〜出逢い〜
ーー暗い、まるで黒いペンキでもぶち撒けたような空間にオレは居る。
『……どうして……どうして…私だけが、このような目に遭わなくてはならない?』
『苦しい……痛い…辛い……冷たい……』
『ただ……少し…人と違った…だけなのに……』
『憎い…怨めしい……』
『……もう…いやだ……』
嘆き、絶望ーーそして、悲しみ。それがこの空間を覆い尽くしていた。
『ーー見つけて……誰か、誰でもいい……一人は嫌だ……』
悲痛な声が、この空間に響き渡る。
『……誰か…私を……見つけて……たす…けて……』
◆◆◆
「ーーッ!?」
誰かの助けを求める声、それと同時にオレーー火神 光(16歳)は飛び起きる。
「…………今のは、夢……か…?」
夢にしては、随分と生々しい夢だ。頭の中に直接響くような声だった。
オレは頭を落ち着かせようと数回、深呼吸をする。
「「「ーーにいちゃ〜〜〜ん!!! コウにいちゃ〜〜〜んッッッ!!!」」」
………………うん。頭を落ち着かせようとしているのに、騒がしいチビ共の大声のせいで全く落ち着けないのだが……?
スパァァンーーと、勢い良く障子が開かれる。
「あ! コウにいちゃん居た!!!」
「にいちゃん一緒に遊んで〜!!!」
「ゲームしようよゲーム!!」
ーーいや、なんで子どもってこんだけ元気なワケ?? オレがガキの頃なんてゲーム片手に部屋に閉じ籠ってたわ。
しかもだよ? 今はお盆だ……つまり、本家のチビ共だけではなく、オレと同じ分家の連中も本家に集まっているのだ。
……もっと分かりやすく説明しようか?
「ホントだ! コウちゃん居た!!」
「ゴロゴロしてないで遊ぼうよ〜!!!」
「虫取りに行こうぜ!!!」
………………つまり、こういう事だよ!!!
元気いっぱいのガキ共が六人だよ六人! それがオレの昼寝を邪魔しようと強襲してきたのだ!!!
「……悪いなチビ共よ。オレはいま昼寝の最ちゅーー」
「ーーコウにいちゃんはオレとゲームをするんだよ!」
「違う! オレと一緒に虫取りに行くんだ!!」
……ほぅ、オレの意見はガン無視か。泣くぞ?
「ーー違うよ!」「コウちゃんは!」「虫取り!」「遊ぶの!」「ゲーム!」「みんなで!」
……そしてガキ共の一触即発の言い合いが始まった。オレの意見は無視で。
はぁ、こうなっては仕方が無い。どうせ、このチビーズに目をつけられた時点で、オレのお昼寝タイムは消え去ったのだ。ならばーー、
「ーーお〜い、そんな風に言い合ってたら遊び時間が無くなるぞぉ? それが嫌なら、ジャンケンでもしてとっとと何するか決めろ〜」
……オレはチビーズにそう告げる。
途端に、慌ててジャンケンを開始するチビ達ーーうんうん、子どもは素直なのが一番だ。
◆◆◆
「よっしゃあああああぁぁぁッ!!!」
……チビーズのジャンケン大会が終了し、勝ち残ったチビによって遊びの内容は『かくれんぼ』に決定した。ちなみに、オレが『鬼』だ。
チビーズに逃げるように言って、オレは目を閉じ、数を数え始める。
ーーふっ、しかし馬鹿なチビ達だ。よりによってオレの得意な遊びを選ぶとは……。
「……98……99……100!!! よっしゃ行くぞぉぉおおおッッッ!!!」
オレは先程まで居た部屋を飛び出す。そして本家の馬鹿デカイ屋敷の中を捜索する。
……『かくれんぼ』とはそのルール上、隠れる場所が広ければ広いほど隠れる者達が有利となるゲームだ。
ーー普通であれば……な。
だが、オレには全く意味が無いのさ……何故なら、
「お〜い、何処に隠れた〜?」
『……アレ? コウ、ドウシタ?』
ーーオレには、不思議な力があるから。
オレのチビ共を捜す声に反応して、屋敷中から異形の者達がその姿を現す。
……この『妖』と呼ばれる異形の者達は、普通の人間には見る事ができない存在だ。
だがオレは、妖達を見て、触れて、そして話しをする事ができる。
ーーつまり、
「あ、丁度いい所に……いやな、今チビ達と遊んでいるんだけど全然見つけられなくてさ。お前ら、チビ達を見てないか?」
こういう事も可能って事だ!!! ……え? 狡い?? いやいや、この力は生まれ持ったモノだから、ONやOFFに切り替えられるモノじゃないから!! 其処に妖達が居たから、チビ達を見なかった? ……って、訊いただけだから!! だからノーカン!! セーフだセーフ!!!
『……ソレナラ、アッチニ数人走ッテ行ッタゾ?』
『アソコノ部屋ノ中ニモ、一人入ッテ行ッタ』
『蔵ニモダ、蔵ニモ一人入ッタ奴ガ居ル』
……いやぁ、次々とチビ共の隠れ場所が明らかになっていくなぁ?
「そうか助かったよ。お礼にコレどうぞ」
そう妖達に礼を言い、婆ちゃんから押し付けられーーおほんッ!! も、貰った煎餅を妖達に渡す。世の中はギブ&テイクだ。情報を貰ったのなら、オレからも何か渡すべきだろう。
……まぁ、さっきまで寝てたから、少し割れてたりするかもしれないが……味は変わらないから!! うん!!
そうしてーーオレの『無双かくれんぼ』は幕を開けた!!
◆◆◆
「見ぃつけたぁぁあああああぁぁぁ……」
「「「ーーほぎゃあああああああああああッッッ!?!?」」」
オレの声と共に、チビ共の悲鳴が屋敷内に響く。
……いやぁ、愉快愉快!!! 残っているのはもう一人だけか。
「コウにいちゃん、また妖にオレ達の場所を訊いたんだろ!? 狡いぞ!!」
ん〜?? 狡い?
「オレはただ、自分の持てる力を全て使ってお前らを捜しただけだぞ? それなのに、狡いって心外だなぁ?」
オレは爽やかな笑顔で言葉を返す。
「ぐぅ……オレもいつか絶対に妖を見れるようになってやるからな!! 覚えてろ!!」
「おうおう、オレが忘れなかったらな?」
……思えば、このチビ達も良い子だよなぁ。オレの力を気味悪がらずに、こうやって受け入れてくれてさ。本家の婆ちゃんや爺ちゃん、分家の人達、それにオレの家族……その全員が、オレの力を普通に受け入れてくれたんだ。
今のオレが普通の高校生として暮らせるのも、この人達の温もりがあってこそ……なんだよな。
ーーま、ソレはそれとして! ラスチビ(ラストのチビ)が隠れている蔵まで辿り着いたワケだが……どうしてやろうか……?
「よし、最後だし……全員で驚かせるか!!」
オレはチビ共を集め、会議を始める。
ーーすると、まぁ……出るわ出るわ同族を売ったゲスいチビ共の意見が。イイネ!!!
そうして、オレ達は悪い顔で会議を終え……各々が配置につく。
……ケッケッケッ、いい声で啼いてくれよぉ??
そんな事を考えながら、オレはチビ共にGOサインを出ーーッ!?
ーーバンッッッ!!!
……そうとした瞬間、蔵の扉が勢い良く開き……中から興奮した様子のチビが一人飛び出してきた。
「あ!? コウにいちゃん!!! く、蔵の中で、しゃべ、鳥がッッッ!!!」
は……? 何言ってんのこの子? 蔵の中から爺ちゃんのアダルティーな本でも出てきたか?
「……チビよ……。そういう本はまだお前には早いとニイちゃんは思うぞ? だからな、そういうのは見つけても見て見ぬフリをーー」
「ーーいいから早く来てよ!!! 凄いんだ!!」
チビはオレの腕を両手で掴み、グイグイと蔵の中へ引っ張ってゆく。
……そんな凄いお宝本を発見したのか? ふ、全くしょうがねぇなぁ? 爺ちゃん、貸し一つだZE☆
「コレ! コレ見てよコウにいちゃん!!!」
「はいはい。まったく、一体どんなお宝本をーーは?」
チビに促され、オレが見たモノ……それは、一羽の黄色い鳥だった。
しかもコイツは……たしか、クラスの女子が可愛いだなんだと言っていたーー『オカメインコ』とかいう種類の鳥だよな? 実物初めて見たわ。
「凄いんだよこの鳥!! 喋れるんだ!」
チビの興奮したような言葉と共に、オカメインコが口を開く。
『おい、人間。このワシを鳥扱いするとは良い度胸だな?』
………………は? はぁぁ!?
え、たしかクラスの女子の話しでは『オハヨウ』とか『コンニチハ』とかしか言葉を覚えないハズなんじゃ……? インコってこんなにペラペラ言葉を喋れるモンなの!? すげぇな!?
「ね、ね!? 凄いでしょ!?」
「あ、ああ……凄いな」
チビの言葉にオレは頷く。
……でも、この鳥ーー、
『ちッ、まぁよい。それよりも、ワシは腹が減った!! 何か貢ぎモノは無いのか人間共!?』
ーー態度デカくね?
いや、可愛いとは思うよ? 見た目は。でもさ、尊大過ぎない……性格。コレ、明らかに覚えた言葉を言ってるんじゃなくて、自分の言葉で話しているよな??
「あ、お腹減ってるのなら……さっき婆ちゃんから貰ったお煎餅があるけどーーぅわッッッ!?」
『寄越せ人間!!』
よほど腹が減っていたのか、オカメインコはチビの一人が差し出した煎餅を器用に足で掴むと、バリバリと食べ始めた。
……鳥に醤油煎餅ってあげても大丈夫なのか? と、思うがーーそんな事よりも別の事件が起こった。
チビの一人が、
「取ったどぉおおおおおおおおおぉぉぉッ!!!」
と、油断していたオカメインコを鷲掴み、高らかに勝利の雄叫びを上げたのだ。
『ぬぁ!? な、何をするのだこの愚か者!!』
……当然、オカメインコも激しく抵抗し……チビの手を離れて、蔵の中を縦横無尽に飛び回る!!
まるでオカメインコ自身もパニックを起こしたように、壁や蔵の中の荷物にぶつかり……そしてボトッ、と床に墜落した。
ーーう〜ん、可哀想なんだけど……なんだろ? ちょっとだけスッキリした!
まぁ、このまま放置して動物虐待だ何だと言われても困るので、チビ共を待機させてオレがオカメインコの墜落現場へと向かう。
ふむ……見た限りだが、怪我はしていないようだな? 目は回しているが。
「……ん?」
墜落し目を回しているオカメインコの側で、オレはグシャグシャになった古い本を拾う。
ーー『鳳凰院家 家系図』ーー
……鳳凰院家って事は、コレ、本家の家系図なのか。
オレは何となく、家系図をペラペラと捲っていく。
「あれ……?」
すると、この家系図の一点が墨で黒く塗り潰されている事に気がついた。
蔵の高窓から入ってくる太陽光にそのページを透かしてみる……。
ゔぅ〜ん……見辛いけど、何とか読める。
「ーー鳳凰院 炎陽……?」
オレがその名を口にした瞬間!!!
『ーーッ!? 貴様! 炎陽を知っておるのか!? 奴は今何処に居るのだ!?』
……と、オカメインコが鬼気迫る勢いで問いただしてくる!?
「いや、何処に居るのかは知らないけど……家系図の塗り潰された部分に書かれてた名前を言ってみただけだし……?」
オレがそう答えると、オカメインコは……、
『………………そうか……いや、そうであろうな……。そんなモノに書いてあったのなら、ワシは四百年も探してはおらん……』
そう、落胆したように告げる。
ーーえ? 何この雰囲気? オレが悪いの??
その場の暗い雰囲気に耐え切れず……オレは、
「あ! でも、ウチの婆ちゃんは凄く物知りで昔の言い伝えとかにも詳しいから、婆ちゃんなら何か知ってるかも!?」
…………と、何の根拠も無いまま言ってしまう。
オレのその言葉に、
『そうなのか!? それならば、早く案内せい!!』
オカメインコは希望に満ちた眼で、そう……応えるのであった………。
◆◆◆
「…………ぅう〜む、すまんのぅ。さぁ〜ぱり分からんわい」
婆ちゃんの無慈悲な言葉に、オレとオカメインコは同時にガックリと床に手と翼をつく。
「そもそも、炎陽と言ったか? そのような名の者が居たという話しは聞いた事がないんじゃが?」
『嘘では無い!! 炎陽は……炎陽は確かに居る!! 奴は四百年前、忽然と姿を消してしまったが……でも!!!』
オカメインコは必死に言葉を続ける。
……考えてみれば、この鳥の言っている事はメチャクチャだ。信じるに値しない妄言だと切り捨てられてもおかしくはない。
ーーけど、何故だろうか? オレはこの鳥の言葉を嘘だとは思えないのだ。
だが、ソレを確かめる術が無い。この鳥の言う事が正しいのならーー、
「……四百年前に行ければ……何か情報を得られるかもしれないんだけどな……」
ポツリーーと、オレは言葉を零す。……零してしまった……。
……切羽詰まった者は、時に何を仕出かすか分からない。
それをオレは、身をもって知る事となる。
『ーー本当か!? ならば、共に行くぞ人間!!!』
「………………へ?」
オレがそう間の抜けた声を上げた瞬間、オレの視界は暗転したのであった。
ここまで読んでくださった読者様、本当にありがとうございます!
宜しければ、続きの物語もぜひお楽しみください!