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78 召喚の儀式

 そのあとは、とうさまとシルヴァで打合せ。

 そしてわたしは、レイヴに精霊について色々と質問した。シルヴァに精霊について教わってから興味が湧いてきたの。

 レイヴの一族が住んでいる火山には、サラマンダーが住んでいるんだって。召喚しなくても会えるなんていいね。

 そんなことをしながら、わたし達は花火大会の日を迎えた。

 花火大会が行われるのは夜だ。王宮に入れるようになるのは夕方になってからなので、それまでは宿屋で過ごした。


「…さて。そろそろ行こうか」

 とうさまが立ち上がり、結界を解いた。

 戦いになったときのために、夕食は食べていない。

 今日は、王宮で国民をもてなすために、ダンスホールなどを解放して食事ができるようになっているらしい。平民はその食事や、普段はできない王宮見学を行うために早めに王宮へ行くだろう。

 おそらく1番込むだろうと予想される時間帯に、他の平民と一緒に王宮へ入るための列に並んだ。おかげで、中に入るまでに予想以上に時間を使ってしまった。


 中に入って物陰に隠れると、とうさまが認識阻害の魔法をかけてくれた。軽度だと誰だかわからなく程度だけど、強度だと存在自体が認識されなくなる。隠密活動には必須の魔法だ。問題はお互いの存在も認識できなくなってしまうところだけど、そこはお互いに糸を掴んで離れないようにして対処することにした。

 もし途中ではぐれてしまっても、1人で儀式の間へ行けるよう道順を教えてもらっている。

 そして迷子になってしまったら、迷わず王宮を出ることになっている。脱出するだけなら、壁を乗り越えればいい。


 召喚が行われる儀式の間へ到着し、カーテンの後ろに身を隠したとき、術者達が儀式の間へ入って来た。

 1人が、床に描かれた魔法陣に異常がないかチェックしている。

 他の者達は魔法陣を囲むように陣取り、その場で固まったように動かない。口が動いているので、呪文の確認でもしているのかもしれない。

 魔法陣の確認が終わったあとに、ガチャガチャと鎧がぶつかる音がして騎士と兵士が入って来た。

 兵士の1人に見覚えがあった。フォタリだ!

 フォタリや他の兵士達は、不安そうな表情をして騎士のあとをついて歩いている。

「おまえ達は、そこの円の中に入るんだ。なぁに、心配することはない。新人兵士はみんなこの祝福の儀式を受けるんだよ。早く終われば、花火を見る時間もあるさ」

 そう言って、騎士は5人の兵士達を魔法陣の中に立たせた。

 祝福の儀式、ねぇ。生贄として用意しておきながら、ずいぶん優しいことを言うのね。


 どうやら、チャールズ王は立ち会わないらしい。「宰相閣下」と呼ばれる壮年の男が室内に入って来ると、がちゃりと部屋の鍵が閉められた。

 自然と、兵士5人組みの顔がこわばる。

「それでは、始めてくれ」

 宰相の声を合図に、術師達が呪文を唱え始めた。

 術者の呪文に反応した魔法陣が、わずかに光り始める。

 それと同時に、シルヴァはわたしの手を取った。わたしから魔力を受け取るためだ。わたしの魔力を魔法陣に流し、素晴らしい手際で魔法陣を書き換えていく。すべてを書き換えてしまうと魔法陣の異変に気づかれてしまうので、最低限の部分だけ書き換える予定だ。

 魔法陣は特殊なインクで描かれていたらしく、その下に魔力をもぐり込ませて、こちらの望む結果を導くよう魔法陣を書き換えていく作業は、緻密で気の滅入るような作業だ。

 これらのことを、この場にいる全員に気づかれないよう行わなければいけない。

 シルヴァの技術の高さを見せつけられて、溜息が漏れそうだった。


 魔法陣の輝きが強くなり、いよいよ呪文も終盤となったとき、シルヴァに流れる魔力が多くなった。やっぱり、術者の魔力だけではフェンリルを召喚することができなかったのだ。

 とうとう術者が最後の呪文を唱えたとき、書き換えられた魔法陣が激しく輝いた。そのときになってようやく術者達は異変に気づいたけれど、騎士や宰相は魔法に詳しくないのだろう。悪魔召喚が成功したと思っているのか、顔が輝いている。

 これが悪魔召喚なら、契約が完了するまで油断はするべきじゃないと思うけどね。この場にいるチャールズ王側の人間全員が、悪魔に食い殺されてもおかしくないんだから。

「閣下!これは、私共が描いた魔法陣ではありません!なにが起こるかわかりません。騎士達は、閣下をお連れしてこの場から離れるんだ!」

 術者のリーダーの声に、宰相は顔を青くした。

「閣下、急いでこの場から逃げましょう!」

 騎士に言われ、宰相は扉の鍵を開けてもらい、外へみっともなく駆け出して行った。


 よかった。目撃者は少ないほうがいい。

 笑いそうになるのをこらえた。

 そのとき、魔法陣の上にある空間が歪み、怯えた兵士達が頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 亀裂から現れたのは、雪のように白い毛並みの美しい獣だった。氷雪の魔狼、そう呼ばれるの相応しい。その体躯は、鼻先から尻まで8メートルほど。広いはずの儀式の間が狭く感じる。

 フェンリルは毛が膨らみ、耳がきょろきょろと動き、しっぽは上がっている。警戒している証拠だ。


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