91 教会訪問2
チャールズ王達が用意していた魔法陣は、どの眷属かは関係なく、ただ悪魔を召喚するためのものだったらしい。つまり、どの悪魔が召喚されてもおかしくなかったけれど、召喚者の魔力が少なく、生贄も大したことがないので、召喚に成功してもつまらない悪魔しか召喚できなかっただろう。とシルヴァが言っていた。
シルヴァにとっては、爵位も持たない悪魔は皆つまらない悪魔らしい。
人間にとっては、それでも十分、脅威になるんだけどね。
それに、あの魔法陣は複数の悪魔を召喚するものだったらしいの。
1人の悪魔を召喚するだけでも膨大な魔力が必要になるのに、複数の悪魔を召喚するということは、悪魔の数だけ魔力が分散してしまう。シルヴァの言うとおり、つまらない悪魔しか召喚できないということになる。
もしかして、召喚の邪魔をしなくても良かったんじゃないの?
そう思えてくるほどに、術者達の準備はお粗末だった。
でも、どんなに弱くても悪魔は悪魔。脅威になることは間違いない。
「問題ありません。下位の悪魔など、プチっと潰せばよいのです」
シルヴァが笑顔で恐ろしいことを言っている。
「この世界では、悪魔は依り代がなくては存在できません。その依り代を、こう、プチっと潰せば悪魔は悪魔界へ帰るだけです。魂が消滅するわけではありません。セシル様がお心を痛める必要はありませんよ」
なるほど。入れ物を壊すだけなら、平気………じゃないよ。依り代に入っている間は、見た目は人間と変わらないんだもの。倒すにしても覚悟がいるよ。
まぁ、人間を相手にするよりは気が楽だけどね。
動物や魔物を狩る分には、仕事だと思っているからちっとも心が痛まない。
そうか!仕事だと思えばいいんだ。そうすれば、シルヴァが言うみたいに悪魔も倒せるかもしれない。
盗賊を倒すのは問題なくできるんだもの。
悪魔を倒すのも、きっとできる。
いやいや、そう簡単にはいかないよね。だって、悪魔って強いもんね。戦ったことないけど。
って、あれ?なんでわたし、悪魔を倒すことを考えているんだっけ?
「セシル、どうかしたの?」
「なんでもないよ。ちょっと考え事をしてただけ」
「そう。じゃあ、気を付けて行ってらっしゃいね」
ツヴァイ御子にお礼を言って、応接室を後にした。
すっかり話し込んでしまったので、お昼ご飯の時間になっていた。
ツヴァイ御子とアインス教皇は仕事が詰まっているということで、お昼ご飯は一緒に食べられなかった。
ツヴァイ御子は、とうさまと一緒にいられる時間が短いことを残念がっていた。
そんなツヴァイ御子を見て、アインス教皇は寂しそうにしていた。
ツヴァイ御子はわたしを娘のように思っているのと同時に、とうさまを父親のように思っている。直接言われたことはないけれど、そんな雰囲気を出しているのだ。
アインス教皇は、ツヴァイ御子を愛しているので、その愛情の対象が自分以外に向くのが寂しいらしい。これは、本人から聞いたことがある。そういう感情を、嫉妬と呼ぶのかな。
ツヴァイ御子とアインス教皇と別れたあと、王都まで戻って食堂で昼食をとった。昼のピークの時間を過ぎていたので、ゆっくり食べることができたよ。
食事のあとはハンターギルドで情報収集だ。
レ・スタット国を警戒するような張り紙はなくなっていて、特別、注意を促すような張り紙もなかった。
とうさまが納品所で溜めていた常時依頼の獲物を出し、報酬を受け取る。その様子を見ていた他のハンター達が、獲物の量に驚いたあと、マジックバックを羨ましがるため息をもらした。
そうだ。マジックバックはまだ作れないけれど、付与魔法のやり方は学べたんだった。
もう少し勉強したいのと、夜までは時間があることから、皆で図書館へ行くことになった。
そういえば。シルヴァはメルという受付嬢からメモをもらっていたね。連絡したのかな?いやいや、ずっとわたしと一緒だったんだから、連絡してる暇はなかったよね。
「セシル様、どうかされましたか?」
「えっと。ほら、シルヴァはメルという女性からメモをもらっていたでしょ?返事はしたのか気になっただけ」
「えっ?シルヴァ様にメモを渡すなんて、なんて恐れしらずな女でしょう!」
いやいや、エステル。メモを渡すくらい、してもいいでしょ。内容が問題なだけで。
そういえば。メモにはなんて書いてあったんだろう?デートの誘いかな?
「で。そのメモにはなんて書いてあったんだ?」
レイヴが、大して気にしているふうもなく聞いた。話の流れで、なんとなく、という感じだ。
「おもしろいものはありませんよ。ただ、名前と住所が書いてあるだけでした」
「な~んだ。デートの誘いが書いてあるかと思っていたよ」
「デートですか。面白味のない人間と出掛けることの、なにが楽しいのかわかりませんね。あの娘は、私をデートに誘わなかっただけ賢明と言えるでしょう」
「そうかな。もし王宮図書館に行けたら、シルヴァも喜んだと思うよ」
「あの娘にそれだけの権限があるとは思えませんが。王宮図書館へ行けたら楽しいでしょうね」
「禁忌の図書室にいるときも、楽しそうだったよ」
「………なるほど。あの娘には、十分、利用価値がありそうです」
「でしょ?」
すみません。能力の限界で、もう書けません。今まで読んでくださった皆様、ありがとうございます。また書けるようになったら、続きを投稿します。




