スプーンって、実は重たいんですよ#4
目が覚めると、窓から差し込む光が静かに部屋を赤く染めていた。
どうやら家に着いてお風呂に入り、着替えを済ませあと、いつの間にか眠ってしまったらしい。
慣れない草むしりで疲れたせいか、朝が早かったせいか——おそらく両方だろう。
クララはむくりと身を起こし、寝ぼけ眼を擦った。
(そういえば、なんでベッドにいるんだろ……)
脱衣所で着替えたまでは記憶にある。
ベッドの中で頭を抱えて唸っていると、コンコンと乾いた音が響いた。
続いて、かちゃりとドアノブが回され、ゆっくりと扉が開く。
「クララ、起きたかい?」
隙間から父が顔を覗かせた。
「パパ、おはよう。ちょうど今起きたところ」
「そうか。ゆっくりでいいから着替えたら食堂に来なさい。お茶でも飲みながら、話したいことがあるんだ」
「はーい」
クララが元気に返事をすると、父は笑顔を浮かべて扉を閉めた。
再び部屋に静けさが戻る。
寝巻きから部屋着に着替え、軽くストレッチをして体を覚醒させる。ぐぐぐっと大きく伸びをすると、頭も少しすっきりした。
父の待つ階下の食堂に向かう。
テーブルの上には色とりどりのお菓子が並んでいた。
もちろん、クララの大好きなクリームパフもある。
ひょいっと一つ手に取って、パクっと齧る。
シュー生地から溢れでた甘いクリームが口の中に広がり、美味しさのあまり声が漏れた。
「クララ、座ってからゆっくり食べなさい」
紅茶を啜っていた父に、笑顔で窘められる。
「はい……」
小さく返事をして、残りを一口で平らげてから椅子に腰を下ろした。
席に着くと、メイドのエイダがクララの分のティーセットを準備し始めた。
こぽこぽと注がれる紅茶の香りが、クララの鼻を優しく刺激する。
クララは紅茶を一口啜って、クリームで甘くなった口の中をリセットした。
「よく眠れたかい?」
父が穏やかに尋ねる。
「うん。たくさん寝れた」
そう答えたものの、家に帰ってきたのは昼前。実際はそれほど長く眠ってはいない。
「それなら良かった」
父は優しく笑った。
「それで、クララに伝えなきゃならないことがあってね。実はさっきまで、家の前に町の人が押しかけてきて、警察を呼ぶほどの騒ぎになったんだ」
「えっ? なんでそんなことに?」
「原因はこれだよ」
父はテーブルの上に置かれていたガラス瓶をポンと叩いた。
封は開けられていないが、表面の汚れは綺麗に落とされ、今朝見た時よりも中身がはっきりと確認できる。
「リジーの遺産がなんで?」
「皆、中身に興味があるのだそうだ」
クララははてと小首を傾げた。
なぜ町の人がこの存在を知っているのだろうか。
遺産について、メレディス校長を含め一部の人間しか知らないはずだ。
掘り出すのを手伝ってもらった人たちにさえ詳細は話していない。
「それで場を納めるために、六十日後の四月十五日、学園の大ホールで公開開封することになった」
「学園でお披露目会っってこと?」
「そう。ただ、マスコミや学外の人にはチャリティチケットを買ってもらい、売り上げの半分はクララの精神的な治療費に、残りは慈善団体に寄付することにしたよ」
「ん? 中身を見るのに入場料取るの?」
「もちろん」
「なんで私にお金が入ってくるの?」
「一番大変な思いをしたのはクララなのだから、当然の権利だね」
「そうだけど……」
ここまで町中に知れ渡ってしまった以上、皆の前で開封するのは仕方がない。
ただ、それを見るのに入場料を取って、その半分をクララが貰うというのはさすがに気が引ける。
「えっと、じゃあ……私の分も全部寄付していい?」
クララは少し言いづらそうに俯いた。
「それをクララが望むのなら」
「やった! ありがとう、パパ!」
安心したせいで、つい声が大きくなる。
孤児たちのためになるのであれば、イベントとして開催するのも悪くはない。
「そういうことだから、その日は学校が終わったら一度こっちに帰ってきなさい。まぁ、それまでずっと家にいてくれても、パパは全然構わないのだけど——」
「ありがとう、パパ! 学校が終わったらすぐに帰ってくるね!」
「あ、ああ……」
なぜかがくりと項垂れる父。
クララは目の前のお菓子をもぐもぐと片付けながら、明日の学校の準備をどうしようか考えていた。




