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68 じいさんズ3

 黒髪黒目の美女かぁ。そんな人が好みなら、子供の生贄を用意されてもイヴェントラは喜ばないんじゃないかな。

 それに、わたしがイヴェントラだったら、好きな人に似た人物を用意されても嬉しくはない。だって似ているだけで、他人なんだもの。それだったら、血縁者に会いたいかな。好きだった人の話を聞きたいから。

「あの………王は、どんな人物だったんですか?名前は?」

「そうさのう。王は生涯イヴェントラに仕え、夫や子供を持つことはなかったそうじゃ。死の床に臥したとき、イヴェントラがその魂を連れて行ったと言われておる。名前はシッセルじゃ」

 あれ?わたしの名前と似て………あ、アナグラムだ!並べ変えるとセシルになる。偶然、だよね?

 とうさまを見上げると、静かに頷かれた。

「セシルの名前は、偉大なるシッセル女王からとったんだ」

 なるほど。

 でも、どうしてとうさまはシッセル女王を知っていたんだろう?こういう話は、長老などがひっそりと伝えていくものじゃない?


 わたしの疑問を感じ取ったのか、とうさまが教えてくれた。

「俺達の母親は、長老の娘だった。この地は男女平等で、女でも長老になれる。母はいずれ長老の仕事を継ぐべく、幼い頃から口伝を伝えられていたんだ。その話を俺達にしてくれていた」

 そっか。いまは男性の長老しかいないけれど、女性でも長老になれるんだ。男女平等なんて珍しい。


 それにしても、イヴェントラはシッセル女王が亡くなるまで傍にいたなんて。よほど女王を大切に思っていたんだね。種族を超えた愛があったのかな。

 まるで、わたしとレイヴみたい。

 うわーっ、自分で言ってて恥ずかしくなったよ!

 なんなの!?わたしはべつに、レイヴに忠誠なんか誓ってないよ。シッセル女王とは違うんだから!

「どうした?」

「はっ。な、なんでもない!」

 レイヴに聞かれて、反対を向いた。とうさまが不思議そうな顔でこちらを見ていた。とっさに俯いたけれど、顔が熱い。なんだろう、これ。


「レ・スタット国側は、どこまでイヴェントラの話を知っているんだ?」

 わたしを放置して、とうさまはじいさんズに質問をした。

「そうじゃな。これまで話した話は伝わっておるじゃろうな。先の戦争のあと、長老が連れて行かれたからの」

 え?その言い方だと、まだ話していないことがあるの?思わず顔を上げた。

「じつは、イヴェントラは女の姿を好んだが、男の姿にもなることができたんじゃ。そして、シッセル女王との間に娘をもうけた。シッセル女王は争いの種になることを恐れ、娘を当時の友好国だったレ・スタット国に養女に出した。しかしなんの因果か、その娘をレ・スタット王が娶り、生まれた子は王位に着いた。つまり、レ・スタット王家にはイヴェントラの血が流れておる。レ・スタット王だけが受ける「死者の呪い」とは、イヴェントラからの祝福であり、呪いなのじゃ」

「ええと………じゃあ、チャールズ王ならイヴェントラを召喚できるかもしれないってこと?」

「「「うむ」」」

 じいさんズが重々しく頷いた。

 

 がーーんっ!


 うむ、じゃないよ!

 でも待って。それなら、チャールズ王の姪であるわたしにも召喚できるんじゃないの?チャールズ王より先に召喚をしてしまえば、あいつの野望を挫くこともできる。だけど、そのために悪魔を召喚していいのかな?イヴェントラがじいさんズの話にあるような性格なら、世界を危険に晒すことはしないと思う。でも、そうじゃなかったら?伝わっている話と違っていたら?

 そもそも、イヴェントラを召喚してどうしたらいいの。用事もないのに召喚なんてしたら怒られるに決まってる。また、エ・ルヴァスティ領を守ってもらう?あぁ、でも、それをしてもらえたのは、イヴェントラの想い人だったシッセル女王がいたからだよね。ということは、召喚しても、イヴェントラが気に入る者がいなければ言うことを聞いてもらえないということだ。

 うーむむっ。悩ましい。


 チャールズ王の野望は挫きたいけれど、だからと言って、強大な力を横取りしたいわけじゃない。

 わたしがしたいのは、他のハンターと同じように世界を冒険することで、権力者になることじゃないもの。

 強くなり過ぎたら、魔王だって放っておいてくれないかもしれない。それは困る。


 ぽんっ


 とうさまが頭を撫でてくれた。

「あまり考えすぎるな」

 そう言われても、色々と考えちゃうよ。

「次は、祈りの間へ行こう」

「祈りの間?」

「本来は神に祈りを捧げる場所だが、イヴェントラを召喚した場所だ」

 ほほうっ。それは見てみたい。

「待て待て。あそこへ行くには、時間も遅い。明日の朝がいいだろう」

 オルランディ伯爵に言われて、とうさまは頷いた。

「この地には、宿屋がない。領主館に泊まってくれ」

 そうか。それをわかった上で、とうさまは領主館へ向かったんだね。

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