表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UDON CODE:FLOWA -出汁に沈んだ国家機密-  作者: フロウワ
さぬきの騎士作戦編
6/28

さぬきの騎士作戦編6

各キャラクターイメージ

SAJIRO

・黒の角刈り 一重で眼光が鋭い。 手打ちしか認めない。

BENI

・赤い髪ショートヘア 綺麗めな顔立ち ラーメンも好き

FLOWA

・銀髪で毛先が金のポニーテール 任務外は大きいラウンドメガネしてる うどんに対するこだわりがキモいレベル

施設全体に、電源復旧のシステム音が響いていた。


 照明が順次点灯し、再び“管理された光”が白い空間を満たしていく。

 焼け焦げた出汁の痕跡、散乱する薬莢、血溜まりに倒れた私兵たちの影──

 それらを見下ろす男の表情は、ほとんど変化を見せなかった。


 「……こちら、製麺所X責任者、鷲宮わしみや 圓雅えんがです。」


 通信先のスクリーンに映るのは、シルエットだけの相手だった。

 財閥幹部──高圧的な声と、空気だけで“上の者”と分かる存在。


 「現在、侵入者の痕跡を確認中。施設への物理的損壊は軽微。

  一部機器に外部ジャミングの影響がありましたが、データサーバーおよび出汁文書端末への直接アクセスは……おそらく発生していません。」


 圓雅は言いながら、背後の端末ログを一瞥する。

 セキュリティ記録は、すでに“正常”と表示されていた。


 「“おそらく”、ね……」


 通話の相手が、ゆっくりと語気を強める。


 「貴様の部隊は、制圧されるまで侵入者に気付かなかったと聞いている。

  その上で“アクセスされていない”と、どうして断言できる?」


 「……最終的なバックアップファイルの照合に異常はありません。

  端末の認証ログも全て正常です。

  強行アクセスがあった場合、それらは改竄できないはずで──」


 「“はず”で? 鷲宮、貴様は誰に言葉を向けている?」


 その声には、怒気こそ含まれない。だが、圧倒的な冷たさがあった。


 「部下の命を盾に、施設の無事を取り繕っているようにしか見えん。

  我々にとって重要なのは、“保存庫”の物理的損傷ではない。

  中身にどれだけ触れられたか、だ。」


 鷲宮は、一瞬だけ息を呑む。

 その一瞬すら、通信越しの相手は逃さなかった。


 「仮に、侵入者が端末に細工を仕掛けたとしたら──お前には、それが“分からない”のだろう?

  ならばそれは、すでに侵入されたも同然だ」


 「…………」


 「警備兵が何人死のうが、どうでもいい。

  我々が守るべきは、“情報の独占”だ。忘れるな。

  ……失態は、次の失墜を呼ぶぞ。鷲宮。」


 通信が切れる。


 ピッという終話音の後、しばらくの静寂。

 圓雅は無言のまま、わずかに眉をひそめ、手袋を外した。


 「……“何もされていない”ことを、証明する方法はない。

  それが一番、厄介だな……」


 端末のログに目を落としながら、彼は低く呟いた。



─────────────────



深夜の潜伏地──山間の林道。

 FLOWAたちは、任務を終えた直後、山奥の旧林道にある小屋で夜を明かしていた。


 機材の回収、偽装ログの確認、緊急時の対応ラインの再設定。

 全てを終えたのは、空が白み始めたころだった。


 早朝6時15分。


 黒のセダンが、静かに山道を下っていた。


 運転席にはBENI。

 赤い髪を一つに束ね、シャープなパンツスーツに身を包んでいる。

 きっちり留めたネックボタンと、腰元のベルトラインが完璧に決まっていて、

 知的かつ隙のない印象を放っている。


 後部座席では、FLOWAとSAJIROが身支度を整えていた。

 SAJIROは紺のスーツに白シャツ、ネクタイだけを外し、カジュアルさを演出している。

FLOWAは黒のスーツに白シャツ、ネイビーにイエローストライプのネクタイを締めた、キッチリした印象だ。


 「……任務明けのスーツ、ちょっと不思議だな」

 SAJIROがボソッと呟いた。


 「逆に“普通の人間”に見えるので最適です」

 FLOWAが淡々と返す。


 そのときだった。


 カーブの先、杉の木々の切れ間から、ふわりと“出汁の香り”が流れてきた。


 「……ん?」


 BENIがブレーキを踏み、ハンドルを切る。


 「どうした?」


 「見て。右、見えてきた……あれ」


 山肌に張り付くようにして立つ一軒の古民家。

 木の壁、瓦屋根、煙突から立ち上る白い湯気。

 入口には赤い暖簾が揺れていた。


 『山賊うどん』


 そして、脇に立てられた一枚の板。


 『10食限定:山猪肉うどん』


 「……これは、運命だな」


 席に通された3人は、

 スーツ姿で並ぶ、妙に整った絵面でテーブル席に座った。


 「完全に“朝の会議前”って感じだな……」

 SAJIROが苦笑しながらも、目はメニューの一点を見つめている。


 出されたうどんは、器にたっぷりと盛られた一杯。


 麺は手打ちで、太く、コシがある。

 表面は艶やかで、しっかりと“噛む感触”が残る絶妙な茹で加減。

 その上に、低温調理でとろけるように仕上げた山猪肉が乗っていた。


 「……やべぇなこれ、香りだけで米いける」

 SAJIROが顔を近づけて目を細める。


 「生姜と味醂、それから多分、赤味噌で臭みを旨味に変換してますね。

  脂は別炊き。焦げを付けて、香ばしさに」


 FLOWAは箸を取り、無言で一口すする。


 出汁はイリコと昆布に、山猪の骨から取ったコクを融合させた獣骨ベースの旨味。

 臭みを徹底的に抑えつつ、野性味だけを“主張”として残す。

 あとからじわっとくる甘み、口に残るコク。


 BENIが静かに笑った。


 「これは……染みるね。任務明けには、これ以上ない」


 ネイルの整った指で、丁寧にうどんを口に運ぶBENI。

 その横顔を、隣の席の高校生がじっと見つめているのに気づかない。


 「……BENI、目立ってるぞ」


 「へえ。よかった。“何者か分からない女”って、ウケいいでしょ?」

 ウィンクひとつでかわす彼女に、FLOWAもさすがに肩をすくめた。


 朝日がゆっくりと昇っていく。


 山の中で出会った一杯のうどん。

 それは、3人の諜報員にとってただの朝食ではなく、“世界の味を奪還する任務”の、ご褒美だった。






なお、帰投予定時刻を30分過ぎてしまったのは、言うまでもない。



さぬきの騎士編はこれで終わり

次の話に進みます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ