〜さよなら〜
◆◆◆現代◆◆◆
『おい、覚悟は出来ておるか?』
鳥は緊張した面持ちでオレに問う。
……四百年前から現代に帰って来て早々、オレと鳥は『封怨山』に足を運んでいた。
「ーー当然だろ? まぁ、頭は死ぬほど痛いけどな!」
いや、ホント……過去で殴ってきたヤツ絶対に許さんからな!? ……まぁ、オレも炎翔を一発殴ってきたから……あんまり人の事言えないけどね??
『ふむ……何なら、特別にワシが病院ーーだったか……まで、連れて行ってやろうか? その場合、炎陽にはワシ一人で逢う事になるがな』
鳥は笑いながら告げる。
「ーーは、冗談じゃない。此処まで来たんだ……一緒に行くよ」
そう鳥に釣られるように、オレも笑いながら話す。
ーー漸くだ……漸く、ここまで来た。あと少しでこの『かくれんぼ』も終わるのだ。
ふと、そこで思い出す。
「そういえば……お前の名前、訊いてなかったよな?」
オレの問いに、鳥は呆れつつ答えてくれる。
『ーー随分と今更だな? ふぅ、まぁ良い……ワシの名は『鳳凰』と言う。貴様の名は?』
……鳳凰? 本家と随分似ている名前だな? 偶然なんだろうけど……。
「オレは火神 光だ。まぁ、今更だが……あと少しの間、よろしくな。鳳凰」
『ふむ……よろしく頼むぞ! コウ!』
◆◆◆
「此処が……炎光の言っていた洞穴か」
オレは眼前にある洞穴を見る。
ーーお札や絞縄がコレでもかというほど張り巡らされていた。数歩先でさえ真っ暗で何も見えない。
まるで、この穴の先からは別世界だと言うように……隔絶されているのだ。
『……怖いか?』
固唾を飲むオレに、鳳凰は問う。
「そりゃあ、此処は禁足地ですから……」
そう強がって答えるが、どうやら鳳凰にはバレたらしい。
『ーーククッ、強がるのも結構だが……この場所を『怖い』と思うのは生物として何も間違ってはおらん。神獣であるワシですら、恐怖を感じているのだからな』
そう笑うと、鳳凰の小さな身体が暖かな光を帯び……深い闇の中を僅かに照らす。
『……もし、自分が何処に居るのか分からなくなった時は……ほれ、コレを使え』
鳳凰は自身の翼から、一枚の羽を抜き取るとソレをオレの手に渡してくる。
ーー淡く黄金に輝く、暖かい一枚の羽。……不思議な事だが、この羽を握ると先程まで感じていた恐怖心が和らいでゆく。
「鳳凰……ありがとう……」
『気にするな。ここまで手助けしてくれた事への感謝ーーまぁ、駄賃のようなモノだ』
相変わらず子生意気だが、それも悪くない。
……たった一日、共に行動していただけなのに……不思議なモノだな。
◆◆◆
……洞穴の中に入り、暫く歩いているとーーッ!?
ーーォオオオオオオオオォォォッッ!!!
まるで地の底から響いてくるような低い不気味な音と共に、手のような形をした黒い影が真っ直ぐにオレへと伸びてくる!!
『……ッ!? いかん! それに触れるな!!』
鳳凰の叫び声とほぼ同時に、『影』がオレに触れた……。
瞬間ーーッ!?
『ーーお前なんて要らない』『消えろ』『恥晒し』『死ね』『死んでしまえ』『死ね死ね死ねシねしネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネーーお前なんて産まれて来なければよかったのに……』
「……っ!? い、今のは!?」
ーー『影』がオレに触れた瞬間、鋭い痛みと共に……頭の中に……声が聴こえた……。とても、とても暗くーー悲しい声が。
頬を伝う嫌な汗を拭いながら、オレは呼吸を整える。
『コウ! 大丈夫か!?』
鳳凰が慌てて訊いてくるが……オレはなんとか小さく頷く。
「……鳳凰、さっきのあの『影』は……いったい何だったんだ?」
自身を落ち着かせながら、オレはさっきの『影』について鳳凰に問う。
『……うむ、アレは『念』じゃ。それも、相当強い『負』のな……』
鳳凰の声は僅かに震えていた。それは多分……あの『影』が怖いのではなく、この道の果てに待つ者、あの『影』の親玉の事を考えてしまったのだろう。
……四百年という途方も無い時間、ただ一人……こんな場所に隠れてしまった『隠れ人』の事を……。
◆◆◆
『ふむ……此処が、この洞穴の最奥か』
そう口にする鳳凰は、ある一点から視線を外さない。
「ーーッ、あれが……」
……そしてオレも、鳳凰と同じように……とある一点から視線を外せないでいた。
オレと鳳凰の視線の先には……幾重にも影を重ね合わせたような、深い闇色をした『沼』のようなモノがある。
だが、アレは本物の沼では無い。幾重にも蠢き、悲しみの声と『呪い』を吐き出し……只々、泣き叫んでいる……そんな『負』の塊、絶望の果て。
ーーそれが、今の『彼』なのだろう。
肉体が滅んでも、その『思い』だけは残り続けた。この暗く、冷たい場所で……。
『……炎陽』
鳳凰が、『彼』の名を呼ぶ。
……だが、その声に気付いていないのか……『彼』ーー炎陽は、蠢き、悲しみと呪いを吐き出し泣き続ける……。
『ーーッ……コウ、お主が居なければーーワシは多分、此処まで来れんかった。だから……ありがとう……。お主には、心から感謝しておる……』
そう言うと、鳳凰はオレの前へと歩み出る。
『……短い、まるで瞬きのような時間であったが……楽しかったぞ』
この瞬間、オレは察する事ができた。鳳凰は……コイツは……オレに『さよなら』を言っているのだ。
ーー『別れ』の言葉を口にする鳳凰は、徐々にその姿を変えていく。
可愛かった鳥の姿から、長く美しい尾羽を持ち……暖かな光を纏う神々しい神獣の姿へと変化する!!
『炎陽は……ワシが連れてゆく! だから、コウーーお主は……』
……『此処から逃げろ』とでも言うつもりだろう。誰が逃げるか!!
「ーーオレは此処で最後まで見届けるさ! 一番美味しい場面で逃げるなんて冗談じゃない!!」
見上げるほど大きくなった鳳凰に、オレはハッキリと言葉を返す!
『…………お主……、ククッーー巻き込まれても恨むなよ!』
「ーーそれは恨むぞ!?」
オレの声と共に、鳳凰はその五色に輝く翼を広げ……変わり果てた炎陽へと向かってゆく!!
『……炎陽、すまなかった。ワシがもっと早くお主を見つけていればーーその絶望に気付いていれば……お主がここまで苦しむ事は無かった!!』
鳳凰が羽ばたく度に、眩い光が炎陽を照らす。
『『『ーーヴァアアアアアアぁぁアアあアアアああアアアアアあぁァァッ!?!?』』』
炎陽は苦しいのか、影を無数に鳳凰に放つが……全て鳳凰に届く前に消滅する。
ーーだが、
『『『…く……しい…、いた……い……』』』
……何か、おかしいぞ!?
炎陽が声を上げるーーだが、その声は……まるで、『いくつもの声』が重なっているようにオレには聴こえる。
ーーそして、炎陽が放っている『影』だが……アレは本当に炎陽自身が放っているモノなのか? 遠目から見ているからか、オレにはあの『影』や『負の塊』が……『何か』を奪われないように抵抗しているように見えるのだが……?
『炎陽……共に行こう!』
……鳳凰の纏う光が強くなった瞬間ーー、
『『『ーーガァアアあアアアあァァッ!? イタ…い……イタイイタいイたイいタイイタイいたいイタイイタいイタいイタイいタいクルしい苦シい苦しイ苦しい苦しい苦しいッッッ!!! やめろぉおおおおおぉぉぉッ!!!!!』』』
その場の空気が激しく振動し、地面は大きく揺れ動く!!
瞬間ーー、
『『『ーーほう……おぅ…ドウシテ?? イタい、クルシイ……ヤメテクレ……』』』
……ッ!? 『負の塊』の中からーー人の姿をした何かが這い出してきた!?
だが、その目は虚ろで……身体の至る所では何かが蠢いている!
それに……『動き』もおかしい! まるで…何かに操作されているような……そんな動き方だ!!
『ーーッ、え、炎陽……』
その一瞬、僅かに鳳凰の光が弱まる。その瞬間をまるで逃さないというように……『影』が幾重にも鳳凰に襲い掛かる!!!
『ーーしまっ!? ぐぅッ!!!』
鳳凰は何とか『影』を振り払うが、その身体はボロボロになり……光も弱まっていた。
『『『あはーーアハハははハはははハハハはハハハハハハははハハハはハハハはははハハハッッッ!!!』』』
まるで狂ったように鳳凰を嘲笑う……人の姿をしたモノ。
『ーー炎陽……!!』
……おそらくだが、鳳凰の言葉から推測するに……あの姿は『炎陽』なのだろう。
だが、オレにはアレが……到底人には見えない。まるで人の皮だけを被っているようにしか見えないのだ。
ーー鳳凰はアレが『炎陽』の姿を真似る以上、おそらく本気が出せない。
当然だ……口では『連れてゆく』なんて言っていても、大切な友人を救う為とは言え『苦しませる』事なんて出来るワケがない!!! 四百年も捜し続けるようなヤツなんだぞ、あの鳳凰って鳥は!!!
そう思った瞬間ーーオレは駆けた。
どうしてかは分からないが、直感的にそうすべきだと思った。
……オレは今から、世界一バカな事をする! だが、そうすべきだと思っちまったんだから仕方ない!!
手に、鳳凰から渡された羽を強く握る。
ーーそして後は、一歩でも前に進む!
『ッ!? コウ! 何をしておる!?』
鳳凰には悪いが、今は答えてる暇が無いから無視させてもらおう!! ごめん!!
『『『ーーアハ……』』』
炎陽の姿を模したモノが、その口を三日月のように歪める。
ーーあぁ、やっぱりアレは違う。一番最初に見たヤツは多分、本当に『炎陽』だったんだ……でも、今のアレは違う。
悲しみと呪いを吐き出し、ただ泣き叫んでいた。それが『炎陽』だったんだ。その部分が。
だが、今の狂ったように嘲笑う……アレは、『炎陽』では無い。別の何かだ。
……鳳凰ほどでは無いにしても、『影』が複数オレに向かって伸びてくる。
「ーーッ、まだだ……もう少し!!」
その『影』が触れた部分に鋭い痛みが奔り、頭の中に鬱陶しいくらいの声が響くが……足を動かす事に集中しろ!!
ーー痛い、痛い……痛くて、苦しい。
五月蝿い! 堪えろオレ!!
……鳳凰の羽を強く握り、力の限りーー足を動かす!!
『『『ーーッ!?』』』
漸く、あの薄気味の悪かった笑みが驚愕へと変わった。その瞬間、オレは自分の直感が正しかったと確信した!
ーー間近まで迫った『負の塊』に、オレは鳳凰の羽を握りしめた腕を叩き込む!!
◆◆◆
……気が付くと、オレは真っ黒なペンキでもぶち撒けたようなーー真っ暗な空間に居た。
『どうして私だけがこんな目に遭わなければならない?』
『……痛い……苦しい……』
『辛い……一人は嫌だ』
ーー誰かが嘆く。その声に呼応するように、この空間自体が……より暗く染まっていく。
「おい、アンタが炎陽か?」
『淋しい……憎い……』
「ーーお〜い、無視ですか〜??」
オレは、この嘆いている人に話し掛けてみるが……めっちゃ無視してくるやんこの人。
うむ……こんな時は、昔チビーズの一人がオレにやってきたあの技を使うとしよう!
『寒い……誰か、誰か…助けーー』
ーーパンッッッ!!!
オレは両手を勢い良く叩き合わせ、大きな音を炎陽と(思わしき人)の眼前で鳴らす!!
たしかーー柏手って言ってたかな? この方法。
『ーーッ、ぁ……え……?』
おお! どうやらオレに気が付いたみたいだ!
「どうも、アンタが炎陽さん?」
『へ? あ、ああ……私は炎陽、鳳凰院 炎陽だがーーえっと、君は?』
「オレは火神 光。アンタを捜してた」
オレが自己紹介がてら、そう言うと……、
『……私を捜していた?』
そう、不思議そうに言うので……オレは頷きながら答える。
「ああ。アンタをずっと捜してたヤツが居てな、流れでオレも手伝ってるんだ」
ーーだが、
『私をずっと捜してたヤツ……? そんな者は居ないよ。私に友人なんて居ないし……私はずっと一人だったんだ』
と……言ってきやがった。
いや、ずっとこんな所に居たのなら多少ヒネくれても仕方が無いけどさ……コイツ、それマジで言ってんのか??
「……嘘じゃないんですけどね〜、ソイツはアンタの事を四百年間も捜していたんだ……」
『四百年? バカな、そんな永い時を人は生きられない。君の言っていることはーー』
「ーー誰も『人間』だとは言ってないけど?」
オレの言葉に、炎陽は『は?』と声を漏らす。
『では何が……何が私を捜していたと? 四百年間も?』
「ーー鳥」
『へ? えっと……今、何と?』
あれ、聞こえなかったか?
「だからーー鳥。もうちょっと言えば、神々しい鳥」
『………………は?』
オレの言葉を受けて、炎陽は固まる。
う〜ん、まだ伝わらないか……なら!
「傲慢で生意気な鳥だけど、妙なとこ素直だから何故か憎めない鳥」
『……傲慢で生意気だけど、憎めない鳥……まさか』
ふと、炎陽は何かを閃めいたような顔をする。
ーーあ、やっぱりアイツ……昔からあの性格だったんだ。と、オレは密かにそう思う。
『ーー鳳凰……様のことですか?』
「お、正解!」
……というか、『様』?
『鳳凰様が、四百年も私を捜していた……?』
「そうだよ。でも、今……アイツはお前を助ける為にボロボロになってる」
『ーーボロボロにって、何故!? それは何故ですか!?』
炎陽はオレに掴み掛かるように訊いてくる。
「さっきも言ったように『お前』を助けたいから。アンタさ、何か変なヤツに取り憑かれてるだろ? それが、アンタの姿を真似てて……鳳凰が本気を出せないんだよ」
そう、おそらく……炎陽は何か得体の知れないモノに取り憑かれている。オレはそう考えて、炎陽を……正しくは『炎陽の身体』を、その得体の知れないモノから引き剥がそうとして飛び込んだワケだ。
……炎陽の顔を見ると、何か心当たりのあるような顔をしてるしな。
『あの……それで、私はどうしたらーー』
鳳凰の話しを聞いて、何を思ったのか……炎陽がそう訊いてくる。
……うん。正直、直感的に行動しただけだからどうやったら戻れるのか全く分からなかったけどーー手に握っている鳳凰の羽が僅かに輝き出したから、多分コレを使えってことでしょ?
オレは炎陽の手を強引に握ると、目を閉じ、自分が何処に『居るべき』なのかを思う。
◆◆◆
……う〜ん、現実には戻ってこられたみたいだけどーーなに、このヌルヌルでグチョグチョな感触は!? キモい! キモ過ぎる!!!
オレの手は、うん! 羽とは別に、何かを握っている! それなら!!
「「「ーー鳳凰ッ!! 炎陽を『見つけた』! 今のコレはただの『炎陽に取り憑いていた何か』だ!! だから思いっきりやれ!!!」」」
何とかこのキモグロ物体から顔を出し、オレは鳳凰に向かって叫ぶ!!
『コウ!! お主、無事なのか!? それに炎陽を見つけたとはいったいーーッ!?』
鳳凰は混乱したように言ってくるが、
「説明は後でする! だから先に、この気色悪いヤツをどうにかしてくれ!! オレを信じろ!!!」
ーー早く、このキモいヤツから解放してくれ! とばかり、オレは叫ぶ!!
『ーーッ、分かった! 信じるぞ、コウ!!』
鳳凰はそうオレに言葉を返すと、再び、鳳凰の纏う光が強く輝く!!!
『『『ッッッ!? やめろ、やめろヤメろヤメロやめロやめろやめろやめろぉぉおおおおオオオぉぉォォォッッッッッ!!!!!』』』
そして、目を開けていられない程強い輝きを放つと同時に……暖かな風がオレを包み込んだ!
ーー先程まで、オレに纏わりついていたモノは瞬時に消え失せ……その場には、オレと……そして炎陽の『霊体』だけが残っていた。
オレの手は……しっかりと、炎陽の腕を握っていたのだ。いや本当に良かった、『オレを信じろ!』とか言っておいて違うの握ってたらどうしようかと思ったわ!!
◆◆◆
『ーーぅ……ッ!?』
炎陽は僅かに呻き声を上げると、ゆっくりとその瞼を開ける。
『……ッ、炎陽!! 無事なのか!? 炎陽!!!』
いやぁ、この鳥の騒がしいこと!! 人を根掘り葉掘り質問責めにしておいて、挙句には『どうして言わなかった』だの『無謀すぎる』だのと説教までしてきたのだ。
『……ほぅ、おう…さま…………?』
『ーー炎陽!!! ……ッ、この馬鹿者がッッッ!!!』
ーーと、まさかの炎陽との再会からの説教が始まった。
うん、今理解したのだが……どうやらこの鳥、心配させると後で『怒り』としてそれを発散してくるらしい。……何ともヒネくれていらっしゃる。
『この山には再三近付くなと言っていただろう!? だからワシも『いや、さすがに此処は無いか』と思って探さなかったのに、どうして此処に居るんじゃッ馬鹿者!!!』
……おっと、八つ当たりだ。というか、四百年捜してたクセにこの場所を探していなかった理由ショボいな?
『挙句に魑魅魍魎共に憑かれるとは何事だ!? 見ろワシのこの翼を! ボロボロになったわ!!!』
うん? 最早何に対して怒ってるの、この鳥?
『ーーッ、貴様もだコウ! どうして炎陽の霊体が魍魎共に憑かれている事を黙っておった!?』
……あれ? なんかターゲットがこっちに来た!?
「いや、だから……オレもあのキモい物体に突撃した時に気が付いて、話す時間なんて無かったんだって!!」
『黙らんか! オマケに霊体を無理やり魍魎共から引き剥がしてくるとか、そんな事できるのなら事前に言わんか!』
「ーーそれはオレも驚いた。まさか幽霊を掴めるとは思わなかった……今まで妖を触れた事は何度もあったけど、幽霊なんて触った事ないもんオレ! 見た事もなかったし!!」
……実はそうなのだ。オレはどうやら戦闘アニメやらマンガの主人公のように、ピンチになった事で新たな能力を獲得したらしい。ホントにビックリである。
『全く貴様らときたらーー』
ふむ……どうやら鳳凰の説教はまだ続くようだ。これ、オレは無事に此処から帰れるのだろうか?
◆◆◆
『ーーふぅ!』
説教しまくって満足した様子の鳳凰。ちなみに、オレと炎陽はグッタリしている。
『……本当に申し訳ありませんでした、鳳凰様』
おぉ、凄い。寝起きに説教かまされたのに素直に頭下げてるよこの炎陽って人。
『もう良い。よく戻ってきたな……炎陽』
その人を連れ戻したのオレなんスけど?
『はい……。あの時はもう、『全てがどうでもよくなって』ーーただ、苦しみから逃れたかったんです。すると誰かに『此処においで』と、『此処に来れば楽になれる』と……呼ばれたような気がして』
炎陽は静かに語る。
『おそらく、その声の主は魍魎達なのでしょう……私に取り憑いて、自分達の存在を維持する為の『器』にしたかったのだと思います』
その言葉に、鳳凰は頷く。
『あぁ、おそらく……そうなのだろう。お前を絶えず『絶望』させる事で、自身の『力』としていた。苦しかっただろう、炎陽』
『……はい。ですがそれは私が『弱かった』からでーー』
……うん?
「ーーいや、それはお前の『親父』の所為じゃね? だってアレ、勘違い&八つ当たりだし」
其処は譲れんわ〜、譲っちゃイカンわ〜。
『……え?』
「だってさ、嫁さん亡くなって辛いのは分かるけど……それをどう考えたら『息子が母親を呪った』ってなるよ? 自分の母親だよ? 大体、『報復』だって思い込んでたのだってあのオッサンがお前を迫害したからだろ? お前悪くねぇじゃん?」
『えっと、あの……?』
あぁ、でもーー、
「まぁ唯一、お前が悪かった点としては理不尽な親父に『怒らなかった』とこだろ。オレだったらブチ切れてるね」
……あのタイプの理不尽クソ野郎には、真正面からガツンと言った方が良いぞ? じゃないと自分がどれだけ『苦しんでいる』のか分かってもらえないからな。
まぁ、オレはやられた本人じゃないから……あまり偉そうな事は言えないけどね?
『ククッ! そうだな……炎陽、お前は『怒る』べきだったのだ。此奴のようにな? なかなか面白かったぞ、お前の父親の顔面に一撃を叩き込んでいたからなぁ? この男は』
『ーーっ!? え、炎翔父様の顔面に一撃!?』
『おう! オマケに炎光にも説教していた。周囲の者達も呆然としていたぞ』
おいおい言うなよ、照れるだろ?
「代わりにキレといたZE☆」
『……ぇええ??』
言葉を失っている炎陽に、鳳凰は告げる。
『ああ、そうだった。炎陽、お前に再び逢えたら言おうと思っていた事があるのだーー』
そう言って一呼吸置いてから、鳳凰はゆっくりと言葉を紡ぐ。
『ーー炎陽……お前は、『人』には恵まれなかったかもしれん。だがな、お前は『妖』や……ワシのような『神獣』には充分に恵まれおるとは思わんか?』
……この鳥、ちゃっかり自分が『妖』ではなく『神獣』である事も追加してんだけど?
まぁ……オレも男だ。野暮な事は言わんよ?
『…………そう、ですね……、ですがーー最後の時になって、私は漸く『人』にも恵まれましたよ。鳳凰様』
炎陽はオレを見て、告げる。
『ーー『コウ』……今、私がこの場に居られるのは君のお陰だ。君は、鳳凰様と一緒に私を捜して……そして『見つけて』くれた。その、私の代わりに父様に怒ってくれたり、魍魎から引き剥がしてくれたりーー本当に感謝してる。『ありがとう』……コウ』
……なんか途中言い淀んでいた気もするけど、それは勘違いという事にしておこう。
ふと、炎陽の姿が揺らぐーー、
『不思議だな。あれほど苦しかったのに……嘘のように苦しくなくなった……』
ポツリと炎陽が呟く。その顔はとても晴やかだった。
『ふむ……魍魎共から解放され、未練も断ち切れたようだな? では、そろそろ行くとしよう……』
ーーああ……もう『お別れ』なのか。直感でオレは察する。
『……はい、鳳凰様。もし、次も『人』として産まれる事ができたのなら……コウ、君のような『友人』に恵まれる事を祈るよ』
炎陽も『別れ』の言葉を口にする。
ーー悲しい……寂しい……。
そう思う自分は確かに存在する。でも、『友人』なら……『友人』だから。
「おう! 炎陽……それと鳳凰、『じゃあな』!!』
ーー『さよなら』は笑顔で。絶対に泣いたりなんかしない!!
『ッ!? フッ、ああ……『さらばだ』! 友よ!!』
『……本当にありがとう……コウーー『バイバイ』!』
炎陽と鳳凰の身体から……無数の光が粒子となって『空』へと昇ってゆく。
ーーそうして、四百年続いた『かくれんぼ』終わった。……その終わりは最高の『笑顔』で!!