8.能力
「お父様!お母様!」
湖の側、家族が集まっているところまで、アルトンに抱かれてやって来た。
「メルティア!!??」
その場の全員が私の声に驚き、振り返る。でも今は、そんなことよりレオ兄とマテオ兄様だ。
「レオ兄とマテオ兄様は!?」
「「メルティア…?」」
私達から少し奥の所で、2人はシートに座り騎士から手当てを受けていた。2人は怪我をしているものの元気そうだった。心の中に安堵が広がっていく。獣に襲われたと聞いた時はどれほど怖くなったか…。じわじわの目が熱くなって涙が零れる。
「メッ、メルティア!?大丈夫か!?」
「何処か怪我したのか!?」
私の涙に周りがオドオドし出す。
「おっお兄様達が無事で良かったですぅっ!」
「ふっううっ」と泣いてしまう私の頭を暖かい手が乗るのを感じる。気がつけば2人は立ち上がって側まで来てくれていた。
「ありがとうメルティア」
「心配させてごめんな」
脚怪我してるのに無理しないで!そう言葉にしたくても結局涙で声がでなかった。
思う存分泣いた私は少し目を腫らしながら、お父様に今度は抱かれて家族全員で馬車へ戻ってきた。
結局、マテオ兄様の怪我は左手首と右肩。レオ兄は右足と右腕だった。2人とも大丈夫だと言うけれど心配だ。
馬車の中は行きと帰り交代する予定だったが、怪我のこともあってマテオ兄様、レオ兄、そしてなぜかお父様の膝の上に乗せられている私とお父様になった。
「それで、レオは黒グマに遭遇したんだな?」
「はい父上」
黒グマ…。何でもこの世界は色によって生き物はよくランク付けされるらしい。クマは、白、黒、茶の順で強いという。それに、ファンタジーな世界なだけあって、獣以外にも魔獣というのが存在するらしく…。危険区域は獣、特別危険区域は魔獣に適応する。と、世界で定められているそうだ。
「父上、1つ報告を宜しいでしょうか」
マテオ兄様が重苦しい表情でそうお父様に言うと、お父様はコクリと頷いた。
「実は、森でホワイトウルフを見ました」
「何…!?」
お父様は、反射的にそう言い、レオ兄も驚いたように目を大きく開いている。ただ、私だけがホワイトウルフとは何かを理解できていなかつた。
ホワイトウルフ…。ウルフ=狼だよね?白い狼??
「こちらを攻撃はしてきませんでしたが、森の中へ入っていきました。」
「あそこにも魔獣が…」
魔獣!?ホワイトウルフは魔獣なんだ!襲われて無くて良かった…!
「分かった。私はその事を先に報告へ行く。マテオは帰り次第報告書の提出を。」
「はい」
言い終わると、お父様は優しく私を膝から下ろしいすに座らせる。そして、走る馬車の扉を開いた。扉の先には騎士の人が空馬の手綱を握り待機している。聞くまでもなく、お父様は馬車からその馬へ飛び乗るのだろう。流石ファンタジー。やる事なす事、半端ない。
「お父様…。」
心配で袖を少し引くと、大丈夫だと言うようにこちらを優しく見つめ、おでこにキスを落としてくれた。
「可愛いメルティア。先に帰って鷹さんと遊んであげておくれ。いいかい?その力のことは家族以外話してはいけないよ?」
「はい、約束します」
「いい子だ。それじゃあ、またね」
馬車を蹴って、見事に馬に飛び乗る。すると、お父様は騎士達を連れ、馬車から離れていった。マテオ兄様が馬車の扉を閉めてくれる。
「それで、メルティアが得た力って?」
何も知らないレオ兄が私に聞いてくる。それに、私が答えるより早く、マテオ兄様が説明を始めてくれた。
「えっ!?すっげえ!」
話しを聞き終えたレオ兄は驚いた声を出した。
「それって、神に近い力の1つじゃん!」
興奮したように言うレオ兄の言葉に引っかかる。「神に近い力の1つ」?
「兄様、神に近い力の1つとは?」
「神に近い力っていうのは、暗に選ばれた者のみが使える力のことさ。この世界の魔法は五大属性が普通だ。だけど、稀に神に近い力を持つ者が生まれる。7年に1人、生まれるかどうかと言うところかな。」
そこでマテオ兄様が一旦区切る。レオ兄はウンウンと首を振ってマテオ兄様に同意しては「すっごい事なんだぜ!」と、目を輝かせて拳を作る。
「神に近い力というのは、全部で5つ。」
マテオ兄様の話しをまとめると、こう。
1つ、「天災」
地震や津波などの災いを操ることの出来る力。文字通り神の力だ。ただ、この力を持つ人は、500年前以来確認されていないそうで、今ではそんな人間は存在しないとも言われているらしい。
2つ、「治癒」
基本的には病気というよりも怪我を治療するらしい。この国には2人いるそうで、力が発現すると神殿に属するのが決まりだそう。
3つ、「天候」
ありとあらゆる天気を操る。この国には1人いるらしいが、自由を好む性格らしく…。今やどこにいるのか、国全体をあげて捜索中らしい。
4つ、「時空」
瞬間移動などの類いらしく、“時空”という空間を通り遠距離を移動したり、その空間に物を入れて置くなどできるそうだ。“時”を操れる訳ではないそうだけど。
5つ、「生き物」
これが、私、メルティアの持つ力だと言うらしい。どんな生き物とも意思疎通を図れるという力。
「お兄様、私まだ鷹さんとしか話せた事が無いんですけど…」
「ああ、それはきっとまだメルティアが魔力の開花中だからだと思うよ。」
聞くところによると能力の開花は人それぞれらしいし、全然おかしくない。
おかしく無いんだけど…転生チートだったりして…?
だって、こんな力、凄すぎない?
心の中でそう思った。
「メルティアの力が本当に神の力なら、君は国に保護される対象になるんだ。そうしたら…」
そこで、マテオ兄様が止まる。
「そうしたら……?」
「…城で暮らすことになるから、僕達と滅多に会えなくなる」
お父様やお母様、兄様達に会えなくなる…?そんなのやだよ…。もし別れたら優しかったあの手で頭を撫でて貰えないし、面白おかしく話しをしてくれる人もいない…。城なんてどうでもいい。会えなくなるのは悲しすぎる。
考えれば考えるほど、頭の中に城で1人寂しく過ごす想像が出てきて目に涙が溜まった。
「メルティア、大丈夫だ!1つ城に連れて行かれない方法がある!」
「…レオ兄?」
城に行かなくていい方法?
「誰にもバレなきゃいい!」
「…………バレなきゃいい?」
単純かつ分かりやすい方法。けど、それは難しいような気もする。だって、秘密って私昔から隠し通せないんだもん!それに国相手にそんなこと通用するの!?
「あぁ。レオの言うとおりさメルティア。バレなければいいんだ。だから父上も誰にも話さないようメルティアに言っただろう?元々父上はメルティアを城なんぞにやる気はないのさ」
マテオ兄様、城なんぞって…。それに、お父様の言葉はそういう意味だったんだ。私を守るための……。