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27話「そっか、気付いたんだね」

 休み時間が来てしまった。

 美琴ちゃんがニコニコしながら席に近づいてきたので、へへ、とあいまいな笑みを返しておく。

「行こっか」

「へい」

 美琴ちゃんに腕を掴まれ、ずるずると引きずられていくしかない。

 連れて来られたのは中庭だった。

 我妻先輩のことが頭をよぎって、一瞬ぶるりと身震いをする。

「どうしたの?」

「なんでもない」

 あはは、と適当に笑って誤魔化しておく。


 あれから我妻先輩との接触はない。

 橘さんともクラスが違うから頻繁に会うわけじゃない。 

 でも、我妻先輩に詰め寄られて泣きそうな顔をしていた橘さんのことはよく覚えている。

 幸せにすると言っていたけど、橘さんは今幸せになれているんだろうか。

「それで、なにがあったわけ?」

「えーっと、実はですね……拓海くんのこと好きかもー……なんて」

 へへ、とあいまいに笑うと、美琴ちゃんは驚いたように目を見開いたあと、「はぁぁぁ」とどデカいため息をついた。

 じとっとした目で睨みつけられ、ひっと体を縮める。

「もう! 遅すぎ!」

「そんなこと言われましても……」

「まぁでも、進歩かなぁ」

「中々失礼だね、美琴ちゃん」

 やれやれ、といった様子で肩をすくめる美琴ちゃんに唇を尖らせる。

 そんな私を見て美琴ちゃんはクスクスと小さく笑う。

「いおりちゃんにも初恋か」

「親戚のおばちゃんみたいな感想」

「ホントだよー。世話のかかる子だな」 

 そう言ってケラケラと笑う美琴ちゃんに、なんだか肩の力が抜ける。

 拓海のことを好きだと自覚した、と言ってこんな反応をしてくれるのは美琴ちゃんぐらいなものだろう。

 ほかの子に言ったら視線で殺されそうな気がする……うっ、想像しだけで身震いが。


 美琴ちゃんは芝生の上に腰を下ろした。

 隣をポンポンと手で叩いているので、大人しく隣に腰を下ろす。

「で、告白するの?」

「なんかね、あの……笑わないで聞いてほしいんだけど」

 そう前置きしてから、拓海を好きだと自覚してからというもの、拓海が異様に輝いて見えることを話す。

 我ながら恋する乙女の反応だなぁ、と思っている。

 思っているけど、いざ話して美琴ちゃんから「恋する乙女だねぇ」と苦笑いされるとなんだか気に入らない。

 わかってるよ、自分でも!

 恥ずかしくて顔上げられない。

 このままでは告白どころではないのはわかっている。

 拓海と挨拶を交わすだけで精一杯だというのに。

 告白なんてしようものならそれこそ心臓が木っ端微塵になる。


「でもさぁ、拓海くんからは告白しないのかな? あたしずっと不思議だったんだケド」

「それは……私が、それを拒んでたから」

「いおりちゃんが?」

「うん。幼なじみって関係にこだわってた。だから、拓海は私に告白しないよ」

「難儀だねぇ」

 ふぅ、と小さく息を吐き出す美琴ちゃんに、私は苦笑いを浮かべる。

 わかってる。私が子供だったから、拓海を傷つけてしまったんだ。

 だから、告白は私からしなきゃいけない。

 それはわかってる。わかっちゃいるけど行動できるかは別の話なのだ。

 話しをするだけで心臓が口からボロンと飛び出そうになるのに、告白なんて果たしてできるんだろうか。


「いおりちゃん、あたし拓海くんのことあんま好きじゃないけどさ、拓海くんなら大丈夫な気がするんだよね」

「そ、そうかな……」

「そうだよ。拓海くんならいおりちゃんのこと絶対大事にしてくれるよ。てか、今までもそうだったデショ?」

 美琴ちゃんに真っ直ぐ見つめられ、私はこくりとうなずく。

 そうだ、拓海はいつだって私を大事にしてくれた。

 意地悪だったり優しかったり、振り回されることも多いけど、私を大事にしてくれる姿だけはずっと変わらない。

 一度目の人生も、やり方は間違えていたかもしれないけど、私を傷つけるようなことはしなかった。

 優しく優しく、真綿で包むように接してくれた。

「だから大丈夫だよ。ガンバレ、いおりちゃん」

 ニッコリと笑う美琴ちゃんに、私も笑顔を返す。

「ありがとう、美琴ちゃん」

 

 しかし、世の中そうそう上手くいくようにはできていないものだ。

 拓海とはイマイチ気まずい距離が続いた。 

 そんな状態だから、当然告白なんてできるわけもない。

 私が拓海を避けるようになった間に、あっという間に二年生に進級した。

 奇跡的に拓海や美琴ちゃんと同じクラスになることができた。

 ここまでくるともう仕組まれているように感じてくる。

 五月になって、クラスに転校生が来た。

「どーも、風間遥でっす!」

 キラキラしいオーラを放ったイケメンだ。

 クラスの女子が沸き立ち、クラスの男子は様子見と舌打ちしている。

 なんかこの学校、顔面偏差値高いな……。

 イケメン転校生、風間くんは休み時間になるとあっという間に女子に取り囲まれていた。

 ニコニコと愛想のいい対応をしている風間くんのほうをチラリと見ていると、目が合った。

「え、待って、超タイプ!」

 ガタッと席を立ったかと思うと、ずんずんとこちらに向かってくる。

「ねぇ、君名前なんて言うの? 好きなタイプは? 俺なんかどうかな?」

「ひぇ……」

 めっちゃグイグイくるぞこの陽キャ。怖すぎる。

 ニッコニコの満面の笑みで詰め寄られ、私は全力で後ずさることしかできない。

「いおりになんか用」

 庇うように私の前に立ったのは、拓海だった。

 風間くんがおや、といった顔で動きを止める。


「君、彼氏?」

「……幼なじみだけど」

「じゃあ口出ししないでくんね。ただの幼なじみくん」

 語尾に音符マークでもついてそうな軽い口調で拓海を挑発する風間くんは余裕の表情だ。

 うわ、教室の空気凍った……。

 二人の間に火花が散っているように見える。怖い。

 自分が当事者ということを今すぐ忘れて逃げたい。

「いおりちゃんって言うんだ? かわいい名前だね。俺かわいい子大好きなんだー」

「えーっと……」

 ウロウロと視線を彷徨わせる。

 誰か助けてほしいけど、突き刺さるのは女子の鋭い視線と男子の哀れみの目だけ。

 なんでこうなるの!? 私なにかしたかなぁ!?

「……じゃあ、勝手にしたら」

 拓海が低くつぶやいて離れていこうとするので、無意識に袖を握ってしまった。

「何」

「え、あ、ごめん」

「……いおりさぁ、もう子どもじゃないんだからオレに頼るのやめたら?」

「へっ」

 拓海に鋭い目で睨みつけられ、素っ頓狂な声が出る。

 なんで標的が私になった? 私なんかしたっけ……いや、ここ数ヶ月拓海を避けまくっていることは自覚してるけど。

「ピーピー泣いて来られるの、迷惑なんだよ」

「……なに、それ。なんでそんなこと言うの」

 急な態度の変化に戸惑いしかない。

 どうしてそんなことを言うのだろう。

 拓海はいつだって、私を守ってくれたのに。

 ……もしかして、私がモタモタしているから拓海は私に飽きちゃったんじゃあ……。


「鬱陶しい」

 ため息混じりに吐き捨てられ、さすがに私も頭にくる。

 確かに私は拓海に頼りきりだったけど、そんな言い方しなくても……!

「……そう、わかったよ。じゃあもう拓海くんには二度と頼らないから、安心してよね!」

 キッと拓海を睨みつけ、吐き捨てるように言い放つ。

 さっきまで風間くんとバチバチ火花を散らしていた拓海となぜか私が火花を散らしている。 

 しかし、私の言葉に拓海は一瞬顔を歪めた。

 なんでそんな顔をするのだろう。

 先にケンカを売ってきたのは拓海のほうなのに。

「俺、チャンスってこと?」

 まったく空気の読まない風間くんの言葉に拓海がチッと舌打ちをして踵を返した。

 教室を出ていった拓海を視線で見送った女子たちがざわめき始める。


「今ならイケるんじゃない?」

「わたしいってみようかな」

「ズルい! 抜け駆け禁止だから!」

 などと話をしている声がかすかに聞こえる。

 気まずい、とても気まずい。

「いおりちゃん、今度デート行かない? 俺、気が強い女の子好きなんだよね」

 なんてのんきに誘ってくる風間くんを気にしている場合じゃない。

 なんでこうなっちゃうの……。


 完全に売り言葉に買い言葉だった。

 言い過ぎたような気もする。 

 でも、元はと言えばケンカを振ってきた拓海が悪い。

 結局その日は拓海と一言も話さなかった。

 言い争いはあっても、ここまでのケンカなんて今まで一度もしたことがない。

 どうやって声をかけたらいいのかもわからない。

 このまま拓海と離れたほうがいいのかな。でも、ようやく好きだと気づけたのに。

 こんなふうに離れるなんて、寂しい。

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