9 王宮にて
結局、王都は観光客相手のお店ばかりで、見ても面白いものはなかった。一通り見て回ったあと、地元客相手の食堂でランチを食べた。ふつうに美味しかった。
そして、運動がてら港町まで走る。ちょっと………失敗した。お昼に食べ過ぎたあ~~!
リバースしたあとは、ゆっくりしたペースで港町まで歩いた。無茶はよくないよね。健康管理は大事!うん。港町に着いてすぐ、昨日と同じ宿屋を取り、ウルンサ達の様子を見るためにガーラム便の乗り場へ向かった。
10番乗り場までやってくると、エレクが水面から顔を覗かせた。
「…すっかり懐かれたな」
「そうなの。エレクは歯並びがよくないから、よく魚が歯に挟まって。取ってあげているの」
近づくとエレクががばっと口を開けたので、身を乗り出して、歯に挟まった魚を取った。取った魚は、背骨を手でむしり取って海に捨て、身をエレクの口に戻してあげる。
「嬢ちゃん、ずいぶんとガーラムに慣れてるな。10番乗り場といやあ、飼育係はオッサムか。あいつに世話の仕方を習ったのか?」
出発準備をしていた他の島の運転手に見られていたみたい。
「馬鹿いえ。あのオッサムがそんな優しい真似をするもんか。見ろよ。もう1頭が傷だらけだ」
「そういや、船はどこだ?オッサムは?どうしてガーラムだけなんだ?」
3人のガーラム運転手に、オッサムがガーラムにやったことを話して聞かせた。3人ともガーラムに愛情を注いでおり、オッサムに憤慨している。
「…そうか。それで、ガーラムを連れて逃げてきたのか。メリス島からここまで、よく無事にたどり着いたな。海神様のご加護があったんだな」
「よし。おれ達が交代で世話をしてやる。安心しろ」
「金?いいってことよ。餌代くらい、おれ達、運転手仲間で出してやるよ」
「おにいさん達、ありがとう」
ガーラム便の運転手兼飼育係は、他の職業より優遇されている。生活の要だからね。給料はそれぞれの島の予算からではなく、王宮から支払われる。1か月に金貨1枚と小金貨5枚。現金収入の少ない本島以外の島では、かなりの高級取りだ。それだけ、危険もあるということだけど。ア・ムリス国は島国だけあって、魚が安い。漁師達も協力してくれれば、なんとかなるだろう。とにかく、これでウルンサ達は大丈夫だ。
ほっと一安心して、宿屋へと戻った。
そして翌日、また乗合馬車に乗って王都ディドラへ向かった。王宮へ行くと、門に迎えの兵士が来ていた。案内されたのは、会議室。椅子に座って待っていると、やってきたのは、なんと王様。急いで立ち上がると「よい、よい。座りなさい」と身振りで示された。でも、王様相手にそういうわけにもいかない。
王様は、たしか48歳。お名前はレオリス・ア・ムリス。貫禄があり、余裕もある。笑顔が優しそうな方だ。
王様が椅子に腰かけてから、わたしと、とうさまも椅子に座った。
王様と一緒に会議室に入って来たのは、宰相と、ガーラムを管理する部署の責任者(と思われる)、そして護衛が2人。
「話はアリッサから聞いておる。それと、ガーラムの運転手達からも報告を受けておる。ニキよ、我がア・ムリス国のことを考えての行動を感謝する」
「身に余る光栄です」
「さて。セシルと言ったか。ニキの娘だそうだな。まだ8歳だというのに、今回のそなたの働きは大したものだ」
あ、わたしは幼く見えるからね~。でも、そうか。8歳か。2歳も年下か。ふ~ん。
わたしの機嫌が悪くなったことを察したとうさまが、わたしの頭を撫でてくれた。ふふっ。気持ちいい~。って、しまった!くそう。とうさまが相手だと、すぐに機嫌を直されてしまう。いいんだけだけどさ、なんか、子ども扱いされているのが悔しい。
とうさまは、伊達に10年もわたしを育ててきたわけじゃない。わたしの扱いを心得ている。それなのに、わたしはとうさまの心が読めなくて、いつも振り回される。それが、なんだか悔しい。
わたしがぼんやり考えているうちに、王様達ととうさまの話し合いは終わっていた。
「…では、メリス島のガーラム便の運転手はマリス島から派遣すること、メリス島のガーラムはマリス島でまとめて管理すること、オッサムは王宮にて処分すること、以上の3点で決まりですな」
宰相が話をまとめている。
マリス島はア・ムリス国で2番目に大きな島で、ガーラムの調教施設がある。運転手にも余裕があり、2頭のガーラムを受け入れても、飼育場所も金銭的にも十分余裕がある。そしてア・ムリス国の中央に位置することから、夕方の便を終えたガーラムがメリス島からマリス島へ戻る時間的な余裕も。
「…それで、だ。アリッサのことなのだが………伯爵となって、身を固めるつもりは……」
「お断りします」
あぁ、この人、親馬鹿だったか。王女殿下の言う通り、とうさまを貴族位にして嫁がせる気だったか。それも、男爵より2つも上で伯爵だなんて。王女殿下を嫁がせるには、それくらいの地位じゃないと釣り合わないかな………まあ、とうさまに瞬殺されたけど。
がっくりと肩を落として、残念そうな顔をしている。