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肩から生えた髪の毛は、きっと間違えて生えちゃったんだと思う #3

 翌日、クララは昨日の不可思議な出来事を考えすぎて一睡もできなかった。

 体は鉛のように重たく、何より眠い。

 おかげで授業中はあくびばかりをしていて、先生に何度も注意される——のはいつものことなのだが。

 授業が終わると、クララは音楽室へ向かった。

 もちろん、昨日の件が気にならないわけではない。しかし、一日でも練習を休んでしまう方が、クララにとって度し難いことなのだ。

 音楽室に着き、恐る恐る扉を開け中を見渡す。

 案の定、誰もいない。

 ほっと息をついてピアノの前に座り、準備を始める。と、部屋の隅でガタンと音がした。思わず肩がビクッと跳ねる。

「にゃぁー」

 並べられた机の下から、黒猫がひょこっと顔を出した。

「もう、びっくりさせないでよ!」

 黒猫はクララの方に近づいてくると、ぴょんとピアノの上に飛び乗り、目の前で丸くなった。

 この子は寮棟で飼っている猫のJJ。飼っていると言っても放し飼いで、朝晩のご飯時に戻ってくる程度。普段はどこで何をしているのかまるで不明な、神出鬼没の黒猫様だ。

 JJがふぁーと大きな欠伸をすると、クララもつられて欠伸が出た。

「ダメだよ、JJ。勝手に音楽室に入ってきちゃ。先生たちに見つかったら追い出されちゃうよ」

 JJの頭を撫でながらクララは言った。

 JJは気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。

「猫は気楽で良いねぇ」

 自然と優しい笑みが溢れる。それに、もふもふしていて、あったかくて、気持ちいい。

「おっと、JJに構ってる場合じゃなかった。練習、練習!」

 クララは鍵盤に手を戻した。

 「ピンッ!」と白鍵を叩くと、JJの耳がピクッと動いた。

 今日の練習曲は、フェリックス・メンデルスゾーンの『歌の翼に』。

 ハインリヒ・ハイネの『歌の本』から生まれた歌曲で、『六つの歌』の中の一曲。明るく流れる旋律は、インドへの憧れを歌っていると言う。

 優しいメロディが、クララの心にすっと沁みていく。

「JJが歌ってくれてもいいんだけどなぁ」

 そんなあり得ないことを呟きながら、音符の波を乗りこなしていく。

 すると、JJがおもむろに立ち上がった。

「どうしたの、JJ?」

 クララは演奏の手を止めてJJに声をかけた。

 JJは目を大きく見開き、音楽室の入口を見たまま微動だにしない。

 やがて、ピアノの上から床に軽やかに飛び降り、スタスタと扉に向かって歩き出した。

 クララが後を追い扉を開けてあげると、JJはするりと外に出ていった。

「ほんと、猫は気楽で良いよねぇ」

 クララはそう言いながら、去っていくJJの背中に視線を送る。

 その声に反応したのか、JJの耳が僅かにピクッと動いた気がした。

 練習が終わる頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。どうやら、夢中になりすぎたらしい。

 クララは急いで片付けをして寮棟に戻ると、着替えて、夕食を食べて、お風呂に入って——気がつけば、ベッドの中でぐっすりと眠っていた。

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