62 エ・ルヴァスティへ
アビー達が知っている話は以上だったので、アビーの両親がいる飲食スペースへ行ってもらった。
それにしても、子供ならレ・スタット国にもいるのに、どうしてわざわざカー・ヴァイン国まで攫いに来たんだろう?
攫われた子供達の共通点はなに?男の子と女の子の両方いることから、性別は関係ない。年は、8~10歳。………10歳以下ということに意味が?身体的な特徴はどうだろう。3人とも、黒っぽい髪に黒っぽい目をしている。うん?黒………?たしか、レ・スタット国の国民は髪も目の色も比較的明るい色のはず。だから、他国の子供を攫ったのかもしれない。
今回は無事にアビー達を助けられたけれど。チャールズがそう簡単に諦めるとは思えない。また新たな子供達を攫って、召喚の儀式を行うのかもしれない。
でも、なんのために?
いまは兵士を増やして軍を強化しようとしているし、やっぱり戦争をする気なのかもしれない。
相手はどこだろう?ル・スウェル国?それともカー・ヴァイン国?もしかして、ヨナス山脈を超えてア・ッカネン国へ行くつもり?
あ~っ、わからない!情報が足りない!
アビー達が退出してから、とうさまがこれまでの経緯を説明することになった。
「…子供達を攫ったのは盗賊だが、盗賊達はオルランコスの命を受けていた」
「なんだと?」
ギルドマスターの表情が変わった。無理もない。オルランコスを知っているということは、その危険性も知っているということだから。
「知ってのとおり、オルランコスはレ・スタット国に拠点を置く犯罪組織だ」
以前はル・スウェル国にも拠点を作ったけれど、その拠点を潰されたことで、レ・スタット国の拠点を強化することにしたらしい。
オルランコスは裏社会では有名で、総帥のことは公然の秘密と言われている。つまり、オルランコスを率いているのがレ・スタット国のチャールズ国王だという話は、皆が知っているということだ。それが、表社会に広まっているかは別にしても、オルランコスを知っている人間には推察できる事実だ。
「…つまり、レ・スタット国が関わっていると言いたいのか」
ギルドマスター………ミルバレンは、渋面を作った。年の功か、オルランコスのことを知っていたらしい。
「盗賊は、国境で子供達を別の男達に引き渡している。連中がオルランコスの一味なのは間違いない。そして、そのあとで子供達が連れて行かれたのが、レ・スタット国の王都にあるグレン伯爵の館だ。一貴族が、単独でこんな大がかりなことをしでかしたとは考えにくい。背後にチャールズ王がいるだろう」
「なんてこった!こいつは、国際問題になるぞ!それだけじゃねえ。下手すると………」
「戦争になるだろうな」
実際、レ・スタット国は戦争に準備をしているのだろう。そのための軍の強化であり、召喚の儀式なのだ。
「生贄には、なにか条件があるのだろう。アビー達は外見が似ているしな。アビー達を取り戻した以上、同じ条件の子供達を集めるにはまだ時間がかかるだろう。召喚の儀式までは、まだ余裕があるはずだ」
「そ、そうだな。レ・スタット国がなにか行動を起こすにしても、おそらく召喚の儀式を行ってからだろう。それまでに調査を進めるよう、俺から王宮に進言する」
「頼む。それがあんたの仕事だ」
カー・ヴァイン国が大々的に動けば、これ以上、カー・ヴァイン国内で子供達が攫われる事件はなくなるかもしれない。
でもそれは、召喚の儀式が行われなくなる、ということではない。
どうにかして、チャールズ王の目論見を知ることはできないかな?
それから、とうさまはレ・スタット国で集めた情報をミルバレンに告げた。レ・スタット国で何度も兵士の募集が行われ、軍の強化がされていること。アビー達の世話係に、元孤児の少年が選ばれていたこと。アビー達の監視に兵士が駆り出されていたこと等々。
そしてミルバレンは、ケビンとエイダの保護者が迎えに来るまで、2人をハンターギルドで保護することを約束してくれた。
子供達の誘拐事件に関しては、一件落着と言えなくもない。
それにしても、チャールズ王の動向が気になる。
「…とうさま、またレ・スタット国に行くの?」
「いや、エ・ルヴァスティへ行く」
きっぱりと言い切られて頭が混乱する。
このタイミングで、エ・ルヴァスティの名前が出てくるとは思わなかった。
「天空の都市になにかあるのか?」
「そうだ。あそこに、今回の騒動のヒントがあるはずなんだ」
とうさまの言葉に、なにか、決意のようなものを感じる。
「そうか。できれば、今回の件ではあんた達に協力してもらいたかったが、他に目的があるならしかたない」
ギルドマスターとして、ハンターを引き留めることはできないのだろう。ミルバレンが悔しそうにしている。
「疲れを癒すために、3日はこの王都に滞在する。なにかあれば声をかけてくれ」
「わかった。なにか思い出したことがあれば、いつでも言ってくれ」
報告が一通り終わり、わたし達は宿屋へ引き上げることになった。