74 悪魔の強さ
「そうですか。よくわかりました。お話ありがとうございます」
もう、聞き出せる話はないと思う。ぺこりと頭を下げて、ポーチから金貨を1枚取り出した。
それを見たイコラ院長とココちゃんの目の色が変わった。
「そんなにいただけるので!?」
「はい。お話のお礼です」
ココちゃんが金貨に飛びついて、金貨にかぷりと噛みついた。
「あははっ。確かめなくても、本物だよ」
本当はもっとあるけれど、大金は逆に危ない。強盗に襲われたら簡単に奪われてしまうし、もっとお金があるんじゃないかとつけ狙われるかもしれない。こういう孤児院には、お金より物を寄付するほうがいいの。
宿屋に戻って、1階の食堂で食事をしている間も、とうさまは戻って来なかった。
清浄魔法を使ってからベッドにもぐり込むと、ここまでの疲れからかすぐに眠くなった。あ、違う。わたしって、小さい頃からすごく寝つきがよかったんだ。
ウトウトしながら眠気と戦っていると、シルヴァがそばに来て手を握ってくれた。
「眠れるときは、寝ておくものですよ。ニキとは、明日話せばいいでしょう」
なぜか、わたし以外には様をつけないシルヴァ。
あの、祈りの間でシルヴァが現れたとき。自信はないけれど、わたしはシルヴァを召喚し契約を交わしたらしい。それ以来、わたしにはとくかく丁寧に接してくれる。彼の力がどれほどのものかわからないけれど、戦闘になったときに仲間の戦闘力がわからないのは不安だな。
悪魔には、ハンターみたいに強さを現す呼び方みたいなものはないのかな?Fランク~Aランクみたいな。
「お考え事ですか?セシル様」
「うん。悪魔にも、強さを現す呼び方はあるの?」
「あぁ、そのことですか。人間の貴族の呼び方と同じく、公爵から男爵までの5段階がありますね。その下の準男爵や士爵も。ちなみに、私は公爵級悪魔です」
「はっ?」
「公爵級悪魔です」
大事なことなので、2度言いましたってこと?
びっくりし過ぎて、眠気がどこかへ行ってしまった。
体を起こして、まじまじとシルヴァを見つめた。
シルヴァが強いことは、なんとなくわかる。それが、どの程度なのかわからないだけで。
貴族と同じ呼び方と言うことは、公爵の上には王がいるのだろう。逆を言うと、シルヴァは悪魔の王の次に強いということだ。
「悪魔は、こちらの世界に渡る時に能力を制限されます。悪魔界での強さそのままというわけにはいきません。ですが、セシル様のお役に立てる能力は十分有していると自負しております」
「なるほど」
シルヴァが、とっても有能な悪魔ということはわかった。
チャールズ王が行う召喚の儀式で現れる悪魔をひねり潰すと言ったことは、大げさな表現じゃなかったんだね。
でも、そうなると、イヴェントラの強さはどれくらいなんだろう?やっぱり公爵級なのかな?
わたしの考えを読み取ったのか、シルヴァが教えてくれた。
「イヴェントラは伯爵級悪魔ですよ」
「えっ?でも、それじゃあ………」
「私は、育てるのが好きなのです。それに、伯爵級とは言え、あの娘は力の使い方が上手なんですよ。実力以上の力を発揮したり、うまくパフォーマンスして見せることができるでしょうね」
そうなんだ。実力以上の力を発揮できるなんてすごいな。わたしは、いつも身体強化の魔法に頼っているから、まだまだ実力不足だよ。もっと鍛えないといけないね。
「セシル様は潜在能力が高いので、まだ十分、伸びしろがありますよ。お育てするのが楽しみです。くふふっ」
やった。まだ成長できるんだね。
そうだよね。まだ11歳なんだから、身長も胸も成長するだろうし、身体能力や魔力だって上がるよね!魅力的な大人の女性になりたいなぁ。ふふふっ。想像するだけならタダだもんね。
「ご満足いただけたようでなによりです」
笑顔になったわたしを見て、シルヴァが嬉しそうに微笑んだ。
「………ちっ。公爵級じゃ、手出しできねぇ………」
「えっ?レイヴ、なにか言った?」
「いや、なんでもない」
「ふぅん」
なにか聞こえた気がしたんだけどな。
レイヴはどこか機嫌が悪そうで、シルヴァはご機嫌だ。
「おや。ニキが帰って来ましたね」
そう言って、シルヴァがパチンと指を鳴らした。いつの間にか、結界を張っていたらしい。
結界が解けて、とうさまが部屋に入って来た。
「セシルも起きていたか。眠くないか?」
「ううん大丈夫。いま、話を聞きたい。どうだったの?」
「そうだな。まずは座ろうか」
それぞれがベッドに腰かけると、とうさまが結界を張ってから切り出した。
「…先に、おまえ達が掴んだ情報から聞こう。俺の話はそのあとだ」
「ええと、チャールズ王は新規に兵士として募集している中から、黒い目の男を5人集めていたの。全員の髪を黒く染めさせているよ。グラン伯爵館で子供達の世話係だったフォタリのその中に含まれているの。いまは5人とも王宮の兵舎に泊まり込みで訓練をしていて、部屋は同室。2日後の満月の夜は、王宮で花火大会が企画されているって」
「わかった。フォタリのことまではわからなかったが、概ね俺が仕入れた情報と同じだな。俺は王宮に忍び込み、召喚の儀式が行われる場所を特定した。術者を15人も確保し、王宮内に部屋を与えて丁重に扱っていた。術者達は、貴重な戦力を呼び出すのだと説明され、集められたようだ」