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帝とかぐや姫


 このようなかぐや姫を巡る逸話が広がり、かぐや姫の美貌が世にもまれで極めて美しいという噂が、帝の耳にも入るようになりました。

 帝は内侍ないし(女性官僚)である中臣なかとみのふさ子にいいました。


「世の多くの男を破滅させておいて、いまだ嫁がないというかぐや姫とは、いかに美しい女子なのじゃ? 見に行ってくるでおじゃ!」と命令しました。

 ふさ子はその命を承って出かけていきました。


 竹取のおじいさんの家にふさ子が行くと、翁は畏まってお迎えしました。

 内侍はおばあさんに、


「帝が仰せです。かぐや姫の美貌は世に並ぶものがない美しさだと噂されています。

 帝がその美しい姿をよく見て確認してこいとおっしゃるので、こちらに見分にきました」


「それならば、姫にそうお伝えしましょう」と答えて、おばあさんは慌てふためいて姫の部屋に入っていきました。


 おばあさんがかぐや姫にいいました。


「は、早く帝の使者にお会いしなさい」


「妾はそれほどの美人ではありません。

 どうして帝の使者にお会いすることなどできますでしょうか」

 とかぐや姫は巣魔法スマホをいじりながら答えました。


「困ったことを言う子ね。帝の使者を蔑ろにできないでしょう」


「ふん。帝がどんだけのもんよ。 妾を召し出そうなんて何いってんだか。別に恐ろしくないわ」

 と巣魔法スマホの画面を見ながら言って、まったく内侍に会おうとはしませんでした。


――このままじゃ兎さんチームが負けちゃうじゃない。こっちは巣魔法スマホの操作で忙しいのよ。それどころじゃないわ――


 かぐや姫は引きこもって遊んでばかりいたので、完全に巣魔法に毒されていました。

 おばあさんはかぐや姫を自分の産んだ子のように思っていましたが、おばあさんの心は通じず、帝を疎かにするように言うものだから、自分の思いのままに強制もしかねていました。


 おばあさんは内侍の元に戻って申し上げました。


「残念ですが私たちの幼き娘は強情者で、お会いしそうにもありません」


「必ず会って見て確かめて来いという帝の命なのですよ。姫を見ないままでどうして帰れましょうか。国王のご命令なのです。この国に住んでいる人が、その命令を聞かなくても良いわけないでしょう。言うことを聞きなさい!」と、内侍は厳しい口調で言いました。


 しかし、かぐや姫はこれを聞いても、受け入れる様子はありません。


「ホッホッホッ 国王だか帝だか何だか知らないけど、お高く留まってや~ね。命令に背いているというんだったら、殺して下さっても構いませんのことよ」とかぐや姫は素っ気なく言い放ちました。


 内侍は宮中に帰って、翁の家での経緯を申し上げました。


 帝はそれを聞いて


「多くの男を殺しただけの性格だけのことはおじゃるな。おもろいのぉ」

 とおっしゃって、その時はお咎めもなく、そのまま有耶無耶になりました。


 しかし、そうなると逆にかぐや姫の笑っている姿が目に浮かびます。

 この女の策略に負けてたまるかと思って、竹取のおじいさんを呼んで命令しました。


「お前のところにいるかぐや姫を連れくるでおじゃる。

 姿、顔立ちがとても美しいという噂を聞いているじょ。

 使者を遣わしたのに、会うことができないとはどういうことでおじゃるか。

 このようなことは断じて許さんでおじゃれ」と少し怒ったような顔をしています。


 翁は恐れおののきました。


「私たちの幼子は、まったく宮仕えをする気がありません。私たちも困っております。

 ですが、帰って帝のご命令を伝えましょう」と恐る恐る申し上げました。


「お前が育ててきたというのに、どうして言う事を聞かせられないのでおじゃるか。その女をもし私の元に差し出すことができれば、お前に冠とその地位を与えるでおじゃるぞ」

 と帝はおっしゃいました。


『はぁ~ 殺されるかと思ったわい。 命からがらじゃな。

 しかし帝だぞ。この機を逃す手はあるまい』

 とおじいさんは喜び勇んで家に帰って、かぐや姫に説き伏せるように言い聞かせました。


「かくかくしかじかおじゃるおじゃる……と帝はおっしゃって下さっているのだ。それでもお前は宮仕えをしたくないというのか?」と言うと、


「あ~んなことやこ~んなことをする宮仕えなんて真っ平イヤッ! 

 無理やり連れて行くっていうんなら妾は消え失せるわ。

 翁に官位と冠が授けられるように宮中に仕えた後、死んでやるわ。よよよ」

 と泣き崩れた振りをします。


 おじいさんはおろおろと戸惑ってしまって


「困ったもんだ。そこまで言うならやめなさい。官位があっても、我が子を見ることができないというのであれば、何の意味もない。

 そうはいっても、なぜそこまで宮仕えを嫌がるのだ。

 死ななければならないほどの理由があるようには思えんぞ」


「いいわよ。まだ妾の言うことが嘘だと思うのなら、一度宮仕えをさせてみて!

 死ぬかどうかを見て御覧なさい。

 妾はこれまで多くの男性の熱心な求婚をことごとく断ってきたでしょう。

 それなのに、昨日今日で、帝に従ってしまったら、世間から都合の良い女だと思われるわ」

 おじいさんも困り顔です。


「世間のことなど、どう思われようが構わない。しかし、姫の命より大切なものはない。

 やはり宮仕えはできないということを宮中へ行って申し上げよう」


 おじいさんは宮中に参上して帝に上申しました。


「帝の畏れ多い言葉を頂き、娘を宮仕えさせよう話しましたが、「宮仕えをしたら死ぬ」と姫が申しております。

 かぐや姫はこの私の本当の子ではなく、昔、山の中で見つけた子なのです。そのため、心の持ち方も世間一般の人とは全く違っているのでございます」


 帝は『バカ言ってんじゃないよ。おれは帝様だよ。偉いんだよ』と思いつつ、おじいさんに言いました。


みやつこまろの家は山の麓に近いでおじゃるな。

 私が狩りを装って、かぐや姫の姿を見てみるでおじゃるぞ」


「それは良いお考えです。

 姫が用心していない時に、さりげなく行幸されてご覧になるのが良いでしょう。それであれば姫の姿をご覧になれるはずです」とおじいさんは申し上げました。


 帝は『しめしめ』と思い、慌てて日にちを決めました。

 そして狩りの日。


 帝は狩りに来たはずなのに、勝手にかぐや姫の家に入って見てみました。

 なぜか昼間なのに、さらに眩い光が満ち溢れている部屋があります。

 部屋の中には華麗な姿の女性がちょこんと座っているではありませんか。


『この女性でおじゃろう』と帝は思われて、逃げようとする姫の袖を無理やり掴まえました。


 かぐや姫は、あら恥ずかしと顔を袖で隠してはいました。

 帝は、初めて姫の姿をじっくり、ねっとりと見てみます。


『 ! これは魂消たでおじゃる!』


 世に並ぶ物がないほどに美しい女性だとビックリ仰天してしまいました。


 そして


「逃げるとは許さんでおじゃや」と言って、そのまま手籠めにしようと宮中に連れていこうとしました。


『嫌よ嫌よ』とかぐや姫は涙を溜めて言いました。


「私がこの国に生まれた人間であれば、思い通りにすることができるでしょう。

 ところがどっこい、私を無理に連れて行くのはあなたには無理ですのことよ」と申し上げました。


「そんなことはあり得ん。このまま連れていくでおじゃれ!」


 帝は、御輿おこしを呼び寄せています。


「えい!」 とかぐや姫は月影の術を使うと、すっと姿を消して影になってしまいました。


――『儚く消えてしまったでおじゃる。残念。本当に普通の人間ではなかったのだな』――


「それならば、一緒に連れて帰るのはやめるでおじゃる。元の姿に戻っておくれではないか。

 それを見てから帰ることに決めたでおじゃる」と帝がおっしゃると、かぐや姫は元の姿かたちに戻りました。


 でも帝は、すばらしい女だと思う気持ちを抑えることができず悶々としています。


 帝はかぐや姫の姿を見せてくれた翁のことをありがたく思ったりもしました。


 そしておじいさんは、帝についてきた百官を、豪勢な料理で手厚くもてなしました。


 帝はかぐや姫を屋敷に置いたままで宮中に帰るのは、非常に残念なことだと思っていました。


 もう頭の中は、かぐや姫一色です。

 何を聞かれても上の空で姫の屋敷を出て都に帰っていきました。

 帝は御輿に乗られてから、かぐや姫に歌を詠みました。


『 帰るさの みゆき物憂ものうくおもほえて そむきてとまる かぐや姫ゆゑ 』

(帰り道は憂鬱な気持ちでいっぱいでおじゃる。私の命に背いて、その家にとどまるかぐや姫のせいでおじゃるよ)


 かぐや姫は、しぶしぶ返歌を詠みました。


『 むぐらはふ したにも年は経ぬる身の なにかは玉のうてなをも見む 』

(雑草が生い茂っている貧しい翁の家に育った私が、宝で飾り立てられた宮殿を見て過ごせるわけがありません)


 この歌を見た帝は、ますます都に帰る気持ちがなくなり空しくなりました。


 帝のお気持ちは宮中に帰ろうとは全く思えなかったのですが、そうと言っても、このまま夜を明かすわけにはいかないので帰っていきました。


 いつも自分に仕えてくれている女官たちを見ても、かぐや姫と比べるべくもありませんでした。


 他の人よりも抜きん出て美しいと思っていた女性でも、かぐや姫と比較してしまうと同じ人とさえも思えませんでした。

 かぐや姫のことだけが心に浮かんできて、帝は夜も昼も一人で過ごしていました。

 理由も告げず、後宮の女性たちの元にも通わなくなりました。

 かぐや姫の元にただ手紙を書いてお付きの者を通わせていました。


 かぐや姫もそこまで帝に思われると少しだけ気に留めるようになってきました。


 帝もまた季節の木々や草花を詠んだ趣深い歌をかぐや姫へと健気に送り続けました。



原文


さて、かぐや姫のかたちの世に似ずめでたきことを、帝聞しめして、内侍中臣のふさ子にのたまふ、「多くの人の身をいたづらになしてあはざなるかぐや姫は、いかばかりの女ぞと、まかりて、見て参れ」とのたまふ。ふさ子、うけたまはりて、まかれり。


たけとりの家に、かしこまりて請じ入れてあへり。媼に、内侍ののたまふ、「仰せごとに、かぐや姫のかたち、優におはすなり。よく見て参るべきよし、のたまはせつるになむ、参りつる」といへば、「さらば、かく申しはべらむ」といひて、入りぬ。


かぐや姫に、「はや、かの御使に対面したまへ」といへば、かぐや姫、「よきかたちにもあらず、いかでか見ゆべき」といへば、「うたてものたまふかな。帝の御使をば、いかでかおろそかにせむ」といへば、かぐや姫の答ふるやう、「帝の召してのたまはむこと、かしこしとも思わず」といひて、さらに見ゆべきもあらず。


うめる子のやうにあれど、いと心はづかしげに、おろそかなるやうにいひければ、心のままにもえ責めず。

媼、内侍のもとに帰りいでて、「口惜しく、この幼き者は、こはくはべる者にて、対面すまじき」と申す。


内侍、「かならず見立てまつりて参れと、仰せごとありつるものを。見たてまつらではいかでか帰り参らむ。国王の仰せごとを、まさに世に住みたまはむ人の、うけたまはりたまはでありむや。いはれぬこと、なしたまひそ」と、言葉はづかしく言ひければ、これを聞きて、まして、かぐや姫聞くべくもあらず。

「国王の仰せごとをそむかば、はや、殺したまひてよかし」といふ。


この内侍、帰り参りて、この由を奏す。帝、聞しめして、「多くの人殺してける心ぞかし」とのたまひて、止みにけれど、なほ、思しおはしまして、この女のたばかりにや負けむと思して、仰せたまふ。

「汝が持ちてはべるかぐや姫奉れ。顔かたちよしと聞しめして、御使い賜びしかど、かひなく、見えずなりにけり。かくたいだいしくやは慣らはすべき」と仰せらるる。


翁、かしこまりて、御返りごと申すやう、「この女の童は、絶えて宮仕へつかうまつるべくもあらずはんべるを、もてわづらひはべり。さりとも、まかりて仰せ賜はむ」と奏す。

これを聞しめして、仰せたまふ、「などか、翁のおほしたてたらむものを、心にまかせざらむ。この女、もし、奉りたるものならば、翁に、かうぶりを、なぜか賜はせざらむ」。


翁、よろこびて、家に帰りて、かぐや姫に語らふやう、

「かくなむ帝の仰せたまへる。なほやは仕うまつりたまはぬ」とへば、かぐや姫答へていはく、

「もはら、さやうの宮仕へつかまじらじと思ふを、しいて仕うまつらせたまはば、消え失せなむず。御官かうぶり仕うまつりて、死ぬばかりなり」。


翁いらふるやう、

「なしたまひそ。かうぶりも、わが子を見たてまつらでは、なににかせむ。さはありとも、などか宮仕へをしたまはざらむ。死にたまふべきやうやあるべき」といふ。


「なほそらごとかと、仕うまつらせて、死なずやあると、見たまへ。あまたの人の心ざしおろかならざりしを、むなしくなしてこそあれ。昨日今日、帝ののたまはむことにつかむ、人聞きやさし」といへば、翁答へていはく、

「天下のことは、とありとも、かかりとも、御命の危さこそ、大きなる障りなれば、なほ仕うまつるまじきことを、参りて申さむ」とて、参りて、申すやう、

「仰せのことのかしこさに、かの童を参らせむとて、仕うまつれば、『宮仕へにいだしたてば死ぬべし』と申す。


「みやつこまろが手にうませたる子にてもあらず。昔、山にて見つけたる。かかれば、心ばせも世の人に似ずはべり」と奏せさす。

帝仰せたまはく、「みやつこまろが家は、山もと近かなり。御狩の御幸したまはむやうにて、見てむや」とのたまはす。


みやつこまろが申すやう、「いとよきことなり。なにか。心もとなくてはべらむに、ふと御幸して御覧ぜば、御覧ぜられなむ」と奏すれば、帝、にはかに日を定めて御狩にいでたまうて、かぐや姫の家に入りたまうて、見たまふに、光満ちてけうらにてゐたる人あり。

これならむと思して、逃げて入る袖をとらへたまへば、面をふさぎてさぶらへど、初めよく御覧じつれば、類なくめでたくおぼえさせたまひて、「ゆるさじとす」とて、率ておはしまさむとするに、かぐや姫答えて奏す。


「おのが身は、この国に生まれてはべらばこそ、使ひたまはめ、いと率ておはしましがたくやはべらむ」と奏す。

帝、「などかさあらむ。さほ率ておはしまさむ」とて、御輿を寄せたまふに、このかぐや姫、きと影になりぬ。


はかなく口惜しと思して、げにただ人にはあらざりけりと思して、「さらば、御供には率て行かじ。元の御かたちとなりたまひね。それを見てだに帰りなむ」と仰せらるれば、かぐや姫、元のかたちになりぬ。

帝、なほめでたく思しめさるること、せきとめがたし。

かく見せつるみやつこまろを、よろこびたまふ。さて、仕うまつる百官の人に饗いかめしう仕うまつる。


帝、かぐや姫をとどめて帰りたまふことを、あかず口惜しく思しけれど、魂をとどめたる心地してなむ、帰らせたまひける。

御輿にたてまつりて後に、かぐや姫に、


『帰るさのみゆき物憂くおもほえてそむきてとまるかぐや姫ゆゑ』

御返りごと、

『むぐらはふ下にも年は経ぬる身のなにかは玉のうてなをも見む』


これを、帝御覧じて、いとど帰りたまはむ空もなく思さる。

御心は、さらにたち帰るべくも思さりざりけれど、さりとて、夜を明かしたまふべきにあらねば、帰らせたまひぬ。


つねに仕うまつる人を見たまふに、かぐや姫のかたはらに寄るべくだにあらざりけり。異人よりはけうらなりと思しける人も、かれに思し合すれば、人にもあらず。かぐや姫のみ御心にかかりて、ただ独り住したまふ。よしなく御方々にも渡りたまはず。かぐや姫の御もとにぞ、御文を書きて、かよはせたまふ。御返り、さすがに憎からず聞えかはしたまひて、おもしろく、木草につけても御歌をよみてつかはす。


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