87 アインス教皇とツヴァイ御子2
アインス教皇とツヴァイ御子は、こう見えて夫婦なの。年の差婚というやつ。でも、とても仲が良くて、愛し合っている。力関係は、ツヴァイ御子の方が上だけどね。それでバランスがとれているんだから、いい関係だと思う。
わたしは2人に、シッセル女王と悪魔イヴェントラの物語と、エ・ルヴァスティ領の祈りの間でシルヴァと出会ったときの話をした。
「う~ん。とりあえず、その悪魔がセシルに危害を加えるつもりがないことはわかったわ」
「いささか、強力すぎますがね」
「そうね。強すぎて、セシルに扱いきれるか心配だわ」
シルヴァが公爵級悪魔だなんて言ったら、なんて言われるか………想像するだけでも怖い。シルヴァを悪魔界へ帰すように言われるだろうけど、それをシルヴァが了承するとは思えない。絶対に揉めるよね。
そして。2人にはこれ以上心配をかけたくないから、レイヴとエステルのことは黙っておきたいけれど、そうもいかない。特に、エステルはレ・スタット国の企みと関係しているから、2人には知らせておいたほうがいいよね。
「じつは、シルヴァの他にも仲間が増えたの」
「そうなの?あ、まだなにかあるのね」
「レッドドラゴンのレイヴと、フェンリルのエステルもいるの」
「なんですって!」
「なんだって!」
ツヴァイ御子とアインス教皇が同時に叫んだ。
「そんなもの、どうやって仲間にしたのよ!」
「ええと、レイヴは討伐依頼が出ていて………」
まず、カー・ヴァイン国のリノ村でレイヴに出会った話をした。次に、オルランコスが関わった盗賊活性化や子供誘拐事件等々。レ・スタット国が関わっている事件とあって、ツヴァイ御子とアインス教皇は興味津々だった。レ・スタット国の王宮に忍び込み、魔法陣を書き換えてフェンリルを召喚したところで、2人は息を飲んだ。
「どうやって、魔法陣を書き換えたの?そんなこと………できるわけがないわ」
「いや、理論上はできる。ただ、あまりに緻密な作業だから、現在の技術ではできないというだけさ」
「その、私達には不可能な作業を、この男は魔術師達に気づかれることなく平然とやってのけたのよ」
「………そうだね。高位の悪魔は、能力が高いんだね」
2人はじっとシルヴァを見つめたあと、わたしを見て言った。
「「この男の等級はなに?」」
シルヴァを見ると、にっこり微笑んでいた。公爵級であることに誇りを持っているシルヴァは、それを人に知られてもいいと思っている。隠す気がないのだ。
「シルヴァは………」
「なんなの?もしかして伯爵級なの?」
伯爵級でも、十分、上位だと思っている口ぶりだ。
「ええと………公爵級…………です」
「「はあっ?」」
あ、また声が揃った。よく気が合うね。
などと考えている場合じゃなかった。
ツヴァイ御子は口をぽかんと開けて、呆然としている。
「侯爵級じゃなくて?」
「うん。公爵級」
「「はああぁぁ………」」
今度は、溜息まで揃った。本当に仲がいいね。
「ツヴァイ、僕は頭が痛いよ」
「私もよ。………とにかく。公爵級悪魔がレ・スタット国側に付いたんじゃなくて良かったわ。そうなったら、あのチャールズ王のことだから、嬉々として戦争を仕掛けてきたはずだもの」
「そうだね。召喚の儀式で悪魔を呼び出そうとしていたくらいだ。僕らの掴んでいる情報からも、チャールズ王が戦争を企んでいるのは間違いないだろうと思うよ」
「セシルが悪魔召喚を邪魔してくれたのは助かったわ。ありがとう」
「しかし、問題だな。チャールズ王が野心家なのか知っていたが、世界のパワーバランスを崩すつもりなのかもしれない」
世界のパワーバランス?そんな壮大な話なの?
「さて。一通り報告も致しましたし、そろそろお暇いたしましょうか」
「ええと。ツヴァイ御子、アインス教皇、また来るから、続きはそのときに、ね?」
「明日、ニキも連れて来なさい!いい?朝から待ってるからね!」
「それだけじゃだめだ、ツヴァイ。セシル、迎えを行かせるから宿屋を言うんだ」
「お断りします」
わたしより先に、シルヴァが断ってくれた。
「宿泊場所は申し上げられません。ただし、明朝は必ずこちらへ参りますのでご心配なく。それとも、私の約束では信用できないとでも………?」
あ、シルヴァが脅してる。
「いくらツヴァイ御子とアインス教皇でも、それはないよ。こんなことで、シルヴァは嘘を言わないから信用してくれていいよ」
わたしが言うと、2人は静かに頷いた。
「わかったわ。ちょっと言い過ぎたわね。だけど、朝10時までに来なかったら、人を捜しに行かせるからそのつもりで。あぁ、そうだ。早く来る分には問題ないわよ。9時でもいいわよ」
ツヴァイ御子は子供の頃から御子として暮らしているから、命令することに慣れているんだよね。いい人なんだけど、そこが困ったところでもある。人の上に立つ立場としてはいい特性でも、友達にするにはちょっぴり厄介な特性だね。