83 ハンター試験
「さぁ、ハンター登録に行きますよ」
シルヴァはエステルの襟首を掴んだまま、力づくでエステルを立たせた。そしてそのまま、受付カウンターへ歩いていく。
「わ、わかったから離して!この悪魔!」
引きずられている形のエステルが抗議した。
しかし。ちょっと、いまのは言い過ぎだよ。まわりはただの比喩表現だと思ってくれているけど、そのまま悪魔と呼ぶなんて………エステルは学ばなければいけないことが多いみたいね。
「それではセシル様。試験とやらを受けて来ます。なに、セシル様のお手を煩わせるまでもありません。わたしが、この娘の面倒をしっかり見ますので、セシル様はこちらでお待ちください」
そう言われると、試験に付き添うとは言いづらい。
それに。いつもにこやかなシルヴァには珍しく、イライラしてるようだ。笑顔が引き攣っている。
「うん。やり過ぎないでね」
シルヴァは、なにをさせても完璧だ。こう言っておけば、悪目立ちすることはないだろう。
「くふふっ。わかっておりますよ」
シルヴァはエステルを捕まえたまま、優雅に一礼をして見せた。侍従が主人にする礼だったけれど、まるで貴族の礼のように美しい。顔も綺麗だし、絵になるよ。
どっか~ん!
ぼかっ!
がきんっ!
飲食スペースで待っていると、ハンターギルドの裏庭にある訓練場から、なにやら派手な音が聞こえて来た。
「あいつ、ずいぶん派手にやってるみたいだな」
「うん」
やり過ぎないよう言っておいたのに!
訓練場に行くべきかな?でも、それじゃあ、一旦シルヴァに任せたのに、結局は彼を信用していないってことになってしまう。
気になるけど………ものすごく気になるけど、ここで待つしかない。
少しして、満足そうな顔のシルヴァと、少々疲れた顔のエステルがやって来た。
「あ、セシル様!聞いてください。大変だったんですよ!」
えっ?エステルが敬語になってる!
「エステル、なにがあったの?」
「シルヴァ様が………うぅっ………ひどいんですぅ………ひぃっ」
こんなキャラだったっけ!?
なにに怯えたのかと不思議に思って顔を上げると、シルヴァがにこやかな笑みを浮かべていた。
「私がどうかしましたか?」
「いえ!なんでもありません!」
エステルはびしぃっと背筋を伸ばして立った。
「シルヴァ、エステルになにをしたの?」
「くふふっ。ちょっとした教育ですよ。私にお任せください、立派なメイドにしてみせます」
「えっ!?なぜメイド?わたしはそんなこと望んでいないよ。ただ、もふもふの友達が欲しかっただけで………」
「セシル様がお望みなら、エステルと親しくしてかまいません。ただし、あの娘のためにも、メイドになることは必要です。なぜなら………」
シルヴァの言い分はこうだ。
エステルはこの世界の常識に疎く、自分の力のコントロールもままならない。このままでは足手まといである。甘やかすことは可能だが、それはエステルのためにも、わたし達パーティーのためにもならない。エステルの将来を潰すことにもなりかねない。なぜなら、彼女は高い潜在能力を秘めているのに関わらず、その使い方を知らず、正しく教えられる者もいなかった。それは不幸である。友達という枠の中で接するなら、互いに甘えが出て、学ぶ姿勢が崩れる。得られる知識と能力が低下し、満足度も低下する。つまり、この選択はエステルのために他ならない。
「おわかりいただけましたか」
「うん」
シルヴァが、エステルのことを考えてくれていることはわかった。
「だけど、メイドにすることはないんじゃないの?」
「あぁ、それはですね。エステルはセシル様の臣下ですから。お仕えする以上、立場というものをわきまえさせた方がよろしいかと愚考いたしました」
使役契約を結んだ以上、上下に立場ができるのはしかたない。………のかなぁ。
「エステルはそれでいいの?」
「はい。いえ、まだ戸惑っていますが、納得しています。これでいいんです」
しかし、エステルのこの豹変ぶり。この短い間になにがあったんだろう?
ちらりとシルヴァを見ると、目が合って、にっこり微笑まれた。聞くのが怖い笑顔だ。
うん。無理に聞き出すことはないし、このままにしておこう!
そういえば。2人はハンター証をもらえたんだろうか?
「シルヴァのハンターランクは何だったの?」
「くふふっ。私はDランクです。エステルはEランクでした」
「なるほど」
予想通りだね。
ハンターのランクはFランク~Aランクとなっていて、登録時だけ受けられるスキップ申請は最高でもDランクまでとなっている。いくら戦闘力が高くても、それ以外の部分でベテランハンターよりは劣ると見做されて、昇給試験を受けないと上のランクには上がれないようになっているのだ。
シルヴァの能力が高いことはわかっている。だから、当然Dランクだと思っていた。
エステルは、火球を見たあとはFランクだろうと思っていた。なので、Eランクと聞いて驚いた。シルヴァが、指導でもしたのだろうか。
執筆スピードががくんと下がりまして、最近、ちっとも書けないんです。ですから、投稿ペースを落とします。すみません。