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後編ー1


アンディオン王国で数日過ごした後、ティアはイアンと二人帝国に戻った。

エリザベスの侍女と騎士として。


エリザベスに入国の手伝いをしてほしい、というと彼女は何も聞かずに侍女と騎士にしてくれた。




ファシエールはタティファ商会に顔を出すよう公爵や弟に言われアンディオンにラファエルと残った。


公爵家を出る前、ティアはファシエールに送られてきた“ルジオ”と彫られているペンダントを渡した。

そしてファシエールを抱きしめる。

「愛を込めて」


ティアの言葉にファシエールは苦笑する。

「会いに行けばいいのに。」


ティアはファシエールの言葉に何も返さず踵を返した。





帝国の入国審査の際に、人数で引っかかってしまうため、アンディオン王国に侍女と騎士を一人ずつ残すことになった。

これにはさすがに申し訳ないと思ったため、侍女には紹介で一番人気の化粧水を。騎士にはお酒が好きだというので、商会で扱っている最高級のお酒をプレゼントした。


二人は飛び上がって、それはもう物理的に飛び上がって喜んでくれた。



「えーと・・・ティア?と呼べばよいのかしら?」

エリザベスが首をコテンと傾けて聞いてきた。


「そうですね・・・ルアンを知っている人にばれるのは困りますし、ティアかアナで。」

アナは前に他国で一時的に名乗っていた。


「わたくしは大公家の人間だから面倒だけど、他国から帰ると必ず皇帝にお会いしてご挨拶しなくてはならないの。ティアも一緒に行く?・・・というかその眼鏡見えてるの?」

エリザベスの提案に頷く。


現在ティアは紙の色を茶髪にし、侍女服を来ている。

王国に残った侍女と同じ髪色だ。しかし、目の色だけは代えられないため分厚い眼鏡を付けている。


「今はただの侍女ですから。よければ宮廷までついて行きます。」


そうして馬車はそのまま宮廷へと向かった。




宮廷の門を抜け、道を進み、正門へとついた。

馬車から降り、宮廷の使用人たちに案内され、皇帝との謁見の間へと案内される。


謁見の間の高い扉が開かれ、中に入る。

すでに皇帝が椅子に座っていた。


圧倒的なオーラを放ち、威厳を持ち、皇帝として堂々と玉座に座っている。


「エリザベス。無事な帰国何より。何もなく旅は終えたか?」


皇帝が先に声をかけた。

エリザベスはカーテシーをして皇帝へと返答する。

「陛下、ありがとうございます。急なお願いを聞いていただきありがとうございます。」


「婚約者には会えたのか?」


「はい。シリウス様もとても驚いていらっしゃいましたが、わたくしの我儘に怒ることなく、喜んでくださいました。」

エリザベスが淑女然として微笑む。


皇帝は微笑んでエリザベスを見る。愛おしそうに。


「来週は宮廷で舞踏会がある。ドレスは新調したのか?」


「はい。今回は、シリウス様の黒とわたくしの銀を基調にしたドレスにいたしました。」


「そうか。・・・さぞかし美しいだろう。きっと、舞踏会では一番の花になるだろう。」


皇帝は皇帝ではなかった。

とても優しい叔父の顔をしていた。

エリザベスをまるで娘を見るような。



ティアは驚きながらも、エリザベスの後ろに控え、挨拶を終えたエリザベスに連れられ謁見の間を退室した。そのまま進むと、なんとティオリアの婚約者となったブレイス公爵家のメリアンナが歩いてくる。


メリアンナは道を開けない。

もちろんエリザベスも。


メリアンナは侍女を8人連れている。エリザベスはティアのみ。


「第1皇子殿下のご婚約者様、メリアンナ様が通られます、道をお開けなさい。」

メリアンナの後ろにいる侍女が言う。


エリザベスが何か言う前にティアが口を開いた。

なぜって?向こうは主人であるメリアンナではなく、使用人がエリザベスに言葉を投げかけた。


メリアンナは公爵令嬢。エリザベスは大公家の公女。地位も身分も血筋も、メリアンナはエリザベスに劣る。メリアンナが第1皇子の婚約者であろうと、それは変わらない。妃にはなっていないのだから。


「エリザベス様はルシリア大公家の公女様でございます。ブレイス公爵令嬢様が道をお開けください。」

ティアの言葉に、メリアンナの淑女の仮面は変わらない。


しかし、メリアンナの後ろにいる侍女は思い切り顔に出ていた。

「まあ!大公家といえど、ふしだらな女と無能な大公の子供ではありませんか!!うちのお嬢様と同列だと思わないでいただきたいですわ!」


「メイ。失礼よ。」

メリアンナ=ブレイスが淑女の微笑みを浮かべたまま自分の侍女に注意を促す。


ふしだらな女とは大公夫人のこと。体を使って男を籠絡し、当時皇太子であったケルビンと恋人となったエリスを襲わせた、とされている。

無能な大公とは、当時の皇帝が優秀すぎる二男にスキャンダルの冤罪をかけられた大公夫人をあてがうことで、長男の帝位継承を確実なものにしたのだ。

それを良く知らない子供世代は簡単にそのことを口にし、エリザベスをはじめとするルシリア大公家を馬鹿にする。



いつものエリザベスならば無視するところなのだが、エリザベス的に幸せな気分を害されてかなり腹が立った。

ティアはエリザベスが表立って相手を非難できないため(淑女の矜持)、代わりに相手を非難したのだが。


エリザベスがティアを制し前に出た。

持っていた扇を広げ口元に当てる。

「ブレイス公爵令嬢。失礼だと思うなら、その使用人をわたくしの前で罰しなさい。」


「な!一体何のつもりですかっ!!」

侍女が叫ぶ。


メリアンナが笑みを深める。

「この者はしっかりとわたくしが罰を与えます。」


「どんな?」


「・・・減俸と謹慎・・・では、どうでしょうか?」


「・・・それで?」

エリザベスが先を促すと、侍女が前に出た。


「あなたに私を罰する権利なんてありません!!何様のつもりですかっ!!先ほどから、お嬢様にたいしても随分な態度ではありませんか!!第1皇子殿下に振られたからと、お嬢様に当たるのはおかしいです!」


メリアンナが止めるが、それは決して強くなく。

優しくたしなめる程度。そんなもので、この生意気そうな侍女が停まるだろうか。



「何の騒ぎだ?」


どちらも道を譲らず押し問答をしていると、第1皇子ティオリアがやってきた。


メリアンナが申し訳なさそうな表情で、ことと詳細を説明する。

ティオリアの表情が徐々に厳しくなる。



バシンッー・・・

宮廷の廊下に頬を叩く音が響いた。


咄嗟のことでティアはエリザベスを庇うことができなかった。


ティオリアの力が強かったのか、エリザベスはそのまま床に倒れてしまう。


メリアンナは一瞬だけ、侮蔑に満ちた表情をした。

侍女たちは醜悪な表情で笑っている。


ティアはすぐにエリザベスに近寄る。

声をかけるが反応しない。


「殿下に気にしてほしいからって・・・浅ましいわ。」

侍女の一人が呟く。


ティアは構っていられず、近くにいた騎士を大きな声で呼んだ。

「そこのあなた!!エリザベス様の意識がないわ!!頭から出血もしている!すぐに治癒術師と陛下をお呼びして!!」


ティアの言葉にティオリアは憤怒の表情になり、ティアの腹部に蹴りを入れた。


「たかだか侍女の分際で陛下を呼ぶというのか!!衛兵!この者を捕らえよ!!」


ティアはそのまま衛兵に掴まり、エリザベスはそのまま廊下に置き去りにされる。


周囲の騎士たちはティオリアの命令に動けず、誰もエリザベスに近づこうとしない。


ティアは手に力を入れ、魔法を展開させようとした。

すると、誰かに肩を掴まれた。


両手は騎士に抑えられている。

誰かと思い振り返ると、アレクサンダー=アローシェンが立っていた。


「第1皇子殿下、並びにブレイス公爵令嬢にご挨拶します。申し訳ありませんが、エリザベス様は陛下の弟君でもあるルシリア大公のご息女。そして、隣国のクライシス公爵家のシリウス様のご婚約者様でもあります。

何かあれば、殿下が責任をとることになりますよ?」


アレクサンダーの冷たい瞳と、一段と低い声にティオリアはたじろぎつつ舌打ちをする。


好きにしろ、とつぶやいたままその場を後にした。



アレクサンダーはティアを捕まえていた騎士たちに放すよう言い、エリザベスを抱き上げた。

近くにいた騎士にすぐ大公家への連絡と、皇帝への連絡を頼む。

途中で治癒術師に声を変えるよう命令し、客室へと急いだ。




客室のベッドにエリザベスを優しく下ろした。

すぐに治癒術師がやってきて、エリザベスの状態を見る。


その間に皇帝も焦った様子で来た。


エリザベスは出血がひどく、意識もない。なかなか止まらない出血に治癒術師は首を振る。


ティアは魔法を使おうとするも、またアレクサンダーに肩を抑えられる。


侍女から城内にいた大公がこちらに向かっている、と聞いて皇帝がいったん部屋から出た。


アレクサンダーが治癒術師に、「できることがないなら行っていい」と言って部屋から追い出した。

他の侍従にも、エリザベスの侍女がいるため、部屋から出るよう伝える。


全員が部屋から出ると、アレクサンダーはティアを振り返る。

「2~3分が限度だけど、できるかい?」


なぜ気づいたかはわからないが、ティアに迷っている時間などなかった。


すぐエリザベスの近くによる。


磁波重力の魔法と読み取りの魔法を同時に展開。

出血源を見つけ、火の魔法で出血を止め、水の魔法で体の血液の循環を守る。

そして、失われた魔法の一つを使って血管を戻す。



エリザベスがゆっくりと目を覚ます。


すると、アレクサンダーがすぐさま目を閉じるように言う。

「だめだめ。陛下たちが戻って声をかけてきたら、とってもつらそうに眼を開けて、涙ながらに訴えるんだよ。」


そう言われて、エリザベスはすぐに目を閉じた。


訝し気に見るティアに微笑むアレクサンダー。



すぐに皇帝と、大公であるエリザベスの父が入室した。

「リズ!リズ!!」

大公が顔面蒼白のまま跪いてエリザベスのそばによる。

手を握り、祈りの言葉を言う。


治癒術師が廊下にいたらしく、皇帝の許しを得て中へ入る。

「残念ですが、ご令嬢は・・・」


治癒術師の言葉に大公と皇帝派怒鳴り散らす。


エリザベスは呻きながらゆっくり目を開けた。

「おとうさま?」


皇帝と大公が振り向いてエリザベスのそばによる。


エリザベスは皇帝の命令でやってきた侍女たちに甲斐甲斐しく世話をされる。

そして、騒ぎを聞きつけた皇后と第3皇子が駆け付ける。


エリザベスが寝かされた客室は少しだけ大騒ぎになる。


皇帝が近くにいた騎士に声をかける。

「何があったか詳細に説明しろ。」


皇帝と大公は黙って話を聞いていた。

ため息をつく皇帝の隣で大公は怒気を露わにしながら、皇帝に詰め寄る。


「兄上!これ以上は我慢できませんぞ!!兄上がやらないなら、私も重い腰を上げねばならなくなる!!」

大公の怒気は、その場にいた全員を黙らせ、凍り付かせた。


かつて優秀と持て囃された大公。

多くの人の支持と信頼を受けていた弟。


彼は誰よりも執政者だった。だからこそ、大公になることを甘んじて受けた。

兄なら、傀儡にならず、いい偽政政者になると思ったから。いや、信じたから。



皇帝は重苦しい雰囲気の中「わかった」とだけ言って、その場を後にした。





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