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80 王都脱出

 さて。望み通りフェンリルを手に入れて、わたしは大満足!

 ベッドに腰かけて、膝の上に乗せたエステルレンの体を撫でていた。

 エステルレンは気持ちよさそうに目を閉じて、体を伸ばしている。

「そういえば、エステルレンって名前が長いから、エステルって呼んでもいい?そのほうが可愛いよ」

「かっ、可愛い?それなら………うむ、かまわん」

 ふふふっ。わざと偉ぶった話し方も、無理をしている感じが可愛い。

「その話し方もいいけど、もっと楽な話し方にしてくれていいよ。わたし達、友達でしょ?」

「なっ、なっ、なんだと?友達?主従の関係じゃ………ない、の?」

「そうだよ。契約はしていても、わたしとエステルは友達。だめかな?」

 エステルはわたしの顔を見上げ、顔をぶんぶんと激しく横に振った。

「友達、いい!」

 納得してくれたようでよかった。


「…俺は、今夜にでも王宮に忍び込んで様子を伺ってくる。あれからどうなったか気になるからな。シルヴァ達は、ここでセシルを守ってくれ」

 とうさまに言われ、シルヴァは鷹揚に頷いた。

「行くのは、どうせ深夜でしょう?その前に、少し食べておこうよ」

「あぁ。少しだけな」

 1階の食堂へ降りて行くと、エステルを見とがめられた。

「あっ、犬を持ち込んだらだめですよ!部屋が毛だらけになるじゃないですか!」

「大丈夫ですよ。この子は毛が抜けないんです。ね?」

 受付兼ホール係の少女に、エステルを見せた。

 精霊だから、エステルは毛が抜けないんだよね。

「えっ、う~ん、そう言われれば、そんな感じがします。でも!この宿屋は動物の持ち込み禁止です!出て行ってください」


 それがこの宿屋の方針なら仕方ない。

 空腹を抱えたまま宿屋を追い出され、いまから他の宿屋を探すのも面倒なので、王都の外で野宿することにした。

 王都を出るときに門番にそう説明すると、同情された。

「そんな可愛い犬1匹くらい、見逃してくれたっていいのにな。ルールに厳しい宿屋に当たって残念だったな」

 王都の出入りが禁じられたのは、そのすぐあとだった。

 わたし達が門から離れたところで、騎馬兵がやって来て門を閉めるように指示をしたのだ。

 もう少し遅れていれば、王都内に閉じ込められていたかもしれない。そうなると、宿屋を追い出されたのは運がよかったと思える。

 とうさまが王宮の様子を探れなくなったけどね。


 王都が暗闇に紛れて見えなくなるまでル・スウェル国側へ進み、野営の準備をした。とうさまとシルヴァが手際よく作業を進める姿を、エステルが興味深そうに眺めている。

 わたしは、そっとエステルに近寄り話しかけた。

「エステルは、人化の術は使える?狼の姿も素敵だけど、人型になれると便利だよ」

「えぇ、できるわ。見てて」

 

 ぼひゅんっ


 エステルがいた場所に現れたのは、1人の少女だった。釣り上がったブルーの目に、ショートカットの白い髪。そして13~14歳頃に見える、細身の体は真っ白い衣装に包まれていた。戦闘には不向きだけれど、北国で見る布を何枚も重ねたような衣装だ。

「人型も可愛いね。服もおしゃれだし、エステルのセンスはいいね」

「ほ、褒めてもなんにも出ないわよ!」

 照れてる姿も女の子らしくて可愛いらしい。

 わたしは子供の頃からとうさまべったりで、なかなか友達ができなかった。特に、とうさまのファンの女の子達からは嫉妬が激しく、とても一緒に遊べる雰囲気ではなかった。だから、女の子の友達ができて嬉しい。


 寝るときはエステルに狼の姿になってもらい、抱き締めて眠った。暖かいぬいぐるみを抱き締めているみたいで気持ちよかった。

「………ル………セシル様っ」

「うんっ………?」

 起こされるなんて久しぶりだ。なにかあったのかな?

 眠い目をこすりながら起きると、シルヴァが申し訳なさそうに跪いていた。

「起こして申し訳ありません。ですが、レ・スタット国軍が出てくる前にここを出発しないといけません。さぁ、顔を洗って準備をしてください」

「うん。ふわぁ~。わかったよ」

 いつもみたいに、思う存分寝たときと違って、なかなか眠気がとれない。

 シルヴァに手を引かれてテントから出ると、すぐにとうさまとレイヴが後片付けを始めた。


 両手に水魔法で水を溜めてバシャバシャと顔を洗うと、ようやく目が覚めてきた。

「よし、皆準備はいいか?」

 テントを片付け終えたとうさまが声をかけると、人型になったエステルが頷いた。

「それで、わたしはどの馬に乗ればいいの?」

「ガルダにジークと相乗りしてくれ」

 これで、ロキシーとガルダが相乗りになってしまった。いくら身体強化の魔法をかけると言っても、負担は大きいと思う。馬を増やすか、移動手段を考え直すときが来たのかもしれない。

 だけど、馬以外の移動手段というと、レイヴかエステルに乗せてもらうしか思い浮かばない。それは目立ちすぎるからだめ。

 ロキシー達はどこにでもいるふつーの馬だから、駿馬や軍馬のように優れた馬に乗り換えたら、相乗りしても馬への負担が軽くてすむよね。でも、これまで一緒に来たロキシー達に愛着がある。少なくとも、オ・フェリス国まではロキシー達と一緒に行きたい。

 


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