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86 アインス教皇とツヴァイ御子

「さてセシル様。行きましょうか」

「「えっ?」」

 シルヴァが腰を低くしてわたしに帰ることを促すと、その行動に驚いた受付嬢2人が声を上げた。


 ひそひそ


「あの子、見た目はハンターだけど、じつはどこかのお嬢様なの?」

「どうしてシルヴァ様が、あの子を「様」付けで呼ぶの?」

 あぁ、内緒話が聞こえてくる。

 それにしても。シルヴァは、いつの間にか名乗っていたんだね。ハンターなのに、「様」付けで呼ばれてるけど………。

「さぁ、セシル様。行きますよ」

「あ、うん」

 シルヴァに手を引かれて、図書館をあとにした。   


 とうさま達はまだ狩りと採取をしているだろうから、まだ時間があるね。これからなにをしようかな。

 せっかく王都まで来たんだから、ノヴァク自治区の大聖堂でお祈りしていこうかな。 

「シルヴァは行きたいところある?」

「ありません。私はセシル様にお仕えするためにここにおります。ご希望があれば、何なりとお申し付けください」

「うん。ノヴァク自治区へ行こうと思うんだけど、いい?」

「仰せにままに」

 そこまで、かしこまらなくていいんだけどな。


 ノヴァク自治区は、小高い丘の上に築かれた円形の街だ。大聖堂を中心として、教会施設がいくつも建っているエウレカ教の本拠地。だから迷っても、大聖堂を目印にすれば目的地に着ける。ただし、街の造りはとても入り組んでいて、慣れていない者はすぐに迷ってしまう。大聖堂という目印があるのに、方向感覚を狂わされて、気づけば目的地と違う方向に向かっていたりするのだ。

 大聖堂は大きな尖塔がいくつも建ち、アーチ状の入口には聖書の一場面を模した彫刻が飾られている。窓はステンドグラスだ。

「ほぉ。これは見事ですね」

 シルヴァが感嘆の声を漏らした。

「はっ!」

 そういえば、シルヴァは悪魔なんだった。教会に来たりして、体は大丈夫なのかな?

「シルヴァ。わたし、考えなしに教会に来ちゃったけど、体はつらくない?帰ったほうがいいんじゃない?」

「お気遣いありがとうございます。ですが、問題ありません」


 にっこり微笑むシルヴァを見て、無理をしている様子がないので安心した。

「じゃあ、行こうか」

 大聖堂には、女神エウレカの像が飾ってある。一対の翼が生えた、美しい女性だ。衣服の下、心臓があるべき部分に赤く輝く石がはめ込まれている。石の中には、揺らめく2つの炎。何度見ても神秘的で、美しい輝きを放っている。

「あの赤い心臓はヴァルヴレイヴと言って、エウレカ教の信者が崇めるご神体なの」

「なるほど。興味深いですね」

 シルヴァが目を細めて、ご神体を眺めている。


「私も、あなた達に興味があるわ」

 声をかけられるまで、そこに人がいることに気づかなかった。

 はっとして振り向くと、艶めく黒い髪に黒い瞳の美しい女性が立っていた。よく見ると、足の下に影があることがわかる。2センチほど宙に浮いているのだ。年は26歳。ツヴァイ御子と呼ばれる、エウレカ教のナンバー2だ。

「会いたかったわ、セシル」

 そう言って、ツヴァイ御子はわたしを抱き締めた。

「でも、どうしてここに悪魔がいるのかしら?説明してくれるわよね?」

 鋭い目つきで、シルヴァを睨みつけている。


「ツヴァイ!僕を置いていくなんて酷いじゃないか!」

 そのとき、1人の男性が息を切らして駆けて来た。最高位の礼服を着ていて、それが走ったせいで乱れている。

「だってアインス、セシルが来てくれたんだもの。すぐに会いたいに決まってるじゃない」

 アインス………つまりアインス教皇。エウレカ教のナンバー1だ。年はツヴァイより上で、今年44歳。

 アインスはわたしを見て笑顔を浮かべたものの、シルヴァを見て顔をこわばらせた。


「初めてお目にかかります。私、シルヴァと申します。セシル様にお仕えするしもべにございます。以後、お見知りおきを」

「「はああぁぁ~っ?」」

 優雅に挨拶をしたシルヴァに大して、ツヴァイ御子とアインス教皇は盛大に溜息をついた。

「セシル!なんてことをしたの!」

「こいつが何者かわかっているのか?」

「2人とも落ち着いて。説明するから、場所を変えようよ」

「………しかたない。セシル、案内するからついておいで。そこの君も」

 アインス教皇がシルヴァを睨みつけると、シルヴァはにっこりと笑った。

「くふふっ。もちろんです。私がセシル様をお1人にするわけがありません」


 アインス教皇のあとについて行くと、豪華な応接室に通された。ただ、この部屋だけじゃなく、教会の設備はどこも豪華なのだけど。お金が潤沢にあるエウレカ教の本部ならではだよね。

 テーブルを挟んで、アインス教皇とツヴァイ御子と向かい合った。シルヴァはわたしの隣ではなく、後ろに立っている。

「………それで。どういうことなのかしら?見たところ、上位悪魔のようだけど、どうして一緒にいるのかしら?」

「悪魔を使役することが、どれほど危険なことかわかっているのかい?」

「ええと………」

 同時にしゃべられても困るんだけどな。




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