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思い出せない

去年ここに来たとき、ケイは何かに気付いた。

半年経ってケイは再びここに来てみたのだが、その時何に気付いたのか、そこがどうしても思い出せない。

些細なことだったという気もするし、記憶に残るようなことだった気もする。

ただ、「また来よう」、と思った感触のようなものだけが残っていて、昨日、その感触が妙にむず痒く騒ぎ出したのだ。


「この公園の入り口の変なオブジェ、かなぁ。」


ケイがひとり言を漏らしたとおり、目的地の公園の入り口にたしかに人目を引く何かのオブジェが飾られている。

しかし、そのオブジェを見ても、ケイが何かを感じることはなかった。

これがここに足を運ぶ理由になるとも思えない。


辺りを見回しても、近所の公園にもあるような遊具がいくつかあるくらいで、わざわざ家から30分もかけて歩いてくるような理由にはならない。


「なんだっけなあ。」


確かにあのときは、また来ようと思ったのだ。


公園には梅の木が植えてあって、蕾がほころんでいるのも見える。

確かにこれからの季節、この公園を訪れれば艶やかに咲いた梅が見られるのだろうが、逆に去年ここに来た頃にはとっくに花が散ったし、梅の実を見た記憶も無い。

だから、梅が理由になるとも思えない。


公園の入り口に突っ立っていても何も思い出せそうにない、とケイは思い、砂場近くの古びたプラスチック製のベンチに腰掛けてみた。

なんならブランコでも良かったのだが。


「うーん。」


視点を変えてみても、何も見えない。


「何をしてるときにまた来ようと思ったんだっけ。」


ケイは記憶を辿る方法を変えてみた。


ところが、この公園に来たことは憶えているのだが、この公園で何をしたのか憶えていない。

この公園に歩いてきたことや、この公園を出た後、家に帰ったことは憶えていても、この公園で何をしたのかの記憶は残っていなかった。

というよりも、また来ようと思ったということが大きすぎて、他の記憶を片隅に追いやっている、という気がしている。


「なのに、一番大事な部分も忘れちゃってるんだから、何なんだろうな、一体。」


ケイは自分に呆れてしまった。

呆れついでに、ベンチに座ったままぼんやりしてみた。

どうやれば思い出せるか、わからなくなったのだ。


犬を散歩に連れて来た人がやって来て、去って行った。

雀が連れ立ってやって来て、ちょこちょことそこらを歩き回って、また飛んでいった。

どこの公園でも見かける風景。

何も特別なことはない。


ひたすら、何もない時間が過ぎていった。

緩やかな風がさわさわと肌を撫でて、それだけだった。


「何か、前もこうぼんやりしていた気がする。」


前回も暑くもなく、寒くもなく、ちょっと歩いてみるのにいい季節だった。

ここまで歩いてきて、ぼんやりして、何かに気付いた。


「あ、そうか。」


ついに、ケイは思い出した。


「ここが普通の公園で。」


どこにでもあるような普通の公園で、気遣いも緊張もなにもケイに強いない。

学校にいるときのように自分に構ってくる人も、家にいるときのように何かをするように指示してくる人もいない。

ただ、何も起こらないわけでもない。散歩の人は来るし、雀は遊ぶし、気持ちいい風も吹く。


しかし、無防備な自分を置いておいても、ただ時間が流れていく、そういう場所だった。


そして、ケイは気付いた。


「俺、疲れてたんだな。」


と。








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