実家が学校からあんまり離れていなかった件 #1
「おかえり、クララ」
「ただいま帰りました、お父様」
父はクララを迎え入れるように抱きしめた。
「い、痛いです、お父様」
「おっと、すまない」
久しぶりのクララの帰省につい力が入りすぎたのか、父は慌てて腕を離した。
クララの父、J・R・ロバートソン。この町で弁護士をしている地元の名士だ。
身長は一八〇cm。徴兵経験こそないが体つきはがっしりとしており、顎には勇ましい髭を蓄えている。性格は真面目だが、一人娘のことを溺愛するあまり、時には判断が鈍ることもある。
クララは十歳のときに母を亡くし、男手ひとつで育ててくれた父を心から尊敬していた。そして何より、クララのやりたいことをいつも尊重してくれる。
幼い頃からピアノばかり弾いていた彼女にとって、聖ブリンクリー学園は憧れでもあった。
この学校は音楽に特化しているわけではない。だが、コンクールに出場するには、ある程度の格がある学校に在籍する必要があった。
音楽の名門ではないからこそ、校内の競争率は低い。
「人前で演奏したい」というクララ自身の欲望のためには、コンクールに出なければならない。
まさに、クララにとっての好環境がこの学校には整っていた。
父はそんな打算的な理由も快く受け入れ、送り出してくれた。
「お父様」
「なんだいクララ」
挨拶の抱擁を終えると、クララは俯きがちに、少し恥ずかしそうに口を開いた。
「あの……私がいなくて、寂しくないですか?」
顔に手を当て、宙を仰ぎ見るようにして父の動きが止まった。かと思うと、勢いよくクララを抱き寄せた。
「パパはいつだってクララのことを考えているよ。寂しくない日なんて、一日もない」
全寮制であるがゆえ、自宅に帰れるのは長期休暇の時だけ。
年間を通して、父と過ごせる時間はほんのわずか。
今回は特別な事情とはいえ、愛娘の帰宅を父が心待ちにしないはずがなかった。
「うん。ありがとう」
自分で聞いておきながら、クララは頬が熱くなるのを感じた。
大きな背中に手を回す。
「お父様、聞いてほしいことがあるのだけれど——」
「なんだい」
クララはそっと父の腕から抜け出し、俯いたまま言った。
「今回の騒動、実は私が原因だったかも……」
父は優しく頷く。
「それで、幽霊のことなんだけど、別に悪い子じゃなくて……」
「うんうん、なるほど」
「私……その子の力になってあげたくて! ……ダメ、かな?」
「クララの好きにするといい」
その言葉に、目を丸くしてキョトンとするクララ。
「えっ、いいの?」
変わらず優しく微笑む父。
「もちろん。クララがやりたいようにやりなさい。ただし、道徳から外れるようなことはしてはいけないよ」
「うん、大丈夫! パパ、ありがとう!」
クララは再び父に抱きついた。
七年生に進学する際、「パパ」から「お父様」に呼び変えていたのに、嬉しくて「パパ」に戻ってしまっていた。
父は娘の頭を撫でながら言う。
「クララ、とりあえず部屋で一息ついたら食堂に来なさい。お腹も空いているだろうから、食事をしながら詳しい話を聞かせておくれ」
「うん! わかった!」
クララは荷物を持って階段を駆け上がっていく。
そんな娘の後ろ姿を、父は愛おしそうに見守っていた。




