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実家が学校からあんまり離れていなかった件 #5

 それからしばらく、リジーのことについて色々と質問された。

 クララは知っている限りのことを話したが、古い切り株の下にデイビッドソン家の遺産が埋まっていることだけは言わなかった。

 リジーが殺された理由が遺産を巡って起こったことなので、子供ながらにその価値の大きさはわかっていたからだ。下手をすれば、今度はクララが命を狙われかねない。

 この情報を誰かと共有するのであれば、慎重にいかなければならなかった。

 父に話すべきか、それとも……。

 カウンセリングが終わり、ヴァレンタインと話をしている父の横顔をちらっと見たとき、ふと疑問が浮かんだ。


(あれ? パパはリジーを見極めたいって言ってたけど、私の話を聞いてただけじゃない? リジーは学校にいるし……どうやって会うんだろう?)


 熱心に話す二人の会話をぼんやりと聞きながら、ヴァレンタインの胸元に視線を向けた。身振り手振りの度にゆさゆさと揺れるそれは、もはや凶器だった。

「クララさんはリジーさんを呼ぶことはできるのかな?」

 急に声をかけられたのでびっくりしてしまった。

 見ていたことがバレたのかと心臓がドキドキする。

「え、えっと、無理だと思います。リジーとは音楽室で会っていただけなので」

「なるほど。わかりました。と言うことはやはり降霊術しかなさそうね」

「降霊術?」

 先ほど父も言っていたが、クララはなんとなく聞き流していた。

「そう、降霊術です。対象の霊を呼び出して別の何かに憑依させ、その霊から話を聞くというものですね。基本的には霊が元人間の場合、生きてる人に降ろすのが一般的です」

「えっと、その生きてる人って誰がやるんですか?」

「リジーさんとチャンネルが繋がっているクララさんが適任かと」

「えっ……」

 クララは狼狽した。

 リジーのことはもちろん好きだ。しかし「憑依」となると、なんだか怖い。

「降霊術で憑依される人間のリスクはなんですか?」

 間を割って父がヴァレンタインに質問をした。

「リスクは、憑依されたまま自分に戻れなくなる可能性と、戻れたとしても人格に異常をきたすかもしれない、ということです……」

「えっ! 戻れなくな——」

「だとしたらダメですね。娘が危険な目に遭うのなら、父親として容認できません」

 ヴァレンタインの言葉に、唖然としていたクララを遮って父は言った。

「わかりました。では、メレディス校長のご要望を優先させましょう」

 そう言ってヴァレンタインは立ち上がり、荷物を持って立ち去ろうとした。

「ちょ、ちょっと待ってください。メレディス校長の要望って……」

 クララはなぜか嫌な予感がした。

「……一応確認しますが、クララさんにお教えしても大丈夫なのでしょうか?」

 ヴァレンタインは、いささか困ったように父に目線を向けた。

「仕方ありません。元々は私のわがままでお願いしたことですから」

 椅子に座ったまま頷き、はぁとため息を吐く父。

 荷物を置いて再び座り直したヴァレンタインは、こほんと小さく咳払いをすると、静かな口調で喋りはじめた。

「まず、聖ブリンクリー学園にリジーさんが現れたこと。彼女の存在が周りに知れ渡り、世間を騒がせているのはご承知のとおりです。それによって臨時休校になっていることも、おそらく先生から聞いていると思います」

「はい、休み前にブーン先生が言ってました」

「世間もなのですが、どちらかという生徒の親御さんの対応が大変だそうです。連日、問い合わせが殺到していて先生方もかなり疲弊しているとか。このままでは授業にならないと、やむを得ず臨時休校を決めたそうです。しかし、それは一時しのぎであって解決にはなりません。そこでメレディス校長が私に、リジーさんを成仏させることはできないかと相談にきたのです」

「えっ! リジー、消されちゃうの‼︎」

 突然のことに驚きすぎて、クララはガタンとソファーから立ち上がった。

 父はそんなクララを落ち着かせるようにソファーへ座らせる。

「消せるかどうかは別として、メレディス校長に依頼されたのは事実です。それからすぐに、リジーさんのことを助けてあげて欲しいとクララさんのお父様がいらっしゃいました。私としても、霊の事情を何も知らず、生きてる人間の一方的な都合を押し付けるのは気が引けたので、こうしてクララさんから色々と話を伺い、どうするのが最善かを判断しようと思ったのです」

 普段から霊に近い霊媒師だからこそ、リジーの気持ちを汲まずにいることが引っかかっていたのだろう。

 強く見開いた目はまっすぐにクララを見ている。

「ただ、彼女側の事情が分からないのであれば、怯えている人々の助けを選ぶのは必然かと思います」

「うー……」

 態度は柔らかいものの、言葉の端々に威圧的なものを感じる。

 クララは俯きながら、今にも泣き出しそうな気持ちになった。

 すると「ぽん」と頭を叩かれた。顔を上げると、父が優しく微笑んでいる。

「友達を助けるためにクララが犠牲になるかもしれないんだよ。さっきも言ったけど、パパは反対だ。でも、クララにとって大切な友達なんだろう?」

「……うん」

 俯きながら頷く。

「後悔のないようにしなさい。クララの心のままに」

「うん」

 クララは父にぎゅっと抱きしめられた。


(大丈夫。きっと大丈夫)


 父から離れ、ヴァレンタインの方に向き直ると、覚悟を決めてクララは言った。

「降霊術やります。リジーを呼んでください!」

 それを聞いたヴァレンタインは少し驚いたようだったが、すぐににこりと微笑むと、ぺこりと頭を下げた。

「試すようなことしてごめんなさい。クララさんのリジーさんへの友情がどこまでかを見極めたかったの」

「えっ?」

 あっけに取られるクララ。すると、父がクララの手を強く握った。

「すまない、クララ」

 混乱して状況が掴めない。なにがどういうことなのか。

「えっと……」

「分からないと思うので、簡潔に話しますね」

 そんなクララに向かってて、ヴァレンタインは説明を続けた。

「まず、私たちはリジーさんを『悪霊』だと考えてました。悪霊に憑かれたクララさんが、リジーさんの都合のよいように動いているのだと。しかし実際には取り憑かれていなかった。悪霊でないのなら、メレディス校長の依頼を無理に実行する必要もなくなります」

 クララは肩の力が抜けた。

 どうやら、リジーが無理やり消されることはなくなったらしい。

「それと、クララさんが気にされてる『降霊術』の代償ですが、リジーさんがクララさんを信頼しているのであれば、心配する必要はほとんどありません。ただ、やってみないとわからない部分もあるので、確実に大丈夫とは言い切れませんが、私たちもリジーさんが納得できる形にしたいと思ってます」

「よ、よかったぁ……」

 安心した途端、緊張の糸がぷつりと切れ、ポロポロと涙がこぼれた。

「……あ、あれ?」

「クララ、大丈夫かい?」

 隣に座る父が、おろおろとこちらを見ている。

「大丈夫。ちょっと力が抜けちゃっただけ」

 ポケットからハンカチを取り出して涙を拭う。

「クララさんにとって、リジーさんは大切なお友達なんですね」

 ヴァレンタインが柔らかく微笑む。

「はい!」

 クララも笑顔で返し、深く頭を下げた。

「リジーのこと、よろしくお願いします」

「ありがとうございます。では、準備しましょうか」

 ヴァレンタインはそう言うと、鞄から鉛筆と紙を取り出し、クララに手渡した。

「自動書記という方法です。クララさんの体にリジーさんを降霊させ、こちらの質問に筆談で答えていただきます」

 にこりと微笑むヴァレンタイン。

「では、お父様は外に出て下さい。霊を刺激したくないので、私とクララさんの二人で儀式を行います」

「わかりました」

 父はそう答えると、ソファーから立ち上がり部屋を出ていった。

「では、準備しますね」

 ヴァレンタインは鞄から香炉とマッチ、小さな箱を取り出した。

 箱の中から三角形の塊を一つ取り出し、火をつける。

 先端から白い煙が立ちのぼると、香炉の蓋を開けて中央に置き、かちゃりと閉じた。

 隙間から湧水のように煙がもわもわと溢れ出す。


(なんの匂いだろう——青臭いようで、なんか甘い)


「クララさん、リラックスしてください。体の力を抜いて、ゆっくりと息をしてください」

 クララはその声に従い、ゆっくりと息を吸って、ゆっくりと吐いた。

 すると、意識が次第にぼんやりとしていき、いつの間にか——

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