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〜さよなら〜


◆◆◆現代げんだい◆◆◆


『おい、覚悟かくご出来できておるか?』


 オカメインコ緊張きんちょうした面持おももちでオレにう。


 ……四百年前よんひゃくねんまえから現代にかえってて早々、オレと鳥は『封怨山ふうえんざん』にあしはこんでいた。


「ーー当然とうぜんだろ? まぁ、あたまぬほどいたいけどな!」


 いや、ホント……過去かこなぐってきたヤツ絶対ぜったいゆるさんからな!? ……まぁ、オレも炎翔えんしょう一発いっぱつなぐってきたから……あんまりひとことえないけどね??


『ふむ……なんなら、特別とくべつにワシが病院びょういんーーだったか……まで、れてってやろうか? その場合ばあい炎陽えんようにはワシ一人ひとりう事になるがな』


 鳥はわらいながらげる。


「ーーは、冗談じょうだんじゃない。此処ここまで来たんだ……一緒いっしょに行くよ」


 そう鳥にられるように、オレも笑いながらはなす。


 ーーようやくだ……漸く、ここまで来た。あと少しでこの『かくれんぼ』もわるのだ。


 ふと、そこでおもす。


「そういえば……おまえ名前なまえいてなかったよな?」


 オレの問いに、鳥はあきれつつこたえてくれる。


『ーー随分ずいぶん今更いまさらだな? ふぅ、まぁい……ワシのは『鳳凰ほうおう』と言う。貴様きさまの名は?』


 ……鳳凰? 本家と随分似ずいぶんにている名前だな? 偶然なんだろうけど……。


「オレは火神ひかみ こうだ。まぁ、今更だが……あと少しのあいだ、よろしくな。鳳凰」


『ふむ……よろしくたのむぞ! コウ!』


◆◆◆


此処ここが……炎光えんこうっていた洞穴どうけつか」


 オレは眼前がんぜんにある洞穴をる。


 ーーおふだ絞縄しめなわがコレでもかというほどめぐらされていた。数歩先すうほさきでさえくらで何も見えない。


 まるで、このあなの先からは別世界べつせかいだと言うように……隔絶かくぜつされているのだ。


『……こわいか?』


 固唾かたずむオレに、鳳凰は問う。


「そりゃあ、此処ここ禁足地きんそくちですから……」


 そうつよがって答えるが、どうやら鳳凰にはバレたらしい。


『ーーククッ、強がるのも結構けっこうだが……この場所ばしょを『怖い』と思うのは生物せいぶつとして何も間違まちがってはおらん。神獣しんじゅうであるワシですら、恐怖きょうふかんじているのだからな』


 そう笑うと、鳳凰の小さな身体からだあたたかなひかりび……ふかやみなかわずかにらす。


『……もし、自分じぶん何処どこるのかからなくなった時は……ほれ、コレを使つかえ』


 鳳凰は自身のつばさから、一枚いちまいはねるとソレをオレのわたしてくる。


 ーーあわ黄金おうごんかがやく、暖かい一枚の羽。……不思議ふしぎな事だが、この羽をにぎると先程さきほどまで感じていた恐怖心きょうふしんやわらいでゆく。


「鳳凰……ありがとう……」


『気にするな。ここまで手助てだすけしてくれた事への感謝かんしゃーーまぁ、駄賃だちんのようなモノだ』


 相変あいかわらず子生意気こなまいきだが、それもわるくない。


 ……たった一日いちにちとも行動こうどうしていただけなのに……不思議なモノだな。


◆◆◆


 ……洞穴の中に入り、しばらあるいているとーーッ!?


 ーーォオオオオオオオオォォォッッ!!!


 まるでそこからひびいてくるようなひく不気味ぶきみおとともに、のようなかたちをしたくろかげぐにオレへとびてくる!!


『……ッ!? いかん! それにれるな!!』


 鳳凰のさけごえとほぼ同時どうじに、『影』がオレに触れた……。


 瞬間ーーッ!?


『ーーおまえなんてらない』『えろ』『恥晒はじさらし』『ね』『死んでしまえ』『死ね死ね死ねシねしネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネーーお前なんてまれてなければよかったのに……』


「……っ!? い、いまのは!?」


 ーー『影』がオレに触れた瞬間、するどいたみとともに……頭の中に……声が聴こえた……。とても、とても暗くーーかなしい声が。


 ほおつたいやあせぬぐいながら、オレは呼吸こきゅうととのえる。


『コウ! 大丈夫だいじょうぶか!?』


 鳳凰があわてていてくるが……オレはなんとか小さくうなずく。


「……鳳凰、さっきのあの『影』は……いったい何だったんだ?」


 自身じしんかせながら、オレはさっきの『影』について鳳凰に問う。


『……うむ、アレは『ねん』じゃ。それも、相当そうとうつよい『』のな……』


 鳳凰の声は僅かにふるえていた。それは多分……あの『影』がこわいのではなく、このみちてにつ者、あの『影』の親玉おやだまの事を考えてしまったのだろう。


 ……四百年よんひゃくねんという途方とほうも無い時間じかん、ただ一人ひとり……こんな場所ばしょかくれてしまった『隠れ人』の事を……。


◆◆◆


『ふむ……此処が、この洞穴の最奥さいおくか』


 そう口にする鳳凰は、ある一点いってんから視線しせんはずさない。


「ーーッ、あれが……」


 ……そしてオレも、鳳凰と同じように……とある一点から視線を外せないでいた。


 オレと鳳凰の視線の先には……幾重いくえにも影をかさわせたような、深い闇色やみいろをした『ぬま』のようなモノがある。


 だが、アレは本物ほんものの沼では無い。幾重にもうごめき、かなしみの声と『のろい』をし……只々、さけんでいる……そんな『負』のかたまり絶望ぜつぼうの果て。


 ーーそれが、今の『かれ』なのだろう。


 肉体にくたいほろんでも、その『思い』だけはのこつづけた。このくらく、つめたい場所で……。


『……炎陽えんよう


 鳳凰が、『彼』の名をぶ。


 ……だが、その声に気付きづいていないのか……『彼』ーー炎陽は、蠢き、悲しみと呪いを吐き出し泣き続ける……。


『ーーッ……コウ、おぬしが居なければーーワシは多分、此処まで来れんかった。だから……ありがとう……。お主には、こころから感謝かんしゃしておる……』


 そう言うと、鳳凰はオレのまえへとあゆる。


『……みじかい、まるでまたたきのような時間であったが……たのしかったぞ』


 この瞬間、オレはさっする事ができた。鳳凰は……コイツは……オレに『さよなら』を言っているのだ。


 ーー『わかれ』の言葉を口にする鳳凰は、徐々にその姿すがたえていく。


 可愛かわいかった鳥の姿から、ながうつくしい尾羽おばねち……暖かな光をまとう神々しい神獣しんじゅうの姿へと変化する!!


『炎陽は……ワシがれてゆく! だから、コウーーお主は……』


 ……『此処から逃げろ』とでも言うつもりだろう。誰が逃げるか!!


「ーーオレは此処で最後さいごまで見届みとどけるさ! 一番いちばん美味おいしい場面ばめんで逃げるなんて冗談じょうだんじゃない!!」


 見上みあげるほど大きくなった鳳凰に、オレはハッキリと言葉を返す!


『…………お主……、ククッーーまれてもうらむなよ!』


「ーーそれは恨むぞ!?」


 オレの声と共に、鳳凰はその五色ごしょくに輝くつばさひろげ……わりてた炎陽へと向かってゆく!!


『……炎陽、すまなかった。ワシがもっと早くお主を見つけていればーーその絶望に気付いていれば……お主がここまでくるしむ事は無かった!!』


 鳳凰がばたくたびに、まばゆひかりが炎陽をらす。


『『『ーーヴァアアアアアアぁぁアアあアアアああアアアアアあぁァァッ!?!?』』』


 炎陽は苦しいのか、影を無数むすうに鳳凰にはなつが……全て鳳凰にとどく前に消滅しょうめつする。


 ーーだが、


『『『…く……しい…、いた……い……』』』


 ……何か、おかしいぞ!?


 炎陽が声を上げるーーだが、その声は……まるで、『いくつもの声』がかさなっているようにオレには聴こえる。


 ーーそして、炎陽が放っている『影』だが……アレは本当ほんとうに炎陽自身が放っているモノなのか? 遠目とおめから見ているからか、オレにはあの『影』や『負の塊』が……『何か』をうばわれないように抵抗ていこうしているように見えるのだが……?


『炎陽……共にこう!』


 ……鳳凰の纏う光が強くなった瞬間ーー、


『『『ーーガァアアあアアアあァァッ!? イタ…い……イタイイタいイたイいタイイタイいたいイタイイタいイタいイタイいタいクルしい苦シい苦しイ苦しい苦しい苦しいッッッ!!! やめろぉおおおおおぉぉぉッ!!!!!』』』


 その場の空気くうきはげしく振動しんどうし、地面じめんおおきくれ動く!!


 瞬間ーー、


『『『ーーほう……おぅ…ドウシテ?? イタい、クルシイ……ヤメテクレ……』』』


 ……ッ!? 『負の塊』の中からーー人の姿をした何かがしてきた!?


 だが、その目はうつろで……身体からだいたところでは何かがうごめいている!


 それに……『うごき』もおかしい! まるで…何かに操作そうさされているような……そんな動き方だ!!


『ーーッ、え、炎陽……』


 その一瞬、僅かに鳳凰の光が弱まる。その瞬間をまるで逃さないというように……『影』が幾重にも鳳凰におそかる!!!


『ーーしまっ!? ぐぅッ!!!』


 鳳凰は何とか『影』をはらうが、その身体はボロボロになり……光も弱まっていた。


『『『あはーーアハハははハはははハハハはハハハハハハははハハハはハハハはははハハハッッッ!!!』』』


 まるでくるったように鳳凰をあざわらう……人の姿をしたモノ。


『ーー炎陽……!!』


 ……おそらくだが、鳳凰の言葉から推測すいそくするに……あの姿は『炎陽』なのだろう。


 だが、オレにはアレが……到底とうてい人には見えない。まるで人のかわだけをかぶっているようにしか見えないのだ。


 ーー鳳凰はアレが『炎陽』の姿を真似る以上、おそらく本気が出せない。


 当然だ……口では『連れてゆく』なんて言っていても、大切な友人をすくう為とは言え『苦しませる』事なんて出来るワケがない!!! 四百年も捜し続けるようなヤツなんだぞ、あの鳳凰って鳥は!!!


 そう思った瞬間ーーオレはけた。


 どうしてかは分からないが、直感的ちょっかんてきにそうすべきだと思った。


 ……オレは今から、世界一せかいいちバカな事をする! だが、そうすべきだと思っちまったんだから仕方ない!!


 手に、鳳凰から渡された羽を強く握る。


 ーーそして後は、一歩でも前にすすむ!


『ッ!? コウ! 何をしておる!?』


 鳳凰には悪いが、今は答えてるひまが無いから無視させてもらおう!! ごめん!!


『『『ーーアハ……』』』


 炎陽の姿をしたモノが、その口を三日月みかづきのように歪める。


 ーーあぁ、やっぱりアレは違う。一番最初に見たヤツは多分、本当に『炎陽』だったんだ……でも、今のアレは違う。


 悲しみと呪いを吐き出し、ただ泣き叫んでいた。それが『炎陽』だったんだ。その部分ぶぶんが。


 だが、今の狂ったように嘲笑う……アレは、『炎陽』では無い。別の何かだ。


 ……鳳凰ほどでは無いにしても、『影』が複数ふくすうオレに向かって伸びてくる。


「ーーッ、まだだ……もう少し!!」


 その『影』が触れた部分に鋭い痛みがはしり、頭の中に鬱陶うっとおしいくらいの声がひびくが……足を動かす事に集中しろ!!


 ーー痛い、痛い……痛くて、苦しい。


 五月蝿うるさい! えろオレ!!


 ……鳳凰の羽を強く握り、力の限りーー足を動かす!!


『『『ーーッ!?』』』


 ようやく、あの薄気味うすきみの悪かった笑みが驚愕きょうがくへとわった。その瞬間、オレは自分の直感が正しかったと確信かくしんした!


 ーー間近まじかまでせまった『負の塊』に、オレは鳳凰の羽を握りしめたうでたたむ!!


◆◆◆


 ……気が付くと、オレは真っ黒なペンキでもぶち撒けたようなーー真っ暗な空間くうかんに居た。


『どうして私だけがこんな目に遭わなければならない?』


『……痛い……苦しい……』


『辛い……一人は嫌だ』


 ーー誰かがなげく。その声に呼応こおうするように、この空間自体が……より暗くまっていく。


「おい、アンタが炎陽か?」


さびしい……にくい……』


「ーーお〜い、無視ですか〜??」


 オレは、この嘆いている人に話し掛けてみるが……めっちゃ無視してくるやんこの人。


 うむ……こんな時は、むかしチビーズの一人がオレにやってきたあのわざを使うとしよう!


『寒い……誰か、誰か…助けーー』


 ーーパンッッッ!!!


 オレは両手をいきおい良く叩き合わせ、大きな音を炎陽と(思わしき人)の眼前がんぜんで鳴らす!!


 たしかーー柏手かしわでって言ってたかな? この方法。


『ーーッ、ぁ……え……?』


 おお! どうやらオレに気が付いたみたいだ!


「どうも、アンタが炎陽さん?」


『へ? あ、ああ……私は炎陽、鳳凰院ほうおういん 炎陽だがーーえっと、君は?』


「オレは火神 光。アンタを捜してた」


 オレが自己紹介じこしょうかいがてら、そう言うと……、


『……私を捜していた?』


 そう、不思議そうに言うので……オレは頷きながら答える。


「ああ。アンタをずっと捜してたヤツが居てな、ながれでオレも手伝てつだってるんだ」


 ーーだが、


『私をずっと捜してたヤツ……? そんな者は居ないよ。私に友人なんて居ないし……私はずっと一人だったんだ』


 と……言ってきやがった。


 いや、ずっとこんな所に居たのなら多少たしょうヒネくれても仕方が無いけどさ……コイツ、それマジで言ってんのか??


「……うそじゃないんですけどね〜、ソイツはアンタの事を四百年間も捜していたんだ……」


『四百年? バカな、そんなながい時を人は生きられない。君の言っていることはーー』


「ーー誰も『人間』だとは言ってないけど?」


 オレの言葉に、炎陽は『は?』と声を漏らす。


『では何が……何が私を捜していたと? 四百年間も?』


「ーー鳥」


『へ? えっと……今、何と?』


 あれ、聞こえなかったか?


「だからーー鳥。もうちょっと言えば、神々しい鳥」


『………………は?』


 オレの言葉を受けて、炎陽はかたまる。


 う〜ん、まだ伝わらないか……なら!


「傲慢で生意気な鳥だけど、みょうなとこ素直だから何故かにくめない鳥」


『……傲慢で生意気だけど、憎めない鳥……まさか』


 ふと、炎陽は何かをひらめいたような顔をする。


 ーーあ、やっぱりアイツ……昔からあの性格だったんだ。と、オレはひそかにそう思う。


『ーー鳳凰……様のことですか?』


「お、正解!」


 ……というか、『様』?


『鳳凰様が、四百年も私を捜していた……?』


「そうだよ。でも、今……アイツはお前を助ける為にボロボロになってる」


『ーーボロボロにって、何故!? それは何故ですか!?』


 炎陽はオレに掴み掛かるように訊いてくる。


「さっきも言ったように『お前』を助けたいから。アンタさ、何か変なヤツに取りかれてるだろ? それが、アンタの姿を真似てて……鳳凰が本気を出せないんだよ」


 そう、おそらく……炎陽は何か得体えたいの知れないモノに取り憑かれている。オレはそう考えて、炎陽を……正しくは『炎陽の身体』を、その得体の知れないモノから引き剥がそうとして飛び込んだワケだ。


 ……炎陽の顔を見ると、何か心当たりのあるような顔をしてるしな。


『あの……それで、私はどうしたらーー』


 鳳凰の話しを聞いて、何を思ったのか……炎陽がそう訊いてくる。


 ……うん。正直、直感的に行動しただけだからどうやったら戻れるのか全く分からなかったけどーー手に握っている鳳凰の羽が僅かに輝き出したから、多分コレを使えってことでしょ?


 オレは炎陽の手を強引に握ると、目を閉じ、自分が何処に『居るべき』なのかを思う。


◆◆◆


 ……う〜ん、現実には戻ってこられたみたいだけどーーなに、このヌルヌルでグチョグチョな感触かんしょくは!? キモい! キモ過ぎる!!!


 オレの手は、うん! 羽とは別に、何かを握っている! それなら!!


「「「ーー鳳凰ッ!! 炎陽を『見つけた』! 今のコレはただの『炎陽に取り憑いていた何か』だ!! だから思いっきりやれ!!!」」」


 何とかこのキモグロ物体ぶったいから顔を出し、オレは鳳凰に向かって叫ぶ!!


『コウ!! お主、無事ぶじなのか!? それに炎陽を見つけたとはいったいーーッ!?』


 鳳凰は混乱こんらんしたように言ってくるが、


説明せつめいは後でする! だから先に、この気色きしょく悪いヤツをどうにかしてくれ!! オレを信じろ!!!」


 ーー早く、このキモいヤツから解放かいほうしてくれ! とばかり、オレは叫ぶ!!


『ーーッ、分かった! 信じるぞ、コウ!!』


 鳳凰はそうオレに言葉を返すと、再び、鳳凰の纏う光が強く輝く!!!


『『『ッッッ!? やめろ、やめろヤメろヤメロやめロやめろやめろやめろぉぉおおおおオオオぉぉォォォッッッッッ!!!!!』』』


 そして、目を開けていられない程強い輝きを放つと同時どうじに……暖かな風がオレを包み込んだ!


 ーー先程まで、オレに纏わりついていたモノは瞬時に消え失せ……その場には、オレと……そして炎陽の『霊体れいたい』だけが残っていた。


 オレの手は……しっかりと、炎陽のうでを握っていたのだ。いや本当に良かった、『オレを信じろ!』とか言っておいて違うの握ってたらどうしようかと思ったわ!!


◆◆◆


『ーーぅ……ッ!?』


 炎陽は僅かにうめき声を上げると、ゆっくりとそのまぶたを開ける。


『……ッ、炎陽!! 無事なのか!? 炎陽!!!』


 いやぁ、この鳥のさわがしいこと!! 人を根掘ねほ葉掘はほり質問責めにしておいて、挙句あげくには『どうして言わなかった』だの『無謀むぼうすぎる』だのと説教せっきょうまでしてきたのだ。


『……ほぅ、おう…さま…………?』


『ーー炎陽!!! ……ッ、この馬鹿者ばかもんがッッッ!!!』


 ーーと、まさかの炎陽との再会さいかいからの説教が始まった。


 うん、今理解したのだが……どうやらこの鳥、心配させると後で『怒り』としてそれを発散はっさんしてくるらしい。……何ともヒネくれていらっしゃる。


『この山には再三さいさん近付くなと言っていただろう!? だからワシも『いや、さすがに此処は無いか』と思って探さなかったのに、どうして此処に居るんじゃッ馬鹿者!!!』


 ……おっと、たりだ。というか、四百年捜してたクセにこの場所を探していなかった理由ショボいな?


『挙句に魑魅魍魎ちみもうりょう共にかれるとは何事だ!? 見ろワシのこの翼を! ボロボロになったわ!!!』


 うん? 最早もはや何に対しておこってるの、この鳥?


『ーーッ、貴様もだコウ! どうして炎陽の霊体が魍魎もうりょう共に憑かれている事を黙っておった!?』


 ……あれ? なんかターゲットがこっちに来た!?


「いや、だから……オレもあのキモい物体ぶったい突撃とつげきした時に気が付いて、話す時間なんて無かったんだって!!」


『黙らんか! オマケに霊体を無理やり魍魎共から引き剥がしてくるとか、そんな事できるのなら事前に言わんか!』


「ーーそれはオレも驚いた。まさか幽霊ゆうれいを掴めるとは思わなかった……今まであやかしを触れた事は何度もあったけど、幽霊なんて触った事ないもんオレ! 見た事もなかったし!!」


 ……実はそうなのだ。オレはどうやら戦闘バトルアニメやらマンガの主人公のように、ピンチになった事で新たな能力のうりょく獲得かくとくしたらしい。ホントにビックリである。


『全く貴様らときたらーー』


 ふむ……どうやら鳳凰の説教はまだ続くようだ。これ、オレは無事に此処から帰れるのだろうか?


◆◆◆


『ーーふぅ!』


 説教しまくって満足まんぞくした様子の鳳凰。ちなみに、オレと炎陽はグッタリしている。


『……本当に申し訳ありませんでした、鳳凰様』


 おぉ、凄い。寝起ねおきに説教かまされたのに素直に頭下げてるよこの炎陽って人。


『もう良い。よく戻ってきたな……炎陽』


 その人を連れ戻したのオレなんスけど?


『はい……。あの時はもう、『全てがどうでもよくなって』ーーただ、苦しみから逃れたかったんです。すると誰かに『此処こちらにおいで』と、『此処こちらに来れば楽になれる』と……呼ばれたような気がして』


 炎陽は静かに語る。


『おそらく、その声の主は魍魎達なのでしょう……私に取り憑いて、自分達の存在を維持いじする為の『うつわ』にしたかったのだと思います』


 その言葉に、鳳凰は頷く。


『あぁ、おそらく……そうなのだろう。お前をえず『絶望』させる事で、自身の『力』としていた。苦しかっただろう、炎陽』


『……はい。ですがそれは私が『弱かった』からでーー』


 ……うん?


「ーーいや、それはお前の『親父』の所為じゃね? だってアレ、勘違かんちがい&八つ当たりだし」


 其処は譲れんわ〜、譲っちゃイカンわ〜。


『……え?』


「だってさ、よめさん亡くなってつらいのは分かるけど……それをどう考えたら『息子が母親を呪った』ってなるよ? 自分の母親だよ? 大体、『報復』だって思い込んでたのだってあのオッサンがお前を迫害はくがいしたからだろ? お前悪くねぇじゃん?」


『えっと、あの……?』


 あぁ、でもーー、


「まぁ唯一、お前が悪かった点としては理不尽りふじんな親父に『怒らなかった』とこだろ。オレだったらブチ切れてるね」


 ……あのタイプの理不尽クソ野郎には、真正面ましょうめんからガツンと言った方が良いぞ? じゃないと自分がどれだけ『苦しんでいる』のか分かってもらえないからな。


 まぁ、オレはやられた本人じゃないから……あまり偉そうな事は言えないけどね?


『ククッ! そうだな……炎陽、お前は『怒る』べきだったのだ。此奴こやつのようにな? なかなか面白かったぞ、お前の父親の顔面に一撃いちげきを叩き込んでいたからなぁ? この男は』


『ーーっ!? え、炎翔えんしょう父様の顔面に一撃!?』


『おう! オマケに炎光にも説教していた。周囲しゅういの者達も呆然ぼうぜんとしていたぞ』


 おいおい言うなよ、れるだろ?


わりにキレといたZE☆」


『……ぇええ??』


 言葉を失っている炎陽に、鳳凰は告げる。


『ああ、そうだった。炎陽、お前に再び逢えたら言おうと思っていた事があるのだーー』


 そう言って一呼吸ひとこきゅう置いてから、鳳凰はゆっくりと言葉を紡ぐ。


『ーー炎陽……お前は、『人』には恵まれなかったかもしれん。だがな、お前は『妖』や……ワシのような『神獣』には充分じゅうぶんに恵まれおるとは思わんか?』


 ……この鳥、ちゃっかり自分が『妖』ではなく『神獣』である事も追加してんだけど?


 まぁ……オレも男だ。野暮やぼな事は言わんよ?


『…………そう、ですね……、ですがーー最後の時になって、私は漸く『人』にも恵まれましたよ。鳳凰様』


 炎陽はオレを見て、告げる。


『ーー『コウ』……今、私がこの場に居られるのは君のお陰だ。君は、鳳凰様と一緒に私を捜して……そして『見つけて』くれた。その、私の代わりに父様に怒ってくれたり、魍魎から引き剥がしてくれたりーー本当に感謝してる。『ありがとう』……コウ』


 ……なんか途中言いよどんでいた気もするけど、それは勘違かんちがいという事にしておこう。


 ふと、炎陽の姿が揺らぐーー、


『不思議だな。あれほど苦しかったのに……嘘のように苦しくなくなった……』


 ポツリと炎陽が呟く。その顔はとてもはれやかだった。


『ふむ……魍魎共から解放され、未練みれんれたようだな? では、そろそろ行くとしよう……』


 ーーああ……もう『お別れ』なのか。直感でオレは察する。


『……はい、鳳凰様。もし、次も『人』として産まれる事ができたのなら……コウ、君のような『友人』に恵まれる事を祈るよ』


 炎陽も『別れ』の言葉を口にする。


 ーー悲しい……寂しい……。


 そう思う自分は確かに存在する。でも、『友人』なら……『友人』だから。


「おう! 炎陽……それと鳳凰、『じゃあな』!!』


 ーー『さよなら』は笑顔で。絶対に泣いたりなんかしない!!


『ッ!? フッ、ああ……『さらばだ』! 友よ!!』


『……本当にありがとう……コウーー『バイバイ』!』


 炎陽と鳳凰の身体から……無数の光が粒子となって『うえ』へと昇ってゆく。


 ーーそうして、四百年続いた『かくれんぼ』終わった。……その終わりは最高の『笑顔』で!!

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