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82 職業

 ル・スウェル国の王都へやって来て最初に行うのは、エステルにハンター証を作ることだ。これがないと、身分証がなくて、街の出入りにも困ることがあるからね。

 それから、図書館へ行ってマジックアイテム作りに関する本を読みたい。できれば王宮内の図書館に行きたいけれど、あそこは貴族じゃないと入れないから諦めるしかない。代わりにマジックアイテムを作る魔術師に会いたいけれど、それも難しいだろうなぁ。だって、コネがないとそんなすごい魔術師に会う機会なんてないもの。

 つまり、わたしは一般に公表されている情報しか手に入れることができない。こういうときは、一介のハンターであることが悔しくなる。

 だからと言って、「じつはレ・スタット国の姫です」などと名乗り出る気はない。そんなことしたって、母さんと同じようにチャールズ王に命を狙われるか、利用されるかの2つの道しかないもの。いままでみたいな、自由な暮らしはできなくなってしまう。そんなのまっぴらよ。


 かららん


 ハンターギルドへやって来ると、一旦集まった視線がすぐに元に戻った。

 やったぁー!これまで幾度となく注目を集めて来たけれど、やっと普通のパーティーとして認識されるようになったんだね。うんうん。

 年齢はバラバラだけど、剣士が2人でしょ。それから………あれ?

 ちょっと待って!

 シルヴァの職業ってなんだろう?以前は執事姿だっただけど、お願いしてからハンター姿になっている。腰には、細身の剣を佩いていて、剣士に見えなくもない。でも、悪魔は魔法が得意と聞くし、そうなると護身用に剣を佩いた魔術師ということも………。それとも、なんでもできそうだから魔法剣士かな?

 エステルの服装は、綺麗だけど戦闘向きとは言えない。武器も身に着けていない。フェンリルのときはずいぶん強そうだったけれど、人型のときは戦いが苦手なのかも。だったら無理させちゃいけないよね。


 飲食スペースに皆を誘って、気になっていたことを確認することにした。

「シルヴァとエステルもハンターとして登録してほしいんだけど。職業はどうしよう?2人とも、希望はある?」

「職業は執事でかまいません。むしろ、執事として働きたいです」

 いやいや!それはハンターの職業じゃないから!

「シルヴァ。残念だけど、ハンターに執事という職業はないよ。他に、なりたい職業はないの?剣士とか、魔術師とか」

「そうですね。確かに、私は剣も魔法も嗜んでおりますが………両方というのは欲張りでしょうか」

「そんなことないよ。じゃあ、シルヴァは魔法剣士ね」

 よし、これで1人目は片付いた。

 あとはエステルだ。


「エステルは………魔術師………?」

「なんで疑問形なの。あたしは武闘家だよ」

「そんな動きづらい恰好でか?」

 思わずレイヴが呟いた。

 エステルの服は薄い布が何枚も重なっていて華やかだが、その分、動きが制限される。どこに服を引っかけるかわからないしね。

 それに、エステルは体が細い。戦いになったときに、男相手に組み伏せることができるのだろうか?見かけによらず、力があるのかな?


「エステル、わたしの手を握ってくれる?」

「いいよ。なにす………きゃあ!」

 エステルの手を握った瞬間、腕を引きながら手首を捻った。たったそれだけで、彼女は体のバランスを崩して床にしゃがみ込んだ。重心の取り方も、体幹もなっていないし、力が弱すぎる。

「これは………」

 本当にフェンリルか?

 とうさまが、そう言葉を続けようとしていたのがわかった。


 わたしは、しゃがんでエステルと視線を合わせる。

「ねぇ、エステル。魔法は使える?」

 エステルはわたしをちらりと見たあと、顔を下げた。

「………何度も練習したけど、この姿のときは、力のコントロールがうまくできないの」

「うん」

「だから、使える魔法もこのくらい」

 そう言って、エステルは立てた人差し指の先に直径10センチほどの火の玉を出した。わたしが作り出せる火球より小さく、そして揺らいでいて不安定だった。

「そっか」


 フェンリルは氷の上位精霊だけれど、生まれながらになんでもこなせる生物なんていない。どんなに優れた力を持っていても、使い方を学ばなければ、その力は宝の持ち腐れも同然だ。これまで、いい師匠に出会えなかったのかもしれない。だけど、知らなければ学べばいい。弱ければ鍛えればいい。

 すでに消していたけれど、さっきの火球だって、初心者魔術師としては上出来だ。

「大丈夫、わたしが訓練に付き合うよ。一緒に、力の使い方を学んで行こうね」

 にっこり笑いかけると、エステルは泣きそうな顔でわたしを見つめて来た。


「あたしを見捨てないの?」

「もちろん。わたし達は友達でしょ」

「ありがとう!」

 エステルがポロポロと涙をこぼしながらわたしに抱きつこうとしたところで、シルヴァにがしっと襟首を掴まれた。

「むやみにセシル様に触れるのはおやめください」

 えっ、いまのは止めなくてもいいんじゃないの?

 「むやみに」って言うなら、わたしと添い寝してくるとうさまやレイヴに使うべき言葉じゃない?


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