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肩から生えた髪の毛は、きっと間違えて生えちゃったんだと思う #7

「さてと……」

 リジーの方に向き直り、再びその顔をまじまじと見つめる。リジーは「はぅ」と言って、頬を赤くしながら照れている。

 しかし、リジーはなぜ途中で姿を変えることができたのだろうか。

「リジー、なんで最初からこの姿じゃなかったの? 姿を変えられるなら、今の方が話を聞いてもらえる確率は高かったと思うんだけど」

 そう尋ねると、リジーは『うーん』と唸りながら考え込む。

 何か思い当たったのか、ぽんと手を打ち、神妙な面持ちで口を開いた。

『確かに……』

「知らんかったかい!」

 思わずツッコミを入れるクララ。

 リジーは慌てて弁明する。

『い、いや、実は私、人前に姿を現すのが初めてで、自分がどんなふうに見られてるのか、わからなくて……』

「え? わからないって……鏡見れば一発でしょ」

『……私、鏡に写らないの』

「あっ……」

 気まずい沈黙が流れる。

「い、いやー、そっか。なんかごめんね。そんなつもりじゃ、あはは……」

 クララの乾いた笑い声が音楽室に響いた。

「と、ところで、私を追いかけてた理由って、なに?」

 気まずさを紛らわせるようにクララが尋ねると、リジーはこくんと頷いて言った。

『私、この歳で——八歳で死んでしまったんだけど、実は心残りがあって……誰かにそれを伝えなきゃって思っていたら、クララのピアノの音が聞こえてきたの』

「うんうん、それで?」

『最初は遠くから様子だけ見てたんだけど、授業が終わってから毎日毎日練習に来てて、すごいなぁって思ってたら——』

「いやー、そんなことないけど」

 頭を掻きながら照れるクララ。

『なんか、この子でいいやって』

「最後雑! ちょっと待って! それって誰でも良かったやつじゃん‼︎」

 ツッコミを入れるクララを見て、リジーはふふふとおかしそうに笑った。

『そう。誰でもよかったの』

 リジーは小声でそう言うと、ふうと息を吐き、窓の外を見つめていた。

 どこか儚げな横顔が、小さな女の子にしては大人びて見える。

 しかし、クララにはいまいち納得がいかない。

「怖い思いをして運が悪かったと捉えるか、こんな可愛い天使と知り合えて運が良かったと捉えるかってことね……」

 ため息まじりに言葉を漏らす。

 そんなクララに、リジーは慌てて言った。

『驚かせてしまったことは悪いと思ってる。本当に、ごめんなさい……』

 しゅんと項垂れるリジー。

 これだけ反省しているのだから、もう許してあげてもいいのだろう。

 そんな彼女を見てクララは微笑むと、背中に腕を回しぎゅっと強く抱きしめた。

「わかった。そのことはもう気にしてないから」

 サラサラの金髪を優しく撫でる。

『うん。ありがとう』

 クララは背中に回していた手を解き、改めて尋ねた。

「そういえば、さっき言ってた〝心残り〟ってなんなの?」

 話の本筋をすっかりと忘れていたことに気がついたリジーは、『そうでした』とはにかみながら話しはじめた。

『まず、私のお父様——アルバート・デイビッドソンが、このお屋敷を建てたの』

「ん? ちょっと待って。この学校を作った人って、ブリンクリー会長じゃなかったっけ?」

 クララは驚いた。

 つい先日、レベッカからこの学校の創立者の話を聞いたばかりだったからだ。

 不思議そうに首を傾げるリジー。

 そして、なにか思い出したのか、ぽんと手を打った。

『詳しくはわからないけど、多分それ、私が死んでから後のことだと思う』

「えっ! リジー死んじゃうの⁉︎」

 リジーの肩にしがみつくクララ。

 リジーは驚いてキョトンとしている。

「あっ! そっか。リジーはもう死んでたんだっけ」

 思い出すように呟いたクララの言葉がツボに入ったのか、リジーは破顔した。

 楽しそうに笑うリジーを見て、クララもつられて大笑いする。

『本当にクララって面白い人ね。こんなに笑ったの、生まれて初めてかも』

「リジーは、死んでるけどね」

『ふふふ、そうね。さて、話を戻すけど——お父様が建てたこの屋敷に、私たち家族は三人で暮らしていたの。周りにはもちろん、メイドや執事たちも何人かいて、何不自由なく過ごしていたわ。でもある日、お父様が当時流行っていた病にかかってしまって……そのまま亡くなってしまった。しかも、その病気は伝染病だったのか、あっという間に屋敷中に広まって、バタバタとみんな倒れていって。そして、とうとうお母様も……。一人娘だった私は、その時にデイビッドソン家の遺産を受け継いだの。本当は執事たちに任せて、私が大きくなってから相続できるようにするのがよかったのだけど……当時は家族以外、誰も信用できなかったから……』

 クララは、歴史の教科書に書かれていた伝染病の記述を薄ぼんやりと思い出した。

 百年ほど前——アメリカ独立戦争の混乱がようやく落ち着きかけた時代。

 その病気は、瞬く間にアメリカ全土に広まった。

 最初は風邪のように微熱が続き、味覚の喪失、高熱、呼吸困難へと進行していき、最後は死に至るという。

『でも、その時には私も同じ病気にかかっていて……』

 リジーは寂しそうに俯いた。

「じゃあ、リジーの死因って、その伝染病?」

『ううん。私、免疫力が強かったのか、思ったより重症化しなくて、何日か寝てたら治っちゃった』

 にこりと笑うリジー。

「なんか……すごいね、リジーって……」

『たまたまよ』

 たまたまで病気が治るのなら、世界中の人々がそうあってほしいと願うだろう。

 それはさておき——

「えっと、じゃあ……なんでリジーは死んじゃったの?」

『実は私——殺されたの』

「えっ‼︎」

 クララは驚きのあまり、思わず後退った。

『私を殺した犯人の狙いは、デイビッドソン家の遺産を奪うことだったの』

「遺産目当てで、こんな天使を殺したってこと? ふぬぬぬ……誰だかわからんが許せん!」

 拳を握りしめ、唇を噛むクララ。

 その姿を見て、リジーは微笑んだ。

『クララ、ありがとう。私も命を狙われてることにはなんとなく気が付いていたけど、そのことを誰にも相談もできなかったし……それに、デイビッドソン家の一人娘としてもしっかりしなけばならなかった』

「ちょっとまって。リジーは八歳でしょ? 〝しっかり〟っていっても限界があるよ……」

 クララは自分が八歳の頃のことを思い出した。

 父と母に甘えていた、あの楽しかった日々が脳裏に浮かぶ。

『お父様とお母様から託されたの。だから、私がしっかりするしかなかった』

 リジーは寂しそうに微笑んだ。

「なんだかなぁ……」

 クララはため息混じりに呟く。

 八歳にして家督を継ぎ、しかも信頼できる大人が周りにいない。

 さらには命を狙われ——そして、命を落とした。

『もう済んだことだから気にしないで。それよりも、お母様から受け継いだ遺産を、この建物の裏にある古い切り株の下にこっそり埋めたの。——それを、クララにあげるわ』

「埋めたってことは、遺産は取られずに済ん……って、えっ?」

 クララは驚きのあまり、口を開けたまま固まった。

「ちょ、ちょっと待って! リジーの家が大変だったのはわかったけど……遺産を私にくれるって、どういうこと?」

 きょとんとしたリジーは、小首を傾げて不思議そうに言った。

『そのままの意味だけど? 切り株の下から掘り出して、それをクララにあげる』

「いやいやいや。あげるって簡単に言うけれど、遺産だよ、遺産! なんでデイビッドソン家と何の関係もない私なの?」

 ぶんぶんと手を振りたじろぐクララ。

 リジーはまた小首を傾げ、可愛らしく考え込むような仕草をした。

『えーと、理由が必要なら……私がクララと友達になりたいから。……じゃ、ダメ?』

 潤んだ瞳でクララを見つめる。


(これは反則だ……)


 クララは深くため息をついた。

「……そんな目で見られたら断れないよね。わかった。リジーの願い、叶えてあげる」

 そう言うと、リジーは満面の笑みを浮かべ、今度は彼女の方から勢いよくクララに抱きついた。

『ありがとう、クララ!』

「うん。これからよろしくね、リジー」

 クララはぽんぽんとリジーの背中を優しく叩いた。

「あの——」

 感動的な空気を破るように、音楽室の入口から先生の声が聞こえた。

「ロバートソンさん。一体どうなったのかしら?」

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