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後編ー2


皇帝の執務室。

そこには不貞腐れた様子のティオリアと困った表情のブレイス公爵令嬢が座っていた。


ティオリアは、執務室にわざわざ呼ばれた理由がエリザベスだと気づいていた。

そこまで馬鹿じゃない。

しかし、自分が最上で優れていて、血筋でも、地位でも、優秀さでも、誰よりも上にいると思っていた。


だからこそ、自分の置かれている状況や帝国の情勢も全く理解していなかった。

というより、理解する必要性を感じていなかったのだ。



「父上!」

ティオリアは父が部屋に入ってきてすぐに伝えようとした。

いつものように。いつも、母がするように。


しかし、父の面差しはいつもと違った。


「皇子よ。ここは私の執務室、つまり皇帝の執務室だ。」


「?わかっています。急に何ですか?・・・それよりも聞いてください、父上!」


ティオリアの訴えにため息をつき、無表情になる。

瞳は怜悧に光る。


何も言わない父にティオリアは不思議に思う。

しかし、父と目があった瞬間、蛇に睨まれるカエルのごとく、体中が動かなくなった。

そして、声を発することもできなかった。



無言の時が流れる。

永遠のような、一瞬のような重苦しい時間。


皇帝はおもむろに声を出した。

「そなたたち、自分たちが何をしたのかわかっているのか?」


「っ!父上!あれはっ・・・エリザベスが生意気にも私の婚約者にたてついたからです!承認だっています。」


「承認?それはブレイス公爵令嬢の侍女たちか?」


「そうです。」


「ブレイス公爵令嬢をあがめている侍女たちが言う事実は本当に事実か?」


「見ていたのですよ!エリザベスが、メリアンナに・・・私の婚約者であるメリアンナにたてつくのを!!」


「はぁ・・・ティオリア。まず、ここは“皇帝の執務室”お前の前にいるのは父でなく皇帝だ。そして、お前は継承権を持っている皇子でも、序列はした。そして、まだブレイス嬢と結婚していないことから、彼女はただの公爵令嬢。エリザベスは私の姪であり、私の弟である大公の娘。帝国の貴族序列は公爵家より上だ。」


「ですがっ・・・!大公は無能で、母親は娼婦・・・」

バンっ・・・


皇帝が目の前のテーブルを叩いた。

驚いて黙りこくったティオリアは、生まれて初めて父の怒った姿を見た。


目がうつろになりながらも、眼光が鋭くなる。


「お前の教育を間違えたようだな。お前は3か月自室にて謹慎。処罰はその後に決める。そしてブレイス公爵令嬢。そなたには宮廷への立ち入りを禁ず。二人とも出ていけ!!」


皇帝の怒鳴り声に二人は騎士によって部屋から連れ出された。

ティオリアは部屋へ連れていかれるまで叫び続け、ブレイス公爵令嬢は顔色悪くしながら馬車に乗せられ公爵家へと送られた。



ケルビンはため息をついて執務室の椅子に腰かける。

この相手をする人を想うと、とても疲れる思いがした。











あの皇子は本当に使えないわね。

生まれが卑しいから、頭まで卑しいのかしら。


宮廷に入れないのはまずいわ。

このままじゃ、売れ残りになってしまう。

わたくしは皇后になるのに・・・!



メリアンナ=ブレイスは、鏡に映る自分をにらみつけた。

侍女たちはきれいにまとめられた美しい黒い髪の毛をほどいて行く。


「いたっ・・・」

髪飾りの一つをとる時に、髪に引っかかってしまった。


侍女が驚いて跪く。

「も、もうしわけありません!申し訳ありません!!お許しください!!」

頭を床にこすりつけながら謝り続ける。


メリアンナは周囲を見回し、窓辺にある花瓶に向けて顎をしゃくった。


侍女が花瓶を持ってくる。


メリアンナは花瓶の水を跪く侍女の頭にかける。

そして、そのまま花瓶を頭にたたきつけた。


「・・・掃除して頂戴。目障りだわ」

メリアンナの一言に、他の侍女が顔色変えず部屋の外に出す。



メリアンナは爪を噛んだ。


私は公爵家の人間よ。

あんな無能な人間どもに指図されるいわれはないわ。

あのまま死ねばよかったのに!!


メリアンナの部屋にノックの音が響いた。

侍女が父である公爵の来訪を告げる。


メリアンナが化粧台から立ち上がり、父を迎えるためカーテシーをした。


しかし、そのまま頬を叩かれ床に倒れこんでしまう。

「お前はなんてことをしてくれたんだ!!」

真っ赤な顔で怒り狂う父。


なぜ殴られたかわからず、メリアンナは困惑する。


聡明な令嬢として有名なメリアンナは、性格的に加虐性があり根っから帝国貴族の性格をしていた。

だからこそ、血筋の怪しいティオリアを馬鹿にし踏み台にしようとしていた。そして、エリザベスを無能だと思っていた。


「お、お父様・・・落ち着いてくださいませ。」


「何が落ち着けだ!帝国の政情が不安定なこの時に!あのバカな愛人と同じような言動をしおって!」


「ですが・・・大公は無能だからこそ、娼婦を・・・」


「いい加減にしろ!!大公自身が継承権を放棄し、前皇帝陛下は現皇帝陛下の継承権を確固たるものにするため、大公が臣籍降下することに同意したのだ!!国民が優秀だと噂していたのが大公殿下だったからだ!

そしてスキャンダルを起こしたのは皇帝陛下だ!前皇帝陛下はそれを良く知っておいでだったから、思いあっていた大公に夫人を嫁がせたんだ!!」


初めて父親に怒鳴られたメリアンナは、驚きと同様であまり話が入ってこなかった。


お父様のためにあのバカ皇子との婚約を承諾したのに!

お父様のために妃教育も受けたのに!

どうして・・・!







3か月を待たずに、数日後。

ティオリアから王位継承権は剥奪され、母妃だったエリスは側室から愛妾へと降格し、宮廷を追い出され帝都の別邸に軟禁。

連座責任として、後見だったブレイス公爵家も侯爵に降格となった。


これは、悲恋の皇帝として国民に有名だったため、帝国中が震撼した。


公表された理由は、ティオリアの皇位継承権にふさわしくない言動、であった。貴族の中では割と有名だったが、皇帝にでき愛された皇子だったことから誰も何も言っていなかった。

今回の件をきっかけに、帝国中に第1皇子の横暴さが広まる。


そうして、皇太子にロレッソ第3皇子がほぼ確定状態となった。









薄暗い部屋を、横切りカーテンを開ける。

空気の入れ変えをするのに窓を開け、涼しくさわやかな風が入るのに心地よさを感じた。


「やっと一人脱落ね。・・・長かったわ・・・」


「お体に障るのでは?」

男の声に女性は男を振り返る。


男は黒い髪に黒い瞳、一見根暗に見えるが微笑みを浮かべ、面白そうに瞳を光らせる。


「楽しんでいるくせに。」

女が男をにらみつける。


「次はどなたを狙いますか?」


「・・・そうね・・・エヌオールかしら。」

女の言葉に男は目を瞠る。

「自国をですか・・・?」


「あら。私を捨てて裏切った国よ?守る価値もないわ。じゃなきゃ、毒が入っているのに気づいているにもかかわらず、わざわざ飲んだりしないわ。」


エヌオール国の王女だったシェヘレザード=エヌオール、またの名を帝国の皇妃が艶然と微笑んだ。











「と、言うわけで、わたくし専属の侍女でもあり、治癒術師でもあり、護衛でもあるの。お母様、ティアよ。」


エリザベスが意気揚々とティアを、母である大公夫人に紹介した。


大公夫人フィルリアは微笑み、ティアに礼をする。


「話は聞きました。娘を守ってくださってありがとう。」

フィルリアの瞳には涙が光っていた。


フィルリアはじっとティアを見つめた。


気づいたのだろう。あえて聞いてくることはなかった。


「・・・あなた、お兄様に似ているわ」


養父と同じアローシェン家出身。

養父の妹。

兄妹仲は良かったと聞いた。


養父の兄妹に似ているといわれるのがここまで嬉しいとは思わなかった。




グレージュの髪の色。



全ての魔法を平等の強さで使える人の共通点が、髪の色が必ずグレージュになって生まれてくる。


古の国ではグレージュはまたの名を“知恵の証”と言われている。


磁波重力の魔法、読み取りの魔法、幻覚の魔法を全て使える人は、必ず知的探求心が強い。多くの書物をこのんで読み漁り、知識をつけ、技術を付けることへの情熱がとても強い。


古の国にはグレージュの髪の人が多かった。

その中でも、失われた魔法を使えるのは限られた人だけであった。




ティアの養父もまた、ティアの頭と同じ色合いで知的好奇心が強く、多くの知識と魔法力によって治療師となった。



グレージュの髪を持つ者は一人残らず、知識を高め、鍛錬を積み、失われた魔法を使える。





ティアはエリザベスのドレスを片付け、窓辺からテラスでアローシェン兄妹とお茶をするエリザベスの様子を伺った。


楽しそうに微笑む姿。


自分が帝国に戻った理由は・・・そう、ただ復讐心しかなかった。

帝国民のため、なんてただの建前。


エリザベスの笑顔を見て。

ヴィクトリアに会って。

アレクサンダーや懐かしい人たちに会って。


守りたい、と思った。


その気持ちも本当。


賢者にも復讐心だけで魔法を学んではいけない、と言われた。

でも、復讐心は消えない。


ただ真実を知りたい。

なぜ父が、母が傷つかなくてはならなかったのか。


弱いことが問題だったのか。


生きる権利も幸せになる権利もあるはず。

他人がその権利を奪うのはおかしい。


私はやっぱり諦めきれない。




ティアは右手の中指の指輪を見た。

賢者から渡された指輪。


古の国を出るとき、賢者に言われたことを思い出した。

『古の魔法、失われた魔法を使うのは世界の終焉を迎えるときじゃ。使い方を間違ってはならない。魔法が失われたのには理由がある。驕らず、鍛錬に励むのじゃ』


そう言って賢者はティアに戒めの指輪を嵌めた。


むやみやたらに失われた魔法を使わないように。


エリザベスを救う際に、“再生の魔法”を使った。

戒めの魔法により、魔力に呑み込まれることはなかったが、体にはかなりの負担がかかった。




まだ始まったばかり。

エリザベスの侍女として、両親の死の真相を調べることを改めて決意するティアであった。



失われた魔法。本来8つしかないはずの魔法。

消えてなくなったはずの最後の二つの魔法。


10個の魔法を使うときは、世界が終焉を迎えるとき




それは誰が決めたの―-?



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