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98 虹の旅人5

 自分が奴隷だとわかったクロードの気持ちは、察して余りある。だって、さっきまで自分はア・ッカネン王家の末席だと思っていたんだもの。誇りもなにもかも失って、ボロボロに違いない。

「ねえクロード。これからどうするの?ア・ッカネン国に帰る?」

「えっ?俺を殺さないのか?」

「そんなことしないよ。わたしは無事だったし、とうさまたちもたぶん大丈夫。確かに酷い目にはあったけれど、殺すほどじゃないよ。ねえ?シルヴァ」

「セシル様がそうおっしゃるなら、私は従います」

「ね?」

 クロードに微笑みかけると、彼の目に炎が宿っていた。やる気が戻ってきたらしい。いい傾向だ。


「黒焔のシルヴァを従わせるおまえは、何者だ?」

「わたしはセシル。シルヴァとは契約関係にあるの」

「じゃあ、セシルがシルヴァを召喚したのか。なんのために?」

「待って、召喚はしてないの。祈っていたら、シルヴァが勝手に出てきたの。驚いたよ」

「はあ?」

 わたしはエ・ルヴァスティ領に伝わる口伝や、イヴェントラに関わる話を省略して、エ・ルヴァスティ領の祈りの間で起きたできごとについて説明した。平和の祈りを捧げていたら、その祈りに答えてシルヴァが返事をして顕現したことを。普通の悪魔召喚とは違うし、とても参考になるできごととは思えなかったから、話しても大丈夫だと思ったの。


「………それを信じると思うのか?」

「信じる信じないはあなたの自由ですが、セシル様は事実を申し上げております」

 クロードの態度に、シルヴァがムッとした様子で答えた。

「そして、私がセシル様にお仕えすることは、誰に咎め立てされる筋合いもございません。私が誰を主人に選ぼうと、それは私の自由だからです。セシル様にお仕えできるという至福の時間を、あなたなどに邪魔されることは誠に心外です。セシル様のお許しがあれば、今すぐにでもその首、切り落としてやるものを………残念です」

「………」

「………」

「………」

「そうか!おまえ、セシルに惚れてるな!だからそんな………そうか。聞いたことがあるぞ。エ・ルヴァスティ領に、同じような話が伝わっていたな?人間の女王に惚れた悪魔が、その人間が死ぬまで傍を離れなかったとか、なんとか。そういう話だったはずだ」

 へえ~。よくイヴェントラの話を知っていたね。

 ちらりとシルヴァを見ると、愉快そうに笑っていた。

「その悪魔は私ではありませんが、そう、確かに似た話ですね」


「それで、クロードは『虹の旅人』からどんな指令を受けて来たの?」

 それによっては、クロードを彼らの元へ帰すわけにはいかなくなる。

「俺は鼻が効くんだ。ル・スウェル国の図書館で見かけたとき、すぐにあんた達が只者じゃないと気づいた。その連中が守るひとりの少女に興味が湧いた。それをボスに報告したら、調べるから攫ってこいと命を受けたのさ。最初はどこぞのお姫様がお忍びで城下町散策でもやっているのかと思ったが、違ったわけだ。まったく、黒焔のシルヴァを従える小娘とはね」

「誘拐してどうするつもりだったの」

「さあね。ボスの考えることはわからねえが、身代金を請求するか、情報源として利用するか、利用できないとなれば遊郭に売りつけただろうな。それがいつものやり方だ」

「だから、わたしの仲間達を傷つけなかったのね」

 だけど、それが諜報部員のすることだろうか?


「その、ボスの名前は?」

「聞いてどうする。どうせ偽名だぞ」

「『虹の旅人』が、まっとうな諜報部員とは思えない。これから関わってくる可能性の高い相手だもの。情報は少しでも多く欲しいの。それに、ボスの名前から情報を辿れるかもしれないから」

「わかった。そういう仕事ができる奴が、知り合いにいるんだな。ボスの名前はカルタスだ。一座の座長をしている」

 カルタスかぁ。知らないな。

 シルヴァを見ると、彼は首を横に振った。

「ニキなら知っているかもしれませんね」


「ニキだと!!」

 クロードが興奮で顔を赤くした。

「まさか、ル・スウェル国の暗部のニキか?」

「えっ、とうさまを知ってるの?」

「とうさまだと!?………そうか、それで裏舞台から消えたのか」

 う~ん。とうさまは、裏の世界では有名な人だったのかな?暗部として、それはどうなんだろう………仕事しづらいんじゃないのかな。

「中年の男がひとりいたな。あれがニキか?」

「そうだよ」

 わたしの答えを聞いて、クロードは嬉しそうに顔をほころばせた。

「そうか。あのニキに、俺がしてやったんだ。やったぜ!」

 ガッツポーズまでしている。とうさまに一矢報いたことが、よほど嬉しいらしい。


 そういえば、焚火に仕込まれていたとはいえ、とうさまが睡眠薬に気づかなかったとは考えにく。気づいた上で、罠にかかったんじゃない?そう考えると、わたしまで嵌められたみたいで悔しい。

「それで。『虹の旅人』に合流するまで、あとどれくらいの猶予がありますか?」

「あぁ。そうだな………あと2日ってところか」

「ちょっと待って!『虹の旅人』に戻るの?危ないよ」

「心配してくれるのか。ありがとうよ」

 そう言ってわたしに伸ばしたクロードの手を、シルヴァが叩き落とした。


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