電車の音に誘われて
人生に絶望しちゃった系主人公はなろうの鉄則(当社比)
俺の人生は無駄だ。親戚は結婚したり、起業したり、自衛官や医者になったりと、周囲の、そして何より社会の役に立つ仕事をしている。それに比べて俺はどうだ。親にも、兄妹にも、何も返せず、大学に行かせてもらったのに卒業するのが精いっぱい。やっと入った会社にも手際が悪いためいろんな部署をたらい回しにされて、上司や部下に迷惑をかけ続ける毎日。
「…ああ、死にたい」
涙が溢れる。俺はこんな所で泣くようなみっともない人間だ。
そうだ。隠せ。隠せ。お前より辛い人はいくらでもいるんだ。皆、辛くてしんどいのを我慢して働いているんだ。お前だけが辛いわけじゃない。周りの人のことも考えられないのか。お前一人がどれだけ泣いて、絶望して、死のうと思っても、社会は変わらない。お前は所詮少し社会に出ただけで挫けた弱者だ。誰もお前を助けない。関わろうともしない。だってお前は、社会に何も還元していないのだから。
悪魔の声がする。俺の心を絶望に堕とす悪魔だ。俺の心に巣食う闇だ。
だから何だ? 俺が言ったことは事実だ。お前が死のうと、誰も関心を向けることはない。しいて言うなら、お前が電車に飛び込んだせいで電車が止まり、周りの人がトラウマを負いました~って朝のニュース番組で罵られるだけだ。お前は死んでも社会に迷惑をかけ続けるんだよ。もちろん、死ななかったらお前が社会のお荷物である現状は変わらないから、今日も会社で無能を晒して皆に迷惑をかけるだろうな。
嫌だ。死にたくない。嫌だ嫌だいやだ……。
死にたくない? だが死ななければ現状は変わらないぞ? よく考えてみろ。天秤にかけるんだよ。これ以上生きていて、お前は家族や社会に何を返せる? まあ返せないだろうな。むしろ迷惑をかけ続ける。それなら死んだほうがマシだ。
怖い。怖いんだよ。死んだら何もなくなる。痛いのは嫌なんだよ。
痛いのは嫌だ? そろそろ来る電車に向かってタイミング良く飛び込めば、一瞬で人肉ハンバーグの完成だぞ? 痛いのなんてコンマ1秒もないだろうな。それに、人間は死ぬときに幸福な物質を脳から出すという。だから痛くはないぞ。怖いのだって、踏み出す一瞬だけだ。そのあとは重力に身を任せればいいだけだ。簡単だぞ? ほら、やれよ。もう来るぞ。電車のライトが見えてきた。この機会を逃すと次はない。なぜなら終電だからだ。人もまばらだから目撃者も少ない。混乱する人間も少数で済むぞ。絶好の機会だ。悩むな。やれ! お前が! お前の意志で! 迷惑をかけた人へ罪滅ぼしをするんだよ! それがお前にできる最期の家族へ、そして社会への還元なんだよ!
「……ッ!」
足を踏み出す。迷いはなくなった。あと2歩進めばコイツの言う通り、全てが終わる。
父さん、母さん、兄ちゃん、陽咲…ごめんな。あと、ありがとう。
そうだやれ! さっさと死ね!
「……何してるんですか?」
振りむく。声の主はいない。見下げる。…いた。
「…ぁ」
まただ。また迷惑をかけてしまった。俺みたいなゴミに。こんなに綺麗な子が。汚れる。汚してしまった! 俺のせいだ。ごめんなさい。すいませんでした。とにかく、とにかく謝罪を…。
ゴウっと電車が通り過ぎる。ブレーキをかけて、止まる。「ドアが開きます。お近くの…」人が出てきた。俺の腕を掴んでいる少女に目が留まり、すぐに興味を失って歩き出す。
「ごめんなさい」
謝る。謝った。謝罪だ。足りないか? 頭を下げなかったのがよくなかったんだ。 やはり土下座か? いや、それしかないだろう。でも、この子は俺の腕を掴んで離さない。どうすればいいんだ。振り払えということか? いや、そんなことをしたら失礼だ。何か意図があって掴んだのなら、その意図を正確に汲み取らなければ…。
「あの」
「っ! は、はいっ! なんでしょうか…」
声をかけた! 俺に! やめてくれ!
「飛び降りようとしてましたよね?」
「!?」
……なるほど。たしかに、ここで飛び降りたら他の人の迷惑になる。なんで俺はそんなことに気づかなかったんだ…。
「答えてください」
「……はい。そうです」
ああやはり、短絡的な思考になってしまうのは良くない。すぐに別の場所を探さないと…。
「死なないでください」
「ぇ?」
「絶対に、死んだらダメです。家族が悲しみます」
…簡単に言ってくれる。
「俺の家族は、社会の役に立っている、でも、俺は何もできない奴だ」
どう考えても釣り合ってない。
「だから、俺なんて、死んだほうが良い」
「良くないですッ!!」
…なぜだ? 社会という集団において、一定以下の無能は不要だ。
「…私、両親が死んだんです。車の事故で、横から飛び出してきた居眠り運転のトラックに潰されて」
「それは…」
ご愁傷様。でも私には関係がないよなその話。
「母親も、葬式終わったら後を追うみたいに首吊って。ここまで育ててくれたお祖母ちゃんもこの前病気で死んで、親戚中をたらい回しにさせられて…」
「私、高校入ったらバイトしてお金貯めて、頑張って勉強して大学入って、いいとこ就職して。思いっきり絵を描くんです。今日、そのための受験勉強で、図書館行って参考書借りて、友達の家で勉強させてもらってたんです」
「…私、皆が死んですっごく悲しかったんです。お父さんも、お母さんも、お祖母ちゃんだって、死んでほしくなかった。私の周りからいなくなってほしくなかった。もっとお話ししたかったんです」
「だから、あなたも死なないでください。私、1年経ってもこんなに引きずってるんですよ。あなたが死んだら、残された家族は、特に親は! もっともっと悲しいはずなんです!」
「…すいません。長々と話して! とにかく、絶対ぜったい、死んだらダメですよ!」
駅の階段を上っていく。ああ、なんて優しい子なんだ。
【謎の少女A】
主人公を引き留めた子。中学2年生。運動も勉強も頑張っていて、学校のなかでは常に1位! 家族思いで明るい良い子+あの境遇なので、この子を害そうとするわるいやつは周囲のボディガードに3秒で処理されます。
髪は背中の中ほどまであるストレートの黒髪で、身長157cmのめっちゃ美少女です。故に告白しようとする輩が後を絶ちませんが、ボディーガードの壁を潜り抜けないとそのスタートラインにすら立てないです。そして、今のところ突破率は0%です。
恋愛感情には疎いですが、えっちな気持ちは人一倍強いイケナイ子です。かわいいですね。作者のお気に入りです。ぐへへ。