肩から生えた髪の毛は、きっと間違えて生えちゃったんだと思う #6
音楽室へと続く長い廊下を歩いていると、扉の前にJJがちょこんと座っているのが見えた。
こちらの存在に気が付いたのか、首だけをくるりと回して「にゃー」と鳴く。
「JJ、どうしたの。こんなところで」
クララは小走りでJJに近づき、抱き上げようとした。しかし、JJはするりと身をかわし、そのままスタスタと寮に続く廊下を歩いていってしまった。
「もう、なんなのよ!」
(せっかく撫でられると思ったのに……って、ブーン先生いるし!)
「それよりも、ロバートソンさん。中に入らなくていいの?」
先生が神妙な面持ちで言う。
先生の後ろに隠れているモイラとシェリーも、こくこくと頷いている。
意外なことに、JJの存在には誰も触れなかった。
(でも、なぜゆえに私だけ?)
「わかりました。とりあえず、中を覗いてみます」
いささか納得はいかなかったが、ここで口論しても仕方がない。
クララは物音をたてないように、そっと入口の扉に近づいた。そして、静かに中を覗き込む。
お化けの姿は——どこにも見当たらない。
いつの間にか、他の三人もクララの後ろにピッタリと張り付き、同じように中を覗いていた。
「あっ! あそこ!」
モイラが教室の隅を指し、小さな声で言った。そこには、先ほど三人を襲ってきたお化けが、蹲るようにして座っていた。
ただ——何やら様子がおかしい。
「クララ、ちょっとやっつけてきてよ」
クララの耳元でモイラが囁いた。
「えっ! って、さっきも言ったけど、無理だから!」
先ほど同様の無茶な要求。
クララは驚きのあまり、扉にぶつかってガタンと音をたててしまった。
その音に気づいたのか、お化けは立ち上がり、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
「こっちに来た!」
シェリーが叫んだのを合図に、モイラが一目散に逃げだした。続いてシェリーもその後を追う。
「えっ! ちょっと、二人とも、早っ!」
逃げようとして出遅れるクララ。
そのとき、頭の中にまたあの声が響く。
『お願いだから、怖がらないで!』
ピタリと足が止まる。
クララがお化けの方に目を向けると、お化けは歩みを止めてじっとこちらを見つめていた。
「いやいやいや。怖がるなって無理でしょ! どこの世界に、追っかけてくる骸骨のお化けを怖くないと思える人がいるのよ!」
思わずツッコミを入れるクララ。
お化けは自分の手足を確かめるように見つめ、何かに気づいたのか、カシャンと音を立てて肩を落とし、言った。
『……ごめんなさい。この姿がいけないのですね。わかりました。ちょっと待っててください』
お化けは後ろを向くと、もぞもぞと何かをしはじめた。
(あれ? なんで肩から髪の毛が生えてるの? 後頭部は骸骨のままなのに……)
すると、お化けはキラキラと光りはじめ、霧状になった。
「ロバートソンさん、ちょっといいかしら。一体、何が起こっているの?」
いつの間にか床にペタンとしゃがみ込み、クララの足にしがみついていた先生。カタカタと小刻みに震えている。
モイラとシェリーと一緒に逃げなかったあたり、きっと腰が抜けて動けなかったのだろう。
「私も、よくわからないんです」
「えっと、あのもやもやした黒い影は……?」
「もやもやした黒い影?」
「ええ。あなたたち三人が言っていたお化けがアレだということは、なんとなくわかるんだけど……どう見ても、私には髑髏に見えないわ」
「……そう、ですか」
まさか、子供には見えて大人には見えないなんてことがあるのだろうか。
難しい顔をして考え込んでいると、霧のようになっていたお化けがクララに向かって言った。
『この姿なら、大丈夫ですか?』
お化けは次第に人の形を作りはじめた。
そこには、長い金色の髪をきらきらとなびかせ、透き通る白い肌にガラス細工のような青い瞳を持つ、まるで人形のように可愛らしい女の子が現れた。
ボロボロだったピンク色のドレスも、すっかりときれいになっていて、先ほどまで見えていた骸骨のお化けの姿はどこにもない。
「えっ! ちょっと待って。なにこれ! えっ、天使!?」
クララは躊躇うことなく音楽室に入り、先ほどまで骸骨だったはずの女の子に近づいた。
まじまじとその顔を見つめる。
『えっと……そんなに近くで見られると、さすがに恥ずかしいのですが……』
女の子は顔を赤らめて照れている。
その姿が愛らしい。
クララはガシッと肩を掴むと、そのまま勢いよく抱きしめた。
『あひっ!』
女の子は突然のことに驚き、変な声を出した。
それもまた、愛らしい。
クララは抱きしめていた手をゆるめ、再び肩を掴むと満面の笑顔で話しかけた。
「私の名前はクララ。クララ・ロバートソン。あなたの名前、聞いてもいい?」
驚いて固まっていた女の子は、ぱぁっと花が咲いたように笑顔になった。
『私の名前はリジー・デイビッドソン!』
「よろしくね、リジー」
『よろしくお願いします、クララさん』
「かしこまらなくていいよ。クララ——いや、ちょっと待って。そうね、〝クララお姉様〟がいいかも!」
鼻息荒くリジーを見つめるクララ。
呆気にとられ、いささか困った顔をするリジー。
『は、はい。よろしく、クララ』
(ああ、尊い……)
すると、扉のところにいた先生がクララに向かって声をかけた。
「ロバートソンさん! 一人で盛り上がっているところ悪いけど、お化けの目的はなんなのか、聞いてあげて!」
クララは先生の方を振り返り、ウインクをしながらグッと親指を立てた。




