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UDON CODE:FLOWA -出汁に沈んだ国家機密-  作者: フロウワ
ホワイトブロス作戦編
12/28

ホワイトブロス作戦5

 ゼロ本部・第28階。

 オフィスの一角に設置された専用解析端末の画面が、微かに点滅した。


 


 FLOWAはカップを置き、端末に目を落とす。

 静かに画面をなぞる指先が、ひとつの通知に触れる。


 


 《データ解凍進捗:17%》

 《新規キーワード抽出:4件》

 《注目ワード:BROTH-NET》《拠点コード:MK-R6》《搬送プロトコル:手延麺(区分C)》

 《配達先コード:A1042-B(識別:新規顧客/確認済)》


 


 ──“BROTH-NET”。


 


 その文字列に、FLOWAの視線が止まる。


 コード名の割に、あまりに素朴な語感。

 だがその実、うどん文化に依存した情報搬送網の存在を示す、最初の明確な痕跡だった。


 


 (……麺が届く場所。情報もまた、そこに集まる)


 


 FLOWAはタップ操作でデータ構造を展開。

 浮かび上がったコード名「MK-R6」──それは「麺琴楼」の内部管理識別だった。


 


 Broth Netは香川県内に点在する特定のうどん店舗をノード化し、

 そこを経由して情報を配信・蓄積・再分配する、完全なローカル密閉型情報網。


 


 配達対象データの内容までは未解凍。

 だが興味深かったのは、その“配送指定”の履歴だった。


 


 《配送対象識別:A1042-B(新規顧客)》


 


 ──これは、FLOWAが今回偽装した“顧客”の識別コード。


 


 (……つまり、この人物には意図的に、機密情報が届けられる予定だった。)


 


 FLOWAは画面に映る文字列を目で追いながら、静かに考えを巡らせる。


 


 (財閥と明確なつながりはなかった人物──だが、政治家、官僚、実業家、

 いずれの可能性も示唆されていた“保留枠”のひとつ。

 おそらく、“観察対象”として意図的に情報を流していた……餌か、選別か、罠か)


 


 そこには、“表向きの関係の希薄さ”を逆手に取った手法の匂いがあった。

 真っ黒ではない、だが“限りなく灰色”。

 内部で判断に迷った人物に対し、財閥が「情報を渡すことで試す」……そんな構図。


 


 ──選ばれたのではない。ふるいにかけられたのだ。


 


 FLOWAは静かにモニターを閉じた。

 全貌にはまだ届かない。けれど、このデータに残された構造は──


 


 「うどんを運ぶ」ことで、情報も、意志も動いている。

 そして今、その中枢には──麺琴楼が存在している。


 


 解析進捗は17%。

 けれど、それでももう、十分だった。


 


 FLOWAは立ち上がり、静かに小さくつぶやく。



 


 「出汁の中に“味”を隠すなら──

  この構造は、もう“秘伝”と呼ぶべきですね」


 


 彼の指先が、再びデータウィンドウに触れる。

 その奥では、麺と共に流れた真実が、静かに形を整え始めていた。



────────────────────────────────




 UISF第28階、オフィス裏の装備ロッカー区画。

 その奥、諜報員専用の準備ブースで、BENIは淡々と出撃の支度を進めていた。


 


 壁に設置されたモニターには、先ほど転送されたばかりの報告ファイルが2件──

 ひとつはFLOWAから。もうひとつは、サジロウからだった。


 


 「Broth Netの“中継ノード”。今のところ、麺琴楼が主軸みたいね」

 BENIは目を細めながら、解析済みのデータを指先でスクロールしていく。


 


 MK-R6──麺琴楼。拠点コード、搬入口構造、裏搬送ルート。

 その全てが、店舗の“表”とはかけ離れた複雑さを持っていた。


 


 そして、もう一件。

 地中探査データを添えたサジロウの報告書。


 


 GPRスキャンにより描き出された地下構造は、麺琴楼の真下にまるで中空の洞のような搬送トンネルが存在していることを示していた。

 接続口は、搬入口のわずか数メートル下──今なお使用されている“動脈”だ。


 


 「……詰まりかけた出汁管、抜きに行くか」


 


 BENIはゆっくりとラックへ向かい、装備の入ったケースを取り出した。

 業者風の作業服。カーキ色のジャケットと、ややタイトなワークパンツ。

 中には黒のインナースーツが仕込まれており、動きやすさと防護性を両立させている。


 


 ベーススーツのファスナーを軽く引き上げる。

 その瞬間──わずかに、布地の動きが胸元で滞る。


 


 きついわけではない。だが、"身体のラインをうっすらと意識させる“絶妙な窮屈さ”があった。


 


 BENIは無言のまま、一瞬だけ視線を下げたあと、ため息のようにふっと笑った。


 


 「……やっぱり、制服よりこっちのほうが落ち着くわね」


 


 足元に置かれたツールバッグを肩にかけ、もう一度モニターを確認。

 画面に表示された【搬入口:識別済】の文字を最後に、端末をシャットダウンした。


「さて……準備はできた。あとは、あの“搬送路の口”に辿り着くだけ」


 オフィス区画を出て、静かにエレベーターへ歩を進める。

 通常なら存在しない“28階”のフロアを背に、

 情報と出汁が交差する都市の地表へ──


 麺琴楼。

 その“裏の顔”へと、ベニは今、歩き出す。。


 


 「さて……厨房の裏口、少し味見させてもらいましょうか」

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