〜想い〜
「「「ーー僕、兄様の居場所に……一つだけ、心当たりがあるんです!」」」
炎光の言葉に、オレと鳥は同時に声を上げる!
『それは何処だ!? 頼む! 教えてくれ!!』
鳥は鬼気迫る顔で炎光へと詰め寄り、問う。
そんな鳥の様子に、炎光は小さく頷くと話しを続けた……。
「………………この村の外れに『封怨山』という御山があるのですが……その御山の洞穴に……おそらくですが、兄様は居ます」
『ーー馬鹿な!? 封怨山の、それも洞穴にだと!? 何故あのような場所に炎陽が!?』
そう鳥は怒鳴るが……ふむ、『封怨山』か。いきなり知った名が出てきたな……。
ーー『封怨山』とは、現代では禁足地として知られている御山であり……妖達でさえ、『あの山は危ない場所』だと恐れ決して近寄らない場所だ。
「それは……多分『全てに絶望』したから、僕と父様の所為です……」
炎光は小さな声で答える。
『それはどういうーーモガッ!?』
オレは、大声で怒鳴る鳥の嘴を強引に閉ざすと……代わりに炎光に問う。
「ーーそれはどういう事なのか、訊いてもいいか?」
……このバカ鳥、オレ達がいま囚われの身だって忘れてるだろ? 不審に思った兵士が来て話しの邪魔をされるのは御免だからな。悪いが黙っていてもらう。
「は、はい……大丈夫です。炎陽兄様には不思議な力があったんですけど……父様はその力をとても気味悪がっておられてーー『アイツは妖に魅入られている』と、いつも兄様に辛く当たっていました」
ほぅ、妖に魅入られている……ねぇ?
「ーーですが、母様……陽光母様はいつも、そんな父様を諫め、兄様の事を庇っておられました」
……ふむふむ、母親は炎陽の味方だったって事だな。
「しかし、母様は病を患い……この世を去られてーーそれからというもの、父様はより兄様に辛く当たるようになられ……家来達にも、兄様に厳しく接するようにと命じられたのです。勿論、僕にも……」
炎光は暗い口調で告げる。
う〜ん……自分を止める人間が居なくなったから、炎陽により辛く当たるようになったのかーーそれとも……。
「ーーそれで? 父親に厳しく接するように命令されて……それで『君』はどうしたの?」
口を閉ざしてしまった炎光に、オレは問う。
その問いに、炎光は「……へ?」と声を漏らすが……オレは問うのをやめない。
「へ? ……っじゃないよ、それで『君』はどうしたの? 大人しく父親のそんな命令に従ったの?」
オレの言葉に、炎光は重く口を開く。
「ーー僕は……に、兄様の事を敬愛していました。だから、父様が命じられたように厳しく接するなど……僕には…できません、でした」
……なるほど。でも、それなら……。
「……それならどうして、炎陽が全てに絶望した理由が父親だけじゃくて、君の所為にもなるの?」
父親の頭のおかしな命令に逆らった炎光。そんな彼が、何故、自分自身を責めているのだろうか……?
「ーーッ……僕は、亡くなった母様から……お願いされていたんです……。父様が兄様に辛く当たっていたのなら、それを止めてあげてって! 父の手は、自身の子を『護る』為のモノであり……断じて、自身の子を『傷付ける』為のモノではないのだから……と、母様が……ッ!」
炎光は言葉と共に、ポロポロと涙を零す。
「それなのにッ……ぼく、怖くって……! ただ、見ていることしか……できなくてッ!! ごめんなさい! ごめんなさい!! にいさまッ!!」
ーーそういう事だったのか……母親から兄貴の事を頼まれていたのに、父親に対する恐怖で結局何もできなかった。だから、ずっと自分を責めているというワケだ。
でも、それはーー。
◆◆◆
「……では、僕はこれで……」
丁寧に頭を下げ、その場を去ろうとする炎光に、
「なぁ……明日行われるオレ達の尋問に、君も立ち会ってくれないか?」
オレは告げる。
「ーーえ?」
驚きの声を上げる炎光に、オレは笑いながら、
「ちょっと君のお父さんに物申したい事があってさ……君にもぜひ、聞いてほしいんだ」
……そう話す。
「は、はぁ。分かりました……」
そう炎光はオレに言葉を返すと、今度こそ、その場を去った。
「……痛ッ!?」
チクッ、とした痛みがオレの手に奔り、オレは思わず鳥から手を離す。
『まったく、一体いつまでワシの口を塞ぐつもりだ!?』
ーーあ〜、どうやらさっきの痛みは……この凶暴鳥が爪で刺してきたらしいな。
鳥は翼を半開きにし、姿勢を低くして怒っている。
「仕方が無いだろ? あのままお前を騒がせていたら、誰かしら来てしまうかもしれなかったし」
オレの言葉に、鳥は『ぅう……』と唸る。
「ーーそれで、どうする? 炎光の話しによれば、炎陽は『封怨山』の洞穴に居るかもしれないって事だけど?」
その問いに、鳥は言葉を返す。
『……それは今、この牢から抜け出して捜しに行かないか? ーーという事か?』
「いや、オレはサイズ的に考えて、牢から抜け出すのは難かしい。でも、お前なら普通に抜け出せるだろ? 炎陽が居るかもしれないのに……行かなくていいのか?」
ーーずっと捜していた友人が居るかもしれないんだ……これを待てだなんて酷な事を言うつもりはない。
『…………成る程な……。その気持ちは素直に受け取っておくが、だが、おそらく元の時に戻らなければ……炎陽を見つける事はできんだろうな……』
鳥は悲しそうに告げる。
「えっと……それはどういう事だ?」
『ーーこのままワシが炎陽に逢いに行っても、ワシが炎陽を見つけられなかった『四百年』の時が消えるワケでは無いからな……ワシはどう足掻いても、炎陽が居なくなってから『四百年』の間はーー炎陽を見つける事ができんのだ』
……それはアレか? 『時が歪んでいる』からその場に行っても逢えないって事か? 難しいな。
「……それならーー元の時代に戻るか? 当初の目的は果たせたワケだし」
オレの言葉に、鳥は苦笑する。
『ククッ、気を遣わずとも良い。……元の時代へと戻るには相当な力が必要なのだが、生憎とまだそこまでワシの力は回復しておらん』
ーー『明日の尋問が終わるまでは、戻らんだろう』、そう鳥は続ける。
あ〜、なるほどね……?
「そっかーーありがとな……凶暴鳥」
『気にするな……お節介人間』
◆◆◆翌日◆◆◆
再び縄で拘束され、昨日と同じ場所まで連れて行かれた。
ーーあ、今回は鳥にも小さな足枷が付けられているな。足枷から細い縄が伸びていて、地面に穿たれている木の杭へと続いている。
そして昨日よりずっと物々しい雰囲気だ。私兵っぽい人も棍棒みたいなのを持っているし。
……ただ、そう悪い変化ばかりでは無い。偉そうに座っている炎翔の隣りには、炎光がちょこんと小さく座っていた。
良かった……どうやら、ちゃんと来てくれたようだ。
「ではこれより、詰問を開始する! 貴様ら、覚悟して答えるがいい!」
へいへい、偉そうにどうも。
「ーーすいませ〜ん、その前に一つ……オレも炎翔様にお訊ねしたい事があるんですけど?」
いやぁ、ホントにすいませんね〜?? そんな怖い顔で睨まないで下さいよ〜。
「なんと無礼な!! 身の程を弁えんか!!」
そう、なんか炎翔のお付きみたいなオッちゃんが怒鳴ってくるが……テメェは黙ってな☆ と、言わんばかりにオレは口を開ける。
「ーーあのぉ、炎翔様ぁ? 貴方にとって自分の『子』って一体どういう存在なんですかぁ?」
オレの腹立つ問いに、炎光はビクッ……と、肩を震わせる。
「……ふん、そんなもの決まっておろう? 儂にとって、自身の『子』とは『宝』だ!」
ーーほぉ〜、『宝』ですか〜。
「へぇ〜、それじゃあ炎翔様はご自身の『宝』を……ご自身の手で傷付けるのがご趣味なんですねぇ?」
そんなオレの言葉に、炎翔は「なに……?」とオレを睨みつける。
お〜、怖い怖い。でも、事実じゃん?
「あれ、違いました? あぁ、それとも……ご自分の『子』は炎光くん一人であり、炎陽は自分の『子』では無いとか言っちゃいます?」
「ーーッ黙れ!! おい! 早く、その痴れ者を黙らせんか!!!」
炎翔の声と共に、オレの頭に凄まじい激痛が奔るがーーそんなモンに怯んでたまるか!!!
『おい貴様! 大丈夫か!?』
そう鳥が心配してくれるが、問題無い! メッッッチャ痛いけど!!!
「……は、誰が黙るか! 人とは少し違うだけで……少し不思議な力を持って産まれただけで、何故、理不尽な目に遭わなければならない!? どうして、実の父親に……迫害される!? 本当に『子』を『宝』だと思っているのなら、そんな事できる筈がねぇだろうが!!」
オレは声を荒げ怒鳴る!!!
……オレにも、炎陽と同じ力がある。それでも、オレの周囲の人達は……オレを普通に受け入れてくれた。誰一人として気味悪がる奴なんていなかった。
だから知っているーー本当に自分の子を『宝』だと思ってくれている親の姿を……その在り方を!!!
「ーー『妖』が見える? だから何だ!? 『妖』を見て、話しをした事でいったい誰の迷惑になった!? 誰かに『炎陽』が迷惑を掛けたか!? 炎翔、アンタに炎陽が迷惑を掛けたのかよ!?」
「「「ーー黙れッッッ!!!」」」
オレの言葉に、炎翔は遂にその場を立ち上がり……オレに直接掴みかかる!!
「ーー何も、何も知らぬクセに!!! 炎陽が儂に迷惑を掛けたかだとッ!? 迷惑などという言葉では生ぬるいわ!!!」
炎翔は怒りに任せて言葉を放つ!!
「「「ーーヤツは、炎陽めはな……儂の最愛の人を奪い去ったのだ!!! 儂の最も大切な存在であったーー陽光をな!!!」」」
………………チッ、やっぱりか!
オレは内心で舌打つ。
「父様! 何を言っておられるのです!? 母様は病でーーッ!?」
「ーー炎光は黙っておれ!! 陽光が病でこの世を去ったのは、炎陽めが儂への報復として陽光を呪ったからに決まっておる!!!」
……陽光が死んだ後、炎翔はより炎陽に辛く当たるようになったーーその理由は、自身を止める陽光が消えたからではなく……『炎陽が陽光を奪った』と思っているから!!
炎陽には不思議な力があった……だからこそ、陽光が病によって亡くなった事をーー炎陽が不思議な力を使って陽光を呪い殺したと思い込みやがったんだ。この大馬鹿は!!!
ーーその結果、炎陽はより酷く迫害され……絶望し、姿を消した。そして、母親の最期の願いを叶えられなかった炎光も自分を責め、今尚、苦しんでいる……。
全てはーーこの大馬鹿野郎の思い込み……勘違いによって!!
「「「ーーふざけんなッッッ!!!」」」
オレは怒鳴り、炎翔の顔面へと拳を叩き込む!!
……もう我慢の限界だわ! それに、さっきオレも一撃貰ったからコレでおあいこだ!
「おい貴様ッッッ!?!?」
兵士共が慌ててオレに掴みかかるが、オレはお構い無しに言葉を続ける!!
「テメェまじいい加減にしろよ!? 炎陽が陽光を呪った? どうせ呪うんなら散々(さんざん)自分を虐めてきたテメェを呪うわ!! どう考えたら自分を庇ってくれた恩人を呪うって発想になるんだよバカかテメェは!?」
オレの有無を許さない罵詈雑言に、炎翔、炎光、そして鳥は呆然としているが、こんなモンで終わるとは思うなよ!?
◆◆◆
「ーー良い歳したオッサンが、自分の子が少し他の人と違ってたからって気味悪がってんじゃねぇよビビりがよぉ!! 『子』は『宝』なんだろ!? じゃあその『宝』を自分で傷付けてんじゃねぇよ!!! ……あと、炎光!」
「はいッッッ!?」
急にターゲットを自分に移され、炎光は声を裏返し、跳び上がる!!
「ーーお前もお前だよ!! 当の本人が目の前に居ねぇのに『ごめんなさい』なんて言っても伝わるワケねぇだろうが!!! それとな、大の大人相手にビビっちまう気持ちは分かるが、いつまでもその言葉をーー気持ちを吐き出さなかったら自分が苦しいままだぞ!? お前はそれで良いのかよ!? 言っておくがな、このオッサンにはちゃんと言わねぇと伝わんねぇよ……お前の母親の本当の願いをーーお前は、気付いてんだろ? それをちゃんと伝えてやれ! そんで存分に反省しろオッサン!!」
オレは呆然としている兵士を振り解き、鳥の足枷に繋がれた縄を力ずくで引き千切る!
「なんか思ってた展開とは違うが……言いたい事は言えたから、サッサと元の時代に戻って『封怨山』の洞穴に行くぞ。余計な寄り道をさせて悪かったな」
『ーーふぇ? あ、ああ!』
テンプレ? 王道?? 知らんわそんなモン!!!