表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

前編

誤字報告ありがとうございます。


―-3日前

エヌオール国の船着き場に5人の男女が立っていた。その中でもひときわ目立つ少女。いや、もう女性か。


緩やかなウェーブのかかったピンクグレージュの長い髪が風になびいている。

若草色のドレスを纏い、白い鍔の大きな帽子をかぶっている。

時折帽子の鍔の影からエメラルドグリーンの瞳が見え隠れするのが、神秘的な、儚げな雰囲気を醸し出していた。



ルアンは5年前、身を隠すために2つあるうちの愛称“ルアン”を名乗っていたが、親がつけてくれた正式な“ルクレティア”を名乗るようになった。

そして、親しい人には“ティア”という愛称で呼ばせていた。



初めに、帝国を出て向かったのはタティファ商会。


仕事仲間でもあったショウの保護を求め、タティファ商会を訪ねた。

ファシエールにショウの保護を頼み、ルアンはそのままエヌオール国へ向かった。


古の国は孤島と言われており、エヌオール国から船が出ていた。

そうしてルアンは古の国へと向かい、自分の魔法の力を上昇させ、知識を増やし、尚且つ万屋としても動き、現在ではロシエール商会なるものを立ち上げ、協力者が現れたことで軌道に乗り、そこの商会長となった。


ロシエール商会はほとんどの国とコネクションがある。

それはもちろん、協力者たちのおかげであった。


家族に思うことがあったファシエールが、家族と絶縁してティアに会いに来たときは、とても驚いたが嬉しかった。



ティアたちの強みは、古の国と交流があることであった。

古の国は閉鎖された国であることから、どこの国とも交流していない。


にも拘らず、ティアが古の国にたどり着いた時、拒絶されることもなく受け入れてもらった。


元々知的好奇心が強かったティアは珍しい書物がたくさんあるのに歓喜し、“賢者”と呼ばれる先人たちの知識がある人々に教えを乞うた。


ティアが賢者たちに古の魔法や失われた魔法を教わり成長するとともに、商会を軌道に乗せるために力を借りることができた。


たった5年という月日でティアは商会を立ち上げ、成長させた。




今回、帝国の地を再び踏むことになったのは、機が熟したからであった。

ティアが開発した“あるもの”を帝国が欲したため。







馬車に向かっていたティアは、後ろを振り返る。

「荷物は先に宿に運んだの?」


「運びましたよ。・・・女性が4人もいると、こんなに荷物が多いとは思わなかったです。」

ティアの視線の先にいた青年が不服そうな表情で言う。


「ラファエルは文句が多いわよね。」

ティアの少し前に立っていたファシエールが振り向く。


「仕方がないじゃないか!荷物が多いのはまあ、仕方ないけれど、皆何も持たないで全部俺に持たせるんだから!」


ラファエル=ステイバン。

古の国の人間。ティアと気が合い、ロシエール商会を手伝ってくれている青年。将来の夢は賢者になることらしい。



「あら、か弱い女性に重いものを持たせる気?」

ラファエルの後ろから日傘をさした女性が出てきた。


「カリオペ?私たちよりも先に入国していなかった?」

ファシエールが不思議そうに聞く。


ティアたちは5人で古の国を旅立った。

秘密裏に入国したかったため、二手に分かれたのだが・・・。



ティアとファシエール、ラファエルは後から入国したのだが、関所から出てきたティアたちの後ろから、先に帝国に入国しある程度事前調査をしているはずのカリオペが現れたのだった。


「あれよ。」

カリオペが振り向かずに後ろを指さす。


ティアたちはカリオペの後ろを見る。

レッドグレージュの髪色をした女性が、肩を怒らせ、顔を赤くし、不機嫌な表情を隠すことなく歩いてくる。


「ファリア?どうしたの?」

ファシエールが声をかける。


「関所の警備兵に別室へ連れていかれたのよ。」

怒ったように返す。


「どうして?」


ファシエールが質問すると、ファリアが怒りを思い出したように嫌な顔をする。

ファシエールの斜め前にいたラファエルが、ああ・・・と言ってため息をついた。


「服装で捕まったの?」

ラファエルが言った。



ファリアはスタイルが良い。それが見てわかる部類。

しかも、ファリアの出身国は元々女性が自身のスタイルの良さをアピールするような服装をしているのだ。


首から肩がむき出しになり、袖は腕にぴったりとしている。

胸元もぴちっとしており、谷間も丸見え。へそが出た状態で、バルーンパンツがくるぶしまで届き、腰にレースがふんだんにあしらわれている。



顔立ちも整っているファリアは良くも悪くも注目を集める。

多くの人が彼女に目を奪われる。



時折、国境の関所を通る時に兵士に別室へ連れていかれ、娼婦と間違われ襲われそうになる。

しかし、それを知ったティアが護身術を教えたことでだいぶ減ったのだが。


どうやら、ファリアの話では、兵士に別室に連れていかれ4人ほどの男がファリアを襲おうとしたそうだ。

そこに、カリオペが乱入し出入国書類を叩きつけ、ロシエール商会の名を出したそうだ。


ちなみに、ロシエール商会の最高責任者はティアだが、表の責任者はカリオペであった。


カリオペの強い怒りと啖呵に兵士たちはたじろぎ、そのまま部屋を後にして上官に状況を説明してきたそうだ。



ティアはため息をつきつつ全員に厳しい表情を見せる。

「目立った行動は帝国ではしないで。まだ目立ちたくない。ここは帝国。皇族が法律だから、下手に行動すれば冤罪をかけられてしまうわ。ファリアも愛国心は理解するけれど、郷に入っては郷に従ってちょうだい。」


ティアの言葉にファリアは渋々だが頷いた。



その後、二手に分かれたまま宿を目指した。

もちろん宿も別室である。


どうやって会話をしたり、情報交換をするかって?

それが帝国に来た理由。



会話をする方法は、なんとティアが開発していた。



その名も遠話機。

距離が離れていても、機械と相手の使用番号さえあれば、話したい人と話せる。


特許も取り、製造方法も外には漏らしていない。


手に入れるのは簡単だが、使用許可の手続きを必要とし、尚且つ分解もできない。


現在取引国にしか流通させておらず、取引国では大流行中であった。

帝国はその遠話機が欲しかったのだ。







翌日、ティアとファシエールは帝都の市場に来ていた。


二人は市場の店を一つずつ見回りながら、宮廷の近くにあるカフェに入った。

二人で席に着き、コーヒーとケーキを頼む。


このカフェは一番人気で予約が必要らしい。

ラファエルがどんな手を使ったか知らないが、二人のために予約してくれていた。


ティアが会話を聞かれないように防音魔法を施す。

これは、古の国で習った魔法を少し改良したもの。


「ここが人気店なの・・・?」

ファシエールが周囲を見回して呟く。目の前にあるコーヒーカップを見てからは眉間にしわが寄っている。


「・・・帝国は時代において行かれているわ。」


コーヒーカップも内装も基調がばらばらだし、統一感がまるでない。

出てきたケーキも見た目は地味、というか感動もしない。味が良ければいいが、いたって普通。


他国ではおしゃれだったり、味が良かったり、など何かしら売りどころがあるのだが。

他国に行ったことのある帝国民は思うことはないだろうか。


他国はロシエール商会と取引をすることで、今まで見たことのないものなど、いろいろなものを取り入れている。

エヌオール国であれば、商業が発展したことで、暮らしがだいぶ簡素化された。


帝国は自分たちが最上と考えていることから、他国が開発したものなどを取り入れることがまずない。



ロシエール商会の商品のほとんどはティアが開発したもの。

それは全て古の国で身に着けた魔法のおかげ。





古の国には、他国には知られていない魔法がたくさんあった。


本来魔法とは、自分の中にある“魔力”を“マナ”にいれ発動させる。

呪文等はなく、ただ体の中で魔力をマナに入れて使いたい魔法を出現させる。

イメージが大切だと習う。イメージをすることで、より魔法を使える、と言われていた。


しかし、実際は違った。それは古の国でわかったことだ。

魔力は誰にでもあり、マナはある人とない人がいる。それは間違いなかった。


しかし、マナには種類があり、人によって大きさが違ってくる。そのマナの大きさが、魔力と同等であれば、全ての魔法が平等に使える。しかし、魔力の量とマナの大きさが比例しなければ、使える魔法が限られてくるのだ。


マナが大きくて魔力が少ないと、攻撃的な魔法しか使えない。

マナが小さくて魔力が多いと、防衛的な魔法しか使えない。


そしてマナには“型”があるそうだ。その型というのが、存在する魔法の種類。


ここで問題なのが他の魔法が全く使えなくなるわけではないが、かなりの鍛錬が必要なのと、かなりの魔力が必要とされるそうだ。



古の国では、それを補うために“魔術”というものが存在した。

魔法と違うのは“魔紋”というものを使用する。


要は魔法の文字。

その文字に魔力を入れることで、魔法を発動させる。

これを使えば、マナがなくても魔法が使えるのだった。

魔紋がマナの代わりをするということだ。




何せ古の国は他国と外交もしなければ、国から出ることもない。そして何より国柄なのか、他国に全く興味を持っていなかった。

そうなれば、他国の人間がそんなことを知る由もない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ