66 じいさんズ
「それで。どうして俺に会いに来たんだ?ニキ。俺に会いたくなった、なんて言うつもりじゃないだろう?」
「あぁ、当然だ。チャールズ王が怪しい動きを見せている。そのことに関して、この地に語り継がれる話を聞きたくて来たんだ」
エ・ルヴァスティの地に語り継がれる話?どんな話だろう?
「なにがあったんだ?」
とうさまは、カー・ヴァイン国の盗賊がオルランコスの命を受けて子供達を攫ったこと、攫われた子供達が黒髪黒目だったこと、レ・スタット国のグラン伯爵の屋敷で子供達を保護したこと、そして子供達が召喚の儀式の生贄であったこと等を説明した。
「…グラン伯爵か。あいつはチャールズ王にべったりだからな。あいつの手足になって、なんでもやるだろうぜ。しかし、召喚の儀式か………なにを呼び出すつもりなのか、それが問題だな。………そうか!それで、エ・ルヴァスティの昔話ってわけか」
どうやら、ジークの中で話がまとまったらしい。
「昔話と言えば、長老達だな。よしっ、さっそく話を聞きに行こうか」
ジークをじっと見つめていると、立ち上がったジークがわたしの視線に気づいた。
「どうした?セシル。まだ、説明し足りないことでもあったか?」
「ええと、あなたをなんて呼べばいいのかなぁ、と思って………」
「そうだな………俺に娘がいることはまだ隠した方がいいから、オルランディ伯爵だな。ニキも、そっちの赤毛のも、そう呼んでくれ」
オルランディ伯爵に娘がいることがチャールズ王にばれたら、弱みを握られることになる。それだけじゃない。生前、母さんが一緒に行動していたジークがオルランディ伯爵だと知られたら、わたしが母さんの娘だということがバレてしまうだろう。そうなったら、母さんと同じで、わたしもチャールズ王から命を狙われるかもしれない。それは避けないと。
そういえば。まだレイヴを紹介していなかった。
「オルランディ伯爵、紹介します。彼はレイヴネル。レッドドラゴンです」
「へぇ~。セシルはおもしろいやつを連れているな」
「俺のことはレイヴと呼んでくれ、オルランディ伯爵」
おおっ。さっそく、オルランディ伯爵と呼んでいる。レイヴのことだから、「お父さん!」とか言い出すんじゃないかと思ってたよ。
とうさまが結界を解くと、オルランディ伯爵が先頭に立って書斎を出た。
「長老のところへ行って来る」
書斎の外にいた執事らしき男性にオルランディ伯爵が告げると、男性は一礼して後ろに下がった。了承の意だろうか?
領主の館から長老のところまでは、歩いて行くことになった。この狭い町中では、ロバは時間がかかり過ぎるし、馬は大きくて邪魔になる。
町の人達は、オルランディ伯爵に気づくと皆嬉しそうに顔をほころばせた。わたしの父さんは、こんなにも住民に大切に思われている。それがわかって、嬉しくなった。
たどり着いたのは、領主の館から北側に行ったところにある建物だった。他の建物と同じく1階に家畜のためのスペースがあり、2階が住居スペースになっている。
その2階に、オルランディ伯爵はノックすることなく入って行く。
「邪魔するぞ、じいさん達」
「なんじゃ、ジェイミーか。こんなところになんの用じゃ」
「かっかっか。酒でも持って来たか?」
「さぼってないで、仕事をせんか」
腰が曲がり、髪がすっかり白くなったおじいさんが3人いた。
「悪いな、じいさん達。酒はまた今度、持たせるよ。今日は客が来てるんだ。昔話をしてくれないか?」
そして、オルランディ伯爵はわたし達をおじいさん達に紹介してくれた。とうさまは、リアム・エ・ルヴァスティではなくニキとして。わたしはとうさまの娘セシルとして。レイヴはわたし達の仲間として。
「酒ならあるぞ」
そう言って、とうさまはマジックバックから酒瓶を取り出した。
「おおっ。気が利くの!」
「これで口が滑らかに動くわい」
「ふぉっふぉっふぉ」
「いやいや、普段からその口は軽いだろう!」
じいさんズは嬉しそうに酒瓶を受け取り、いそいそと飲み始めてしまった。
「かぁーっ!こいつは効くわい!」
「腹の底が熱くなってきたぞ」
「今夜はよく眠れそうだのぉ」
一杯目からご機嫌だ。もしかして、すでに飲んでいたんじゃないの?
「それで。なんの話が聞きたいんじゃ?」
とうさまはじいさんズの前にどっかりと胡坐をかいて座った。身振りで、わたし達にも座るよう示してきた。
「悪魔を召喚する話があっただろ。あれを頼む」
「………ほほう。あの話か」
うん?じいさんズの雰囲気が変わった?さっきまでの柔らかい雰囲気から、鋭い目つきの老戦士へと変貌した。
「あの話をするということは、信用できる連中なのじゃろうな」
わずかに殺気を感じる。
「………イヴェントラの話を頼む」
「「「!!」」」
とうさまの言葉に、じいさんズは目で射殺さんばかりに睨みつけてきた。そして、その視線に動じないとうさまの顔をじっと見つめ、なにか思い出した様子でぽんっと手を打った。
「そうか!おまえさんティナの息子か!でかくなりおったな」