表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UDON CODE:FLOWA -出汁に沈んだ国家機密-  作者: フロウワ
ホワイトブロス作戦編
8/28

ホワイトブロス作戦1

香川県高松市。朝10時28分。


 繁華街の裏通りに、目立たぬ黒のセダンが静かに停車する。


 運転席から出てきた男は、黒のスーツに身を包み、

 整えすぎたネイビーストライプのネクタイを指先で軽くなぞった。


 FLOWA──UISF所属、うどん専門諜報員。


 今回の任務は単独。

 対象は、財閥が高松市中心部に設立した高級うどん店──『白兄ホワイトブロス』。


 この店は完全予約制。

 顧客の身元すら不明瞭なVIP対応専門で、一般人の立ち入りは一切許されていない。

 料理は“うどん”という名を冠しているものの、価格は一杯、時価。

 出される器には金箔、トリュフ、キャビア。

 うどんというより、もはや美術品に近い。


 しかし、この店の真価は「出汁」ではない。

  ──通信だ。


 UISFの情報解析班が得た内部データによると、

 この店舗は“うどんの配膳”を装った暗号通信網の中継拠点として機能しているという。


 FLOWAは歩きながら、左耳のインイヤー通信を一度タップする。


 「JP-UDN-2025-α013、FLOWA。

  対象施設前に到着、カバーストーリー開始。

  本件、単独任務に移行します」


 通信の応答はない。

 それでいい。今回は、誰にもカバーされない“孤独な任務”だ。


 店舗の前に立つ。


 見上げた外観は、漆黒の壁に金箔の店名が無言で威圧を放っていた。

 『白兄』──ホワイトブロス。


 控えめな和装の女性スタッフが出てきて、

 笑顔で名乗った。


 「ご予約の……フクラマ先生でいらっしゃいますか?」


 「ええ。高級うどん評論家の」

 FLOWAは頷きながら、“フクラマ・アキオ”という偽名で応対を始める。


 にこやかに、それでいて一切の隙を見せず、

 目の端で出入口のセキュリティカメラ、上がりあがりかまちの足圧センサー、

 そして玄関横の奇妙な置物の下部に設置されたNFCリーダーを確認する。


 すでに、“香り”が違っていた。






 「それでは、どうぞ……。

  本日は、“金箔トリュフかけ 讃岐うどん”でございます」


 FLOWAは静かに笑った。


 「ええ。楽しみにしていました──」


 だが、評価するのは味ではない。

  ──このうどんが、どこまで“情報を運んでいるか”だ。


FLOWAは、箸先を止めた。


 口に広がるのは、トリュフの香りと、金箔の口溶け……

 そしてその奥、明らかに“自然の味ではない”微細な刺激。


 (……この成分は)


 喉を通る瞬間、わずかに脳が“浮く”ような感覚。

 多幸感ではない──それに限りなく近い、神経伝達促進物質。


 「……幸福感を“後押し”するように、計算された味構成。

  味覚と脳内報酬系の間をそっと撫でる、奇妙に優しい刺激……」


 美味い。

 だがこれは単なる贅沢ではない。

 “また食べたくなる”ように作られている──それも、理屈で。


 FLOWAは器の下に添えられた漆塗りの長角盆に視線を落とす。


 (……この盆、見覚えがある。旧型のメモリプレート収納式……)


 材質はただの木製ではない。

 内部にセラミック被膜を施した情報コアが埋め込まれており、

 特定の端末で、無線データの書き込みと読込が可能になっている。


 ──そして今、その端末は厨房にある。



────────────────────────



FLOWAは、うどんを食べる手を自然な動作で止めると、

 左手をそっと膝の上に置いた。


 左手の小指には、まるで乾麺をぐるりと巻いたような細い指輪。

 UISF製短距離通信デバイス『Udon-Ring Ver.1.5』──


 意匠はうどん。だが中身は、5秒間の限定接触通信が可能な極小回路。


 指輪が盆の角にかすかに触れる──ほんの一瞬。


 「……ッ」


 微かに、熱を帯びた感触が小指の付け根に伝わる。

 通信完了のサイン。

 短距離接触を通じて、盆に仕込まれたセラミックチップから圧縮データの抜き取りに成功した。


最初の一口以降、手をつけなかった。


 FLOWAは立ち上がると、

 テーブルを拭こうと近づいてきた配膳係の女性に、

 ほんの一言だけ、声をかけた。


 「……ありがとう。美味しかったよ」


 表情は変えず、声に抑揚もない。


 あまりにも唐突なその言葉に、

 女性は一瞬、呆けたような顔で動きを止めた。


 FLOWAはすでに踵を返し、足音も立てずに退店していた。


 高松駅前の地下駐車場。


 車に戻ったFLOWAは、ハンドルを握る前に一呼吸。


 「……尾行、無し。監視カメラは……死角域へ進入」


 ナビゲーションの仮想画面に数秒だけ暗号コードを表示し、

 地下駐車場の“極秘立体収納システム”を起動させる。


 車は無人のエリアへ静かに走り出し、

 駅前地下施設の最奥──“人目に触れない角の駐車スペース”へと収まる。


 ガコン……ガコン……


 収納用の昇降ユニットが作動し、

 FLOWAの乗ったセダンは、静かにエレベーター式の機構へと引き込まれていく。


 無音の闇。

 車体ごと、都市の地下へと沈んでいくその様は、

 まるで任務の痕跡ごと地中に埋めるような動きだった。

誰しも一度は考えたことがあるはずなんです。

普段何気なく使ってる施設の裏側には、訳のわからんロマン設備が詰まってるんじゃないかって。


非常口の先に謎のエレベーターがあったり、駅の壁が回転して秘密通路になったり。

電車の窓の外に忍者が走ってても「あ〜はいはい」くらいの気持ちで受け入れられる脳内フィルタ、

あれ、たぶん標準装備ですよね。(早口)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ