さぬきの騎士作戦編6
各キャラクターイメージ
SAJIRO
・黒の角刈り 一重で眼光が鋭い。 手打ちしか認めない。
BENI
・赤い髪ショートヘア 綺麗めな顔立ち ラーメンも好き
FLOWA
・銀髪で毛先が金のポニーテール 任務外は大きいラウンドメガネしてる うどんに対するこだわりがキモいレベル
施設全体に、電源復旧のシステム音が響いていた。
照明が順次点灯し、再び“管理された光”が白い空間を満たしていく。
焼け焦げた出汁の痕跡、散乱する薬莢、血溜まりに倒れた私兵たちの影──
それらを見下ろす男の表情は、ほとんど変化を見せなかった。
「……こちら、製麺所X責任者、鷲宮 圓雅です。」
通信先のスクリーンに映るのは、シルエットだけの相手だった。
財閥幹部──高圧的な声と、空気だけで“上の者”と分かる存在。
「現在、侵入者の痕跡を確認中。施設への物理的損壊は軽微。
一部機器に外部ジャミングの影響がありましたが、データサーバーおよび出汁文書端末への直接アクセスは……おそらく発生していません。」
圓雅は言いながら、背後の端末ログを一瞥する。
セキュリティ記録は、すでに“正常”と表示されていた。
「“おそらく”、ね……」
通話の相手が、ゆっくりと語気を強める。
「貴様の部隊は、制圧されるまで侵入者に気付かなかったと聞いている。
その上で“アクセスされていない”と、どうして断言できる?」
「……最終的なバックアップファイルの照合に異常はありません。
端末の認証ログも全て正常です。
強行アクセスがあった場合、それらは改竄できないはずで──」
「“はず”で? 鷲宮、貴様は誰に言葉を向けている?」
その声には、怒気こそ含まれない。だが、圧倒的な冷たさがあった。
「部下の命を盾に、施設の無事を取り繕っているようにしか見えん。
我々にとって重要なのは、“保存庫”の物理的損傷ではない。
中身にどれだけ触れられたか、だ。」
鷲宮は、一瞬だけ息を呑む。
その一瞬すら、通信越しの相手は逃さなかった。
「仮に、侵入者が端末に細工を仕掛けたとしたら──お前には、それが“分からない”のだろう?
ならばそれは、すでに侵入されたも同然だ」
「…………」
「警備兵が何人死のうが、どうでもいい。
我々が守るべきは、“情報の独占”だ。忘れるな。
……失態は、次の失墜を呼ぶぞ。鷲宮。」
通信が切れる。
ピッという終話音の後、しばらくの静寂。
圓雅は無言のまま、わずかに眉をひそめ、手袋を外した。
「……“何もされていない”ことを、証明する方法はない。
それが一番、厄介だな……」
端末のログに目を落としながら、彼は低く呟いた。
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深夜の潜伏地──山間の林道。
FLOWAたちは、任務を終えた直後、山奥の旧林道にある小屋で夜を明かしていた。
機材の回収、偽装ログの確認、緊急時の対応ラインの再設定。
全てを終えたのは、空が白み始めたころだった。
早朝6時15分。
黒のセダンが、静かに山道を下っていた。
運転席にはBENI。
赤い髪を一つに束ね、シャープなパンツスーツに身を包んでいる。
きっちり留めたネックボタンと、腰元のベルトラインが完璧に決まっていて、
知的かつ隙のない印象を放っている。
後部座席では、FLOWAとSAJIROが身支度を整えていた。
SAJIROは紺のスーツに白シャツ、ネクタイだけを外し、カジュアルさを演出している。
FLOWAは黒のスーツに白シャツ、ネイビーにイエローストライプのネクタイを締めた、キッチリした印象だ。
「……任務明けのスーツ、ちょっと不思議だな」
SAJIROがボソッと呟いた。
「逆に“普通の人間”に見えるので最適です」
FLOWAが淡々と返す。
そのときだった。
カーブの先、杉の木々の切れ間から、ふわりと“出汁の香り”が流れてきた。
「……ん?」
BENIがブレーキを踏み、ハンドルを切る。
「どうした?」
「見て。右、見えてきた……あれ」
山肌に張り付くようにして立つ一軒の古民家。
木の壁、瓦屋根、煙突から立ち上る白い湯気。
入口には赤い暖簾が揺れていた。
『山賊うどん』
そして、脇に立てられた一枚の板。
『10食限定:山猪肉うどん』
「……これは、運命だな」
席に通された3人は、
スーツ姿で並ぶ、妙に整った絵面でテーブル席に座った。
「完全に“朝の会議前”って感じだな……」
SAJIROが苦笑しながらも、目はメニューの一点を見つめている。
出されたうどんは、器にたっぷりと盛られた一杯。
麺は手打ちで、太く、コシがある。
表面は艶やかで、しっかりと“噛む感触”が残る絶妙な茹で加減。
その上に、低温調理でとろけるように仕上げた山猪肉が乗っていた。
「……やべぇなこれ、香りだけで米いける」
SAJIROが顔を近づけて目を細める。
「生姜と味醂、それから多分、赤味噌で臭みを旨味に変換してますね。
脂は別炊き。焦げを付けて、香ばしさに」
FLOWAは箸を取り、無言で一口すする。
出汁はイリコと昆布に、山猪の骨から取ったコクを融合させた獣骨ベースの旨味。
臭みを徹底的に抑えつつ、野性味だけを“主張”として残す。
あとからじわっとくる甘み、口に残るコク。
BENIが静かに笑った。
「これは……染みるね。任務明けには、これ以上ない」
ネイルの整った指で、丁寧にうどんを口に運ぶBENI。
その横顔を、隣の席の高校生がじっと見つめているのに気づかない。
「……BENI、目立ってるぞ」
「へえ。よかった。“何者か分からない女”って、ウケいいでしょ?」
ウィンクひとつでかわす彼女に、FLOWAもさすがに肩をすくめた。
朝日がゆっくりと昇っていく。
山の中で出会った一杯のうどん。
それは、3人の諜報員にとってただの朝食ではなく、“世界の味を奪還する任務”の、ご褒美だった。
なお、帰投予定時刻を30分過ぎてしまったのは、言うまでもない。
さぬきの騎士編はこれで終わり
次の話に進みます!