72 王都へ向かって2
寝るときは団子状になるかと思いきや、シルヴァは「セシル様のお邪魔になりますから」と言って離れてくれた。それだけじゃなく、とうさまとレイヴにも離れて寝るように言ってくれた。いや~、助かった。と思うのは夜だけで、朝になると、やっぱりとうさまとレイヴがぴったりとくっついている。わたしが起きるのを待って、シルヴァが2人をわたしから引き離すということが繰り返されていた。
2人の言い分はこうだ。
「日中、離れているんだから、夜くらい一緒にいたい」
それだったら、もう少し離れてくれてもいいんじゃないだろうか。
朝食を食べて後片付けをすると、さっそく出発することにした。
いつものように、ロキシー達に身体強化の魔法をかけて出発だ。
ロキシーに跨ると、後ろからシルヴァがわたしの体を支えるため腕を伸ばしてくる。鞍が1人用しかないので、支えてもらわないとバランスがとれないのだ。
とうさまとシャンティが出発すると、そのあとについてシルヴァとロキシーが続き、最後にレイヴとガルダが続く。
シルヴァの操縦術が見事で、しかも、あまりにも安定感抜群の支えなので、気が付くとウトウトしている。
「セシル様、どうぞお休みください。私がおりますので、落馬の心配はいりません」
睡魔が、シルヴァに対する警戒心を奪っていく。だめよ。いくら丁寧でも、彼は悪魔なんだから、しっかりしないと………。そう思いつつ、気持ちよい揺れが眠気を誘ってくる。
「くふふっ。意地を張るセシル様も可愛らしいですが、休めるときに休むのも大事ですよ」
その言葉に堕ちた。
そんなことを繰り返しながら、無事にレ・スタット国の王都に着いた。
ロキシー達を預け、宿屋を取り、まずは情報収集だ。
とうさまは1人で情報収集へ向かい、わたし達はハンターギルドへ向かった。
かららん
ギルド内の視線が集まり、元にもど………らなかった。
そりゃそうだよね。若いハンター2人に執事のパーティーなんて、異様だよね。
情報ボードを見ると、まだ兵士募集をしていた。やっぱり、戦争の準備なんだろうか。
いったい、どこと戦うための戦力なんだろう?
依頼ボードにもおもしろい依頼がなかったので、前回、王都へ来たときに行った孤児院へ向かった。
フォタリとココは元気にしているかな?
そう思っていたのに、孤児院は前回、来たときよりもさらにボロボロだった。きれいに手入れされていた花壇も踏み荒らされている。誰かに嫌がらせをされているのだろうか?
そこまで考えて、グラン伯爵のことを思い出した。丁重に扱っていたとはいえ、生贄となる子供達を捕らえていた男だ。子供達を奪われて、怒って弱い者いじめをしたとしてもおかしくない。
それにしても、孤児院へ被害が及ぶとは考えていなかったよ。
なにか、わたしにできることはないかな?
なにかあった場合に備えて、お金はいくらか持っている。でも、お金を渡して解決することじゃないと思う。それより、物を寄付したほうがいいよね?
今度はとうさまも一緒に来てもらおう。とうさまのマジックバックには、なんでも入っているからね。
とうさまと合流してから、明日、出直そう。そう思ったとき、声をかけられた。
「あ、このあいだのお姉ちゃん!」
振り向くと、ココちゃんがいた。
ココちゃんは茶色の髪に茶色い目をしている。チャールズ王が集めている生贄とは色が違っている。
「フォタリお兄ちゃんね、兵士に採用されて、王宮でお仕事してるんだよ。すごいでしょ!」
「えっ」
グラン伯爵の館で子供達の世話係をしていたフォタリが、今度は王宮に?本当に、兵士として採用されたのだろうか?たしか、フォタリは茶色い髪に黒い目をしていた。………まさか!髪を染めて、黒髪黒目にした?初めから、世話係などではなく、生贄にするつもりだったとしたら?
「ねぇ、ココちゃん。フォタリに変わったところはない?」
「う~ん。王宮でお仕事を始めてから、王宮で暮らしてるからよくわからないの」
「そっか。会えなくて寂しいね」
「うん。でね、お仕事が決まったときに、髪を黒くするように言われたの」
「やっぱり!」
そうなんだ。フォタリが生贄なんだ!
黒目の人間を集めて髪を染めれば、チャールズ王が求めている生贄が揃う。
満月は明後日だ。それまでに、もっと情報を集めないと!
どうやったら、王宮に潜入できるだろうか?
わたし達も兵士になる?ううん、それはだめ。運よく兵士に採用されたとしても、王宮に配属されるとはかぎらないもの。
シルヴァ1人なら、こっそり潜入できるんじゃ………。そう考えて、ちらりとシルヴァを見ると、にっこり微笑まれた。
「私にできることでしたら、なんなりとお申し付けください」
「うん。頼りにしてるよ」
「あれ。そのお兄ちゃんは、前いなかったよね?ハンターじゃ………ない?」
「仲間だよ。でも、ハンターっぽく見えないよね」
そうだよね。執事服を着たハンターなんていないよね。
「シルヴァ、服を変えられる?それだと目立つの」
「ふむ。私はこの服を気に入っておりましたが、セシル様がお望みならしかたない。………これでいかがでしょう?」
シルヴァの首から下が黒い霧に包まれ、すぐに霧は晴れた。そこには、黒いハンター装備に身を包んだシルヴァがいた。金糸、銀糸がふんだんに使われ、とても一介のハンターが身に着けられるものではない。………執事服よりましになった、のかなぁ………。
考えてみれば、わたしの装備もレイヴの鱗を使った豪華な代物だ。人のことをとやかく言える立場じゃないよね。