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UDON CODE:FLOWA -出汁に沈んだ国家機密-  作者: フロウワ
さぬきの騎士作戦編
7/28

デブリーフィング

ここいらでちょっと補足しておきます。

 金属の椅子が軋みを立てた。会議室の空調は控えめに唸り、長方形のテーブルを囲んで数名が座っていた。壁面には封鎖済みのデータホロが点滅している。




 「──では、順に。例の文書を発見した際の状況を報告しろ」




 開口一番、低く通る声が室内に落ちた。杵場 玄。FLOWAたちの任務管轄官であり、旧情報部出身の寡黙な上官だ。




 FLOWAは短く頷き、データパッドを指先で操作した。




 「施設第二層。封鎖された保管室の奥で回収。文書ファイルはスキャンされた古文書形式と──もう一つ、構造解析済みの化学配列データでした」




 BENIが目を細める。




 「構造データ? やっぱり、出汁に関する……?」




 「“機密出汁文書”と呼ばれていたが、正体は結局……何なんだ」




 隣に座っていたSAJIROが呟くように言う。その視線は、テーブルの上にホログラム表示された一部スキャン画像に注がれていた。




 FLOWAもその問いに乗せるように視線を向けた。




 「……この文書。“空海の出汁”と記されていた。あれは一体?」




 その瞬間、杵場の表情がわずかに強張った。深く背もたれに寄りかかり、静かに息を吐く。




 「──あの文書は、満濃の山中から発見された古文書だ。経路は伏せられているが、内部文献によれば、弘法大師・空海が“ある出汁”の配合と効能を秘匿していたとされる」




 一瞬、誰も言葉を返さなかった。




 「まさか……空海のレシピ……?」




 BENIが小さく呟いた。だが、その声音に浮ついた響きはない。実際に施設で見た“それ”の異様さが、軽口を許さなかった。




 杵場は静かに頷いた。




 「財閥がどこでそれを入手したのかは我々にも不明だ。だが確かに──彼らはあの文書を“実用化”しようとしている。そして、その過程で生まれたのが……あの実験体どもだ」




 室内に静寂が降りた。だが、次の瞬間──




 「空海の……出汁……ね」




 FLOWAが鼻先で息を漏らす。真顔を保ちながらも、口角がわずかに引き攣る。その横で、SAJIROも咳払いのような咳をごまかしに使い、視線を机に落とす。




 滑稽だった。あまりにも古典的で、あまりにもバカバカしい。だが同時に、それを真剣に利用して人間を弄ぼうとしている現実が、さらに悪い冗談のようだった。




 ふたりの間に微妙な空気が流れたのを察してか、杵場がわずかに目を細めた。




 「──まぁ、笑わず聞け」




 その一言が、ピンと張り詰めた糸のように響いた。




 「お前たちが現場で見た通りだ。やつらは“本気”で、空海の残した文書を兵器化しようとしている。それも、味覚経由の化学制御を使ってな」




 FLOWAとSAJIROは、かすかに息を呑んだ。そこにはもう、笑いの余地はなかった。




 「……味覚による化学制御ってのは、つまり“依存”を起こさせるってこと?」




 BENIの声に杵場は頷きながら、ホログラムの図面を指し示す。




 「そうだ。厳密には、味覚刺激による感情操作だ。空海の文書には、特定の出汁成分が人間の快感中枢を介して、認識や記憶の受容すら変化させる──そんな理論が記されている。いわば、舌から意識を掌握する手法だな」


ただし、現時点で判明している範囲ではな、と杵場は付け足す。




 FLOWAが思わず小さく鼻を鳴らした。




 「……そんなもの、本気で信じて研究しているんですね」




 「信じる信じないではない。“再現できた”以上、科学は後追いするしかない。それに、確度は未知数だが──、既に人体への投与例があると噂されている。問題は、その実用段階にどこまで迫っているかだ」




 その場に一瞬、重苦しい沈黙が降りた。




 杵場は背を伸ばし、全員を見渡した。




 「以上、『機密出汁文書』に関する分析報告と、今後の探索任務に関する要点整理を終える」




 そして、ほんの一瞬の間を置いて、ニッと口角を上げる。




 「──ちなみに今日のパンツはエメラルドグリーンだ。以上!」




 空気が凍った。




 FLOWAとSAJIROは顔を見合わせたまま、言葉を失う。BENIは真顔で瞬きを繰り返している。




 誰よりも先に立ち上がったのは杵場だった。資料片手に、さっさと会議室の自動ドアをくぐる。




 重いドアが閉まる音がしたあと、ぽつりとSAJIROがつぶやく。




 「……なあ、あれ……本当に必要なんか?」




 その問いに、誰も答えることはなかった。

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