71 王都へ向かって
シルヴァを連れて領主館に戻ったわたし達。
もう一泊してから、明日の朝にレ・スタット国の王都目指して出発することになった。
せっかく会えた父さんと過ごす時間が短いのは残念だけど。わたしには赤ちゃんの頃から育ててくれたとうさまがいるから、特別、寂しいとは感じなかった。娘として、少し薄情かな。
「くふふっ。セシル様、どうかされましたか?」
「えっ、なんでもないよ」
シルヴァは鋭い。そして、ちょっとした変化にもすぐ気づく。シルヴァに隠し事なんてできないんじゃないかな。
「そうでしょうか。悩まし気な表情をされていらっしゃいましたよ」
「うん。オルランディ伯爵と離れることに寂しさを感じないのは、薄情かな、って考えてたの」
「そんな些細なことに、お気を煩わせる必要はありません。もちろん、セシル様は薄情ではありませんよ」
きっぱりと断言されて、気持ちがすっきりした。
「ありがとう、シルヴァ」
「どういたしまして。くふふっ」
それにしても、あの笑い方はどうにかならないかな………。
シルヴァがわたしから離れようとしないので、今夜はオルランディ伯爵との2人きりの時間はなし。その代わり書斎を借りて、とうさまとレイヴを交えて今後の相談となった。
椅子は足りてるのに、シルヴァは従者のようにわたしの後ろに立った。
「チャールズ王は、他国を手に入れるための力を欲しがっている。召喚の儀式を諦めるとは思えないな」
「あぁ。子供達の証言では、満月の夜に子供を5人集めて行うらしい。まだ、儀式が行われていないといいが………」
オルランディ伯爵ととうさまの会話に、シルヴァが割り込んだ。
「私があちらにいた間に、こちらへ呼ばれた悪魔はいませんでしたよ」
「そんなこともわかるのか」
「えぇ」
「そうなると、次に満月になる10日後までに王都へ行くべきだな」
エ・ルヴァスティ領から王都まで、10日あれば十分間に合う。ロキシー達も含めて、わたし達全員に身体強化の魔法をかけるから、山道も順調に進めるの。
そうだ!シルヴァが来て仲間は4人になったのに、馬は3頭しかいないんだった。1番体の大きいロキシーにとうさまとわたしが2人で乗って、シャンティにはシルヴァに乗ってもらうのがいいかも。
思いついたことを提案すると、レイヴとシルヴァに却下された。
「相乗りするなら、俺がしたい」
「セシル様をお守りするのは、私の役目です」
結局、じゃんけんで勝負することになり、じゃんけんが初めてだというシルヴァが勝った。動体視力の問題かな。理論上は、相手の手を確認してから自分の出せばいい。素早くね。うまくやらないと、後出しじゃんけんになってしまう。それじゃだめなのよ。
とにかく、シルヴァは勝った。わたしとロキシーに相乗りする権利を手に入れた。
そしていまは、ロキシーに跨ったわたしの後ろに陣取り、我が物顔でわたしの腰に腕を回している。まるで、わたしはシルヴァの物だと言わんばかりの態度だ。
「もっとましな馬はいなかったのですか。これでは、遅すぎます。儀式に間に合いませんよ」
「ロキシー達はいい馬だよ。いまは坂道だからゆっくりなの。急いで坂道から落ちたら大変でしょ」
「そんなことになったら、首を刎ねてやります」
シルヴァの言葉に、ロキシーがびくりっと体を震わせた。
「ロキシーを脅すのはやめて」
「くふふっ。馬肉は美味しいと聞いたことがあります。セシル様のお役に立てないなら、食材としての道もありますよ」
『こいつ怖い!』
『そんなことはさせないから安心して。わたしが守ってあげるからね』
「家畜ごときに、なんとお優しい。私、感動いたしました」
どうやら、シルヴァは動物の言葉がわかるらしい。悪魔は思考が読めるのかな。
5日かけてヨナス山脈を降り、平地へとやって来た。あと3日あれば王都へ着ける。王都に着いたら、休む時間も、調査をする時間もある。余裕があってよかった。
「セシル様、日も暮れて参りました。今日はここで野営をしましょうか」
5日の間に、すっかりシルヴァが仕切るようになっていた。そうなると、シルヴァの服が執事の服のように見えてくる。シルヴァは質問のように見せかけて、自分の思い通り話を誘導したりもする。いまみたいに。
ただし、それはわたしのことを考えてのことだったりするので、特別、困ることはない。
「そうだね。とうさま、ここでいい?」
「あぁ」
このやり取りも5回目だ。なんと言ってもパーティーのリーダーはとうさまだから、とうさまの確認をとらないとね。
初めはとうさまとわたしが中心になって野営準備をしていたけれど、シルヴァがすぐにやり方を覚えて手伝ってくれるようになった。
テントの設営を終えて、いまは手際よく肉や野菜を切っている。早くて丁寧だ。悪魔って器用なんだね。
シルヴァが来てから、レイヴはほとんどすることがない。レイヴができるのはテントの設営くらいだったけれど、シルヴァが一瞬でやり方を覚えてしまい、レイヴの出番がないのだ。