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ショートショート4月〜4回目

宅配弁当

作者: たかさば

「お弁当で~す!」


 ・・・なんだい、いきなり。

 俺は弁当を頼んだ覚えは…ないぞ。


「俺は頼んでないけど」

「いやいや…今日からお届けすることになっております!お受け取り下さい!」


 いきなり弁当を差し出された俺は、どうしたもんかと固まった。

 …どうやら、持ち帰る気はないらしい?

 向こうさんも、弁当を差し出したまま微動だにしない。


 仕方がない…とりあえず、受け取るか。


「今日のお弁当は仕出し弁当でございます!また明日来ますね!」


 よくわからないが、弁当を受け取ったからには…食べないとまずいだろう。


 弁当のふたを開けると…、うまそうなおかずが上品に並んでいる。 最近の仕出し弁当は結構豪華なんだな。感心しながら、平らげた。


「お弁当です~!」


 次の日届いたのは、助六だった。

 俺は子供の頃、お稲荷さんが嫌いだったんだけど…いつからか好きになってたんだよな。そんな事を思いながら、平らげた。


「お弁当~です!」


 今日の弁当は普通のデラックス弁当か。

 よく買っていた近所の弁当屋の弁当に似ているような…そうだなあ、どこの弁当もだいたい似たようなもんか。俺はいつものように、最後のお楽しみにとっておいたピンクの漬け物を口に入れて微笑んだ。


「お弁当ですー!」


 今日の弁当はおにぎり弁当か。

 ゴツゴツした感じの丸いおにぎりは…父ちゃんが握ってくれたやつになんとなく似ているような。


「お弁当ですよ!」


 毎日毎日、弁当が届く。

 今日は一体なんだろう?いつしか俺の、楽しみになっているじゃないか!…おっ、これはしょうが焼き弁当!このくたくたになってる葉っぱがまずくていいんだよなあ。


「はーい、お弁当です!」


 シュウマイ弁当にのり弁、ジャーポット入りのとん汁弁当に唐揚げ弁当、サンドイッチに味噌カツ丼。


「お弁当でーす!」


 卵焼き弁当、チキン南蛮弁当、ハンバーガー。

 焼肉弁当、チャーハン、 餃子弁当はちょっと勘弁してくれよと思わないでもない。

 ピザもちょっと冷めてて美味しくなかったな。

 ラーメンが届いた時は驚いた。

 焼うどんの鰹節がひらひらと飛んで参ったよ。

 たこ焼き弁当なんて言うのも来た。

 次の日はもしやと思ったら、やっぱり焼きそばで大あたりだった。

 焼きそばが来たら次はたい焼きだろうか?…まさかの大当たりだ。これさあ、弁当じゃなくておやつじゃないの?


 毎日ふらふらと出歩く俺のもとに、必ず届けられる弁当。

 たまにものすごいものが届くが、わりと美味いものが多いので…楽しみになっている。


 カレー弁当、ちらしずし、スパゲッティーにオムライス、お粥に肉まん、大好物の鮭のムニエル入りに嫌いな春菊のてんぷら入り、ホットドッグにハンバーグ弁当。病院のマズい飯をそのまま詰めた弁当に、グループホームの噛み応えのない飯、学食のしょぼい野菜炒め、バイト先のまかない弁当、社員食堂の名物カレー、旅行先で食べた贅沢海鮮尽くし弁当、山登りの時に持って行ったスパムおにぎり、海に持って行った塩握りと浜焼き……。


「お待たせしましたー、お弁当でーす!」


 この弁当は何だろう。…これは、昔遠足で食べた弁当に似ているような。なぜか涙が…溢れてくる。懐かしいなあ…。


「はい、さめないうちにどうぞ、お弁当ね!」


 これは、 ホットケーキ弁当? 甘くて腹にたまる気がしないな、弁当とは言い難い。 でも…しみじみと美味いのは、娘が頑張って作っているのを見た記憶がトッピングされているからだろうか。


「お弁当ですよー!」


 梅干しが一つだけ乗った、日の丸弁当だ!はは、給料が安かったころによく食べさせられたもんだ!!


「お弁当でーす!」


 これは母ちゃんのしょっぱい弁当だ。腐るといけないからって塩をきつめにしてたんだよなあ。


「お弁当ですけどー!」


 嫁さんのいつも作ってくれた弁当だな、これは。体にいいからって、絶対にブロッコリーが入ってたんだよなあ。


「どーも!お弁当です!」


 今日の弁当は…退職の日に娘が作ってくれた弁当だ。嫁さんの味を受け継いだんだなって…泣けたんだよなあ。


「お弁当持ってきましたー!」


 孫の作ってくれたハイカラな弁当…派手な見た目と中身だ。爪楊枝代わりのパスタを食って前歯が欠けたんだよなあ。


「はい、こんにちは!!」

「ああ、どうも…で、今日は、何の弁当なんだい?」


 すっかり弁当を受け取り慣れた俺は、両手をスッと差し出した。手の平にのせられたのは…うん?なんだ、この…丸い玉は??


「今日はね、新しい命をお届けに来ました!」

「……命?」


 弁当は、もらえないというのかい?


「今日でもうお弁当はおしまいなんですよ~」

「なんだ…俺はもっといろいろと食うつもりだったのに」


 弁当を食べながら、俺の生きてきた日々を…振り返るのが楽しみだったのになあ。


「またいっぱいお弁当が食べられる人生を送りましょうね!!」


「……そうだな」


 丸い玉をグイっと飲み込むと、急激な、眠気が……。


 俺は、満たされた腹を抱えて。


 新しい、人生を……。


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[一言] お弁当の走馬灯〜 (u_u*)
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