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85 図書館

「今日は、どんな本をお探しですか?」

 受付嬢は、頬を赤く染めながらシルヴァを上目遣いに見つめてきた。

「おや、相談に乗ってくれるんですか。ありがとうございます。マジックアイテムの作り方が知りたいんですが、そんな本はありますか?」

 シルヴァは受付嬢が利用できると思ったのか、ニコニコと愛想を振りまいている。

「まぁ!その本は禁忌の書棚にあります。特別な許可をお持ちの方しかお見せできないんですよ」

 受付嬢は困った顔で、なにごとか考えるように俯いた。

 そのとき、シルヴァがカウンターごしに受付嬢に身を乗り出しなにかを囁いた。

 すると、ほんのり赤かった受付嬢の顔が、ますます赤くなった。

「………わかりました。ご案内いたします。ですがこのことは、どうか秘密にしてくださいね」

「えぇ、わかっていますとも」

 うわぁ。シルヴァが悪い顔をしている。


 受付嬢は、恨めしそうな顔をしているもう1人の受付嬢を受付に残し、図書館の中を案内してくれた。それは奥まった区画にあり、大きく頑丈な扉の向こうにあった。扉には、立ち入り禁止の札もかかっている。

「こちらが禁書のコーナーです。いいですか?1度に中に滞在できる時間は2時間までとなっており、当然、本の持ち出しはしてはいけません。もし、この禁止事項を破ろうとすれば警報が鳴り、扉が施錠されます」

「わかりました。これ以上、あなたにご迷惑をおかけすることのないよう、細心の注意を払います」

「わたしは受付に戻らないといけないので、ここで失礼しますが。くれぐれも注意してくださいね!」

 最後の注意は、わたしに向けられていた。


 受付嬢はわたしを睨みつけたあと、さっと顔をシルヴァに向け、名残惜しそうに微笑んでから去って行った。

 この短い時間で、シルヴァはすっかり受付嬢の心を掴んだらしい。

 その気になれば、とうさまにもできるのかな?でも、とうさまが笑顔を振りまく姿は想像もできない。うん。無理だね。

 レイヴにも無理だろうなぁ。レイヴはイケメンだけど、まだ若いし、受付嬢のお姉さんのお眼鏡にはかなわない感じがする。

 あのお姉さんは、シルヴァみたいな美しい男性が好みなんだろう。


 シルヴァが扉を開けて、わたしに入るよう促した。そして、わたしに続いて中に入る。これが、レディーファーストというやつか!

 余計なことに気を取られながらも、わたしの目は膨大な量の本に奪われていた。天井まである本棚に、びっしりと本が並んでいる。どれも見事な装丁だ。この量の本の中から、どうやって目的の本を見つけたらいいんだろう?しかも、使える時間はたった2時間しかない。

 隣を見ると、シルヴァがものすごい早さで本の背表紙に目を走らせていた。もしかして、この距離で本のタイトルを読んでいるの?しかも、このスピードで?

「セシル様、少々お待ちください。すぐに目的の本をお持ち致します」

 そう言って、シルヴァは本棚の列の中を歩いて行った。

 少しして、両手に本を抱えたシルヴァが戻って来た。


「お待たせ致しました。そこのテーブルでお読みください」

 禁書コーナーには、1つの丸テーブルが置かれていた。テーブルの周囲には椅子が置かれている。その1つに腰かけ、本を読み始めた。

 隣の椅子の腰かけたシルヴァを見ると、彼も本を読んでいた。というより、パラパラとページをめくって見ては、次の本に手を伸ばすことを繰り返していた。「速読」、というのを聞いたことはあるし、わたしも早いほうだと思う。でもこれは、早いという表現を超えている。あっという間に、テーブルに積まれた本を読み終えてしまった。

「まだ時間がありますね。私はもう少し、読書をして参ります」

 そう言って、シルヴァは本の海に消えて行った。

 わたしは、自分にできるかぎりのスピードで本を読んでいく。どれもおもしろく、時間はあっという間に過ぎて行った。


 シルヴァが本を元に戻してくれたあと、そっと部屋を出た。

 受付の前を通ると、さっきの受付嬢がすぐにシルヴァに気づいた。

「さきほどはありがとうございました、メル。あなたのおかげで、大変、有意義な時間を過ごせました」

 いつのまに名前を聞いていたんだろう?

 シルヴァがさりげなく受付嬢の名前を呼ぶと、彼女は受付から出てきてシルヴァの手にメモを握らせた。

「連絡を待っていますね」

 これはわたしにもわかる。受付嬢メルは、シルヴァに色目を使っている。

 シルヴァはわかっていますというふうに頷いて、メルの肩をぽんぽんと叩いた。 

 まるで、デートの約束をしているみたい。

 そう思ったのはわたしだけじゃないようだ。もう1人の受付嬢が、メルを射殺しそうな目で睨みつけている。                   


 女って怖い!目だけで、人を殺せそうだよ。

 シルヴァは平然としている。さすが悪魔!視線くらいでは、ちっとも動じない。こういうのを、心臓に毛が生えているっていうのかな。


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