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7 王女殿下

 朝、宿屋を出て王都へ向けて出発した。徒歩で2~3時間の距離を、乗合馬車に揺られて進む。平民用の乗合馬車だけど、整備された道なので、揺れも少なく快適だ。他には、大陸から来る貴族用、そして上級商人用の乗合馬車もある。1番数が多いのが貴族用。ここは観光地だからね。普段から馬車移動がメインの貴族のために、馬車は多く用意されている。だから乗合馬車とは言っても、貴族は貸し切りにして使うことが多い。上級商人は、荷物を運ぶために何台もまとめて借りることが多く、平民は歩いて行ける距離なのであまり馬車は使わない。だから平民用は、数が少ない。

 王都は、高い建物が多い。土地が限られている島国だからね。ただし、高いと言っても4階が限度。木材を大陸から運んで来なきゃいけないから、建築費がとても高いんだ。その分、長く使うための手入れは欠かさない。海から来る潮風による塩害対策とか。


 そして、やって来ました王宮。

 王宮は2階建て。でも、土地を贅沢に使っているのでとても広い。権力者って感じだ。白い壁に、黄色の屋根が映えている。門はとうさまの顔パスで素通り。なにしろ、王女様の護衛だからね。顔くらい覚えられているよ。

 とうさまは、日中の護衛なの。だから朝にガーラム便でメリス島を出て、夕方には戻るという生活をしている。本来なら、護衛なんだから王女様にぴったり張り付いて、傍を離れちゃダメなんだけど、その条件じゃないと護衛を引き受けない、ととうさまが言ったんだ。でないと、わたしに会えなくなっちゃうからね。


 そして、他の護衛には制服という物がある。とうさまは着ていないけどね。普段の旅装束、というか魔法剣士姿。黒い皮鎧に、黒いブーツ、腰には黒い鞘の剣とナイフと黒づくめ。その姿で、足音も気配なく、そっと背後に立たれた日には、殺されるんじゃないかと思わないでもない。うん。わたしは殺されないけどね。いたずらが見つかってお説教される時なんか、死にそうになる。怖いんだもん。

 王宮の中庭には、贅沢に噴水がある。水が貴重なア・ムリス国では、水は権力の象徴なの。その噴水を眺めながら、王宮へ向かっていると…。


「きゃ~~~!!」


 黄色い声が聞こえた。うん。悲鳴の方ではなく、歓声の方。


 どどどどどどっ!


 侍女やら召使やらを引き連れて、王女殿下が走って来た。それは、ものすごい勢いで。わたしは王女殿下に跳ね飛ばされないよう、すっととうさまの後ろに下がる。危険だからね。

 この王女様、王族の嗜みとか言って槍術や棒術などの武術を習っているから、見かけによらず腕に力が強いんだ。護衛なんかいらないんじゃないの。

「ニキ様。まだ出勤時間ではないのに、こんな場所にいらっしゃるなんて。わたくしに会いに来てくださったのですね!嬉しいですわ」

 そう言って微笑む姿は、まさに恋する乙女。

「大切なお話があって来ました。お部屋で話せますか?」

「ええ、もちろん!」


 このやりとり………王女殿下に誤解させるんじゃないの?とうさまも、もっと説明してあげればいいのに。口数が少ないのが、いい男ってわけじゃないよ。

 王女殿下の部屋は、2階の東側にある。広い窓から入ってくる爽やかな風が薄いカーテンをたなびかせ、香炉で焚かれたなんとも言えない香りが部屋中に漂っている。広いリビングには贅沢な応接セット。絨毯もふかふかだ。

 そこまでやって来て、王女殿下はようやくわたしに気づいた。びっくりしたように目を見開いたあと、なにか1人で納得し、うんうんと頷いている。

「ええ、ええ、大切なお話ですものね。あなたは残っていいわよ。他の者達は下がりなさい。わたくしはニキ様とお話があります」


 侍女が飲み物とお菓子を用意すると、わたし達3人を残して部屋を出て行った。

「…それで。大切なお話というのは…?」

 王女殿下が、期待に目をうるませている。あ~あ。結婚でも申し込まれると思ってるんじゃないの?とうさまはどう切り出すんだろう。

「メリス島のガーラムのことです」


 直球だった~~~!


 そうだよね。変に期待を持たせないように、王女殿下の期待には気づかないふりをするもんだよね。王女殿下は、明らかに動揺しているけれど。

「え?ガーラムですか?その、わたくし達のことではなくて?」

「そうです。ガーラムです」

 とうさまは、メリス島でのガーラムの扱いについて説明した。標準装備の無表情で。

 初めは、結婚を申し込まれないことにがっかりしていた王女殿下も、ガーラムの窮状を聞くにつれて表情を険しくしていった。ガーラムは、ア・ムリス国の宝だからね。


 ガーラムはガーラム便の曳き手であり、この島国の交通や生活を支える要なの。昔からガーラムに頼った暮らしをしてきたア・ムリス国は、今更、手漕ぎボートなんかに頼っていられない。そりゃあ、漁では手漕ぎボートを使うけれど。あんなゆっくりじゃ島の行き来の時間がかかってしまうし、多くの荷物を運べない。ガーラムがないと、今の暮らしが成り立たないの。

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