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公爵家のお姫様の事情  作者: Sion
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5.マテオ兄様

「ふっ……っ……あっ…!……うぅっ…!」

「頑張れメルティア!」

「姉上、痛い…?大丈夫?」


 メルティアと私、神様の秘密の空間から目が覚め、私も割り切ってこの世界で生きる!と決めたのはいいものの、始まったのは今まさに真っ最中の『リハビリ』。それがもう痛くて痛くて!


 突然だが。この世界には魔法が存在している。そのせいでメルティアは魔力枯渇病に陥ったんだから当然と言えば、当然。私のイメージでは、魔法で病気や怪我をふわぁっと治せるものだったんだけど……なんと、魔法で治癒は出来ないらしい。本当に優れた魔法士にしか、使えない力だそうで、この国には今、2人だけ。その2人は勿論王宮と神殿という場所にいらっしゃるので簡単には会えない。


 ということで、まず歩けるようになるためリハビリをしております!担当は、私がこの世界に来てから大変お世話になっておりますお医者さんのフライト様。そして、何故だかここにいるレオ兄とフランツ。私のリハビリの付き人だそうだ。お父様とお母様、エイデン兄様は仕事と勉強があるとのこと。マテオ兄様は、未だにお仕事から帰っていない。


「!うっ…!」


 足のマッサージを先ほどからされていて、それだけでも痛かったのに、足を曲げる練習を始めた。3年ベッドで同じ姿勢だったので、膝は曲がりにくく、お姫様抱っこのように、だらんとなるならまだしも、自分で動かすのは辛い。


「お嬢様、大丈夫でしょうか。もう少しで今日の分は終わりにしますので、最後まで頑張って下さい」

「姉上、頑張って!」


 フランツの可愛い応援にもう少し頑張ろうと思う。けれど、痛いものは痛い!リハビリを始めて早2時間が経過している。額には汗がぐっしょりで、時々の休憩にはレオ兄に起こしてもらい、水を飲ませてもらう。この繰り返しに疲れがどっと来ていた。


「お嬢様、今日はこの辺で終わりにしましょう。よく頑張りました。それでは、丁度お昼なので昼食にしましょう。」


 そう言って、側に控えていた執事とフライト様が目配せする。執事は一礼すると、部屋を退出した。


 うっ……疲れた…。しんどいし、汗がー…すると、さっとメイドのリナリーが汗を拭ってくれた。


「昼食を食べた後にお風呂に致しましょうね」


 こくんと頷いてお礼を言う。レオ兄とフランツは心配そうにこちらを見つめていたので、微笑み返した。


「大丈夫!ありがとう!」

「よく頑張りました」

「ああ、よく頑張ったな…!」


 リハビリベッドの両サイドから、よしよしされて照れる。レオ兄はもちろんイケメンでいらっしゃる。今日も今日とて輝くような国宝級顔面をお持ちで。フランツもフランツでとにかく可愛い。


「それでは、お二方は部屋を出て下さい。お嬢様の昼食になりますので。」


 そう言えば、この世界に来てから始めてのご飯じゃない!?朝は何も食べてないし!部屋から出て行く2人を見てそう思った。






・・・






 食事がベッドに運ばれてくる。それに連れて臭いが酷く濃い。見た目はほかほかの雑炊とスープ。美味しそうなのに、思わず吐いてしまいそうな強烈な臭いがしていた。


「……うっ…それ、食べなきゃ…ダメ…?」

「はい。召し上がって頂けなければなりません。吐いても吐いても慣らさなくては。」

「は……く…?」


 そう言えば、フライト様は胃が食べ物を受け付けないかもしれないって言ってたっけ。それってよくよく考えたら…地獄じゃない!!?


「お嬢様、『あ~ん』して下さい」


 リナリーにスプーンを差し出される。その中には少しだけのスープが。でも、どうしても口を開く気になれない。隣には、もう1人の私の専属メイド、ローナがバケツを持って待機している。ちなみにだが、ローナとリナリーは二歳差の仲のいい姉妹だ。ローナのバケツを意味するもの……それは、存分に吐けってこと…よね……?


 どうにもでもなれ!


 パクッと口にスープをふくむ。その瞬間、舌に激しい刺激が、そして急いで胃に放り込むと、途端に這い上がってきた。ローナの準備してくれたバケツに出す。


 それ以降の食事は嫌で嫌で食べたくなかったが、食べなければ死にます。と言うフライト様の言葉にゾッとしたので、口にふくんでは、吐くを数回繰り返した。もう無理だと判断したフライト様によって食事は終了。結局、何も食べなかったのと、同じだった。


 後から聞いた話だと、フライト様は私が眠ると腕に栄養剤を打っていたらしい。そのお陰で生きていると言っても全く過言ではない。ああっ神よ!






・・・







 私がこの世界に来てから2週間。食事はスープととても小さな固形も食べれるまでに発展した。これも、毎日の努力だ。あんなにも食事を嫌に思うことは無かった。そして、段々と食べることが出来るようになってくると、味が変わってきた。少しずつだが、美味しいと感じるようになったのだ!これは、とてつもない進歩だと思う!


 食事に続いてリハビリのほうも。最近ではスプーンを自分で使えるようになった。まだ完璧ではないものの周りの暖かい視線のお陰で頑張れている。歩くのはまだ難しいが、1分ぐらいなら何か掴まるものさえあれば立つことも出来る。1人で歩けるようになるには半年はかかるってフライト様は言ってたけど、もう少し早くいけるのでは!?と内心思っている。ここは我慢強く頑張るのみだ。


 家族の皆はというと、昨日マテオ兄様が帰ってきたらしい。夜遅くに帰ってきたからまだ会っていないけど。私は、リハビリの時に必ず交代で家族の内の誰かしらがいるのでマテオ兄様以外の家族とは仲良くなった。マテオ兄様とも仲良くなりたい!


 家族の皆と仲良くなる過程でなのだが、記憶が少し戻った。だけど、まだ誰にもその事は伝えていない。戻ったと言ってもほんの一部だ。レオ兄やエイデン兄様と遊んでいたり、赤ちゃんのフランツを撫でていたり。お母様とお父様に抱けしめられていたり。とにかく、メルティアが愛されているということが分かる記憶ばかりだった。


 プレゼントも貰った。指輪。家族全員からのプレゼント。メルティアの瞳の色と同じアメジストが輝くもので、デザインもシンプルだし、可愛い。メルティアの指輪は細いので少し隙間が空いているけど、落とさないように大切に肌身離さず着けている。


 それから、王族からも。私なんかが王族の人に認知されていることにまず驚いた。でも、よくよく考えたらメルティアは、公爵家の娘。王族の中には皇子が2人いるらしいし、爵位が高い娘を嫁にと考えているならメルティアは、優良物件だよね。政治的に考えて知らない方がおかしいか…。という結論に至った。貰ったのは、派手なルビーのネックレス。でも、私には派手過ぎるし、何たって重い。首に吊すとそのまま首が取れてしまいそうに感じる。なので、クローゼットに封印された。もう少し成長して力を付けてから再度試してみようと思う。


「メルティア、入っていいか?」


 コンコンとノックがなったあと、そう壁越しに声が聞こえた。これは、マテオ兄様の声だ!


「はい!どうぞ、マテオ兄様!」


 扉が開かれると予想通りの人物、マテオ兄様が入って来た。マテオ兄様は、青い目をこれでもかと開いて驚いていた。


「いっ今、名前を…!」

「?はい。…もしかして、マテオ兄様って呼んだらダメ…?」


 マテオ兄様とは、私がこの世界に来た日以来1回も会ってないし、急に名前呼びは嫌だったかな…


「いや!違うんだ!嫌とかじゃなくて!だいぶ会っていない時間が長かったし、記憶はまだ戻っていない様子だったから、名前を呼んで貰えるとは思っていなかったんだ。嬉しいよ」


 にっこりと微笑んだマテオ兄様は、とても幸せそうに見えた。そんでもって、格好いい!


「お仕事お疲れ様!昨日帰ってきたって聞いたけど疲れてなぁい?」


「ああ。全然大丈夫さ。メルティアはだいぶ良くなったように見えるが…。」


 そう言って顔色を窺う。その動作もレオ兄そっくりで手を頬に伸ばしてきた。この家独特の体調の見方だな…。


「うん!毎日、すっごく頑張ってるの!ご飯やリハビリはしんどいけど、早く元気になって皆で何処か遊びに行きたいの!」


 これは、心からの気持ちだ。2週間たった今でも外へは出ていない。お父様のお迎えの時だけ。それに、家族皆が揃って何処かへ行きたい。


 はっ!そう言えば、マテオ兄様に敬語もなく喋っちゃってる!レオ兄やエイデン兄様、お母様にお父様までもが、家族に敬語など必要ないと言ってくれてたから全く気にしていなかった!もしかしてマテオ兄様は敬語を使えっていうのかも。


 最近この世界の身分の重要性に気が付いた。上下関係が激しいのだ。いくら家族といえど、マテオ兄様は年上だし…。


 だけど、マテオ兄様はそんなこと気にする事もなく、私の話を聞いてくれている。怒るどころか嬉しそうだ。このままでいいみたい。


「頑張ったんだな……。それにしても、家族皆で出かけたいって、何がしたいんだ?」


 それは、前世からしてみたかったこと…ピクニック!お父さんは忙しい人だったから、全員が揃ってっていうのは無かった。


「…ピ…ピクニック!」


 でも、よくよく考えたら公爵家って皆多忙だよね!?お父様とお母様は国を動かす重要人物。マテオ兄様やレオ兄は領地の仕事があるし、エイデン兄様やフランツもお勉強を頑張っている。つまり、この多忙一家の中で唯一暇なのは私だけ。私も体調が戻ったら勉強するってリナリーに聞いたし…。それなら、まずまず全員は無理かも。


「ピクニックか!可愛いなぁ。そうだな、じゃあ俺から皆に提案しておくよ。全員集まるかは分からないけど、たぶんメルティアのためなら何が何でも集まると思うし…。」

「ほっほんと…!?」

「ああ!」


 やった!!全員来てくれる事を願っとこう!


 そこで部屋のノックがきこえ、フライト様が入って来た。午前中のリハビリが始まる時間だ。


「失礼します、お嬢様。リハビリを始めましょう。あれ、マテオ坊ちゃんではないですか。お勤めご苦労様でした。それでは、今からお嬢様のリハビリが御座いますので。」

「ああ。それじゃあな、メルティア!」

「またね、マテオ兄様!」


 手を振りながらマテオ兄様が部屋を出るのを見送って今日もリハビリが始まる。






・・・







「お嬢様、おはよう御座います!今日は晴天ですよ!」


 晴天!その言葉を聞いて急いで起きる。


「おはようリナリー!」


 今日は待ちに待った『ピクニック』の日である!

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