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11話「ペアウォッチ」

 オムライスを食べ終わり、少し席で休む。

「美味しかったねー」

「すんげぇ美味かった。最高」

 お腹をさする拓海に苦笑する。

 オムライスは意外と量が多く、ハンバーグを分けてもらった私は食べ切れず結局拓海に食べてもらったのだ。

「食べてくれてありがとう」

「いーよ、量多かったしな」

 やっぱり優しい。

 いつもの拓海より八割増しぐらい優しい。

 普段なら「食べ切れねーなら残せ」って言ってる。絶対言う。

 紗妃ちゃんがいないからかなぁ……なんか、それはそれでイヤだな。

 三人で一緒に育ってきたのに、拓海は未だに紗妃ちゃんを嫌っている様子。

 本人は気にしてないからと一緒にいるけど、それもなんかなぁって感じ。

 拓海のことなんとかしたいけど、紗妃ちゃんが気にしてないって言ってる以上私が何か言うのも違う気がする。


「オレさ、今日プレゼント見に来てんだ」

「へー、誰に?」

「ナイショ」

「何だそれ」

 にひっと意地悪な笑みを浮かべた拓海はいつもどおりで、なんだかホッとする。

 それにしても拓海がわざわざプレゼントを選ぶような相手がいるなんて、一体誰だろう。すごく気になる。

 まぁ、聞いたところではぐらかされて終わりだろうし、そんなに追求するつもりもないけどさ。

「アクセサリーがいいかなって。だから女子のいおりに選んでもらおうと思って」

「なんでよ、自分で選びなよ。拓海くんが選んでくれたほうが、その子も嬉しいでしょ」

 拓海が女の子にアクセサリーをプレゼントなんて、今までなかったことだ。思わず食いついてしまう。

 ファンクラブの子かな。それだったら余計に私じゃなくて拓海自身で選ぶべきだ。

「そうか? でもオレ女子のアクセサリーなんてわかんねーし」

「ネックレスとかは?」

「んー、じゃあネックレスにしよっかな」

「適当だなぁ」

「わかんねーもん。そろそろ行こうぜ」

「うん」

 店を出るとき、拓海がお会計を済ませてくれた。

「後で払うよ」

「いーよ、細かいの分けんの面倒だろ」

「……なら、いいけど」

 大人しく財布を仕舞う。

 拓海が奢ってくれるなんて、これはもう明日は雪だな!

 なんて冗談を口にしたら怒られそうなので言わないけど。そもそも雪なら今朝降っている。


 アクセサリー売り場に行って色々と見て回る。

「これとかさ」

「ブレスレットは付けないと思うんだよなぁ」

「じゃあネックレスは?」

「なら付けるかも。邪魔になると多分付けない」 

「そうなんだ」

 アクセサリーを邪魔だと思うタイプの女の子か、気が合いそうだ。

 私もアクセサリー類はまったく付けない。ブレスレットは邪魔だし、指輪は手が洗いにくいからイヤ。

 ネックレスぐらいなら首に付けてるだけだからいいんじゃないかな、と思う。

 私と同じようなタイプなら、の話だけど。というか結局私が口を出してしまっている。ごめんよ見知らぬ女子。

 拓海はネックレスを手にとって見るが、わからないようで私に押し付けてくる。

「いや、そもそも私その子よく知らないから」

「んー、髪は肩よりちょい長めで、目がでかいかな。小動物みたいな顔してる」

「なにそれ。拓海くんが選びなよ」

「頼むって、オレわっかんねーし」

「……仕方ないなぁ」

 心の中でプレゼントをもらうであろう女子に謝り、ネックレスを選び始める。

 これはモチーフが大きいから重たいかな、こっちはちょっと形が気に入らん。

「これなんかどう?」

「おう、それでいいや」

「適当だなぁ。本当にプレゼントなの?」

「そーだよ。買ってくる」

「はいはい、行ってらっしゃい」

 ゆるく手を振って会計に行った拓海を見送る。


 アクセサリー売り場から少し離れ、腕時計のコーナーに行く。

 華奢もの、豪華なもの、様々な腕時計が棚に並んでいる。

 最近腕時計が壊れたことを思い出して見に来たけど、どれもかわいいなぁ。

 今はスマホがあるけど、やっぱり腕時計のほうがすぐに時間を確認できて私は好きだ。

 二千円前後で、なるべく華奢なものがいい。

ウロウロと見ていると、ネックレスを買ってきたらしい拓海が戻ってきた。

「なに、腕時計?」

「うん、最近壊れちゃってさ」

「ふーん。これは?」

 拓海が手に取った腕時計を見て、私は一目で気に入ってしまう。

 文字盤も丸くてかわいいし、ベルトも細くて邪魔にならなそう。

「それにしようかな」

「ふーん、じゃあオレはこれ買おうかな~」

 そう言って拓海が手に取ったのは、私が一目惚れした腕時計とペアになっているものだった。

「えっ、それペアウォッチじゃん?」

「だって気に入ったし」

 いやいやいや、おかしいだろう。

 いくら仲のいい幼なじみと言えど、ペアウォッチはおかしい。

 私が紗紀ちゃんと持つのなら許せても、男子の拓海と持つことは許されない。

 だって、そんなの絶対カップルにしか見えない。

「い、やー、ペアはちょっと……」

 でも気に入ったしな……と考えていると、拓海がニヤッと意地悪く笑う。

「もしかして……意識しちゃってる?」

「してない」

「じゃあ、いーじゃん」

「……よし、わかった! 私が変えるから拓海くんはそれ買いなよ」

 これで万事解決! そう、一目惚れしたと言えこの腕時計じゃなきゃダメなわけではない。

 これだけたくさんの腕時計が並んでいるのだから、他にもかわいいものが売っているに決まってる。

 私が腕時計を棚に戻そうとすると、その手をがしりと拓海に掴まれた。

「わーったよ、じゃあオレが別のにする」

「え、でも」

「いーの、他にもっといいのがあるかもしんねーし」

 なんというか、考えていることがまるきり同じでとっても複雑。

 私が呼び止めるより先に他の棚を見に行ってしまった。

 ……拓海が買わないなら、いいよね? と私は気に入った腕時計を買った。


 買い物を終えるころには十七時を回っていた。

「そろそろ帰るか」

「うん」

 二人並んで家に帰る。

 冬の十七時ともなればもう日が落ちている。

 薄暗い夜道を歩いていると、拓海が足を止めた。

「いおり」

「なに――わ!?」

 名前を呼ばれ拓海のほうを向くと、何かが飛んできた。

 慌てて手でキャッチしようとするが、指先に当たって地面に落ちてしまう。

「なに! 急に投げないでよ、ビックリしたじゃん」

「開けてみて」

 言われるがまま地面に落ちた物を拾って小さな包みを開くと、そこには私が選んだネックレスが入っていた。

 ……えー! なんで!?

「プレゼントじゃないの!?」

「うん、だからいおりにプレゼント」

「……急にどうした? なんか気持ち悪いよ」

「殴られたいか? ……ま、洒落っ気のない幼なじみにオレからネックレスでもあげようかと思ってね」

 拓海の背に街灯があるので逆光になってどんな顔をしているのかわからない。

 しかし、滑らかに動く口とは真逆に体はソワソワと落ち着きがなかった。

「……ふーん。ま、ありがと」 

「何その返事、つめてー」

「じゃあなんて言えばいいわけ?」

「キャー嬉しい! とか。拓海くん愛してる! とか」

「殴ろうか? 言われたいなら私じゃない子にしなよ」

「ジョーダンだって。いおりだからあげたんだよ」

 とんでもないことをサラリと言った拓海は、満足気に笑った。  

 ……なんだそれ、なんだそれ!

 こんなの、幼なじみでも許していいのか?

 誰がどう見たって、カップルの会話なのでは?

 悶々と考えていると、拓海がニヤリと意地悪く笑う。

「もしかして照れてる?」

「いいや全く」

「なーんだ、つまんねーの」

「どうせからかってるだけでしょ、乗らないからね」

「なんだ、バレてたか」

 ケラケラと笑う拓海は髪の毛を触っていて、その言葉が嘘だとわかる。

 拓海は嘘をつくとき、必ず髪の毛を触る癖があるのだ。

 伊達に二回も幼なじみやっていない。

「じゃ、またな」

「うん、またね」

 軽い挨拶を交わしてお互い玄関の扉を開ける。


 玄関先で待っていてのは湊くんだった。

「おかえりなさい! 拓海くんに意地悪されなかった?」

「湊くんただいま。大丈夫だよ」

 そう、今日の拓海は私に対して異常に甘かった。

 まるで恋人を見るようなとろけた目で見つめ、優しく声をかけてくれた。

 今日が拓海にとって、ただのお出かけではなかったことぐらい、的確に鈍いと言われた私でもわかった。

 今日はデートのつもりだったんだろう。

 恐ろしいことに、私は拓海とのデートをいつの間にか受けてしまっていたのだ。  

 ああぁ~! やってしまった……フラグが乱立している。これが乙女ゲームなら拓海ENDで間違いない。

 しかし、このまま行けば待っているのはバッドエンドだ。

 そこで、私はある決意をする。

 自室に戻り、ある人に電話をかける。

「もしもし陸兄さん? ちょっと相談したいことがあるんだけど……」

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