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96 虹の旅人3

『焚火はついたままっだたぜ』

『誰も怪我してなかったぞ』

『あれから、休憩なしなんだ。疲れたぜ』

 クロードの代わりに、ロキシー達が教えてくれた。

 クロードは、誰にも手を出さなかったんだ。誰も、怪我をしていない!それなら、魔物や獣が血の匂いに誘われてやってくることはない。きっと、皆無事だよね。だめ、泣きそうになる。

「どうした?どうして黙って………うわっ!」

 クロードが振り向き、わたしを見て声を上げた。

「悪い!おまえを泣かせるつもりじゃなかったんだ。なんだ、どこか痛いのか?」

 堪えていても、我慢しようと思っても、涙がポロポロとこぼれて頬を濡らしていく。


 それから、クロードはわたしを縛り上げていたロープを解いてくれた。そして、地面に座り込んだわたしの周りをまわって、わたしに怪我がないか確かめた。

「どうやら、怪我はしていないようだな。って、そんな目で見るな!」

 涙でぐしゃぐしゃの顔でクロードを見上げると、彼はわたしから目を背けた。

「くそっ。なんだって俺は、女の涙に弱いんだ!」

 立ち上がり、髪をかきむしるクロード。

 その背後に、黒い影が現れた。まるで、なにもない場所から現れたように見える。

 クロードは相手に気づくのが遅れ、次の瞬間には羽交い絞めにされていた。


「くふふっ。よくも、セシル様を攫ってくれましたね。この恨みは、あなたの命で償ってもらいましょう」

「シルヴァ!皆は無事なの?」

 シルヴァに飛びつくと、彼はにっこり微笑んだ。

「わかりません」

「えっ?」

「私はセシル様を追って来ましたので、彼らがどうなったかはわかりません。ただ、魔物相手に簡単にやられる者たちでないのは、セシル様もおわかりでしょう」

「うん、そうだね」

「くそっ。この気配、知っているぞ。おまえ悪魔だな!?」

 シルヴァの腕の中で、クロードが苛立たしそうに叫んだ。


「ええ。悪魔をご存じでしたか。いかにも、私は悪魔。名をシルヴァと申します」

「はっ。シルヴァ?黒焔のシルヴァ………か?」

 クロードの体から力が抜けて、呆然とした表情になっている。

「おや。その名のご存じでしたか。ではあなたは、ア・ッカネン国の者でしょうかね」

 ア・ッカネン国の者?あっ、ア・ッカネン国の関係者ということ、『虹の旅人」?

「もしかして、『虹の旅人』の人?」

「そうだ。ちくしょう!こんなことならこの任務、俺が引き受けるんじゃなかった」

 どうして『虹の旅人』がわたしを攫ったんだろう?ア・ッカネン国に連れて行くため?


 ぼきっ


 ぼきっ!


「ぎゃあ!!」

 思考の海に溺れそうになったとき、シルヴァがクロードの両足の骨を折った。逃走防止のためということは、すぐにわかった。

 シルヴァはそのままクロードをロープで縛り上げ、近くの木に縛り付けた。猿ぐつわもしている。

 そうして、ようやく一安心したのか、シルヴァはクロードから離れてわたしのところにやって来た。

「ご無事でなによりです」

「わたしは大丈夫。シルヴァは、ずっとついて来てくれたの?」

「当然です。私がご命令もなく、セシル様のお傍を離れるなどありえません」

 シルヴァらしいね。


「さて。まずは、この牝馬から取り調べをしましょうか」

 シルヴァが向き直ると、牝馬は慌てて服従の姿勢なのか、伏せの姿勢になった。尻尾は後ろ足の間に隠している。耳を伏せて、体が怯えたように震えている。

『あなたの名は?』

『ひいっ。アイメです』

『ふむ。アイメ、あなたの任務はなんですか?』

『ええと、それは………そこのお嬢様をアジトに運ぶことです』

『アジトはどこにありますか?』

『いつも移動しているから………そうだわ、場所はクロードが知っています』


 そんな感じで簡単なことから聞き出していったけれど、馬が重要なことを知ってるはずもなかった。

「………さて。次はクロード、あなたですよ」

 シルヴァはクロードの前にしゃがみ込み、その目を覗き込んだ。

「私が甘いなどと、考えぬことですね。これでも、セシル様の手前、怒りを抑え込んでいるんです。なにがきっかけで爆発するかわかりませんよ。いいですね?」

 シルヴァが、わたしに凄惨な場面を見せないよう気を使っていることはわかっている。そうでなければ、とっくにクロードやアイメを切り刻んでいるはずだから。

 クロードは、両足を折られても目の光が消えず、うめき声ひとつ上げなかった。ただ、じっとシルヴァを見つめ返している。そして、静かに頷いた。


 シルヴァがクロードの猿ぐつわを外しても、クロードは一言もしゃべらなかった。ただ、わたしを見つめる目が雄弁に語っている。「おまえは何者だ?」と。

 クロードは『虹の旅人』という旅芸人の一座の一員で、ア・ッカネン国の諜報部員だ。つまり、ア・ッカネン国の有益になることが最優先だ。わたしを攫ったのも、ア・ッカネン国のためになると思ってのこと。おそらく、図書館にいた怪しい一団を調べるべく動いたのだと思う。それは、怪しく見えたわたし達にも責任がある。もっと普通のハンターらしい恰好をしていれば、結果が違ったかもしれないからだ。



のんびり、ゆっくり更新のはずが・・・・・・気づけば、毎日更新に(笑)

まぁ、できるときはどんどん更新した方がいいですよね?

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