒くらいになるわけや。おまえさんら、ほんのちょっと得した気分になれたやろ?」

 蛭田先生は立ち上がってクラスメート達のいる方を向き、車内設置カラオケ用マイクを用いて熱く長々と語り始める。けれども特に熱心に聞いているクラスメート達は誰一人としていなかった。むしろ迷惑していた。

「蛭田先生、非常にうるさいので静かにしましょうね。それから立ってると危ないから座りなさい」

「はっ、はい」

 すぐ隣窓際席に座る衣笠先生に迷惑顔で注意されると、蛭田先生は途端に大人しくなる。

 それからしばらく時間が過ぎ、八時一五分頃。

 葛山宅では、

「じゃ、行ってきまーす」

由貴が家を出ようとしているところだった。

 三姉妹は昨日よりも早め、八時半頃に葛山宅を出発。今日は神戸市内と宝塚市内を巡る計画を立てているらしい。そのため旅費は昨日よりもたくさん頂いた。もちろん由貴にはナイショで。

 

 楠影高一年生と引率の先生方を乗せた貸し切りバスは、九時半頃に奈良公園前に続々到着。

「午後三時半の集合時刻まで、各自自由行動。遅れたら置いて行っちゃうからね」

 一号車。降りる前に、衣笠先生はこうおっしゃった。

 遥子と鈴恵はもちろん一緒に自由行動をとることに。南大門前の土産物屋が立ち並ぶ場所を歩き進んでいく。

「私、奈良の鹿さんには嫌な思い出があるの。幼稚園の頃、家族旅行で奈良へ行った時にね、おせんべい買ったらいきなり取り囲まれちゃって」

 遥子は周囲にたくさんいる鹿の姿をなるべく見ないようにしていた。

「分かる、分かる。集団でやって来られたらちょっと怖いよね」

 鈴恵は同情心を示す。

「私、本当は鹿さん大好きだよ。キーホルダーとかぬいぐるみ持ってるもん。でも、本物の鹿さんに近寄ろうとしたら、どうしても体が拒んじゃって……」

 遥子がぼそぼそと打ち明けると、

「二次元美少女キャラは大好きじゃけど、三次元の女の子は無理っていうダイちゃんと同じような感覚なんじゃね」

 鈴恵はにんまり微笑んだ。 

 その時、

「鹿を叱る。鹿をシカとする。死海の鹿。鹿の歯科医師。奈良で習う。わしの駄洒落、面白いやろ?」

 二人の背後からこんな声が――。

 蛭田先生だった。鹿達に向かって話しかけていた。

「しょうもなっ、て鹿は思っとるよ」

「蛭田先生、鹿さんと戯れてますね」

 二人は振り向くも、特に気にかけず先を歩き進もうとすると、

「ぃよう、すずえすずえ、三分振り。昨日の再試験、返すでー。三二点や」

 蛭田先生が歩み寄って来た。大声で鈴恵の点数を伝え、鞄から取り出した答案を手渡してくる。

「蛭田ぁー、人前で点数言うのはやめてって。まあよかったぁー。本試験より点数上がって。奇跡じゃ。マウちゃんのおかげじゃな」

鈴恵は安堵の胸をなで下ろした。

「よかったね、鈴恵ちゃん。再々試験にならなくて」

 遥子もホッとする。

「すずえすずえよ、期末も赤点期待しとるでー。ほなまた」

 蛭田先生はそう告げて、どこかへ走り去った。

「教師の発言とは思えんじょ。さて、鹿せんべい買おっと」

 鈴恵がそう呟いた途端、

「!!」

遥子はびくっと反応した。

「一束一五〇円か」

 鈴恵は売り場屋台へぴょこぴょこ歩み寄っていく。

「鈴恵ちゃん、やめといた方がいいよ。鹿さんに襲われちゃうよ」

 遥子は鈴恵の袖を引っ張って引き止めようとする。

「もう、ハルコちゃんったら、トラウマは十年くらい前の話じゃろ?」

「そうだけど……」

「鹿との触れ合いも奈良観光の魅力の一つなんじょ」

「お金が勿体無いよ」

 遥子と鈴恵、押し問答。

 その間に、

「安福さん、やってみて」

同じクラスの別の女の子がちゃっかり購入した。遥子の手のひらに一束全部、ポンッと置く。

「えっ……わっ」

 するとたちまち遥子のもとへ、鹿がわらわらと集まって来た。

「きゃっ、きゃあーっ!」

 遥子は鹿せんべいを高く掲げて逃げ出す。しかし鹿にすぐに追いつかれる。

「助けて、助けてーっ。スカート引っ張って来たよ。パンツが見えちゃう」

 あっという間に四方八方囲まれてしまった。逃げ場はもうない。

「ハルコちゃん、よく考えてみて。昔と今では、目線が違うじゃろ? ハルコちゃんの方が高いんじょ」

 鈴恵は傍からアドバイス。彼女も購入し、取り囲む多数の鹿達に与えていた。

「あ、確かにそうだ……」

 遥子は何枚かの束になっていた鹿せんべいを一枚ずつ取り出し、恐る恐る鹿達の口元へ近づけてみた。

 鹿達は美味しそうに齧り付く。

「……なんか、よく見ると、かわいいかも」

 同じ作業を繰り返していくうち、遥子の表情はだんだん綻ぶ。見事、全部与えることが出来た。

「ハルコちゃん、おめでとう! 良かったね。リアル鹿を好きになれて」

 鈴恵はパチパチ拍手する。

「うん、これでもう安心して奈良公園を歩けるよ」

 遥子は満面の笑みを浮かべながら答えた。気分高らかに南大門へ。

「この像も、小学校に入る頃までは私、ものすごーく怖かったよ」

 すると途端に苦い表情へと変わった。

門の左右にある高さ八メートルをも越す厳つい表情の金剛力士像が、通り抜けて行く人々を睨みつけるように聳え立っていたのだ。

「仁王くん、お久し振りじゃ。元気にしてた?」

 鈴恵は楽しそうに見上げる。スマホで撮影もした。

「お顔、見たくないな。夢に出て来そう」

 遥子は足早に通り過ぎようとする。

「ハルコちゃん、これはただの木の破片の集合体なんじょ。そう思えば怖くないでぇ」

 鈴恵は遥子の肩をポンポンッと叩き、安心させようとする。

「そっ、そうだよね。木の破片、木の破片……」

 遥子は恐る恐る像を見上げてみる。

「でもそれは作者の運慶、快慶さんに少し失礼なような気もするんじゃけどね」

 鈴恵はにこっと微笑んだ。

 二人は門を抜けて、どんどん歩き進み大仏殿へ。ご存知、あの奈良の大仏様が鎮座されている建造物だ。

「ねえ鈴恵ちゃん、この大仏さん、大ちゃんにますます似て来たと思わない?」

 遥子はにっこり微笑みながら問いかける。

「確かに。ダイちゃんが小学校の頃はどちらかと言えばせ○とくん似じゃったよね。手がでっかいのもダイちゃんそっくりじょ」

 鈴恵は手をパーにしてかざし、大仏様の手と比べっこしてみた。

「大ちゃんは小学四年生の頃でもあそこ、通れなかったみたいだね。平祐くんから聞いたよ」

 遥子は、ある柱の下方を指差す。大仏殿の柱の一つには、大仏様の鼻の穴と同じ大きさの穴が開かれているのだ。

「ワタシならまだ通れるかも。やってみるよ」

「私は、遠慮しとく。つかえたら恥ずかしいもん」

「ハルコちゃんもスマートやけん、抜けれると思うけどね。それじゃ、並んで来るじょ」

 意気揚々と順番待ちの列に並んだ鈴恵、

(他に並んでる子、どこかの小学生や幼稚園児ばっかりじゃね。ちょっと恥ずかしいじょ)

それでも余裕で通り抜けに成功し、ご満悦だった。

 その頃、平祐と大智は、

「オレ、奈良なんかよりも名古屋へ行きたかったぜ。S○Eには微塵も興味はないが、名古屋のオタク街には行ったことがないし、味噌カツとかきしめんとか、ひつまぶしとか天むすとか、名物も美味いからな。奈良には何回か家族で来たことがあるし、つまらん」

「まあそう言うなよ大智、奈良もそのうち萌え系アニメの聖地になるかもしれないだろ」

「こうなったら、アニ○イト奈良でも行こうぜ」

「大智、娯楽施設への立ち寄りは禁止されてるだろ」

 南大門前の土産物屋でたむろしていた。

 それから十数分のち、東大寺大仏殿を参拝し終えた遥子と鈴恵は、お昼ごはんを食べるため近くのレストランへ。

「あっ、平祐くんに大ちゃんだ」 

「おう、偶然じゃね。ねえ、ヘイスケくん、ダイちゃん、一緒に食べよう!」

 ちょうどお目当ての店内に入ろうとした平祐と大智を見かけ、呼びかける。

「俺は、かまわないけど」

 平祐は快く承諾した。

「オレも、べつに、いいぜ」

 大智も承諾してくれた。若干緊張している様子だったが。

 店内に入ると四人掛けのテーブル席に平祐と遥子、大智と鈴恵が向かい合う形で腰掛けた。

「やっぱり奈良に来たからには、茶粥と葛餅を食べないとね」

遥子はメニュー表を手に取る。

「ワタシもそれにするじょ」

「俺もそれ食べるつもりだったよ」

「オレは、それプラスきな粉雑煮と大和肉鶏釜めしも頼むぜ」

 大智はにこやかな表情で伝えた。

「食い過ぎだ大智。内臓に悪いぞ」

 平祐はやや呆れ顔。

「大ちゃん、やっぱりそれくらいは食べるんだね」

「ダイちゃんのお腹はブラックホールじゃね。でもいつものお弁当より少なめじゃない? ついでにデザートの抹茶パフェも頼んじゃいなよ」

 遥子と鈴恵はにこっと微笑む。

「いや、腹七分目に抑えたいから、今回はこのくらいで」

 大智は照れくさそうに言う。

「あれだけ頼んでも腹七分目なのかよ」

 さらに呆れた平祐が代表して注文してからしばらく後、四皿分の茶粥と葛餅がお盆に載せられ同時に運ばれて来た。それから三〇秒も経たないうちに大智の頼んだ他の二つのメニューも運ばれて来る。こうして四人のランチタイムが始まった。

「平祐くん、はい、あーん」

 遥子は平祐側の葛餅の一片をお箸で掴み、平祐の口元へ近づけた。

「いや、いっ、いいよ。自分で食べるから」

 平祐は左手を振りかざし、拒否した。彼はお顔を赤くさせ、照れ隠しをするように、おまけで付いて来た抹茶に口を付けた。

「平祐くん、かわいい」

 遥子はにっこり微笑みながら、その様子を眺める。

「傍から見ると、本当のカップルみたいじゃね。ダイちゃんも、はいあーん」

 鈴恵も遥子の真似をしてみたが、

「けっこうです」

 大智は鈴恵のお顔よりも大きいくらいの手のひらを鈴恵の眼前にかざし、拒否。

「ダイちゃんは相変わらずヘイスケくん以上の照れ屋さんじゃね」

 鈴恵はにこりと微笑む。

「……」

 大智は照れ隠しをするかのように釜めしをがつがつ食らい付いていた。

「平祐くん、大ちゃん、私と鈴恵ちゃん、このあとは若草山へ行くけど、これからは一緒に動かない?」

 遥子は誘ってみるが、

「やめとくよ。俺達、東大寺の大仏殿はこれから寄るつもりだし」

 平祐はすぐさま申し訳なさそうに断った。

「そっか。それじゃ、集合時刻にバスで会おう」

「二人とも、ちゃんと観光楽しまんと損じょ」

遥子と鈴恵は、昼食後は予定通り若草山へ立ち寄る。

「鹿さんのうんち、いっぱい落ちてるね」

「こりゃ、気をつけても踏んじゃいそうじゃ」

山頂へ向かって登っている最中、大智と平祐は、

「平祐殿ぉー、オレ、もう歩き疲れた。暑ぃ。ちょっと休もうぜ」

「体力無さ過ぎだろ」

 東大寺大仏殿を参拝していた。

「ぃよう、狸。これ、小町から取り戻してやったでー。ほれっ」

 大仏様を眺めている最中に、蛭田先生に遭遇。

 狸とは、蛭田先生が大智に初対面で付けたあだ名である。

「ぅおう、蛭田さん仏や。誠にありがとうございます」

 べつにそう呼ばれてもそれほど嫌には感じていない大智は受け取ると、満面の笑みを浮かべながら礼を言った。数週間前、学校内で衣笠先生に没収されたエロゲだったのだ。ちなみにこれはと○のあな三宮店で、母に買ってもらったらしい。

「なあに、例には及ばん。小町の目ぇ盗んでこっそり奪い返すのは、スリルがあってめっちゃ楽しかったからな。じゃぁおまえさんら、シーユーアゲイン」

 蛭田先生はとても機嫌良さそうにそう伝えて、どこかへと走り去って行った。

「この場所で蛭田仏に出会うなんて、縁起が良いな」

 大智の呟きを聞き、

「世界遺産の神聖な場所にエロゲなんて淫らなものを持ち込むなんて、罰当たりだな。大仏さんきっと怒ってるぞ」

 平祐は呆れ顔で反論する。

 それから三〇分ほど後、遥子と鈴恵が若草山山頂の展望台に辿り着き、

「奈良の街並みが一望出来て、いい眺めだねー」

「うん、天気も良いし最高じゃわ」

 楽しそうに絶景を見渡している時。

「やっほーっ!」

 背後からこんな叫び声が聞こえてくる。

「蛭田、また現れやがったよ。ムードぶち壊しじゃ」

 鈴恵はハァーッとため息をつく。

「蛭田先生、神出鬼没だね」

 遥子はあはーっと笑った。

「山の上は天体観測に最適や。おまえさんら、山の上は宇宙に近いさかい、宇宙人が見つかる可能性が高いぞ。暇なやつらは、わしと一緒に探してくれ。宇宙人、宇宙人、いたら返事してくれー」

 蛭田先生は自前の小型天体望遠鏡を覗き込みながら、周囲にいる人達に向かって大声で叫ぶ。

「蛭田っち、盗撮魔みたい」「蛭田ちゃん、SF漫画の見過ぎーっ」「宇宙人なんかおるわけないし」「小学生みたいや」

 そんな彼の無邪気な姿を見た、楠影高の一年生達は嘲笑う。

「おまえさんら、わしのことバカにしとるみたいやけど、宇宙人の存在を信じんやつは、理系失格やっ! 宇宙人は必ずどこかにおるねん。わしは子どもの頃から宇宙人の存在を信じておってな、宇宙のことを深く学びたくなってかの湯川秀樹君の母校、京大理学部物理学科に入って、物理教師になったんや。うおぉっ、太陽じかに見てしもうた。目が、目がぁー」

 蛭田先生は好奇心旺盛な子どものように生き生きとした表情を浮かべながら、楽しそうに空を見渡していた。

「宇宙人、いるんよね。ワタシも一昨日の夕方までじゃったら、いま蛭田のやってること見てバカにしてたじょ」

「蛭田先生には、あの子達の存在は絶対ばらしちゃいけないね」

 鈴恵と遥子は小声で話し合いながら、芝生の上へと移動していく。

 同じ頃、

「平祐お兄ちゃん達がいる奈良は全然見えないよぅ」

「方角は合ってると思うけど、さすがに無理かぁ」

「残念です。建物や山々が邪魔をしていますから仕方ありませんね」

 三姉妹は宝塚市内を散策中。三人とも阪急宝塚駅と宝塚大劇場とを結ぶ『花のみち』の歩道から、キビノヌ星産の双眼鏡を使って南東方向を眺めていた。

 その後、宝塚大劇場内へ。

「舞羽、公演中は昨日プラネタリウム観た時みたいに大声ではしゃいじゃダメよ」

「はーい。ちゃんとお行儀良く静かに観るよ」

「東大よりも入学するのが難しいといわれる、宝塚音楽学校をご卒業されたタカラジェンヌの方々の演技、非常に楽しみです」

 三姉妹は平祐母に気遣って、一番安い席で宝塚歌劇を鑑賞することに。

 再び奈良。

「あっ、また折れちゃった」

「鈴恵ちゃん、握力強過ぎだよ。もっとそーっと握らないと」

若草山中腹にいる鈴恵と遥子は、芝生の上にレジャーシートを敷いて腰掛け、スケッチブックに色鉛筆を用いて風景イラストに勤しんでいた。

 その最中に、

「安福よ、なかなか上手いイラストを描いとるなぁ。学業優秀なだけやなく絵も上手いとは。さすが今年度一年一組の小町。それに引き換えてすずえすずえのは、雑やのう。物理を勉強は、イラストを丁寧に描くことが理解を深め易くする秘訣やねんで。すずえすずえの物理の成績が酷い理由が頷けるわー」

 またしても蛭田先生に遭遇。じーっと覗き込んでコメントまでしてくる。

「蛭田、邪魔じゃ」

「蛭田先生、出来れば、他の場所へ移動して欲しいな」

 鈴恵と遥子は当然のように迷惑がった。

「まあまあ、そんなに嫌がらんでもええやんか。おーい、おまえさんら、これ見てみぃー」

 蛭田先生は、遥子の手からスケッチブックをパッと奪い取り、右手に高々と掲げて周囲にいる人々に見せびらかした。

「「「「「「「おーっ!」」」」」」」

 近くにいた別の学校も含めた生徒達から拍手が巻き起こる。

「恥ずかしいですからやめて下さい!」

 遥子は困惑顔を浮かべ、ピョンッとジャンプしてパッと素早く奪い返した。

「ハルコちゃん、さっきの動き、めっちゃ敏捷じゃったね」

 鈴恵はちょっぴり驚く。

「相変わらず安福は照れ屋さんのままやなぁ。全体的に色が薄めで、内気な性格を示しとるで」

「余計なお世話です」

 遥子は蛭田先生をぷくっとふくれた表情で睨んだ。

「まあまあ、そんなに怒らんでも。怒った顔も鹿のように可愛いで」

「……」

 蛭田先生は遥子のご機嫌をとろうとしたが、その発言がかえって損ねさせる結果となってしまったようだ。

 そんな時、

「蛭田先生、安福さん嫌がってるでしょ」

 背後から黒い影が忍び寄る。

「この声は、こっ、小町?」

 蛭田先生は恐る恐る振り返った。

 そこにいたのは予想通り、衣笠先生だった。

「蛭田先生、その呼び方はいい加減やめて下さいね。安福さん、ごめんね。蛭田先生が二度と邪魔して来ないようにきちんと監視しておくから」

「小町ぃー、ちょっと待ってやー。わし、これから興福寺で阿修羅くん見て、奈良女子大へ忍び込もうと思ったのにぃ」

「はい、はい」

 衣笠先生は蛭田先生の首根っこをガシッと掴み、ズズズッと引っ張っていく。

「ありがとう、衣笠先生」

 遥子は笑みを浮かべ、嬉しそうに礼を言う。

「蛭田、いい気味じゃね」

鈴恵は微笑ましく見送った。

この二人は下山後、春日大社、猿沢池、興福寺、奈良国立博物館の順に立ち寄る。

 そのあと、東大寺南大門前の土産物屋で、

「ねえ、鈴恵ちゃん、どれがいいと思う?」

「やっぱ定番は葛餅と柿の葉寿司じゃろ……あっ、あと大仏プリンも忘れたらいかんね。マウちゃん達にも買って帰らんと。奈良漬もいいよね。甘辛くてワタシの好みなんじょ」

「私はそれと、せ○とくんのぬいぐるみさんと鹿サブレも買おう」

修学旅行気分で楽しそうにお土産選び。とても充実した遠足を送れたようだ。

バス乗り場に向かって歩いている途中、

「あっ、鹿さん、やめて、やめて」

 数頭の鹿が、遥子の周りにまとわりついて来た。

「鹿さん、中のお土産食べたがってるみたいじゃね」

 鈴恵は傍から微笑ましく眺める。

「あっ、パッ、パンツが」

 一頭にスカートに潜り込まれ捲られ、いちご柄のショーツが一瞬露に。遥子は赤面し、慌てて引き離そうとする。

「エロ鹿じゃね」

 鈴恵はくすっと笑った。

「ぃよう、おまえさんら。災難な目に遭っとるみたいやな。ここはわしが敵を討ってあげよう」

 と、そこへまたも蛭田先生が現れた。

「あっ! 蛭田。やめてあげて。鹿がかわいそうじゃ」

「蛭田先生、神聖な奈良の鹿さんにそんなことしちゃダメ!」

 鈴恵と遥子は注意しながら彼のもとへと駆け寄った。

蛭田先生は鹿達に、水鉄砲を食らわせたのだ。

「ハッハッハッ。見よ! 水平投射のビジュアル版」

 全く悪びれる様子は無く、鹿達に狙い撃ちする蛭田。と、その時――。

「あいたたたっ」

 鹿達が突然、蛭田先生に突進して来た。

「こっ、こいつめ。このわしに勝とうなんて、鹿肉に……たっ、助けて欲しい。プリーズヘルプミー」

蛭田先生は手足や顔をど突かれたり、噛まれたり。

「自業自得じゃな、蛭田」

「鹿さん、蛭田先生やっつけちゃえ」

 鈴恵と遥子はその様子をほのぼのと眺める。

他にも観光客は大勢いたが、彼を心配する者は誰一人としていなかったという。

「全員揃ってるわね?」

 集合時刻、バス内で衣笠先生は点呼確認をとった。

午後三時四〇分、楠影高一年生と先生方を乗せた貸し切りバスは、一号車から順に出発し学校前へと向かっていく。

「小町、縄を外してくれ。わし、二度と悪いことはせえへんから」

「なりません!」

生傷だらけの蛭田先生は衣笠先生に監視され、遥子他クラスメート達にちょっかいをかけることは出来なかった。

  ※

午後四時頃、宝塚。公演を見終えた三姉妹は、併設されているショップへ立ち寄る。

「タカラジェンヌがパッケージに描かれている炭酸せんべい、欲しいわ。あと歌劇まんじゅうと人形焼も買わなきゃ」

「あたし、この男みたいなお顔のおばちゃんがパッケージに写ってるクッキーが欲しいっ!」

「舞羽、その言い方は失礼ですよ。男役と言いましょうね。あの、あまり買い過ぎると由貴お姉さんに叱られますので、なるべく五千円以内に収めておきましょう」

土産物を物色している最中に、愛紗美の持っていたスマホの着信音が鳴り響いた。

「やっぱり護衛の子か。かかってくるの、一昨日神戸に着いてからでも十四回目ね。心配性なんだから」

 番号を確認すると微笑み顔でこう呟いて、通話ボタンを押す。

『お嬢様達、何かトラブルには巻き込まれていませんか? 地球人共に危険な目には遭わされていませんか?』

 するといきなり早口調で、深刻そうな様子で問いかけて来た。

「全く心配ないわ。いちいち電話してこなくても大丈夫だから」

『先ほど数時間、全く繋がらなかったので、非常に心配しましたよ』

「そりゃ、宝塚歌劇見てて電源切ってたし」

『そっ、そうですか。今日も神戸市外へ足を伸ばされているのですね』

「うん、時間にゆとりがあるからね」

『ということは、やはり電車にも乗られたということですね?』

「ええ。今日は阪急電鉄に生まれて初めて乗ったわ」

『お嬢様達、昨日も言いましたようにお嬢様達だけで地球の電車に乗るのは危険ですよ。日本の電車にはスリは滅多にいないようですが、痴漢と呼ばれる危険人物は大勢いると聞きますし』

「もう、心配性ね。昨日も今日も危険は全く感じなかったわ。わたくし達に、もし何か困ったことがあったらこっちから電話するからね」

 そう余裕の笑みで伝えて、愛紗美は電話を切った。

「あーん、心配してあげてるのにぃ」

 キビノヌ星、三姉妹の自宅リビング。固定電話から先ほどかけた護衛の子はかなり残念そうにしていた。

「お節介を焼き過ぎるのも、娘の成長に良くないと思う。それに、地球へ頻繁に電話をかけると、電話料金が恐ろしい額請求されるから、これ以上は控えて欲しいのだが」

 三姉妹の父は、苦笑いを浮かべながら要求した。

「申し訳ないです国王様。星間電話料金は現状、まだまだ高過ぎますもんね。確かに、ワタクシもお嬢様達のことを子ども扱いし過ぎているのかもしれません。これ以上のお嬢様達へのお節介はやめておきます」

 護衛の子は深く反省。 

再び地球、宝塚。

「あたし、将来はタカラジェンヌになりたいなぁ」

「舞羽ったら、またすぐに影響されちゃって。昨日はシ○センジャーとかイルカの調教師さんになりたいって言ってたくせに。今日もさっきの公演見るまでは動物園の飼育員さんになりたーいって言ってた子は誰かな?」

「愛紗美お姉ちゃん、今度はあたし本気だよ」

「ふぅん」

「あっ、愛紗美お姉ちゃん本気にしてない。里緒お姉ちゃん、酷いよね?」

「舞羽は三〇分後には、漫画家さんになりたいって言ってると思いますよ」

「そんなことないって」

 三姉妹はレジで会計を済ませると次の目的地、手塚治虫記念館へと向かっていく。

 大劇場内から外へ出てすぐに、三姉妹の身に予期せぬ事態が降り注いだ。

「あっ、あの、すいませーん」

 誰かに背後から、ぼそぼそっとした低い声で話しかけられたのだ。

「何かしら?」「何でしょうか?」「なぁに?」

 三姉妹は思わず後ろを振り向く。

 そこに立っていたのは、背丈が一六〇センチくらいで眼鏡をかけた、三〇代くらいに見えるリュックサックを背負った小太りの男性。服装はジーンズに赤いチェック柄の長袖Tシャツ。白のスニーカー履き。

「写真、撮らせてもらっても、よろしいでしょうか?」

 高そうなカメラを手に抱え、にやにやした表情で、こんなお願いをして来た。

「もちろんいいですよ」

「おじちゃん、かわいく撮ってね」

 里緒と舞羽は快く承諾し、ポーズを取ろうとしたが、

「舞羽、里緒。このお方は危険人物よっ! 逃げるわよ」

 愛紗美は若干表情を引き攣らせ、こう警告する。

「分かりました、愛紗美お姉さん」

「逃げた方がいいのかな?」

 三姉妹は足早にその男性から遠ざかっていった。

「ありゃまっ、逃げられちゃったよ」

 男性は苦笑い。諦めて阪急宝塚駅の方へと向かっていく。

「地球に来て、初めて怖い思いをしたわ。さっきのおじさんはきっと痴漢ね。見るからにそんな感じがしたわ」

「愛紗美お姉さん、外見で判断して即逃げるのは失礼だと思うのですが……」

「愛紗美お姉ちゃん、さっきのおじちゃんタヌキに似てて、面白そうだったでしょ?」

「でも、地球地理の授業で先生から、ああいう特徴の人物には女性は特に要注意って教わったから」

「その先生、視野が狭いですね。日本ではイケメンと呼ばれている容姿端麗な男性は性犯罪を起こさないと思い込んでいそうです。さっきのお方は、カメラ小僧と呼ばれる人だと思いますよ。わたし達が何かのコスプレをしているのだと思われたのでしょう。地球人、特に日本人からすればどう見てもわたし達、昨晩由貴お姉さんに疑われたように髪の毛を染めているようにしか思わないでしょうし」

「そうかしら? まあ万が一のために逃げておいて良かったと思うわ」

 こうして三姉妹は無事、手塚治虫記念館内へ辿り着くことが出来た。

「手塚治虫さん、昆虫好きなところはあたしと似ててすごく共感出来るよ。あたし、将来は手塚治虫さんみたいな漫画家さんになりたいなぁ」

「ほらね」

「舞羽、予想通りです。数分後には、お茶の水博士みたいな科学者さんになりたいって言ってるかもしれませんね」

閉館時刻が迫っているため、三姉妹は足早に展示物を見学していく。

       ※

楠影高一年生と先生方を乗せた貸し切りバスは、午後六時前に学校へ到着。

 六時半頃に、平祐は帰宅した。

「おかえり平祐ちゃん、わたくし達もさっき帰ったところよ。今日はわたくし達、南京町とポートタワーと王子動物園と宝塚を巡って来たわ」

「王子動物園ではキビノヌ星には棲息してない動物さんがいっーぱい見れて、すっごく楽しかったよ」

「阪急電鉄の車窓から見える宝塚大劇場は存在感がありますね。宝塚歌劇や、キビノヌ星でもマンガの神様と崇められている手塚治虫さんの記念館も非常に楽しめました。まず不可能な願いですが、タカラジェンヌの皆様にキビノヌ星でも出張公演してもらいたいものです」

 昨日と同じく、三姉妹が満足げな様子で今日の出来事をいろいろ報告してくる。平祐が奈良土産の鹿サブレや大仏プリンなどを手渡すと、さらに喜んでくれた。

 このあと七時頃に由貴、七時一五分頃に父が帰宅。

七時半頃から、応接間にて全員揃っての夕食会が始まる。

「愛紗美お姉ちゃん、ひどいよぅ」

「だってわたくしの大好物だもん。柿の葉だけ返してあげる」

 今日も愛紗美と舞羽、ほのぼのとした争奪戦が繰り広げられた。

「二人とも、しょうもないことでケンカしないで」

 由貴はやはり迷惑そう。

 夕食後、今日も平祐が入浴中に、

「やっほー、平祐ちゃん」

「失礼します」

「平祐お兄ちゃん、一緒に入ろう!」

 三姉妹が割り込んで来た。

「またかよ。入って来ないでって言っただろ」

 湯船に浸かってゆったりくつろいでいた平祐は咄嗟に壁に視線を向ける。

「平祐ちゃん、今日は水着を付けてるんだからいいでしょう?」

 愛紗美にこう言われるも、

「そういう問題じゃ……」

 平祐は壁から視線を移そうとはしない。

 舞羽は昨日と同じくすっぽんぽん、愛紗美と里緒は日本の学校でお馴染みの紺色の女子用スクール水着を着けていた。愛紗美はきつそうだった。

「あんた達、また平祐に乱暴を。それ、うちの中高時代の水着。勝手に着んといてよ」

 ほどなく由貴がすっぽんぽんで乱入してくる。

「……」

 平祐は困惑顔を浮かべて湯船から上がり、足早に浴室から出て行った。今日は入浴時間がずれたためか遥子の訪問は無し。

夜九時頃、平祐の自室。平祐が机に向かって英語の復習に励んでいたところ、外から、

「おーい、平祐くーん」

 と遥子の声が聞こえてくる。

「遥子ちゃん、どうしたの?」

 平祐は窓を開け、問いかける。

「あの、明日、舞羽ちゃんと里緒ちゃんと愛紗美ちゃんと、鈴恵ちゃん、皆で三宮へ遊びに行こう。都合がつけば由貴ちゃんも誘って。明日の夜にはお別れだし」

 斜め向かいの部屋にいる遥子から、こう伝えられた。

「それはいい考えだね。あの子達にとって、最後の思い出作りにもなるだろうから」

 平祐は快く賛成する。

「それじゃ、明日ね、平祐くん」

「あっ、ちょっと待って遥子ちゃん、じつは俺、一昨日水遣りしてる時に、ロールケーキっぽい飛行物体が降りていくのを見かけてたんだ」 

「そうなんだ。あの子達の宇宙船、平祐くんはその時にもう見てたんだね」

「遥子ちゃんと鈴江さんに教えようと思ったけど、一瞬で見えなくなっちゃったし、見間違いかと思ったから」

「そっか。普段見慣れないものを見かけたら、我が目を疑っちゃうよね。気付いたのが冷静な平祐くんだけみたいで良かったよ。私だったら興奮して叫び回って、不特定多数の人にあの子達がキビノヌ星人だってことがバレてたかもしれないから。それじゃ平祐くん、おやすみなさーい」

 遥子は満面の笑みを浮かべながら、就寝前の挨拶をして窓を閉めた。

そのあと平祐は、風呂上りの三姉妹と由貴にさっきの連絡事項を伝える。

「行く、行くぅ!」

「わたくしももちろん行くわ」

「わたし達のために、お別れ会のようなものを計画して下さり、誠にありがたいです」

 三姉妹は参加意欲満々。とても嬉しそうだった。

「うちは行けんわ。レポート課題がけっこうあるし、原稿の〆切も近いし、皆で楽しんで来て」

 由貴は残念そうに参加を拒否。ちなみに由貴は、今夜も平祐のお部屋で寝泊りしたのであった。


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