ビストルの正体見たり、枯れ尾花 #2
「でも、リジーの〝一族抹殺〟はさすがにやりすぎなんじゃない?」
『うっ……そ、それは』
今度はクララがリジーの痛いところを突く。
『そもそも、最初に約束を守ってくれなかったのはクララだし』
苦い顔をしながらリジーが反論する。
「そうだけど、だからと言って限度ってものが——」
お互い一歩も引かず、口論が始まる。
一人で笑いすぎたせいか、レベッカは目尻を指でぬぐいながら言った。
「もう、二人とも落ち着いて」
「落ち着いてるって!」
『落ち着いてるもん!』
二人の声がぴたりと重なり、レベッカの肩がびくんと跳ねた。
彼女は大きくため息をつくと、少しだけ優しい声で言った。
「誰も本気でクララやリジーが悪いなんて思ってないよ」
二人は静かに続きを待つ。
「確かにリジーの存在や遺産のことは町全体を混乱させたかもしれない。でも、それは周りが勝手に怖がっただけで、遺産をどうするか決めたのは結局二人でしょ? 私を含め、町の人たちは全員傍観者。この物語の登場人物は、クララとリジー、あなたたち二人。そしてなにより、 二人が親友なら、誰も悪くないんじゃない?」
クララとリジーは顔を見合わせた。
リジーの存在が公になって町の人々は恐れたが、リジー自身は誰かを陥れるようなことは何もしていない。
遺産に関しても、クララが一人で掘り出さなかったことや、六十日の制限付きの呪いがかかったことを「悪い」と呼ぶかどうかは二人の問題であって、他の人にとってはどちらでもよいことだ。
「そうだね」
『そうね』
二人の声が再び重なり合う。
それがなんだかおかしくて、クララとリジーは声を出して笑った。
そんな二人を、レベッカは優しく見つめていた。
「そういえば、リジーのお墓ってどこにあるの?」
『ん? 私のお墓?』
レベッカの唐突な質問に、リジーは小首を傾げた。
「そうそう。いつもそこから来てるんでしょ? どこにあるのかちょっと気になって」
「それは私が説明しよう!」
クララは勢いよく椅子から立ち上がり、腕を組んで得意げに言った。
「校門を出て右に曲がり、学校の外周をぐるりと——」
『ほら、あそこだよ。それであれが——』
気づけばレベッカとリジーは窓際に立っていた。
リジーが外を指差しながら説明している。
「って、ちょっと二人とも聞けー‼︎」
クララの大声に、レベッカとリジーはビクッと肩を震わせた。
二人は振り返ってクララを見る。そして顔を見合わせると、同時に破顔した。
「な、何がおかしいの」
不満げなクララに、笑いを堪えながらレベッカが言った。
「いや、やっぱりクララはクララだなって」
『う、うん。本当にそう』
リジーも目尻を拭いながら頷く。
「私が私って、どういう意味よ」
むくれるクララに、リジーが歩み寄って両手を取った。
『大切な友達ってことだよ』
突然の告白に、クララは一瞬呆気にとられた。
すぐに頬が熱くなり、思わず俯く。
「ちょっ、いきなり、それ……」
その背中に、レベッカがふわりと抱きついてきた。
「私も私も!」
柔らかくて暖かい感触が背中を包む。
「もう、レベッカまで!」
照れくささが、いつの間にか消えていた。
クララは改めてリジーの手を握り返し、まっすぐに見つめる。
「私だっておんなじだよ」
そう言って、にこりと微笑んだ。
「クララー、私は?」
すぐ横で、いささか不満げな声を上げるレベッカを、クララは面倒くさそうにあしらう。
「はいはい、友達友達」
レベッカの手を振り解き、クララはリジーの後ろに回ると抱きついた。
「ただし、これは私のだ」
唖然とするレベッカ。
顔を赤くするリジー。
次の瞬間、レベッカはにやりと笑い、わざとらしく泣き真似をしながら言った。
「クララ、酷い! あの夜のことは遊びだったのね!」
「遊びって、あの夜ってどの夜⁉︎」
慌てるクララ。もちろん身に覚えはない。
「急に部屋に入ってきたと思ったら、布団の中に潜り込んできて、それから私の胸を——」
「あ、あの時はごめん。体調悪いのにおしかけちゃって……」
あらぬ誤解を招く前に、慌てて言葉を遮る。
するとリジーが、くすくすと笑い出した。
「リ、リジー?」
何がそんなに可笑しかったのか。クララは不思議そうに尋ねる。
『今日のクララは謝ってばかりね』
「うっ!」
本気で咎められているわけではないとはいえ、クララはちょっぴり罪悪感を覚えた。
レベッカが「そうだそうだ」と冷やかす。
「……ごめん」
『ほらまた』
クララがぼそりと呟くと、リジーが嗜めるように言った。
「ところでお腹空かない?」
またも唐突に話題を変えるレベッカ。
「レベッカはいつもそればっかり。もうすぐ夕飯だよ」
呆れ顔のクララは、リジーの頭を撫でていた。
リジーは満更でもない様子で、『ほわぁ』と言いながら目を細めている。
「そんなに食べると太るよ」
『まんまるのレベッカも可愛いね』
「か、可愛いくないよ! ……でも、大丈夫。私、食べても太らないんだ」
恥ずかしそうにしたかと思えば、レベッカはすぐに得意げな顔で言い返した。
クララとリジーは顔を見合わせ、自分の胸元を見下ろす。
二人は同時に「はぁ」と大きなため息をついた。
「えっ? ちょっと、どうしたの二人とも……」
「リジーさん、聞きました? 〝食べても太らない〟んですって。つまり、アレはきっと間食で育まれたのですわ」
『まったく、羨まけしからんかぎりですわ。私なんて、食べたら食べただけお腹にいくというのに』
レベッカに聞こえるように、ひそひそ話すクララとリジー。
「えっ、リジーって太るの?」
クララが思わず素に戻って問いかけると——
『ちょっと、クララ。普通に質問しないでよ!』
珍しくリジーがツッコミを入れる。
二人は顔を見合わせ、同時に大笑い。
そして、つられてレベッカも笑い出した。
ゆっくりと流れる放課後の時間は、まるでたゆたうクラゲのように、ふわふわとのんびりと過ぎていった。




