84 ハンター試験2
わたしもハンターになって1年経ったし、昇給試験を受けたほうがいいのかな?でも、急いで昇給試験を受ける必要もないし、オ・フェリス国に帰ってからでいいかも。うん。そうしよう。
「セシル、どうかしたか?」
「あ、ちょっと考え事してたの。わたしもそろそろ昇給試験を受けようかなって」
「ただの身分証だろう?べつに、いまのままでもいいんじゃないか?」
「そうなんだけど。わたしはFだから。あまりハンターランクが低いと、依頼者からなめられることがあるの。それは嫌だから、Eくらいにはなっておきたくて」
「ふうん」
「あ、でも、急がないからね。昇給試験はオ・フェリス国に行ってから受けるよ」
「オ・フェリス国になにがあるんだ?」
「知り合いの試験官がいるの。公平に判断してくれるし、目立つことしても見逃してくれるから安心なの」
じつは、わたしはハンターになる前から、時々とうさまについて森で狩りや採取を行っていた。だから、オ・フェリス国の王都のハンターギルドでは、ちょっと知られた存在だったんだよね。
幼い頃からハンターギルドを出入りしていたから、当然にようにスキップ申請をするものと思われていた。断ったときは、それはそれは驚かれた。
だけど、考えてもみて?10歳になったばかりでDランクだったら………間違いなく目立つでしょう?ずっとオ・フェリス国で過ごすならともかく、旅に出ることが決まっていたとうさまとわたしがいらない注目を集めることは目に見えている。そんなのは嫌だったの。
もうすぐ冬になるオ・フェリス国の王都は、やがて雪と氷に包まれる。冬の期間が長い分、家の中での過ごし方に長けているのがオ・フェリス国の民なの。学者も多いんだよ。そして変人も。南北に長い国土を持つオ・フェリス国では、季節によって遊牧民が大移動をする。そうして家畜を守り、1年を通して食肉を提供してくれる。南には、広大な穀倉地帯もある。おかげで、長い冬も輸入に頼らず生活ができるんだよ。
懐かしいなぁ。オ・フェリス国では魔獣のルオがいたから、冬でも移動に困ることがなくて、凍った森で狩りをして楽しんだものだよ。
でもいまは、ロキシー達がいるから、冬の王都へ向かうのはためらわれる。どう考えても、馬には寒すぎるもの。南の町に預けて、わたし達はレイヴに運んでもらうのがいいかもしれない。
おっとっと。その前に、ル・スウェル国でできることをやらなくちゃ。
まずは、依頼ボードと情報ボードを眺めて、情報収集だ。
情報ボードには、「活性化していた盗賊の動きが沈静化しました。安心して旅をしてください」と書かれていた。
カー・ヴァイン国だけじゃなく、ル・スウェル国でも盗賊が活性化していたんだね。でも、ル・スウェル国の民は色素が薄い方だから、黒髪黒目はなかなか見つからなかっただろうなぁ。
たぶん、悪魔召喚の儀式が失敗に終わって、生贄を集めるのを中止にしたんだろう。
ええと。それから………?う~ん、おもしろい依頼はないなぁ。
「とうさま。少し狩りと薬草採取をして備蓄を増やした方がいいよね?」
孤児院に寄付をしたから、食料の備蓄が減っている。いまの季節しか手に入らない薬草もあるし、少し森に入ったほうがいいと思う。
「そうだな。だが、それは俺達でやっておく。おまえはシルヴァと図書館へ行ってくるといい」
「「えっ!」」
レイヴとエステルが抗議の声を上げた。
「おまえ達は、俺と一緒に行くんだ。特にエステル。おまえには、色々と学んでもらうことがあるからな」
「わかった。俺はエステルのお守りってわけだな」
「ご迷惑おかけします。レイヴ様、よろしくお願い致します」
すっかりメイドになったらしく、エステルがレイヴに一礼した。
宿屋を決めてから、とうさまはレイヴとエステルを連れて出掛けて行った。
先に合流場所を決めておかないと、あとで後悔することになるからね。
わたしは、にこにこ顔のシルヴァと2人で図書館に出掛けた。
ここ、ル・スウェル国王都の図書館は、石造りの立派な建物だ。石造りなのは、火事で貴重な本が燃えないようにするためだ。そもそも、近くに堅牢な石の採石場があり、この街では石造りの建物が多い。
隣のノヴァク自治区は、建物を軽くするためと、より多くの建物を作るために木造になっているけどね。
図書館は貴重な本を保管しているので、入館料だけで銀貨3枚もかかる。中で本を読む分には追加料金はかからないけれど、借りるためにはさらに銀貨3枚払わないといけない。馬鹿高いのだ。
図書館の受付でわたしが入館料を2人分払うと、赤毛の受付嬢はシルヴァにうっとりと目を奪われながら「中へどうぞ」と言ってくれた。
わたしはすでに見慣れたけれど、シルヴァは男にしておくには勿体ないほど美しい容姿をしている。見とれてしまうのも無理はない。
さらには、シルヴァはとうさまと違って愛想がいい。受付嬢が自分に好意を抱いていることに気づくと、にっこり微笑んで見せた。
すると、受付嬢は顔を赤くしてしまった。




