噂
その宴会の後、かぐや姫の噂が立ちます。
かぐや姫を見たこともないのに世の中の男たちは、かぐや姫の美貌の評判を聞き、身分の位に関係なくどうにかしてかぐや姫を手に入れたい、見てみたいと考え、恋い慕い身もだえていました。
しかし、かぐや姫の屋敷の近所に住む人や屋敷に仕えている人でさえ滅多に見ることができないのに、男たちは夜な夜な下半身を熱くさせ、闇夜に出かけていっては、変質者のように土塀に穴を掘ってあけ、のぞき見をして心を悶々とさせていました。
このこと以来「夜這い」と言うようになったそうです。
男たちは厠や寝床などとんでもないところまでふらつき迷ったふりをして屋敷に入ってきましたが、まったくかぐや姫を垣間見ることさえできません。
召使たちに、せめて伝言をと言葉をかけても、召使でさえ相手にしてくれません。
かぐや姫見たさに夜中も日中も屋敷の近くで過ごす人が増えてきました。
屋敷の周りは変質者でいっぱいになりました。
あまりに屋敷の周りに集まってくるので、おじいさんは
「用もないのに、屋敷の周りを歩き回るのは、不愉快だ。近寄るでない!」
と怒鳴ったら、胡散臭い男どもは来なくなりました。
原文
世界の男、あてなるも、賤しきも、いかでこのかぐや姫を得てしかな、見てしかなと、音に聞きめでて惑ふ。
そのあたりの垣にも家の門にも、をる人だにたはやすく見るまじきものを、夜は安きいも寝ず、闇の夜にいでても、穴をくじり、垣間見、惑ひあえり。さる時よりなむ、「よばひ」とはいひける。
人の物ともせぬ所に惑ひ歩けども、何のしるしあるべくも見えず。家の人どもに物をだにいはむとて、いひかくれども、ことともせず。あたりを離れぬ君達、夜を明かし、日を暮らす、多かり。おろかなる人は、「用なき歩きは、よしなかりけり」とて来ずなりにけり。