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65 天空の都市エ・ルヴァスティ3

「はいっ!?」

 意味がわからない。わたしは、父さんの名前をジークだと教わっていた。わたしが生まれた翌日、とうさまにわたしを託して姿を消したハンターだと言われていた。

 それなのに、いま目の前にいるこの男が、ジェイミー・オルランディ伯爵がわたしの父親!?いやいや、違うな。とうさまは、ジェイミー・エ・ルヴァスティが父親だと言った。つまり、この男性は2つ………ううん、3つの名前を持つということ?

 ジェイミー・オルランディ伯爵が、エ・ルヴァスティ領の領主だという話はわかる。でも、ジェイミー・エ・ルヴァスティは………エ・ルヴァスティ王族の生き残りということになる。父親として教えてこられたハンターのジークとは、どれも繋がらない。

「少し時間がかかる。座って話そうかジーク」

「そうだな、ニキ」

 あれ、ジークって呼ばれて返事するんだ。じゃあ、わたしの父さんで間違いないのかな?


 とうさまに促されて、わたしとレイヴが並んでソファに座り、向かいにジークが座った。

「セシル、俺の名前が偽名だということは知っているな」

「はい」

 若い頃からル・スウェル国の暗部として働いていたとうさまは、「ニキ」という偽名を名乗っていた。それが正体を隠し、国のために働くには必要だったから。だけど、本名より偽名で過ごす時間が長くなり、知り合いも増えたため、偽名を本名として過ごすことに決めたのだ。と聞いた。

「俺が偽名を名乗っていたように、ジークも別の理由から偽名を使っていた。俺の本名がリアム・エ・ルヴァスティ、ジークはジェイミー・エ・ルヴァスティだ」

「ええっ?とうさまもエ・ルヴァスティなの?」


「そうだ。俺とジークは、死んだエ・ルヴァスティ王の妾の子だ。エ・ルヴァスティの名を名乗ることは許されず、館ではなく町中の母の実家で暮らしていた。戦争が起きた当時、俺は6歳、ジークが2歳だった。レ・スタット国が攻めてくる気配を感じた父王が、母と俺達を密かに逃がしてくれたんだ。ル・スウェル国に逃れたあと、10歳になった俺はル・スウェル国の暗部となり、やがて苦労が祟った母が亡くなった。ジークがハンターになる10歳までは傍にいられたが、ジークが独り立ちすると、俺の仕事も本格的になってな。やがて、連絡を取り合うことも難しくなった」

 エ・ルヴァスティは小さな国だ。妾を囲うことはできても、同じ館内で養うだけの力はなかったのかもしれない。正妃に男の子が生まれなかったとき、または生まれても何かの事情で亡くなってしまったときのために、権力者が側室や妾に子供を産ませることはよくある。あるけれど、名前を名乗らせなかったのはどうしてだろう?そのおかげで戦争を逃れ助かったのかもしれないけれど、納得はできない。


「俺達を変えたのはレナ、そしてセシル、おまえだ」

「え、母さん?」

 わたしが聞き返すと、とうさまとジークが大きく頷いた。

「いまも、目を瞑ると瞼の裏にレナの顔が浮かぶんだ。驚いたよ。セシルはレナによく似ている」

 ジークが目を細めてわたしを見てくる。眩しい物でも見るような目だ。

「ジークという名前は、エ・ルヴァスティを脱出したあとにニキが俺につけてくれたんだ。レ・スタット国軍の追手に見つからないように、って。ジェイミーが、母さんがつけてくれた名前で、いまはジェイミー・オルランディ伯爵と名乗ってる」

 とうさまとわたしとわかれたあと、ジークになにがあったんだろう?どうして伯爵になれたんだろうか?


「セシルをニキに預けたあと、俺はエ・ルヴァスティを守るために手を打つことにした。誰もなり手のいない、エ・ルヴァスティ領の領主になることにしたんだ。だけど、ハンターのジークでは相手にされない。そこで、エ・ルヴァスティ王家の生き残りだと名乗り出た」

「危険な真似をしたな」

「あぁ。他に手立てがなかったんだ。先々代のジェームズ王なら、その場で殺されていただろうけど、チャールズ王は利用できる者はなんでも使う質だ。俺なら反抗的なエ・ルヴァスティの民を従えられるとわかると、簡単に爵位をくれたよ」

 たしか、数年前までエ・ルヴァスティの民によるテロ活動があったはずだ。それを抑えたのが、ジークことジェイミー・オルランディ伯爵なんだろう。

「チャールズ王は、レ・スタット国の権威を示すために、爵位と共に新たな名前をよこした。いまさらエ・ルヴァスティの名を名乗る気はなかったから、俺はそれでもよかったんだ」

 なるほど。ということは、正式な名前がジェイミー・エ・ルヴァスティで、立場上ジェイミー・オルランディ伯爵と名乗っているというわけね。ジークは通称ということだ。ややこしい。

 ん?ちょっと待って。ということは、わたしはエ・ルヴァスティ国の姫で、オルランディ伯爵の娘ということになるんじゃない?どうしよう。いらない肩書が増えた。ただでさえ、レ・スタット国王の姪という、余計な肩書があるのに………。   

 そもそも、なんて呼んだらいいんだろう?父さん?オルランディ伯爵?  


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